メルマガ:クリスタルノベル〜百合族
タイトル:クリスタルノベル〜百合族 Vol.012  2009.7.4  2009/07/04


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   ◇∞◆  クリスタルノベル〜百合族〜    ◇∞◆
    ◆∞◇      Vol.012  2009.7.4      ◆∞◇


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                    ◇∞◇ タイトル ◇∞◇ 
            
             ♪ − 星の降る夜空の向こう


 私が生まれたのは、和歌山県の外れにある、海辺の人口の少ない静かな土地。
小さい頃の記憶といえば、コンクリートに覆われた風呂に、お湯で塗れた指で
文字や絵をつづっていた事。
 スッと書くと、灰色が濃くなって、字が浮かび上がる。
 あっという間に水分を吸い取って、その字や絵は消えてしまうのだけど、そ
の瞬間が何だか妙に印象に残っている。

 小学校六年まで、私はこの土地で過ごした。父の仕事の関係で大阪に引っ越
すことになり、私は私立の女子中学校に通うことになった。そして、女子高、
女子大とエレベータ式にあがっていった。
 高校二年のあの日以降、毎年、クリスマスになると思い出す。
 私にとっての特別な1曲。
『もののけ姫』
 この曲を耳にする度に、二十二歳になった今も胸のあたりに何かがこみ上げ
る。
 この感覚に襲われる日が一年に何日あるのかと言われると、答えにくい。普
段は思い出さないように蓋を閉めて閉じ込めている気持ちだから……。曲を耳
にした時にだけ、熱く、胸が締め付けられる。

 十七の春。
 高校二年の私。
 新しいクラスのメンバーには見覚えのある顔がちらほらあって胸を撫でおろ
した。
 正直、人見知りの強い私は、もし、友達がだれも同じクラスにならなかった
らどうやって友達を作ったらいいのか困るところであった。
 私は吹奏楽部に所属していた。中学時代からやっていた、という理由だけで
高校に上がったと同時に入部した。
 私は低音の、リズムを担当する楽器が好きで、チューバをやっていた。
 こっそり自宅ではベースの練習なんかもしてたけど、自分のレベルがどれぐ
らいなのかは分からない。
 大きい楽器だし、高価だから、もちろん自分の楽器は持ってない。二年なっ
ても学校の楽器を使わせてもらっていた。
 楽器の扱いには慣れてる。私は一年の時から、先輩に頼らないで勝手に練習
していた。
 地味な音出しの練習をしてると、隣でちょこんと小さい女の子がユーフォを
吹いていた。
 彼女の横顔を見て胸が躍った。梨香という名前が頭をよぎった。
 何という偶然だろう。今朝、生徒昇降口で見かけた、まさしくあの少女だ。
一年だという事だけは分かっていた。ただ、名前はまだ知らなかった。
 私の抱えるチューバも相当大きいけど、百五十そこそこしかなさそうな彼女
が抱えるユーフォも大きく見えた。
「一年生?」
 私の声は緊張で震えていた。
「あ、はい。すみません、先輩、はじめまして。早乙女梨香と言います。よろ
しくお願いいたします」
 そう言って、立ち上がって私に頭を下げた。やっぱり「リカ」だった。
「はじめまして。嶋崎美紀です」
 私の名を聞くと彼女はにっこりと笑った。
 なんて綺麗なんだろう。
 私の横に座って再びユーフォの練習をする彼女の横顔を見た。



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  発行者      : 春野 水晶 

  * タイトル:『クリスタルノベル〜百合族〜』
  * 発行周期:不定期(週3回発行予定)

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