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タイトル:訂正版☆雲は遠くて☆57章 竜太郎、若い人向け慈善事業を始める  2014/10/06


雲は遠くて <157> 

57章 竜太郎、若い人向け慈善事業を始める

 10月4日、土曜日の午後2時。台風18号の接近による曇り空であった。

 新宿駅東口から、徒歩3分、新宿ビル2階にある、サウンド・クラブでは、
スポットライトが当たるステージに、新井竜太郎が立っている。

 サウンド・クラブは、2014年9月に、エタナールがオープンした、
ジャズ、クラシック、ロックやフォークまで、幅広いジャンルの
音楽を楽しめる、180席数の、本格的なライヴハウスである。

「わたくしたち、エタナールの外食事業は、おかげさまで、今年も好調に
売り上げを伸ばしています。みなさまのご支援に深く感謝いたします。
そして、今年新たにスタートさせました、
芸能や音楽、芸術などの文化事業も、順調に推移しています」

 竜太郎は、マスコミの関係者や招待客に、嬉しそうな表情でそう語った。 

「新しい音楽や文化などの、新しい芸術の創出のためには、
今ある、壁(かべ)とでもいいましょうか、今進路をさえぎるように、
立ちはだかるあるものを、越(こ)えようとする、
限りない意志や努力が必要なのだと、感じています。
まあ、障害や困難なことを乗り越えて、
何か新しいものが生まれないことには、活性化しませんし、
それは、事業でも何事でも同じことなのだと思います」

 そう話しながら、ホールのみんなを見わたす竜太郎だ。
身長178センチ、32歳、ネイビーのビジネス・スーツもよく似合う。

「今の日本には、携帯電話、インターネットなど、いろいろな物が手に入いる、
便利で豊かな生活の反面、経済的に苦しい家庭の子どもが多くいます。
この経済的格差に苦しめられている、いわゆる相対的貧困の子どもが、
今、増え続けているのが、現実なのです」

 適度にゆっくりとそう語る、竜太郎には、余裕の微笑みがあった。

「こんな現状を変えることはできないものだろうか、そう思って、
考えた結果が、この新しい事業、ユニオン・ロックだったのです。
ユニオン・ロックでは、全国展開を目標にして、日本の新しい時代の
担い手である子どもたちや青少年が、心身ともに健やかに成長できるように、
家庭や学校は、もちろん、その地域や行政ともしっかり連携させていただいて、
子どもと青少年を取り巻く環境を、少しでも健全なものにしてゆくことを、
第1の目的に、全国展開してゆきます!」

 ホールのみんなからは、盛大な拍手と歓声が起こった。

「子どもたち、若者たちに、夢や明るい未来を約束できる社会の実現のためには、
ぜひとも、その若い人たちに、まず、元気になってもらわなければいけません。
そんな願いを込めて、新しい事業、ユニオン・ロックを立ち上げました!
きょうは、そのオープニング・セレモニーです。ごゆっくりと、音楽や料理を
お楽しみください!」

 そういって、笑顔でステージを降りる竜太郎に、拍手は鳴り止まない。

「竜さん、なかなか、いいスピーチでしたよ」

 川口信也は、テーブルに戻ってきた竜太郎に、そう話しかけた。
そのテーブルには、信也の彼女の大沢詩織や清原美樹と
美樹の姉の美咲がいる。美樹の親友で、竜太郎が恋心を寄せている
小川真央もいる。竜太郎の弟、23歳の幸平や、
北沢奏人(かなと)と北沢と交際中の天野陽菜(あまのひな)がいた。

 25歳の北沢奏人は、モリカワの本部で、副統括シェフをしている。
モリカワの全店舗の料理、飲み物、スイーツなどすべてを品質管理し、
新製品の開発や企画を実施したり、その指揮をとっている。

 長めの髪がよく似合う23歳の天野陽菜は、料理の腕もまあまあだけど、
ショッピングのほうが趣味という、モリカワ本社の社員であった。

 北沢奏人は、エタナールのモリカワ買収騒動で、新井幸平に出会って、
それ以来、新井幸平とは親友の付き合いであり、きょうは招待されている。
 
「竜さんの子どもたちや若者への熱意には、感動しますよ!」

 北沢が、隣の幸平の左側に座る竜太郎に、そう話しかけた。

「子どもの貧困とかは、子どもの責任ではないしね。誰かが、
援助とかで、守ってあげないといけないんだろうね」と竜太郎はいう。

「ユニオン・ロックという事業では、インターネットも使って、
音楽や芸能の好きな子どもや若者に、
学べる場所や表現できる場所や、楽器の提供などの、
無償のサポートしてあげながら、時間をかけながら、
できれば、彼らの好きな音楽や芸能の仕事を、一緒にしてゆこうという
システムなんです。できれば、そんな彼らの夢の後押しをしながら、
われわれも、夢を追ってゆこうという、長期的展望のビジネスなんです。
才能のあるアーティストやタレントの育成には、時間がかかりますからね。
まあ、企業としての利益の社会への還元でもありますし、倫理的な義務感から、
始めたことなんですよ。ははは」

 そういって、幸平が北沢奏人を見て、わらった。

「わたしたちも、ユニオン・ロックという慈善事業には、感動しちゃいます!
このグローバルな社会って、会社も個人も競争が激しいから、
経済格差とかは広がるばかりですもんね。そんな中で、
子どもたちや若い人たちには、何も、責任や罪はないのですから、
誰かが守ってあげなければいけないんだと思います!」

 弁護士をしている、25歳の清原美咲は、テーブルの向かいに座る
竜太郎と幸平にそう話した。

「ユニオン・ロックが、全国展開して、うまくいってくれることを、
私たちも願っています」

 清原美樹がそういった。

「ユニオン・ロックの事業で、困っている子どもたちが、
少しでも元気で明るくなってくれたら、わたしも嬉しいわ!」

 大沢詩織もそういった。

「ありがとう、みなさん。おれも、いい歳の、32歳だけど、
いつまでたっても、実は、ワルガキみたいなことばかり
考えているんですよ。そんなダメ男だから、罪滅(ほろ)ぼしにと、
善(よ)いことも、やってみようとしているだけなんですよ。
あっはっは」

 竜太郎が、そういって、声を出してわらう。

「竜さんがワルガキだなんて・・・、そんなことないわよ。
竜さんは、いつもカッコよくって、紳士だと、わたしは思うもん!」

 小川真央がそういった。
 
 竜太郎は、「いやあ、どうも、真央ちゃん。あはは」といって、
ちょっと頭をかいて、わらった。

 「竜さんは、いい人だよ。あっはっは」

 信也がそういってわらう。みんなも、わらった。

≪つづく≫ --- 57章 おわり ---

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