メルマガ:クリスタルノベル〜百合族
タイトル:クリスタルノベル〜百合族 Vol. 017  2009.8.15  2009/08/15


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   ◇∞◆  クリスタルノベル〜百合族〜    ◇∞◆
    ◆∞◇      Vol.017  2009.8.15      ◆∞◇


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                    ◇∞◇ タイトル ◇∞◇ 
            
             ♪ − 星の降る夜空の向こう


 そんな、ただ悶々と過ごしていた頃、市内中高校の映研が合同で市の公会堂
を借りて、ゴールデンウイークに映画祭を催すのだ、と、映研の友人からチケ
ットを売りつけられた。
「自主映画? うざったそう。やーよ。面倒くさいのは」
「そんなことないって。エンターティメントよ、エンターティメント。お安く
しときまっせ、ねえさん。」
 結局一枚五百円を半額に値切り、二枚購入して香夏子と行くことにしたのだ
が、当日公会堂の入口で待っているとポケベルに『イケナイ ゴメン』の文字
が入ってくる。
「何よそれ。さては逃げたな、香夏子め」
 腹を立ててチケットを破こうとして、手が止まった。
 コンクリートの階段を上ってくる、白いブラウスにブラックジーンズの細い
肢体。髪は、光線の加減で一部が白色に見える。大きすぎるほど大きい目に特
徴のある、美しい顔。
 少女が顔を上げて入口を見上げたとき、私はとっさに自分の身なりを意識し
た。Tシャツにキュロットの、どうでもいいような格好で来たことを後悔した。
髪から化粧から靴まで考えて、こんな自分を少女の目にさらしたくはなかった。
見られたくないと思いながら、一方では、あの美しい目で見られたい、自分の
存在を少女にわかって欲しい、とも思う。だが少女は私に関心を示すこともな
く、階段を上りきって入口で財布を出した。考えるより早く、私はチケットを
差し出していた。
「これ、あげる、一枚余ってるから」
 急いで言った。少女はチケットを見、私を見、少し考えてチケットを取った。
「ありがとう」
 自然な声が耳に快く、私はうっとりと聞き惚れた。ところが思いがけないこ
とに少女は私に話しかけた。
「あんたの分はあるの?」
少しぞんざいな口の聞き方だったが、私は気にならなかった。むしろ、彼女の
放つ妖しい匂いにぴったりの話し方だった。私の胸はどきどき高まった。
「ある、ほら」あわてて見せる。
「気にしなくていいんだ。その子、来ないんだから」
「すっぽかされたの?」
 目が笑いで細くなった「じゃあ、一緒に見ようか。お礼に何かおごるから」
 私は彼女のさばさばした態度に、なぜか心が軽くなった。少女はさっさと中
へ入ってしまうと、こっちを振り向いて、早くおいで、というように振り返っ
て私を見た。私が小走りに中へ入ると少女は自販機からコーヒーを取り出して
いたところで、両手の紙コップの一つを私に渡した。
「ありがとう」
 笑うと目が少し細くなる。その笑顔がますますかわいいので、思わず見とれ
た。何という美しさだろう。
「おねーさん、高校?」
「あ、うん」
 馬鹿のように見とれていたのに気づかれたのだろうか。私は焦った。
「高校二年なの。あなたは」
「あは、私とタメじゃん。学校、どこ?」
「成城。成城女子学園」
「へえ、すごい。お嬢さんなんだ。私は、南港商業。馬鹿な学校だよ」
「そんなことないよ」
 確かにレベルが低くて有名な学校だったけど、私は慌てて否定した。脇の下
を汗が流れた。




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  発行者      : 春野 水晶 

  * タイトル:『クリスタルノベル〜百合族〜』
  * 発行周期:不定期(週2回発行予定)

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