メルマガ:小説『さなだむしの自画像』
タイトル:NO6  2009/05/20


こんばんは、さなだむしです。

小説『さなだむしの自画像』の続きをどうぞ・・・。





そういえばさなだむしは、
今日が自分の誕生日だったことに気づいた。

16歳1日目は厄日になりそうだと思った時、
携帯に電話がかかってきた。

ふぃらりあからだった。



「さなちゃん、誕生日おめでとう。

オレ、
誕生日に何かあげたいんだけど、
何がいいか教えてくれる。」



「しいていうなら、
まらりあ駅の中の店にある雑貨屋の、
かえるのぬいぐるみが欲しい。

そのかえるには誕生日と名前があって、
誕生日はウチと同じ1月20日で、
名前は真田幸村といって、
幸村のような刀を持っているんよ。」



「他に欲しいものない。」



「一番欲しいものは自由。

ねえ、寄生虫って、
宿主に飼われているだけなのかな。」




「オレ、
この間どろれす先生と親とで三者面談した時、
どろれすにこう言われた。

『自由は自分でみつけるものだ』ってさ。」




「偉そうに。

よく言うよ。

自分がウチらを縛っているくせにさ。


 ルソーの『社会契約論』の最初の言葉知ってる。


『人間は自由なものとして生まれた。

しかもいたるところで鉄鎖につながれている。』

鉄鎖って、学校のこと言ってるんじゃないか、って最近よく思う。」
 




「オレにとって、鉄鎖は親だね。

親さえいなければ……。

独り暮らししたいと思ってる。

今度オレ、
親に内緒でファーストフード店でバイト始めるんだ。

もう面接受かったし。」
 



さなだむしはこうやってしゃべっていることも、
ふぃらりあが自分の自由を奪っているのだ
ということに気づき始めていた。


何度も電話を切る機会を見計らったが、
結局大雪警報の中、
公園で1時間近く話していた。
 



寒さで、随分体が冷えていた。

帰ってすぐコタツに向かい、数学の予習に向かう。

問題が解けない。

イライラする。

でもイライラするのは問題が解けないからだけではない。

さなだむしは、自分の成績をこれでも非常に気にしていた。

遅刻王で、乱れた生活習慣、不真面目な授業態度で、
成績まで悪ければ、
学校に自分の居場所はないことは分かっていた。

さなだむしにとって、
学校のイメージは非常に悪く、
通うのは、毎日多大な苦痛でしかなかったが、
そこをやめることは考えられなかった。

学校をやめるのは捨ててしまうことだと思っていた。

人間関係も、
今まで頑張ってきた自分も、
将来の自分も何もかも捨ててしまうことだと思っていた。

どろれすや多くの教師が、
よく「お前なんか、やめてしまえ。」と簡単に言っているが、
実はさなだむしはそれが一番悲しかった。

生徒に、学校をやめてしまえ、
という教師は何のために教師をしているのだろうか。

生徒のことを考えているとは到底思えない。

寄生虫が宿主と信頼関係を築き
美しく穏やかな生き方を貫いているのに、
あの傲慢な一方的なやつらは何のために教師をして、
何が生きがいで、何のために生きているのか。

でもやつらにとっては、
そういう一方的な教師像の押し付けの中に、
また別の共存のあり方をかけているのか、
と考えるとさなだむしは自分で笑いながらふきだしてしまった。
 



漢文の予習をしなければ、
と思いながらコタツで寝てしまった。

CDの電源も入れたままだった。

早く寝てしまったので翌朝の8時に起きた。

こういう時が一番困る。
 




行くべきか、行かざるべきか。





ひどく迷った。

今家を出れば、遅刻ではない。

しかしひどく気分が悪く、眠かった。

どろれすのことを思い出すと今日は休業日だと決心した。

あにさきすには悪いけれど。
 




その時玄関でチャイムが鳴った。

無視したかったが、聞き覚えのある声だった。





(この続きはまた今度・・・。)

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