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タイトル:雲は遠くて 132章 りんりんと 歌っているよな 虫の声  2017/10/08


132章 りんりんと 歌っているよな 虫の声

 10月8日の日曜日の午後。秋らしい穏やかな風も吹く、青空だ。

 信也と竜太郎と、少年と少女の4人が、≪カフェ・ゆず≫のテーブル席に来ている。

 ≪カフェ・ゆず≫のオーナーは、24歳の独身の女性、高田充希(たかだみつき)で、
自分の親の土地にある家を改装して、この夏の8月1日に開店したばかりだ。

 充希(みつき)は、その顔かたちも名前も、いま人気の女優で歌手の、
高畑充希(たかはたみつき)にそっくりなので、この下北沢では大変な評判だ。

 高田充希は、1993年3月14日生まれ、24歳。身長158センチ。

 店は、下北沢駅の西口から歩いて2分、
一軒家ダイニングで、駐車場もクルマは6台止められる。
店内は、カウンターと、4人用の四角いテーブルが6つ、
黒塗りのYAMAHAのアップライトピアノ、ミニライブができるステージもある。
茶色のフローリングの木の床(ゆか)も新しい。

 テーブルの、信也と竜太郎の向かい席で、福田希望(ふくだりく)は、
小学5年の11歳。白沢友愛(とあ)は、小学4年の10歳だ。

 上機嫌で笑顔のかわいい、希望(りく)と友愛(とあ)のふたりは、
先日行われた、実写版の映画『クラッシュビート』のオーディション選考で、
希望(りく)は主人公の信也役を、友愛(とあ)は信也の親友の女子生徒役に決まった。

「みなさん、おめでとうございます。
『クラッシュビート』は、わたしも楽しみにしているんです。
物語の設定が、大人になっても、少年や少女のころの感覚を大切にして、
大人になっても、牧歌的な、自然の世界や人々との、心の交流を大切にしていこうっていう、
そんなパラダイムシフトで、世の中を良くしていく人たちの物語ですよね。
そんなストーリーを思うだけで、ワクワクしてきちゃいますよ。
わたしの大好きな『ゆず』の歌も、そんな少年少女の心や世界を大切にしているところに、
すごく共感するんです」 

 高田充希(たかだみつき)は、コーヒーやジュースを運びながら、笑顔でそう言った。

「充希(みつき)ちゃん、いつも、ぼくたちの応援をありがとうございます。
ぼくのヘタな俳句を、飾ってくれたんですね。あんなのでいいんですか?あっははは」

 信也はそういって照れ笑いをする。

 店の壁には、信也が作ったばかりの、鈴虫の絵がついている俳句が飾(かざ)ってある。

「≪りんりんと 歌っているよな 虫の声≫
味があって、奥が深くって、すてきな俳句だと思いますよ。
まるで、松尾芭蕉の世界のようですよ、しんちゃん、うっふふ」

「それは、ちょっと、ほめ過ぎですよ。充希(みつき)ちゃん。
鈴虫の声が、歌っているようで、その自然な歌唱法は、
歌いかたの手本のようだと思ったんです。あっははは。
まあ、こんな、どこかおかしな、おれがモデルの映画が作られることになるとは、
いまだに不思議なんだけれど。あっははは。
だけど、希望(りく)くんも、友愛(とあ)ちゃんも、『クラッシュビート』のオーディションの合格、
本当に、おめでとうございます。おれも最高にうれしいですよ、あっははは」

 信也がそういって笑った。

「わたしたちも、最高にうれしくって、感動しっぱなしです」

 小学4年なのに、整った顔立ちで、女性の色気も感じさせる白沢友愛(とあ)は、
満面の笑みでそう言った。

「ぼくは、この映画の信也さんがモデルの役をいただけて、
ぼくの人生が決定的になったような気もしているんです。
みんなからいろいろ祝福されたりして。まだ映画の撮影も始まっていないですけど。
なんか毎日、気持が舞い上がってます。あっははは」

 福田希望(りく)は、そう言って、天真爛漫な笑顔になった。

「希望(りく)くんは、ぼくの小学校のころに、そっくりな気がするよ。
ぼくは、好きなことだけに、とても夢中になって、
ほかのことは、のんびりのマイペースなタイプでね」

「へーえ。やっぱり似ているんですね。ぼくもそんなタイプです」

「希望(りく)くんも、友愛(とあ)ちゃんも、ホントおめでとうございます。
この映画は、10年くらいの期間で完結する予定なんですよ。
その意味では、あの『ハリー・ポッター』のような映画になるって、
考えてもらえればいいと思います。
まあ、物語といいますか、ストーリーにともなって、
登場人物たちも、きちんと毎年、年齢(とし)をとっていく、
そんなシリーズにしたいと思っているんですよ。
ですから、希望(りく)くんも、友愛(とあ)ちゃんも、
学業との両立も大変だと思いますが、
その点も、ぼくたちが全面協力してゆきますので、
お互いに無理をしないで、楽しくやってゆきましょう
そして、このシリーズを成功させましょう!」

 竜太郎がそう言って、みんなに微笑んだ。

≪つづく≫ --- 132章 おわり ---

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