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タイトル:雲は遠くて 100章 ボブ・ディラン と オクタビオ・パス  2015/12/31


100章 ボブ・ディラン と オクタビオ・パス

 年の暮(く)れも迫(せま)る、12月19日の土曜日。
気温は16度ほどで、青空が広がっている。

 ユニオン・ロックが主催する、下北(しもきた)芸術学校の、
第2回の年忘れ・下北芸術学校・音楽祭りが、ライブ・レストラン・ビートで、
午後2時から開かれるところである。

 ライブ・レストラン・ビートは、下北沢駅、南口から、歩いて3分。
モリカワの経営するライブハウスである。

 1階フロア、2階フロア、その280席は、マスコミの人たちや、音楽や芸術好きの人たちで、
すでに満席で、これから始まる楽しいひと時への期待に、フロアは熱気に包まれている。

 ユニオン・ロックとは、外食産業のモリカワと、外食産業最大手のエターナルが、
共同出資で、1014年9月に始めたばかりの慈善事業である。

 そのユニオン・ロックのHPにあるインターネット上の学校が、
下北(しもきた)芸術学校であった。始めたころは、下北音楽学校という名称だった。

 子どもから若者や大人までを対象として、
音楽に限らずに、マンガなど芸術的なジャンルならば、
幅広く、学べる環境(かんきょう)の提供や支援できるシステムにしていこうと、
学校の運営の基本的な考えを広げたために、下北芸術学校に変更したのである。

「みなさま。よーこそ、お越しくださいました!わたくし、佐野幸夫と申します。
ライブ・レストラン・ビートの店長をさせていただいております。
みなさまと、こうして、楽しいひと時を過ごせることは、本当に、うれしいことです。
精(せい)いっぱい、がんばって、司会を務めさせていただきます。
まあ、みなさまとご一緒に、飲んだり食べたり、歌ったりもさせていただきたいのですが。
そうそう、クリスマスも近いので、クリスマスソングもたくさんやりますからね。
ささやかですけど、抽選による、クリスマスプレゼントも、ご用意してあります!
わたくしも、このように、抽選券を、ゲットしてまーす!あっははは。
ではでは、とにかく、みなさま、すばらしい楽曲の数々と、おいしい食事やお飲物、
そして、ご歓談などで、楽しい、ひと時にしてまいりましょう!よろしくお願いしまーす!」
 
 そう言って、お辞儀をする、身長179センチの佐野幸夫、
1982年生まれ、9月16日生まれ、33歳。その笑いを誘うキャラクターで人気もある。
大きな拍手や、「佐野ちゃーん!すてきぃー!」とか言う女性の歓声や、笑い声が沸(わ)いた。

「いやー、どーも、どなたか、女性から、ステキだなんて、
お褒(ほ)めの言葉をいただいちゃいまして、身に余(あま)る光栄です。あっはは。
さて、それでは、第2回の年忘れ・下北芸術学校・音楽祭り!
オープニングは、『3070人に聞いた、いま好きな曲ベスト5、』の発表と、
そのライヴから、行っちゃいますよ!そして、プログラムの後半は、
『クラッシュビートの好きな曲ベスト5、グレイスガールズの好きな曲ベスト5』
の発表とライヴがあります!
では、『3070人に聞いた、いま好きな曲ベスト5、』の発表です。
いきなり、1位から発表しちゃいますからね!あっはは。
では、1位は、バック・ナンバー(back numbr)の『高嶺(たかね)の花子さん』でした。
この歌は、2013年のリリースでして、手の届かない女の子に片思いして、
妄想をふくらます男子というシチュエーション(状況)の、バック・ナンバーの代表曲です!
カヴァーして演奏してくれるのは、クラッシュビートのみなさんです。
ではクラッシュビートのみなさん、どうぞ!」

