メルマガ:少女の性シリーズ
タイトル:少女の性 526  2022/08/14


夏休み特別企画 2倍増量

少女の性 第五百二十六部


「もちろんまだ整理し切れてないのはあります。それに、ちゃんとインデックスを作って数量管理しないといけないから、どのみち業者さんにやって貰うことはいっぱいあります。整理用のボックスをたくさん買わないと行けなし」
「ふうん、でも、大半はざっくり整理して棚に区分けしてくれたんだね」
「はい」
「疲れたろう?」
「それはもちろん。でも、力仕事もたまには良いものだって気が付きましたから。それに、ゆっくり自分のペースでできたし」
「何時頃帰れたの?」
「水曜日は7時頃。昨日はほぼ定時で5時半頃かな?」
「うん、それじゃ水曜日の分は残業付けとくからね」
「はい、お願いします」

それからさとみはずっと席に座って伝票整理をしていた。宏一は午前中の間にさとみの話から倉庫整理の残りをどのように進めたら良いのかを決めるために一度品川のハイフォレストに行ってみた。だから昼は二人は別々になっており、話をする機会はなかった。

そして午後、宏一が戻ってくるとさとみが伝票整理を終えて静かに下を向いて棚卸しのまとめをしていた。

「水野さん、どう?時間前には終わりそう?」
「終わります。余裕です」
「すごい、さすがだね」
「余裕過ぎて時間が余ってます。来週の部品発注もやって良いですか?」
「え?俺がするのに・・・・。もちろん良いけど、発注と確認までしたら終わらないだろ?」
「良いんです。実は、定時で上がらなくても良くなったので・・・」

その言葉に違和感を感じた宏一がさとみを見ると、何となく泣きそうな顔をしている感じがする。

「それって・・・・・・」
「ドタキャン食らいました。ま、仕方ないですね」
さとみは無理して微笑もうとしたが失敗した。宏一は努めて冷静に言った。
「おやおや、それは気の毒だなぁ。朝からあんなに気合い入れてやってたのに・・・」
「・・・・・・・・・・・」

さとみは何も言わなかった。それがさとみの気持ちをよく表している。そこで宏一は思いきって言ってみた。

「ねぇ、良かったら夕食だけでも一緒に食べに行かない?奢るよ、もちろん。だめかな?」

宏一はダメ元で誘ってみた。もちろん、ガードの堅いさとみなので断られるのは承知の上だ。

しかし、今日のさとみは違っていた。

「良いですよ。美味しいのを食べさせて下さい」
さとみはあっさりと誘いを受けたのだ。これには宏一の方がびっくりした。
「え?良いの?本当?ラッキー」
はしゃぐ宏一をさとみはクールな目で見ている。さとみはドタキャンに凹んでいるからこそ宏一の誘いを受けたのだ。その辺りのニュアンスが伝わっていないのは明らかだったが、わざわざ言うほどのことでも無い。その代わり、ちょっと意地悪してみた。
「三谷さんが全部決めて下さいね。私、考えるの苦手なので」

その言い方に棘があるのは宏一に伝わったようだが、宏一は気にしなかった。

「もちろん。任せておいて」
「それと、あんまり高い店とかに連れて行かないでくださいね。そんな服着てないので」

さとみは更に念を押すと仕事に戻った。宏一にしてみれば、さとみと食事に行けるのなら、それだけで大歓迎なのだから、手堅く高級レストランに連れて行こうと思ったが、さとみがそう言うので少し方針を変えることにした。

「分かったよ。それじゃ、ビュッフェにでも行こうか」
「お任せします。気に入らなかったら直ぐに言いますから」

宏一は地雷だらけのところでサンドバッグになるかも知れないと思いながらも、さとみの張り巡らせた地雷原にチャレンジすることにした。手早くネットで検索し、素早く予約を入れる。後はさとみが気に入るかどうか、蓋を開けてのお楽しみだ。
不思議なことに、それから二人の仕事は順調に進み、定時前には二人共定時に上がるのに何の問題も無いことを自覚していた。さとみは、そんなに気合いを入れてないから遅くなっても良いかと思っていたくらいだったが、終わってしまうものは仕方が無い。

