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タイトル:雲は遠くて <14>7章 臨時・社内会議 (その4)  2013/03/03


雲は遠くて <14>

7章 臨時・社内会議 (その4)

モリカワの会議室は、10坪(つぼ)33平方メートルほどの
広(ひろ)で、畳(たたみ)では、20畳(じょう)ほどであった。
会議用のテーブルが、コの字がたに配置されてある。
正面(しょうめん)の南の窓の付近に、
横幅が約2メートルの大型ディスプレイが置(お)いてある。

副社長の森川学(まなぶ)が、ディスプレイを眺(なが)めながら、
話をつづけた。

「2013年の3月から、モリカワの経営理念に、新(あら)たな理念を
追加します」

森川学がそういうと、ディスプレイには次の文章があらわれた。

≪ モリカワは、世のため人のため、芸術、文化の事業を起(おこ)し、
  利益を社会に還元するとともに、社会的責任を果(は)たしてゆきます。 ≫

「まぁ、わが社の経営理念は、顧客(こきゃく)、消費者(しょうひしゃ)、
社員、従業員など、すべての人間への、尊重(そんちょ)と貢献(こうけん)を
基本と原則にしているわけですが・・・」

「そこへ、新(あらた)に、発展的にというか、革新的といいますか、
戦略的にといいますか、芸術や文化の創造に関(かか)わる事業を、
積極的に展開していこうという、事業計画でやってゆきたいわけです」

「これまで、モリカワでは、多種多様に、外食産業を展開してきましたが・・・。
さらなる成長戦略ということで・・・、今後は、ライブハウスなどの全国展開をおこなって、
そんな、芸術・文化事業によって、10代、20代から高齢者までの、
ひろい年齢層の顧客を、さらに開拓していこうという事業計画なわけです。
もちろん、この計画には、モリカワのイメージアップがあります」

「幸(さいわ)い、芸術・文化事業は、雑誌やテレビなどのマスコミにも注目
されてますし、モリカワの宣伝や新規の顧客の獲得や増加、固定化にも
役立つという、相乗効果が生(しょう)じています」

「・・・というわけで、総(そう)じて、事業の進展は、順調な現在の状況です」

ここまで、落ち着きはらった口調(くちょう)で、
副社長の森川学が話しているあいだ、
ディスプレイには、モリカワの代表的な店舗の動画や、
最近、雑誌で取り上げられた記事などが映し出された。

森川学の隣(となり)の席(せき)の、社長の森川誠が、
「わが社の事業計画は、これまで、ほとんどない、
ユニークなビジネス・モデルかもしれません」と、語り始めた。

「基本的に、ライブハウスなどの芸術・文化事業は、わが社の利益の
社会への還元という位置づけなわけです。
芸術・文化活動をしている人たちを、経済的にも支援していこうという
特徴があります。また、募金やチャリティーといった、貧富(ひんぷ)の
格差是正(かくさぜせい)のための社会活動もしていくという特徴もあります」

「ライブハウスでの価格設定は、若い人たちが利用しやすいようにと、
極力、低く抑(おさ)えて、市場価格の50%程度に設定してあります。
モリカワの全店で利用可能なポイントカードを使えば、さらに価格は、
安くなるシステムになっています。
みなさんには、経済的な負担を極力少なくしていただいて、
芸術や文化に親(した)しんでいただいたり、芸術活動をしていただきたいからです」

会議の進行役の、ヘッド・クオーター(本部)主任の、
市川真帆(いちかわまほ)が、微笑(ほほえ)みながら、
森川誠のお茶を差(さ)し替(か)えた。

女性らしさの盛(さか)りの市川真帆には、ソフトな風合(ふうあ)いの、
ネイビー・ストライプの社服が、よく似合う。

「ありがとう。まほちゃん」と市川真帆と目を合わせて、森川誠は小声でいう。

「世間じゃ、よく、失敗は成功の元(もと)といいますが、
まさに、そのとおりで、モリカワの新(あら)たな。、
芸術・文化事業というものは、わたしの息子たちが始めた、
ライブハウス経営がヒントだったのです」と森川誠はつづけた。

「一昨年(いっさくねん)前の2011年の6月に、長男の、良(りょう)が、
ライブハウスを始めたのでしたが、その店の経営が、不景気ということもあったためか、
なかなか順調にはいかなく、不振(ふしん)だったのです。
店の資金を出していたこともあって、わたしも考えこんじゃったわけなんです」

そこまで話すと、森川誠は、声を出してわらった。

≪つづく≫ 

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