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タイトル:jSj Vol. 212 「スイスの際立つ二院制の特徴」  2023/02/08


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★  jp-Swiss-journal - Vol. 212
┃ February 07, 2023 (Swiss Time)

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【 目次 / INDEX / INHALTSVERZEICHNIS 】


【J】スイスの際立つ二院制の特徴

               明子 ヒューリマン

【E】Characteristics of the Swiss Bicameral System

               Akiko Huerlimann


━━━━━━━━━【 日本語 】━━━━━━━━━

           スイスの際立つ二院制の特徴

               明子 ヒューリマン


日本で「一票の格差」が延々と法廷で争われ、現状
「違憲か、合憲か?」という裁判所の判断が折々報じ
られている。しかし、「違憲状態ではあるが、選挙結
果は無効とまでは言えない」というような判断は禅問
答のようで理解に苦しむ。

この「一票の格差」を軽減させるために、「合区案」
が検討され、幾つかの地方選挙区で採用されているこ
とに、以前から疑問を感じていた。

清き一票の価値を守るために、有権者数の少ない地域
の議員数を減らすと、必然的に、地方自治を後退させ
るのではないか?
大都会の人口流入を増やし続ければ、大都市圏の議員
数は必然的に増え続ける。
「一票の格差」闘争は、現実には地方の過疎化促進策
ではないかとさえ思える。

然し、「自民党が地方と都市部に一票の格差を付けて、
地方を公共事業等で優遇する政策を長年に渡って続け
てきた」という指摘もある。
確かに、地方の財界と政界のボスが君臨している事情
はあるようだ。
(スイスにも、そういう事情が無いわけでは無い。)

しかし、現実には、2022年東京圏への転入超過が拡大
した事を日経新聞のオンライン版が報じている。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA300JW0Q3A130C2000000/

大都市一極集中は、国土防衛の脆弱を助長する。
僻地に自衛隊を配置したところで、国全体に満遍なく
監視の目を行き渡らせるには限界がある。
コンビニが無くても、生きて行かれる人間力を蓄えた、
逞しい住民が各地に居てこそ、国土はより良く保全さ
れ、防衛も可能になるのではないだろうか?
丁度、都会の住民が協力して地域の治安維持に務める
ように。

ところで、「スイスはどんな国?」と問われれば、
「治世が良く、暮らしやすい」と、答えられる。ツュ
ーリッヒ日本人会の月刊誌に紹介される短期滞在者の
コメントにも度々書かれている。暮らしやすさは、政
治の安定がもたらしている結果に他ならない、と確信
している。

スイスは直接民主制を採用していることで知られてい
るが、それを保証するのは、国民投票における住民の
政治的意志表示だけでなく、地方自治体の自治も大き
く認められている制度にこそある。地方の事は地方の
方がよく知っているのだから当然と言えば当然だが。

スイスの連邦議会が採用している二院制は、運用理念
が日本とは異なり、両議院共に4年毎に国民から選出
され、重要なのは同等の権限を有している事にある。

https://www.eda.admin.ch/aboutswitzerland/ja/home/politik-geschichte/politisches-system/bundesversammlung.html

「grosse Kammer」の「国民議会議員(Nationalrat)」
は、比例代表で選出される200名。
1カントンの議員数は、カントンの人口に依存し、
人口4万人毎に1人の議員を置く権利がある。最も人口
の多いチューリヒ州は、35人の代議員をベルンに送り
込んでいる。

憲法では、人口が4万人未満のカントンであっても、
各カントンに少なくとも1議席を保障しているので、
6つの準州(半州)は、各1名国民議会に代議員を送っ
ている。

大所帯の国民議会は、住民の代表とは言え、各政党
の会派が主導権を握って議会運営を仕切り、評決を
差配する政党政治色が強い。従って、党利党略によ
る談合政治で法律や政策が決着を見ることも有る。

「kleine Kammer」と呼ばれる「全州議会
(Staenderat)」の代議員46名は、州の代表として2名
づつ、準州は各1名が小選挙区制、つまり多数決で選
出される。

「全州議会議員」は、カントンの代表だが、カントン
の政府や議会からの指示を受けずに行動する。以前は
「全州議会議員」の評決は非公開だったが、不透明で
ある事に批判が高まり、最近公開されるようになった。
熟慮の議会という評価が定まっているので、議員の地
位は「国民議会議員」より上と見做されている。