さとみは『こんな時に限ってさっさと終わるなんて』と思いながらも、仕事が終わって手持ち無沙汰になったことに少し悲しくなった。

「あれ?水野さん、もう終わったの?」
「はい、終わりました」
「そうか・・・・仕事が早いね。だいぶ慣れてきた証拠かな」
「三谷さんはまだなんですか?」
「いや、俺の方は今すぐにどうこうじゃ無くて来週とそれ以降の計画の見直しだからいつでも終われるんだ。どうしようかな?」
「どうしようかって、どうしたんですか?」
「うん、それじゃ、少し早めに出ようかなって思って。二人でじっと待ってるのもイヤだし」
「良いんですか?」
「言いさ。それくらいは。二人で直帰にしよう」

宏一はさとみが嫌がるかと思ったが、さとみは何も言わなかった。

「それじゃ、三谷さんが先に出て下さい」
「それじゃ、新橋の烏森口改札で会おう」
「はい」
「念のため、行き違ったときの連絡はどうすれば良い?メールかラインか教えて」
「ラインで」
さとみはラインのQRコードを宏一に見せ、宏一が素早くスキャンした。
「それじゃ、お先に」

宏一が出て行くと、さとみは改めてどうしようか考えた。さっきは勢いで誘いを受けてしまったが、今なら断ることもできる。たぶん、宏一は断っても何も言わないだろうし、後を引くこともなさそうだ。その点は気が楽だった。
しばらく考えていたが、結局さとみは行くことにした。行っても害は無さそうだと思ったからだ。しかし、注意しないと前任者のようになるとは思った。しかし、今ならそうなっても問題ないのかも知れないとさえ思った。それほど今日のドタキャンは堪えたのだ。とても一人で帰る気分にはなれないし、今から気心の知れた友達を確保するのも不可能だった。もちろん、こんな時に会社の友達を連れて行くなど危なくて絶対無理だ。

さとみはまだ気持ちがはっきり決まっていなかったが、それでも支度をすると待ち合わせの新橋駅に向かって歩き始めた。

宏一は特に時間を決めなかったので、烏森口でひたすらさとみを待っていた。すると、宏一が着いてから十分もしなうちにさとみが現れた。

「あれ?早かったね。もしかして、急かしちゃったかな?」
「そんなことはないです。さぁ、行きましょう」

さとみは素っ気なく言うと歩き出した。もちろん宏一が直ぐにさとみをリードしてゆりかもめへと向かう。それでさとみには行き先がお台場だと気が付いたはずだが、さとみは何も言わずに宏一の後を歩き続けた。
ゆりかもめの中でさとみがポツリと言った。

「三谷さん、ちょっと良いですか?」
「ん?なんだい?」
「ちょっと今日はいろいろあったんで、お酒も飲みます」
「うん、良いんじゃない?飲み放題にするから」

宏一はブッフェであることを白状したが、さとみは気にしないかのように続けた。

「私がお酒を飲んで何を言っても、今日だけにして下さいね」
「今日だけ?あぁ、分かった。良いけど・・・・」
「ちょっとお酒を飲みたい雰囲気なんで。でも、何を言うか不安があって」
「何のことだかわかんないけど、今日だけって言うならそうするよ。本人が今日だけって宣言してるんなら覚えてたって意味ないし。それに、せっかくお酒を飲むなら気持ち良く飲んで欲しいしね」
「気持ち良くは飲めないと思いますけど・・・・・」
「何があったから知らないけど詮索はしないよ。それより俺は水野さんと食事ができて、それにお酒まで飲めるのなら十分だから」
「さとみでいいですよ」
「お、ありがと。それじゃ、さとみさん、心ゆくまで飲んで食べてね。ストレスなら発散しなきゃ」
「できますか?」
「協力するよ。少なくとも、帰りのゆりかもめに乗るときには来て良かったって思って欲しいから」

さとみは安心したのか、窓の外を眺めながらポツリと言った。

「このまま、何も持たずにどこか遠くへ・・・なんて・・・・」

宏一はその様子を見て、何かとてつもなくがっかりするか、悲しいことが起こったのだろうと気が付いた。そして、少しでもさとみが元気になって欲しいと思った。二人だけの部署なのだから、片方が暗く沈んでいたのでは仕事がやりにくくていけない。
やがてお台場に着くと、宏一はさとみを連れてホテルへと入っていった。そのまま1階のブッフェレストランに入っていき、予約を告げて席に着いた。

「さぁ、どうですか?高すぎないし、たいていのものはあるし、ブッフェにしたんだけど良かったかな?」

宏一が気合いを入れて言うと、さとみは周りを見回して言った。

「ここって食べ放題なんですか?」
「そうだよ。もちろん飲み物は別だけどね」

そう言うと宏一は二人に乾杯用のビールを頼んだ。

「さぁ、何があるのか見に行こう。洋食だけじゃ無くて和食もあるみたいだから、いっぱい食べようね。それと、乾杯ビールを飲んだら他のものも頼もう。さとみさんの好きなものをね」
「はい、それは楽しみ」

