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タイトル:雲は遠くて 129章 下北沢・ビアフェスティバル・2017  2017/07/30


129章 下北沢・ビアフェスティバル・2017

 7月22日、土曜日、午後3時。よく晴れて、気温は33度ほどの夏日だ。

 下北沢駅北口では、入場無料の 『下北沢・ビアフェスティバル・2017』が、
土日の2日間、開催されている。

 ビールが50種類、ビールと相性も抜群のおつまみ、フードもそろった、極上の2日間だ。
特設ステージではスペシャルなライブ演奏も楽しめた。
南米ブラジルのサンバやボサノヴァに乗って、みんなは踊り始める。そんな大盛況だ。

「幸夫(ゆきお)ちゃんと、一緒に一杯やるのも、ひさびさですよね。
きょうはビールとサンバで、最高っすね!」

 川口信也は佐野幸夫に笑顔で言う。

「うまい!しんちゃんと飲めると、またビールが格別のうまさですよ。あっははは」

 そう言って笑って、幸夫は白い泡のジョッキのビールを飲んだ。

 佐野幸夫は、モリカワが経営する下北沢の『ライブ・レストラン・ビート』の店長をしている。
1982年9月16日生まれ、34歳。長身は179センチ。

 このビアフェスティバルは、地域活性化も目的で、外食産業のモリカワも協賛している。
モリカワの社長やたくさんの社員たちの姿も見られる。

 ビールもおつまみやフードも、それぞれのブースで直接現金で購入するシステムだ。
信也たちが楽しんでいる、飲食スペースには、テーブルやベンチが多数設置してある。

 「しんちゃんって、小説も書くんですね!すごい才能だと思います!」

 幸夫の彼女の真野美果(まのみか)がそう言って、
ジョッキを両手でさわりながら、信也に微笑んだ。

 美果は、1988年10月10日生まれ、28歳。身長、163センチ。
涼し気な目元が魅力的な清楚な顔立ちで、つややかな髪が肩にかかるほどある。

「あっははは。ありがとうございます、美果ちゃん。
でも、おれの場合は、才能っていうよりか、必要に迫(せま)られて、
すべてのことは、やっているんですよ。その結果、能力が身につくっていうとこですよ。
あっははは。
小説の場合は、おれって、小学校のころは、女の子との付き合い方って、
わからなくって、片思いばかりだったんですよ。あっははは。
それが、子どもながらに、かなりつらい経験なんですよね。あっははは。
それで、誰に相談すればいいってものでもないので、
市立図書館とかに行って、やっと見つけたのが、
子ども版の絵付きでの『若きウェルテルの悩み』だったんですよ。
あっははは。
あれって、ゲーテの書簡体小説じゃないですか。
青年ウェルテルの、親友の婚約者ロッテに対するかなわぬ恋の悩みと、
その自殺を描くいているんですよね。いまでも恋愛小説の古典とも言われてますけど。 
おれは、そこで、よし、おれも、ゲーテと同じくらいに恋愛で辛(つら)いんだから、
こんな小説くらいなら、おれだって書けるさ!って、
何をカン違いしたのか、小説を書く決心をしたんですよ。
そして、3回ほど書き直して書きあげたのが、
400字原稿用紙約100枚の『雲は遠くて』っていう小説だったんですよ」

「そして、しんちゃん、その小説を、中島みゆきさんに贈ったのよね。
中1の3学期のときに、ニッポン放送気付けにして、中島みゆきさん宛あてに。
その短編小説って、どんな物語だったのかしら?って、つい想像しちゃうの。
でも、しんちゃん、わたしにもその小説を読ませてくれないのよ」

 信也の彼女の大沢詩織は、ちょっと不満げに頬をふくらませる。

「あ、それは、詩織ちゃん、ごめん、ごめん。時期が来たら、
その小説はネットで公開するから、それまで待ってね。あっははは」

「しんちゃん、実は、おれも、ゲーテは大好きで尊敬しているんですよ。
あの人の有名な言葉に、
『女性というものは銀の皿(さら)だよ。そこへ、われわれ男性が、
金の林檎(りんご)をのせるのさ。』
とか、
『恋愛と知性とは関係ない。私たちが若い女性を愛するのは、
知性のためではなく、美しさ、若々しさ、いじわるさ、人懐(ひとなつ)っこさ、
個性、欠点、気まぐれ、その他一切のあらわしようもないもののためだ。
彼女の知性を愛するのではない。』
とか、
ありますよね。女性のことや人生をよく理解している人の言葉だって、
おれは感心してしまうんですよ。ゲーテは人生の達人ですよね。あっははは」

 そいうって、いつも陽気な幸夫は、上機嫌に笑った。

「それって、ゲーテの集大成の『ファウスト』のラストに出てくる言葉と、
リンクというか共鳴する美しい言葉ですよね。
『永遠にして、女性的なるもの』と、ゲーテはファウストのラストで言っていますけど。
『永遠』を神秘的なもの、『女性的なるもの』を愛と考えて、
つまり、『永遠にして、女性的なるもの』とは、
女性のかたちをとった理想を意味するのであって、
『永遠の女性が、われらを、より高いところへ導(みちびき)きゆく』という意味の言葉は、
人類の希望を語って、示唆しているように、おれも思うんですよ。
男は、女性にはかなわないってとこですかね!
男たちが主導の世の中は、いつまでも、こんな困(こま)った状態ですからね。
幸夫ちゃん。あっははは」

「そうだよね。女性には、男はかないませんよ、しんちゃん。あっははは」

「ゲーテさんって、18世紀に生きた人なんでしょう。
そのころの人が、そんなに女性を尊重してくれているって、すごいことよね!」

 詩織がそう言った。

「きっと、先見の目のある偉大な人なのよね!詩織ちゃん」と美果も言った。

 幸夫と信也と詩織と美果の4人は明るく笑った。

☆参考・文献・資料☆

1.ゲーテに学ぶ幸福術 木原武一 新潮選書
2.ゲーテに学ぶ賢者の知恵 適菜 収(てきなおさむ) 大和書房
3.ゲーテとの対話(中)  エッカーマン 著 山下肇 訳 岩波文庫

≪つづく≫ --- 129章 おわり ---

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