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タイトル:雲は遠くて <44>14章 美樹と詩織のテネシー・ワルツ (1)  2013/07/21


14章 美樹と詩織のテネシー・ワルツ(1)

物語は、遡(さかのぼ)ること、
6月10日の月曜日の正午(しょうご)ころ。

早瀬田(わせだ)大学の戸山キャンパスの、
戸山カフェテリア、通称(つうしょう)、文(ぶん)カフェ、で、
清原美樹(きよはらみき)と、美樹の親友の小川真央、
美樹のバンド仲間の、菊山香織(きくやまかおり)の3人は、
白い四角のテーブルに、ついていた。

美樹たちの音楽サークルの部室もある、
学生会館から、東(ひがし)に、100メートルくらいの、
38号館、1階にある、戸山カフェテリアは、
おしゃれな雰囲気(ふんいき)で、
活気のある、学生たちにあふれていた。

その店の、入り口前の、スペース(空間)は、
高い天井(てんじょう)までが、
四角い、大きな白い窓枠(まどわく)の、
ガラス張(ば)りになっている。
ほどよい、明るい日が、差(さ)しこんでいた。

休憩(きゅうけい)するのには、のびのび、ゆったりとできる、
まさに、開放的な空間であった。

「あと、5分くらいで、奈美ちゃんが、詩織ちゃんを連れてくるわよ」

大学2年の、菊山香織は、ケータイで、
大学1年の平沢奈美と、話し終(おわ)ると、
微笑(ほほえ)みながら、そういった。

清原美樹と小川真央も、笑顔(えがお)になった。

詩織とは、1年生の大沢詩織のことで、
エレキ・ギターも、歌も、上手(じょうず)で、
作詞作曲もするという、
ミュージック・ファン・クラブ(MFC)でも、話題の女の子だった。

「よかった、詩織ちゃんが、ここに、来てくれるということは、
もう、わたしたちのバンドに入ってくれるっていうことよね」

そういうと、美樹の瞳は、輝(かがや)いた。

「わたしの、素直な感想をいえば、
キーボードの美樹ちゃんでしょう、
ドラムスの香織ちゃんでしょう、
ベースの奈美ちゃんでしょう。
いまの3人は、かなりな、ハイ・レベルな、
メンバーだと思うわ。
ここだけの話だけど、
いまの、ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の中でも、
指折りの実力のある、バンドが誕生すると信じているの。
それも、女の子だけのバンドでしょう。
みんなも注目よね。
そんなこと、詩織ちゃんもわかっているはずだから、
きっと、そんな女の子だけのバンドっていいなと、
以前から、考えたことがあるはずだわ。
そのきっかけが、つかめないだけで」

そういって、学生とは思えない、オトナっぽい色っぽさで、
いたずらっぽく、小川真央(おがわまお)は、わらった。

真央は、美樹と同じ、下北沢に住んでいる、
幼馴染(おさななじ)みだった。

美樹と真央は、小学校、中学校は同じで、
高校は違っていたが、
また、大学では同じという、かけがえのない、
無二(むに)の親友であった。

真央は、ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の部員だった。

「ダンスやカラオケくらいは大好きだけど、
本格的な音楽活動となると、どうも〜?」

といった感じで、美樹の強引な誘(さそ)いが、3度もあっても、
断(ことわ)り続(つづ)けていた。

しかし、4度目に誘(さそ)われて、真央も部員になったのだった。

いまでは、真央も、ギターの弾き語りくらいはできるようになっている。
真央は、声量はそれほどないが、色っぽい美声(びせい)をしている。

≪つづく≫ 

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