国民議会と全州議会は、別々に年4回、3週間の会期で
開催される。又、少なくとも年1回合同で開催される
両院議会(Bundesversammerung)は、通常12月に開催
され、主に連邦評議員(政府閣僚)と連邦最高裁判所
の裁判官の選出を行う。

連邦議会議員は、殆どの議員が本業を持っているので、
民兵議会又は(兼業議会)と称され、平均して就労時
間の60%を本業に費やしていると言われている。

内陸国で欧州列強に囲まれ、どこからでも越境可能な
スイスは、国境を守る為に、地方自治を尊重して国の
結束を維持しているとも言えよう。

スイスの基本原則である連邦制では、26のカントン
(州)と約2200のゲマインデ/コミューン(市町村)が、
広範囲に及ぶ権限を持っている。然し、当然の事なが
ら税収の格差は可なり有り、地域格差は重要な政治課
題の1つだ。

税収の地域格差を補う為に「Nationaler
Finanzausgleich(国家財政の平準化)」、という制度
がある。国の纏まりとして財政の平準化は重要と捉え、
経済的に強いカントンと連邦政府が、経済的に弱いカ
ントンを財政支援するという連帯の考えに基づいた制
度だ。

従って、中央政府の守備範囲は限定的で、僅か7名に
加えて日本の官房長官に相当する「Bundeskanzler/
Federal Chancellor」のみで構成されている。

翻って、日本国憲法43条には、

1.両議院は、全国民を代表する選挙された議員で
これを組織する。

2.両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

と書かれている。

「国民議会は住民を代表し、全州議会はカントンを代
表する」と規定されているスイスの二院制の基本概念
とは根本的な違いが見られる。

日本の参議院は「良識の府」とも称され、任期途中の
解散は無い。
参議院だけに認められる権能に、衆議院解散中に参議
院の緊急集会が憲法第54条2項)で定められており、
立法府の空白を防ぐ機能がある。

しかし、現在、衆議院議員は言うまでも無いが、殆ど
の参議院議員の資質と志は、制度発足当時の理想から
著しく乖離してしまっているとしか思えない。
外国由来のカルトに日本の政界が牛耳られている事
が、安倍前首相の暗殺事件で明るみになった事で、国
民に広く知られるようになった。

国をまともに発展させ、国民の生命と財産を守るに
は、何を優先させるべきか?が課題になる。国民の生
業を保障し、人的・物的資源を有効に生かして、税収
を公平に分配するには、地方自治を優先させるのか?
民主主義を優先させるのか?

国土の均衡ある発展は、国民の人間力を鍛え、国土防
衛にも資する。
報道の自由競争を保証し、外国の介入を阻止する事も
不可欠だ。

次世代に「ツケを残さない」と言うよりは、「いびつ
な政治制度を残さない」事の方が遥かに重要だと思う。
国民が民主主義の権利を維持するには、義務として、
政治に関心を持ち、監視するのが大人の役割の筈だ。

そういう意味では、就労前の18歳の日本の若者に選挙
権を付与したのは愚策と言う外無い。生活の糧を稼ぐ
現実を知ってこそ、社会が理解できるようになるのだ
から 。

日瑞の治世を比較すると、現状ではスイスに1日の長
があると言わざるを得ない。但し、ロシアのウクライ
ナ侵攻以来、EU経由NATOの外圧で「スイスの中立」は
試練の時を迎えている。


【 編集後記 】

取り組むには余りに膨大で込み入ったテーマなので、
深みに嵌まりそうになりながら、「日本の議会制度、
何とかならないものか?」と思い、敢えて日頃の疑問
を蛮勇を奮って整理してみた。そうしたら、スイス並
みの地方分権を日本で確立するには、憲法改正が必要
である事を発見した。そうは言っても、如何なる制度
も人が操るもの。現状のまま良い方向へ導くのか、制
度の大改革を断行するのか、いずれにせよ、日本国民
の志次第と言うことに落ち着きそうだ。
今後も、スイス同様に日本の政治も注視していきたい。


━━━━━━━━━【 English 】━━━━━━━━━



 Characteristics of the Swiss Bicameral System

                Akiko Huerlimann


Japan's "Vote Disparity" is being endlessly
challenged in Court, and the Court's Decisions on
this Issue whether "Unconstitutional or
Constitutional?" is reported from Time to Time.
However, it is difficult to understand such a
Decision as "Although it is Unconstitutional,
Election Results cannot be said to be invalid,"
as if it were a Zen-Question.