さとみは無理して元気を出すと、宏一と一緒に料理を取りにいった。料理はさすがに外資系ホテルだけ会って洗練されたものばかりで、先ず目で楽しませるのがうまい。二人はカクテルグラスに入った綺麗な前菜をいくつか選ぶと、一度席に戻って前菜を置いてから更にメインコースの選択に取りかかった。今日外回りで体力を使った宏一は真っ先にカービングコーナーに行ってローストビーフを切ってもらったが、さとみまで付いてきたので驚いた。

「さとみさんもローストビーフ食べるの?大丈夫?お腹いっぱいにならない?」
「私、実は結構食べるんです。ちょっと今日は先ずお肉に行きたい気分で」

さとみはリラックスしてきたのか、朗らかな表情でニッコリ笑った。

「それじゃ、俺はボリューム重視で」

そう言うとライブステーションで焼きたてのハンバーグを確保すると、パスタステーションで生パスタを2種類選び、更にアジアンコーナーでカレーを2種類取った。さとみはちょっと考えていたが、見た目の誘惑に負けたのかパスタステーションで大きなホールのパルメザンチーズの上に茹でたてのパスタを載せて絡めてもらうと、あとはフィンガーフードやカクテルフードを主体にいくつも取った。

「それじゃ、乾杯しようか」

宏一は乾杯用のペールエールのクラフトビールでさとみと乾杯した。

「はい、いただきまぁす」

さとみもだいぶ気持ちが楽になったのか、目を輝かせて乾杯してくれた。

「先ずは冷めたら美味しくないものを先に食べなきゃ」

宏一はそう言ってローストビーフに手を付けた。さとみはパルメザンチーズを絡めた生パスタだ。

「さとみさん、いきなりパスタなんて大丈夫?」
「全然。今日はリミッターを外しましたから」
「それは楽しみ。俺よりたくさん食べないでよ。俺が『負けた』ってがっかりするから」
「そんなこと知りません。勝手にがっかりして下さい」
「頼もしいね」
そう言うと宏一はさっさとビールを空けてクラフトビールのお代わりを頼んだ。
「うん、さすがに美味しいな」
「三谷さん、ここって確か・・・・・・」
「以前は航空会社系だったけど、外資系に売ったみたいだね。居抜きで」
「それで美味しいんですね」

「うん、場所も良いしね。さとみさんは来たことあるの?」
「いいえ、ここの外は何度も歩いたけど、中に入ったことは無くて・・・」
「そう、それなら初めてなんだね。良かった。どう?初体験の印象は」
「さすがに中は本格的って言うか、雰囲気が外とぜんぜん違って落ち着いてて、ゴージャスって感じ」
「どう?こういう感じならオッケーかな?」
「オッケーって?」
「ほら、気に入らなかったら直ぐに言いますって・・・・・」
「そう、気に入らなかったら、ですね」
「だから今は?????」
「だから、気に入らなかったら言うって。今は何も言ってないですよ」
「そうか、文句を言ってないってことはオッケーってことか」
「文句なんて・・・・・」

さとみは宏一が余りに鈍感と言うか無神経なことに少し腹を立てたが、全体の雰囲気が良いので特にそれ以上気にならなかった。実はかなり喜んでいるのだ。しかし、宏一相手に喜んでいると言えば更に踏み込んでくる可能性がある。だから用心させておくくらいがちょうど良いと思っていた。

それでも、ホテルディナーの食事は二人の想像以上に楽しく進んだ。宏一はクラフトビールが美味しいので更にお代わりしたし、ローストビーフだけでなく他に取ってきたハンバーグもさっさと片付けてしまったし、さとみは生パスタのパルメザンチーズが美味しいことを確かめると、サーモンのエスカベッシュや海老とトマトの透明ジュレのカクテル、ビシーソワーズ、鱈のブランタードなどをゆっくりと楽しみながらグラスの白ワインを飲み始めた。

