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タイトル:☆訂正版☆ 雲は遠くて <60> 16章 地上200mの誕生パーティー (5)  2013/08/05


16章 地上200mの誕生パーティー (5)

「独占欲は強いけど、孤独の領域は守りたいっていうわけだよね。
でも、この2つの欲求(よっきゅう)って、
男ならだれでも、持っている欲求じゃないかなあ?!
つまり、森ちゃんは、
男の理想(りそう)を貫(つらぬ)こうとして、戦(たたか)っているだけかもね」

と語ったのは、森川純だった。

「そうですか、純さんに、そういわれると、勇気がわくというか、
自分を肯定できて、安心できそうです。ありがとうございます」

そういって、森隼人は、よろこんだ。

「ただ、おれの、森ちゃんへの、アドバイス(助言)だけど、
男って、
あまり、観念的というか、頭でばかり考えてしまって、
具体的な事実を、
見失(みうしな)っていることって、よくあるからね。
仏教の一派で、もっぱら、座禅(ざぜん)を、修行(しゅぎょう)する、
禅宗(ぜんしゅう)の、
僧侶(そうりょ)の良寛(りょうかん)さんは、こんなことをいっているんですよ。
『花は、無心(むしん)にして、
蝶(ちょう)を招(まね)き、
蝶は、無心にして、花を尋(たず)ねる』ってね。
この、
尋ねるっていうのは、
探し求めるっていう感じの意味ですけどね。
この詩は、
どういう意味かというと、花には、蝶を招こうという気持ちもなく、
蝶には、
花を尋ねようという気持ちもない。しかし、自然の成り行きに、
従(したが)って、出会いが、行(おこな)われる。
つまりは、考えることをやめて、無心になるというのか、
自然と一体(いったい)に、
ひとつになることが、幸福のひとつの形である、と、
そんな考え方なのかなあ。

良寛(りょうかん)さんは、酒も、女も好きだったらしくって、
とても、人間味のある人だけど、かなりな高僧(こうそう)で、
偉(えらい)い坊(ぼう)さんだったらしいんだ。
作家の夏目漱石も、晩年、尊敬していたらしいんだけどね。
おれも、つまらない、講義をしちゃったかな?あっはっは」

そういって、森川純は、わらった。

「純さん、とても、勉強になった気がします。考え過ぎが、
おれの欠点なんですよ、まったく」
と、森隼人は、
感心して、目を輝かせながら、ほほえんだ。

「みなさん、男ばかりで、むずかしい、お話をしているんですか?!」

と、純たちのテーブルへ、やってきたのは、清原美樹(きよはらみき)と、
美樹の彼氏の、
東京・芸術・大学の音楽学部、ピアノ専攻の3年で、若手気鋭のピアニストの、
松下陽斗(まつしたはると)、
グレイス・ガールズの、オール・メンバーの、大沢詩織(おおさわしおり)、
平沢奈美(ひらさわなみ)、
菊山香織(きくやまかおり)、水島麻衣(みずしままい)。
小川真央と、真央と急に親しくなった、今年、20歳の野口翼(つばさ)。
そして、
MFC(ミュージック・ファン・クラブ)の副幹事長の、
2年生の、谷村将也(たにむらしょうや)たちだった。

「せっかくの、きれいな夜景なのよ。
みんなで、ゆっくりと、眺(なが)めましょうよ!」

そういって、美樹たちは、岡昇や、森川純や川口信也たちを、
テーブルから、立ち上がらせた。

「陽斗(はると)さん、お元気ですか?
また、8月24日(土)の、サザンオールスターズ・祭(まつ)り、
は、よろしくお願いします」
と森川純はいうと、わらった。

「こちらこそ、よろしくお願いします。おかげさまで、元気ですよ。
このお店、すばらしいですね。
きょうは、お招きいただいてありがとうございます」

と、松下陽斗は、丁重(ていちょう)に、純や信也に、挨拶をした。

森川純は、菊山香織と、なかよく、
川口信也は、大沢詩織と、なかよく、
清原美樹は、松下陽斗と、なかよく、
それぞれ、みんなは、夜景に見いっている。

水島麻衣には、どうやら、谷村将也(たにむらしょうや)が、
熱をあげているらしかった。
このふたりも、いちおう、寄(よ)りそうように、夜景を眺(なが)めている。

しかし、水島麻衣には、谷村よりも、ひとりで、夜景を眺めている、
幹事長の矢野拓海(やのたくみ)のほうが、
気になっている様子(ようす)である。

岡昇も、平沢奈美と、いちおう、なかよく、カップルのように、夜景を見つめている。

小川真央も、野口翼(つばさ)と、なかよさそうに、夜景を楽しんでいる。

大パノラマが、見わたすかぎり、ひろがる、
大きな窓のある、特別・展望・シートに、座(すわ)って、みんなは、くつろいだ。

見下(みお)ろす、あたり一帯(いったい)には、クルマのヘッド・ライトや、
ネオンやビルの、
窓(まど)の明(あ)かりなどが、静かに、きらめく、夜景が、ひろがっていた。

そんな夜景は、まるで、恋人たちの、心やすらかな、ひとときを、
祝福しているかのようだった。

午後の11時ころ。
誰(だれ)もいなくなった、イタリアン・レストラン・ボーノ(Buono)の、
窓際(まどぎわ)のテーブルに、
一輪(いちりん)、白(しろ)い薔薇(ばら)が、置(お)き忘(わす)れてあった。

≪つづく≫ 

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