In order to reduce this "Disparity in Votes,"
I have long wondered about the "Combining
Districts" Proposal that has been considered and
adopted in several local Electoral Districts.

If the Number of Councilors in Areas with fewer
Voters is reduced in order to protect the Value
of a Clean Vote, will this inevitably lead to a
Regression in local Autonomy?

If we continue to increase the Influx of
Population into large Cities, the Number of
Legislators in Metropolitan Areas will inevitably
continue to increase.
It even seems that the "Vote Disparity" Battle is
in Reality a Measure to promote Depopulation of
rural Areas.

However, some have pointed out that "the LDP-
Party has been pursuing a Policy for many Years
of favoring rural Areas through Public Works
Projects and other Measures by creating a
Disparity in Votes between Rural and Urban Areas.
Certainly, there seems to be a Situation where
local Business and Political Bosses reign Supreme.
(Switzerland is not without such Circumstances
either.)

In Reality, however, the Online Edition of the
Nikkei Shimbun reports that the Number of People
moving into the Tokyo Area in 2022 has increased.

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA300JW0Q3A130C2000000/

Concentration in Large Cities contributes to
the Fragility of National Defense.
Placing Self-Defense Forces in remote Areas
limits the Extent to which the entire Country
can be monitored in full. The Land can be better
protected and defended only if there are strong
Residents in each Region who have accumulated
the Human Strength to survive without Convenience
Stores.
Just as City Dwellers cooperate with each other
to maintain local Security.

By the way, "What Kind of Country is
Switzerland?" if you ask me, I can answer, 
The Rules are good and it is easy to live."
It is often written in the Comments of short-
term Residents introduced in the Monthly Magazine
of the Zurich Japan Club.
I am convinced that the Ease of Living is nothing
but the Result of Political Stability.

Switzerland is known for its Direct Democracy,
and this is guaranteed not only by the Expression
of the Political Will of the Population in
Popular Votings, but also by a System that allows
a great deal of Autonomy to local Governments.
This is not surprising, since the Regions know
better than the Central Authorities.

The Swiss Bicameral System adopted by the Swiss
Federal Parliament differs from the Japanese
System in that both Chambers are elected by the
People every four Years and have Equal Powers.

https://www.eda.admin.ch/aboutswitzerland/en/home/politik-geschichte/politisches-system/bundesversammlung.html

The "Grosse Kammer", Nationalrat [National
Council] has 200 Members elected by Proportional
Representation.
The Number of Members per Canton depends on the
Population of the Canton, which is entitled to
One Member (Councilor) for every 40,000
Inhabitants. The most populous Canton, Zurich,
sends 35 Deputies to Bern.

Since the Constitution guarantees at least One
Seat to each Canton, even to Cantons with less
than 40,000 Inhabitants, each of the six Cantons
concerned sends one Deputy to the National
Parliament.

Although the National Council is a large Body
representing the People, it is influenced by
political Party Politics, with each political
Party Faction taking the Initiative and trying to
organize the Agenda of the Parliament and often
arriving to a different parliamentary Verdict.
Therefore, Laws and Policies are sometimes
settled through Collusion among partisan
Interests.

The 46-Member "Kleine Kammer", Staenderat
[Council of States] is elected by a Majority Vote,
with two Representatives from each Canton and one
from each Half-Canton.

The "State Councilors" are Representatives of the
Cantons, but they act without Instructions from
the Cantonal Government or Parliament.
In the Past, the Verdicts of the "State
Councilors" were closed to the Public, but
recently it has been made public due to growing
Criticism of its Opaqueness. Because of its
Reputation as a deliberative Assembly, the Status
of its Members is regarded as higher than that of
the "National Counsilor Members.

The National Council and the Council of State meet
separately four Times a Year for three-weeks
Sessions. The two Chambers (United Federal
Assembly) meet at least once a Year, usually in
December, and primarily elect the Federal
Councilors (Government Ministers) and Members of
the Federal Supreme Court.

