メルマガ:クリスタルノベル〜百合族
タイトル:クリスタルノベル〜百合族 Vol.011  2009.6.28  2009/06/28


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   ◇∞◆  クリスタルノベル〜百合族〜    ◇∞◆
    ◆∞◇      Vol.011  2009.6.28      ◆∞◇


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                    ◇∞◇ タイトル ◇∞◇ 
            
             ♪ − 星の降る夜空の向こう


2. 

 途絶えたように風のない、薄曇りの春。
「お、今日が入学式だよ」
 遠くから見かけて私が言った。校門に立てかけられた看板。パリッとした新
しい制服姿が生徒昇降口からぞろぞろと湧いてくる。
「一年生か。うーん、可愛いねえ。そそるねえ。手取り足取り教えたくなっち
ゃうねえ」
「なーに言ってんの、また病気がでたの? 可愛い後輩に手を出すなよ」
松谷香夏子がそう言って、私のお尻をポンと叩いた。
「香夏子のエッチ。そら、お互い様。あーっ、可愛い妹が欲しい!」
 けたけたと笑っていくうちに真新しい制服の群と合流し、前後を囲まれて歩
く格好になった。少女の甘い香りが辺りに漂っていた。可愛い娘がいないかな
とあたりを見回す私の視線が一人を捉えたまま動けなくなる。
 これは白昼夢か。こんなに綺麗な女の子が現実にいるのか。
 梨香、と私の背後から声がして少女は振り返った。元から色素が薄いのか、
髪が黒灰色で、妙に硬質の光を返すので白髪に見えるのだとわかったが、目の
大きい、凄まじいばかりの美しさに圧倒され、唾を呑み込んだ。声をかけた少
女が人波を分けることもせずに、水の流れるような滑らかな動作で近寄ってく
る。
 唾を飲み込んだのはもう一つ理由がある。呼び止められてこちらを見た少女
は、確かに一瞬、私と目を合わせたのだ。激しい動悸をこらえていると、少女
は友人と連れだって人波の中を遠ざかっていった。
「香夏子……」
 呼ばれて香夏子が私に目を向ける。
「見た、今の」
「何が?」
「すっごい綺麗な女の子がいた」
 声がかすれた。香夏子は不安げに私を見た。
「可愛い後輩に手を出すなよ」
 そんなんじゃない、という言葉は呑み込んだ。梨香、という名前が繰り返し
耳に響いている。私はしばらくその名前を忘れることがなかった。



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  発行者      : 春野 水晶 

  * タイトル:『クリスタルノベル〜百合族〜』
  * 発行周期:不定期(週3回発行予定)

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