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タイトル:雲は遠くて <63>17章 世田谷区たまがわ花火大会 (3)  2013/08/13


17章 世田谷区たまがわ花火大会 (3)

電車の乗客で、混(こ)みあう、
中央改札口から、
小川真央(おがわまお)と、
野口翼(のぐちつばさ)が、現(あらわ)れた。

ふたり揃(そろ)って、浴衣姿(ゆかたすがた)だった。

早瀬田(わせだ)の1年生だった、秋のころ、
真央は、美樹に、4回、誘(さそ)われて、やっと、
ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の部員になった。

その、MFCで、翼(つばさ)とも、知りあう。
真央は、最初から、翼には、弟(おとうと)のような、
親しみを感じている。

翼の、楽観的(らっかんてき)で、
適度(てきど)に、お洒落(おしゃれ)、
一途(いちず)で、
熱心(ねっしん)な性格が、真央は好きだった。

アコースティック・ギターを、
弾き方(ひきかた)の初歩から、
丁寧(ていねい)に教えてくれる、翼(つばさ)だった。

翼(つばさ)が、弾き語り(ひきかたり)で、歌った
スピッツの、『ロビンソン』が、
真央(まお)の胸(むね)に、
甘(あま)く、切(せつ)なく、響(ひび)いた。

≪ 誰(だれ)も 触(さわ)れない
  二人(ふたり)だけの 国
  君の手を 放(はな)さぬように ≫
          
    (スピッツの『ロビンソン』からの歌詞)

それは、まだ、2013年が始(はじ)まったばかりの、
冬の終わりころ、
早瀬田(わせだ)の学生会館、B1Fに、いくつもある、
音楽用練習ブースで、
ふたりだけで、練習していたときのことだった。

森隼人(もりはやと)と、
山沢美紗(やまさわみさ)も、
ふたり揃(そろ)って、南口に、やってきた。

プレイボーイと、噂(うわさ)されながらも、
女の子には、人気のある、森隼人。
いま、1番に、仲(なか)よくしているのが、
早瀬田(わせだ)の3年生の、山沢美紗だった。

山沢美紗(やまさわみさ)も、
ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の部員だ。

森隼人(もりはやと)は、自分の趣味の、
好きな海やヨットのことを、
大好きだという、山沢美里の、そんな好(この)みが、
気に入ってる。
彼女の、しっとりとした肌(はだ)や、
抱(だ)きしめれば、折(お)れそうな、
女性らしい、かよわさや、
どんなときでも、夢見ているような、
純粋(じゅんすい)さが、好きであった。

予定通り(よていどおり)の、4時には、
そのほかの、
ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の部員たちも、
成城学園前駅(せいじょうがくえんまええき)、
南口(みなみぐち)に、集(あつ)まった。

「じゃあ、お時間が来ましたので、
みんなで、花火大会の、二子玉川(ふたこたまがわ)、
緑地運動場(りょくちうんどうじょう)まで、歩きましょう!
時間までに、
ここに来れなかった人は、ひとりでも、無事(ぶじ)に
現地には、行けるでしょうから。では出発します!」

そういって、森川純は、菊山香織と、なかよく、
集団(しゅうだん)の、先頭(せんとう)になって、歩きだす。

そのすぐ、あとを、川口信也と、大沢詩織が、
寄り添(よりそ)うように、歩(ある)く。

交通渋滞(こうつうじゅうたい)のためもあって、
花火の実行委員会も、
徒歩(とほ)を推奨(すいしょう)する。

成城学園前駅・南口から、
二子玉川(ふたごたまがわ)緑地運動場までは、
徒歩(とほ)で、片道30分から、40分くらいだった。
そんな、
のんびりと歩く、時間も、楽しいものであった。

「今年は、終戦から、68年くらいかな?
東北の震災から、2年と5か月くらいかな?」

森川純が、となりを歩く、川口信也にそういった。

先頭(せんとう)の、順番(じゅんばん)が、変わっていた。
純(じゅん)と、信也(しんや)が、先頭になっていた。
そのあとを、
菊山香織(きくやまかおり)と、大沢詩織(おおさわしおり)が、
楽しそうに、ときどき、わらいながら、歩いている。

「急にどうしたの?純ちゃん。はははっ・・・」

「ふと、まじめに、考えちゃうんだ。しんちゃん。はははは」

「でもさぁ。おれたちに、できることなんて、
限界(げんかい)があるって!
今日(きょう)みたいに、みんなを、誘(さそ)ってさぁ!
花火を、眺(なが)めて、
感動したりしてさぁ!
何か、楽しいこと見つけて、
元気出して、やっていくしか、ないんじゃないのかな?
ストレスが多いもの。社会も日常も仕事も。
きっと、
幸(しあわ)せとか、充実感(じゅうじつかん)なんて、
花火みたいな、
一瞬(いっしゅん)の、ものでさぁ、
だから、
儚(はなな)いけど、瞬間(しゅんかん)だけど、
いつも、
楽しいこと探(さが)してさ、見つけてさあ、
平凡(へいぼん)でもいいから、
そうやっていくしかなんじゃないのかな?純ちゃん」

「・・・いつかは、ゴールに、達(たっ)するというような、
歩き方(あるきかた)ではだめだ。
一歩一歩(いっぽ、いっぽ)が、ゴールであり、
一歩が、一歩としての、
価値(かち)を、もたなくてはならない・・・」

「へ〜ぇ。いい言葉じゃない、誰がいったの?純ちゃん」

「おれが、作(つく)ったの。なんて、うそ。はっはっはは。
あのドイツの文豪(ぶんごう)、
ゲーテが、
詩人の、エッカーマンに語(かた)った言葉だよ。
エッカーマンって、ゲーテに認められた詩人らしいよ。
ゲーテより、43歳も若(わか)かったんだ。
エッカーマンの詩って、探したけど、見つからないなあ」

「エッカーマン?!さっきの言葉は、ゲーテがいったのね。
一歩一歩(いっぽ、いっぽ)、
一瞬一瞬(いっしゅん、いっしゅん)が、ゴールかぁ!?
なんんとなく、わかるなあ。
ゲーテも、偉(えら)い人だね。純ちゃん・
現代人に、教(おし)えを説(と)けるんだから。
今夜は、
ビール、飲(の)んで、花火を見て、楽しくやろう!
かわいい女の子は、いっぱいいるし。はっはは!」

「そうそう、酒はうまいし、
姉(ねえ)ちゃんは、きれいだし!
こんな歌の歌詞(かし)、あったっけ?あっはっは!」

純と信也はわらった。

緑地(りょくち)運動場までは、あと15分ほどであった。

≪つづく≫ 

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