「さとみさん、他にも取ってきたいのなら行っておいで。俺、残り食べるよ」
図々しい申し出だったが、さとみは敢えて受けた。
「それじゃ、このパスタをお願いします」
「うん、了解。今日はいろんな料理があるけど、さとみさんはどこの料理が好きなの?」
「特には無いけど、何となくイタリアンかなぁ」
「女性はイタリアンが好きだものね」
「そう言う言い方って失礼だと思うけど、まぁ、確かに・・・・・」
「和食とかは?」
「あんまりきちんとしたのって食べたこと無くて、懐石とかは・・・。でも、ゆっくり食べてみたいなぁって思ったことはあって、友達と調べたこともあります。でも、値段も高いし、なんかピンと来なくて・・・・」
「そうなんだ。和食って言っても鍋とかでも洗練されたのもあるし、懐石に拘らなくたって良いと思うけど、食べたいものとかは無いの?」
「一度、本格的なもつ鍋を食べてみたいって思って」
「もつ鍋?福岡の?」
「そう。一度テレビで見たのがとても美味しそうで、色々調べたんだけど東京には無いみたいで断念したの」
「そうかぁ、確かに東京の人の味に合わせたのはあるだろうけど、福岡そのままって言うのは意外に無いかも知れないね」

いつの間にかさとみはグラスを3杯も空けてしまい、更に追加する勢いだ。そこで宏一はさとみに白ワインの炭酸割りを頼み、自分はソルティドッグを頼んだ。さとみは話に乗ってきたみたいで、次の料理を取ってきてからまた話している。

「あそこには福岡の料理はなかった。残念」
「そうか。代表的な和食しか置いてないものね。ローカルな名物は行かないと無理かも」
「あぁあ、福岡に行ってみたいなぁ」
「行く気になればいけるだろうに」
「行く気になればね。でも、誰と行くとか考え始めると、なかなかその気にはなれないから」
「それはそうだろうけど・・・・・」
「そう言うときが来れば、とはいつも思ってるから」
「そうなんだ」
「三谷さんは、いろいろ行ってるんでしょ?」
「まぁね。ずっとあちこちの会社を渡り歩いてるから、普通の人みたいに一つの会社なら行くところも限られてるだろうけど、会社が色々あったからね。あちこち行ったよ」

「日本の中で行くなら、どこがオススメ?」
「何をしに行くかによってぜんぜん違うけど、例えば仕事だったら東京や大阪ならあちこち直ぐにいけるから便利だけど、観光するには自然が無い分だけ寂しいだろ?仕事で行った中ではさとみさんが行きたがってる福岡は良いと思うよ。食べ物も美味しいし、人もゆったりしてるし」
「人も?違うの?」
「うん、やっぱり九州は、何て言うか大陸気質っぽいって言うか、細かいことに拘らないみたいなところがあって、もちろんきちんとするところはするけど、何となく世知辛くないって言うか、気持ちに余裕を持てるからね」
「へぇ、それは知らなかった。ちょっと新しい情報」
「だから、さとみさんが福岡に行ってみたいって言うのは分かるんだ。行けばきっと気に入ると思うよ」
「そう、行きたいの。考えてみれば、福岡って簡単にいけるはずなのになかなか行けない」
「さとみさん、例えば明日はお昼まで時間あるの?」
「明日?時間?そんなこと聞いてどうするの?」
いきなり振られたさとみはちょっと身構えたが、直ぐに思い直すと一部警戒を解いた。
「明日は親と買い物に出かけるだけ。親となんて・・・・・」
「それじゃ、明日の昼間では空いてるんだね?」
「まさか三谷さん、このままどこかに連れ込もうなんて思って・・・・・無いですよね、当然」

「さとみさんが信用してくれるなら、二人で出かけてみない?」
「どこに?」
「もちろん・・・・・・・・」
「まさか・・・・・・福岡?」
「ふふふ・・・・・どうする?さとみさん次第だよ」

さとみはしばらく考え込んだ。だいぶ酒が回ってきているからか、余り深刻な雰囲気にならないのが心地よい。

「どうやって行くの?」
「飛行機なら直ぐだよ」

さとみは、きっと日帰りで遊びに行くのだと思った。そして飛行機で日帰りとは忙しいと思ったが、それはそれで楽しいだろうとは思った。ただ、問題は宏一と行くかどうかだ。

「三谷さんは、今までずっと気を遣ってたのは分かってますから」
「うん、そうかも知れないね。あんまり俺自身はそう思ってなかったけど」
「前任の斉藤さんと何があったか知らないけど、私を斉藤さんと同じに見てないのは分かってた。それは安心したし」
「うん、もちろん斉藤さんとはぜんぜん違うタイプだよね」
「それじゃぁ・・・・・・・・・一つ条件があります」
「条件?」
「そう、私、今日はちょっと意地悪になってるから、斉藤さんとどんなことがあったのか、全部話してくれたら・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「私のプライベートに踏み込もうって言うなら、それくらいの覚悟が無いと私だって信用できないから」
「プライベートって・・・・・」
「そうでしょ?明日は休みなんだから、完全にプライベート」