「みなさん、こんにちは。森川純です。1位は、3ピース、バンドの、
バック・ナンバー(back numbr)でしたね。おれたちは、5ピースになるわけですけど。あっはは。
えーと、バック・ナンバーは、心に響く、8ビートやメロディや詞で、
おれたち、メンバーのみんなも大好きです。『高嶺の花子さん』は、
「会いたいんだ、いますぐ、そのかどから、飛び出してくれないか?!」なんて、
誰にでもありそうな思いを歌っていて、男子も女子も共感しちゃいますよね。あははは。
まあ、そんな簡潔明瞭(かんけつめいりょう)な歌作りは、
歌の原点でもあるような気がして、大変に勉強になってます。あっはは。
それでは、『高嶺の花子さん』をやります。お聴きください!」

 そう言って、ドラムで、リーダーの森川純が、メンバーと目を合わせると、
落合裕子のキーボードと、岡林明のギターによる、
静かでメロディアスなイントロが、フロアに流れて、クラッシュ・ビートの演奏が始まる。

 メイン・ヴォ-カルは川口信也である。

 川口信也、ヴォ-カル、ギター、1990年2月23日生まれ、25歳。
森川純、ドラム、リーダー、1989年4月3日生まれ、26歳。
高田翔太、ベースギター、1989年12月6日生まれ、26歳。
岡林明、リード・ギター、1989年4月4日生まれ、26歳。
落合裕子、キーボード、1993年3月7日生まれ、22歳。

 この下北芸術学校から巣立った、新人マンガ家の、青木心菜(あおきここな)が、
1階フロアのステージから見て左側にあるカウンターの席で、
くつろぎながら、川口信也の歌声に聞き入っている。

「やっぱり、しんちゃんは、上手だわ。『高嶺の花子さん』もすてき・・・」

 そう思いながら、1か月かかって、やっと完治した
腱鞘炎(けんしょうえん)だった右手の指先をさする。

 「マンガ界の新星!マンガ界のルノワール」などと、
雑誌や新聞のマスコミでも騒(さわ)がれ始めているは、
実際に、小学生のころから、ルノワールの描く、可憐な女優の肖像画、
永遠の微笑みを浮かべる『ジャンヌ・サマリー』とかに、魅了され続けているのであった。

 そんなルノワールの描くような、詩情あふれる、暮らしくなるような世界や、
会いたくなるような人物を描くことが、漫画家、青木心菜の願いだった。
西洋絵画の巨匠ルノワールの描く世界観は、青木心菜の憧れのお手本であった。
青木心菜(ここな)、1992年3月1日生まれ、23歳。

 半年も前のこと、下北芸術学校の関係で、心菜は、川口信也と出会う。
わずか数十分間の二人の会話であったが、心菜は、信也との初対面に、
不思議な特別なものを感じる。そして、恋に落ちている自分に気づくのであった。
クラッシュビートのことも知らなかった心菜は、信也の作る歌のことなどを知れば知るほど、
胸はときめいて、幸福な気分にもなったりするのであった。
信也への、キュンする想いが、本気モードであると認めるより他(ほか)はないのであった。

・・・信也さんって、まるで、ルノワールの絵の世界に出てくるような感じの、
わたしが子どものころから、理想としている、憧れの男の人みたいなんだから・・・

「信也さんは、『高嶺の花子さん』を歌っても、やっぱりカッコいいわね!心菜ちゃん」

 カウンターで、心菜(ここな)の隣にいる水沢由紀が、そう言って微笑(ほほえ)む。
水沢由紀は、心菜の高校の同級生で親友だった。
現在、由紀は、心菜のマンガ制作のアシスタントをしている。

「うん、信也さんは、いつもカッコいい。信也さんの作るメロディや詩もすてきだし。
わたしの師匠は、ルノワールと信也さんかな!うふふ」

 心菜は、そう言って、ちょっと潤(うる)んだような澄(す)んだ瞳で、由紀に微笑む。

 由紀は、そんな心菜の恋心を察(さっ)して、
カウンターの上の、細い心菜の手を、優しく握りしめる。

 プログラムの後半では、『クラッシュビートの好きな曲ベスト5』の発表とライヴがあった。

 そのベスト5には、セカンド・アルバム『TRUE LOVE』の収録曲で、
心菜が、特にお気に入りの、軽快に疾走するような、8ビートのロックンロール、
『ボブ・ディラン と オクタビオ・パス』が入っていた。
その心地よさにあふれる演奏や信也の歌声に、心菜も由紀も、胸を熱くした。会場も盛り上がった。

