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タイトル:雲は遠くて <134> 37章  川口信也の妹の美結(みゆ)、やって来る (4)  2014/05/03


37章  川口信也の妹の美結(みゆ)、やって来る (4)

「しんちゃんは、ゴマするわけでもなく、言いたいことをいってくれるから、
それがいいんだよ。おれもこれまで、まわりがイエスマンばかりで、
まあ、人のせいにはできないのだけど、天狗(てんぐ)というか、
裸の王様になっていたんだから。あっはは。人生って、いくら歳とったって、
わかっているつもりで、わからないことはあるんだし、気づかないことは
あるんだよね。最近では、もっと自己変革させて、変えていこうかって思うよ。
お金や地位があるからって、偉そうにしてはいられないよね。あっはは」

「それはそうかもしれないけど。自己変革ですかあ。おれもしなくちゃ」

 そういうと、信也は、竜太郎と初めて会ったころの、自分を優れていると
思って人を軽く見るような、高慢(こうまん)さがなくなっていることを、
嬉(うれ)しく思う。

「わたしがいうのも、生意気でしょうけど、竜さんも幸平さん信ちゃんも、
なかなかいない紳士で、素敵な男性よね」

 大沢詩織(おおさわしおり)が、独り言のようにそういう。

「え、詩織ちゃん、紳士って、上品だったり、教養があったり、礼儀正しかったり
する、いわゆるジェントルマンってことですよね。ありがとうございます!」 

 新井幸平は、素直に、そういって喜(よろこ)んだ。

 そんなテンポのいい会話に、みんなはわらった。

「しかし、紳士なんていわれると、嬉(うれ)しいですよね。つい、
かっこつけて、自己変革なんていってしまったけど。
でも、本音(ほんね)をいえば、ただ、好きなことやって、
快楽を追求しているっていうのが、おれなんだけどね。あはは。
ただ、交通違反はめんどうなだけで、ルール(規則)や
マナー(礼儀)を守っているというだけですよ」

 竜太郎は、詩織(しおり)や美結(みゆ)や麻由美(まゆみ)と
目を合わせながら、上機嫌でそういた。

「でも、竜さんの会社のお仕事って、ひとことでいえば、お客さまに
快楽を提供するお仕事ですよね!わたしのモデルやタレントの
仕事にしても、快楽を提供する、エンターテイメント(娯楽)のお仕事
ですものね。わたしって、あたりまえのことをいって、おかしいわよね」

 秋川麻由美はそういって、わらう。みんなもわらった。

「おかしくないですよ。麻由美ちゃん。そういわれてみると、
世の中の会社っていうか、仕事って、快楽を提供する
仕事が多いかな?生きることの本質は快楽の追求なのかな?
そういえば、おれの何より好きなエッチなことも快楽だしね」

 竜太郎のそんな軽い会話に、みんなはわらった。

「でも、竜さんのよくいっているように、単純に考えれば、
みんなが快楽を満足させてゆけば、心も身体(からだ)も
満(み)たされて、世界の平和にもつながるかもしれないですよね。
そのためには、地球環境を壊(こわ)さないことや、他者の迷惑に
ならないこととかの倫理や道徳も欠かせないでしょうけど」

 信也がそういう。

「そうですよね。快楽的に生きることは、正しいと、ぼくも思います」

 幸平もそういった。

「そうよね。エッチなことって、すぐ不真面目とか不道徳とか、
タブー視されちゃうわけですけど、地球環境は壊さないもんね。
それに、ふたりの合意でするものですよね。ひとりでするときも
ありますけど。あっはは。でも、他人の迷惑にならないんだから、
とても平和なことよね、エッチって」

 シャンパンに酔っている麻由美は、生ハムをつまみながら、そう語る。

「性的なことを低俗的に扱うのって、なぜなんだろうね」と幸平。

「そうだよね。人生や幸福や不幸を、性的なことが、左右したりすることも
多いのにね。それをタブー視して、隠すのって、不思議なとこあるね」
と信也。

「まあ、どこかの世界的な宗教の教えとかで、エッチな行為を禁止していたりね、
そういった権力的なものが、エッチを悪い行為として、隠蔽(いんぺい)したり
禁止したりするんだろうね。でも仏教の理趣経なんて、エッチは清浄
(せいじょう)な行為で、悟りの極致というか、悟りの境地といっているから、
おおらかでいいよね。もっとも、エッチな欲望を自(みずか)らコントロールできる
境地に達するにはそれなりの努力や経験とか必要なんだよね。
ただ簡単に知識的な理解をしたところで、それだけでは、悟りの境地にまで
達するということが無理なのは、当たり前だろうけどね。しかし、
エッチな行為を清浄といってのけているとは、画期的だよね!あっはは」

 そういって、高層ビルの立ち並ぶ夜景を眺めながら、竜太郎はわらった。

「理趣経ですか。空海が中国から持って帰ったという極秘の経典ですよね。
あれは、いいですよね、おれも好きです。その極秘の経典が簡単に
読めるんだから、現代人は幸せかもしれないですよね」

 そういって信也は明るくわらうと、みんなも声を出してわらった。

 店のスタッフの女性が、たっぷりの華(はな)やかな苺(いちご)、
しっとりしたスポンジと、濃厚なクリームの、パティシエ特性の
ケーキを運んできた。

「かわいいケーキ!」

「おいしそう!」

 ケーキの白い板チョコには、チョコレートで、Happy Birthday
(ハッピー・バースデー)とメッセージが書かれてある。

 スタッフの女性は、気持ちをゆったりとしてくれる笑顔で、
手際よくケーキを人数分に、小皿にとって、みんなに分(わ)けた。

≪つづく≫ --- 37章 おわり ---

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