さとみは友絵のことを話すのを約束させることで、宏一がプライベートに踏み込む勇気があるかどうか試したのだ。もちろん友絵のことを話せばある意味、宏一が友絵を裏切ることになる。それでも自分のプライベートに踏み込むかどうかを決断させようと言うのだった。

宏一は少し考え込んだが、直ぐに答を出した。

「うん、良いよ。全部話してあげる」
「ふうん、そうなんだ。たのしみ」

さとみは悪魔のように微笑んだ。それは宏一がゾクッとするほど怖かった。

「よし、話は決まった。それじゃ、ここを引き払って出かけようか」

宏一はスマホを弄りながらさとみに言った。

「そうだな、あと20分くらいでここを出たほうが良いな」

さとみは宏一が次の店を予約したのだと思った。

「2次会付きなんて、ちょっと今日はラッキーかも」

さとみはそう言いながら、短い時間ながら結構酒が回ってきていることに気が付いた。しかし、何か新しいことが始まりそうな予感の方が警戒心を上回った。そして、今日は思い切り遅くに帰ってやろうと思った。
二人は手早くデザートを取ってくると、さとみがインスタに上げた写真を見ながらここの料理について話した。要約すると、偶に来るのならオススメだと言うことになった。

そしてさとみが席を立っている間に宏一は支払いを済ませ、タクシーを頼んだ。どうやらホテルの前に何台か居るらしい。そしてさとみが戻ってくると席を立った。
さとみは宏一が入ってきたときと違うところに行くのを不思議に思ったが、それがタクシー乗り場だと気が付くと安心した。

「羽田まで」

宏一はタクシーに乗るとそう言った。さとみはそれを聞いてドキッとした。本当にこれから福岡に行くのだろうかという思いと、まさかそれは無いだろうという思いが交錯する。

「飛行機ですか?お時間は?」

運転手の問いに宏一は答えた。

「9時ちょうどです。福岡行き」
「ちょうどくらいですね。道路が少し混んでますから」
「良かった。それじゃ、少し早めにお願いします」

宏一はそう言うとさとみの方を見て『どうだ?』とニヤッと笑った。さとみはまさか本当に福岡に行くとは思っていなかったので頭の中が少しパニックになった。今まで2次会に福岡系の飲み屋に行くと勝手に思っていたのだ。

「三谷さん・・・・本当に福岡に行くの?チケットは?」
ようやくそれだけ言った。
「もう買ったよ。二人分」
「・・・・・・・・・・」
「向こうに行ったら・・・・・・」
「夜遅くなるからね。どれだけ店が開いてるか分からないけど、まぁ福岡だから心配は無いよ」
「それで宿は???」
「もちろんビジネスホテル。二人分」

宏一の様子からさとみは既に予約が終わっていることを理解した。まさかダブルでは無いだろうと思ったが、敢えて確認の必要は無いと思った。何故かそれで良いような気がしたのだ。

ただ、断るなら今しか無い。いきなり何の相談も無く泊まりがけの旅行に誘われたのだ。断るのが当然だろう。それにさとみには相手が居る。仮にさとみが了承したとしても相手がうんと言うはずが無い。直ぐに断るべきだ。そこまで考えたさとみは、ふと立ち止まった。

実は、今日はさとみにとって大切な日になるはずだった。しかし、ギリギリになって相手がドタキャンをしてきたのだ。逃げ出したと言っても良い。何となく予感はあったものの、なかなかはっきりしない相手にさとみは今日、両家の顔合わせのための予約を取りにいくと決断を迫ったのだが、そこで逃げ出されたというか放り出されたさとみは先程まで目の前が真っ暗だった。普通ならこのまま暗い顔で同棲している部屋に帰り、怒りを相手にぶつけることになるのだが、そんなことをしたところで、もうどうにもならないような気がした。このまま永遠に単なる同棲のままなのだろうか。だからとても今日は帰りたくない。きっと相手だってさとみが部屋に居ると思っているから帰ってくるのは夜中以降なのだ。

そしてタクシーが東京港トンネルを過ぎる頃になって、やっとさとみの腹が据わってきた。

「三谷さん、福岡からの帰りは?」
「うん、お昼近くになっちゃったけど、取れたよ」
「そう、取れたの。良かった」
「うん、土曜日の午前中って混むんだね。知らなかったよ」
「東京に遊びに来る人が多いのかも」