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ボブ・ディラン と オクタビオ・パス    作詞・作曲  川口信也

本も読んでも 考え込んでも 答えの出ない人生の問題もある
その答えがわからないことには 生きていることも実感できない 問題
こんなとき ボブ・ディランの 『風に吹かれて』の 歌詞は 心にしみる
この歌を ジョーン・バエズは 「社会的良心を 象徴する歌」 と言う

ディラン自身 この歌について こんな イカした コメントしている
「答えは 紙切れみたいに 風の中で 吹かれているってことさ
答えは 地上に降りてきても 誰にも見られず 理解されず
また 飛んでいっちまう 誰も拾って読もうとしないから・・・」

なんて カッコいい 歌をうたってるんだ!ボブ・ディラン!
ノーベル文学賞 最有力候補も 当然の ボブ・ディラン!
ボブ・ディランの あの声は 「どーもね」 という人も いるけれど
彼の人生には 人を勇気づける 達成や 創造があると思うよ

それにしても 若いころの あなたときたら なんてカッコいいんだ
正真正銘 ロックンロール 世界最強の ロックンローラー
「金は 決して 何かを作る 動機に いならない」 と語る ディラン!
「そこから 抜け出すには 何かを 夢見るしかない」 と言ってる ディラン!

「ある朝 起きると ぼくは すぐ 旅立った 吹雪(ふびき)の中
ぼくは 世界の 慈悲(じひ)を 信じて ハイウェイに 立ち 東に向かった
持っていたもの と言えば ギターと スーツケース だけ
それだけだ・・・」 と カッコいい 若いころを 語る ボブ・ディラン!

いつも 本当の 吟遊詩人のような 生き方だね!ボブ・ディラン!
いつも 子供の 遊びのように ものを作っているね!ボブ・ディラン!
いつまでも 若々しい 自然を愛する 自然を信じる ボブ・ディラン!
自然に反する戦争を 悪と言ってる 人生の挑戦者のボブ・ディラン!
「詩を書かなくたって 本物の詩人はいる」 そう語る ボブ・ディラン!


どうしたら こんな混沌の 混迷の 世の中は 良くなっていくんだろう?
その答えの1つは 子どものころのような 気持に戻るしかなような気もする
その理由(わけ)は 子どものころには 美しいものを 美しいと 感じる
素直(すなお)な 澄(す)んだ 心や感性が あったと ぼくは思うから 

ノーベル文学賞受賞の メキシコの詩人 オクタビオ・パスも語っているよ!
「真実の 恋におちいり 瞬間が永遠に感じた あの日
人は 人を愛したり 恋におちることによって 一切の対立は 消滅し
自分の中の他者や 他者の中の自分を 取り戻(もど)すことができる」 って

「そんな 他者との体験 それこそが 日々の《生》  本当の《生》 なのである
他者や 自然との 繋(つな)がりに 本当の詩や《生》 がある
詩は 優れて 人間的な 能力である 想像力から 生まれてきた
人間が 詩を忘れるということは 自分を忘れるということに ほかならない」 って

「人生から ポエジー(詩情、詩的な味わい)を引き出すより
人生を ポエジーに 変えるほうが よいのではないだろうか?
詩なしでも ポエジーは存在する 風景 人物 事実などは
しばしば 詩的であり それらは 詩であることなく ポエジーでありうる」 って

美しいものを 美しいものと感じる その心や感性は
ものや他者を 思ったり 感じたりする 《ときめき》 となって
脳内の 神経細胞も働いて クオリア(質感)が生じて
ぼくらの意識となって 想像力となって 育ってゆくんだろうね

「詩とは 愛のようなものです」 と語っている オクタビオ・パス!
詩なしでも 風景や人物に ポエジー(詩情、詩的な味わい)はあると言う オクタビオ・パス!
《詩的想像力》 を 滅びない 永続する《芽》 と言って 詩を擁護する オクタビオ・パス!
「詩は 存在の 原始の水への 没入である」と語る オクタビオ・パス!
ぼくも 人生が 辛(つら)いものだとしても いつも 詩的であることを願うよ! オクタビオ・パス!

≪つづく≫ ーーー 100章 おわり ーーー

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