Most Members of the Swiss Parliament have a
Profession; the Concept is known as the "Militia
Parliament" ("semi-Professional Parliament"),
spending an Average of 60% of their Working Time
on their Duties.

Switzerland is a landlocked Country, surrounded
by European Powers, which are able to cross Swiss
Borders from anywhere, so it can be said that
Switzerland respects the local Autonomy in order
to protect its own Borders and maintain its
National Unity.

Switzerland's basic Principle is Federalism,
with 26 Cantons and about 2,200 Gemeinde/Communes
(Municipalities), each with far-reaching Powers.
However, there are considerable Disparities in
Tax Revenues naturally, and regional Disparities
are an important Political Issue.

To compensate for regional Disparities in Tax
Revenues, there is a System called "Nationaler
Finanz-Ausgleich" (National Fiscal Equalization).
This System is based on the Idea of Solidarity,
whereby the economically stronger Cantons and the
Federal Government provide Financial Support to
the economically weaker Cantons.

Therefore, the Scope of the Central Government
is limited, consisting of only Seven Members plus
the "Bundeskanzler / Federal Chancellor," which
is equivalent to Chief Cabinet Secretary in Japan.

On the Contrary, Article 43 of the Constitution
of Japan states: 

1. Both Houses of the Diet shall be composed of
elected Members representing All the People. 

2. The Number of Members of both Houses shall be
fixed by Law. 

"The Swiss National Council represents the
Population, and the Council of States represent
the Swiss Cantons." This is a fundamental
Difference from the basic Concept of the Swiss
Bicameral System. 

Japan's House of Councilors (Sangiin), known also
as the "House of Common Sense," is not dissolved
during its Term of Office. 
The House of Councilors (Sangiin) Alone has the
Power to hold an Emergency Session of the House
of Councilors during the Dissolution of the House
of Representatives (Shugiin) based on (Article
54, Paragraph 2 of the Constitution), thereby
preventing a Legislative Vacuum. 

However, the Qualities and Aspirations of most
Members of the House of Councilors (Sangiin),
needless to say the Members of the House of
Representatives (Shugiin), seem to have deviated
significantly from the Ideals that existed when
the System was first established. After the abrupt
Assassination of former Prime Minister Abe came to
light, it became widely known to the Public that a
Cult of Foreign Origin dominated the Japanese
Political World. 

What should be prioritized in order to develop the
Country in a proper Manner and protect the Lives
and Property of the Japanese People? This is the
Challenge. To guarantee the Livelihood of the
People, to make effective Use of Human and
Material Resources, and to distribute Tax Revenues
equitably, do we give Priority to local Autonomy?
Should Democracy be prioritized?

Balanced Development of the Nation's Land will
train the People's Human Capacity and contribute
to Homeland Defense. 
It is also essential to guarantee free
Competition in the Press and prevent Foreign
Intervention. 

Rather than "not leaving a Bill" to the Next
Generation, I think it is far more important "not
to leave behind a tortured Political System".

In order for the People to maintain their
Democratic Rights, it should be the Role of
Adults to take an Interest in and monitor
Politics as a Matter of Duty. 

In this Sense, it was a foolish Measure to grant
the Right to vote, to Japanese Youths who are 18
Years old before they start Working. It is only
when they know the Reality of Earning a Living
that they will be able to understand the Society.

Comparing the Governments of Japan and
Switzerland, it must be said that Switzerland has
the Advantage in the current Situation. However,
since Russia's Invasion of Ukraine, "Swiss
Neutrality" has been put to the Test by external
Pressure of NATO via EU.


[Editor's Postscript] 

It is such a vast and complicated Topic to tackle
that I almost fell into the Depths, but then I
thought, "Can't something be done about Japan's
Parliamentary System? I dared to organize my daily
Doubts in a barbaric Manner. I then discovered
that in order to establish the Decentralization
in Japan, a Constitutional Amendment is necessary.
Even so, any System can be manipulated by People.
Whether the current Situation will lead the
Country into the right Direction or whether a
Major Reform of the System will be implemented
will depend on the Aspirations of the Japanese
People.
I will continue to monitor the Japanese Politics
as closely as I do it for the Swiss Politics.

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