さとみはそう言ってから、宏一に対する言葉遣いがいつの間にか気負いの無い自然な言葉になっていることに気が付いた。そこでさとみは宏一に言った。
「三谷さん、実はちょっと今日は色々あって、私自身ちょっと混乱してるんです」
さとみがそう話し出したことで、宏一はてっきりさとみが福岡行きを断るのだと思った。

「そう、いきなりで図々しかったかな。それじゃ、キャンセルするよ」
「いえ、そう言うことじゃなくて、もっと私のことって言うか、気持ちの話って言うか・・・・」
「え?行ってくれるの?」
「はい、いいですよ。行きます」

さとみが了承したことに宏一は驚いた。実は、いつ断られるかドキドキしていたのだ。実は飛行機の手配にしても宿にしても、空港までの距離とか時間等を考えると手配的には可能だ、と言うレベルでしか無く、さとみに呆れられて当然のように断られると思っていた。ただ、そう言うぶっ飛んだ対応も今日のさとみには刺激になって良いのでは無いかと思ったのだった。それほど今日のさとみは表情が無く、まるでマネキンみたいだった。

だから、さとみが福岡行きを了承したことについては少しだけやっぱりと思う部分もあった。

「それじゃ、泊まるのに必要なものは向こうに着いてから、最低限になるけどチェックインする前に買ってから行こう」
「そうですね」
「でも、今日は早めに会社を出て良かったよ。定時に出ていたら絶対、福岡行き最終になんか乗れないもの」
「もしかして、それも頭にあったんですか?早めに出たの・・・・」
「まさか、福岡に行きたいなんて知らなかったもの。でも、あのまま会社で1時間じっとして時間を潰すのはもったいないって思ったから早く出ただけ」
「そう、普通なら何かしながら定時になるのを待つもの」
「外回りの多い仕事で良かったね」
「三谷さん以外の上司は居ないし」
「それって良かったこと?」
「正直に言えば、最初は警戒してた部分があって、兼任にして貰おうと思ったこともあったけど、今は三谷さんだけで良かったと思ってます」
「おぉ、良かった」

そんなことを話しているうちに車は羽田に着いた。二人はチェックインする荷物もないのでそのまま搭乗口に進み、さとみは宏一の携帯から移したQRコードでセキュリティゲートを通った。そのまま搭乗口まで進むと、既に搭乗は始まっていた。
二人が座席に着くと、さとみは少し宏一に寄りかかってさっさと仮眠する体勢に入った。

「ちょっと静かにしてます。頭もまだ混乱してて。でも、これって良い機会だと思ってます」

そう言うと目をつぶった。眠りに落ちる前、さとみは頭の中で『このまま福岡に行っても、たぶんホテルの部屋は別だろうから、何も起こらなきゃ、単に福岡に行ってきただけって感じになるだろうな。何も起きないかな?私って、どうしたいんだろう?三谷さんに甘えてみる気、有る?それは着いてのお楽しみかも。福岡に着くのは何時だったっけ?着いたら中州とかに出るのかな?』と思いながら早いペースで飲んだ酔いが回り短い眠りに引き込まれていった。

一時間程度と短いながら熟睡したさとみは着陸の衝撃で目を覚ました。

「あ、着いたの?」
「そう、着いたよ」
「本当に?あっという間」
「そりゃそうだろう。お茶も飲まずに爆睡してたからね」
「うわぁ、福岡だ」
さとみは窓の外の灯りに声を上げた。
「うん、小さな空港だけど便が多いから光が多いね」
「凄い。こんな景色初めて」
「夜に飛行機に乗る人なんて、普通は出張とかの人だものね」
「そう、今何時?」
「10時前。定刻よりちょっとだけ早く着いたよ」
「早く外に出たいなぁ」
「うん、福岡は空港が街の直ぐ近くにあるから、空港からあっという間に街の中だよ」
「三谷さんは何回も来たことあるんですか?」
「うん、何回も来た。一通りは分かるよ」
「それじゃ、どこかに連れてってください」
「そうだね。ホテルに寄ってからだと時間がもったいないから、このまま直接行っても良い?」
「荷物も無いし」

そう言ってさとみは笑った。飛行機の中で眠ったことで酔いがリセットされ、気分まで良くなったようだ。宏一は福岡に連れてきて良かったと思った。


つづく

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