メルマガ:クリスタルノベル〜百合族
タイトル:クリスタルノベル〜百合族 Vol.002  2009.3.17  2009/03/17


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   ◇∞◆  クリスタルノベル〜百合族〜    ◇∞◆
    ◆∞◇      Vol.002  2009.3.17      ◆∞◇


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                    ◇∞◇ タイトル ◇∞◇ 
            
             ♪ − 星の降る夜空の向こう


 彼女は私と手をつないで宗右衛門町を日本橋方面にゆっくりと歩いていった。
土曜の休日の昼下がり。通りは人でごった返していた。
 手をつなぐ若い女同士のことなど、周囲の通行人はまったく気にも留めてい
ない様子だった。仲の良い女友達同士に見えるのだろう。
「緊張しているの?」
 私の横顔を覗き込む彼女の綺麗な顔が視界の隅に入ってきた。私はドキッと
して彼女のほうを見た。肩まで伸ばしたさらさらの茶色の髪。筋の通った美し
い鼻梁と、切れ長の深く澄んだ眼。白く透き通るような肌。ますます梨香に似
ている。
 胸の高まりが治まらなかった。
「うふふ、顔が真っ赤よ」
 そう言って、彼女は左手の人差し指で、熱く火照っている私の左のほほを軽
く突いた。私の頬はますます熱くなっていった。
 しばらく歩くと、ここがおすすめのカフェだと言って、彼女は私の手を引い
て店に入った。薄暗い店内には、木製の椅子とテーブルが並べられ、ブリティ
ッシュ風のシックな雰囲気をかもし出していた。客の姿はまばらで、カウンタ
ー席の内側に若いウェイターが中年風の客と談笑していた。
 沙耶は私を奥の窓際の席に連れて行った。そこは椅子がすべて道頓堀川沿い
の遊歩道に向けて並べられており、客は隣同士に並んで座ることが出来る。
「どうぞ」
 彼女は椅子を引いて私をエスコートした。とてもいい気分だった。私の左の
席に沙耶は座った。
「デート費用はお客様持ちなんだけど」
「わかってる。好きなの頼んで」
 ウェイターがメニューを持ってきた。彼女はそれを開いて私を見た。
「ねえ、ふたりでお酒飲まない? いいわよ、昼真っからお酒飲むって。私は
好き。それにリラックスできるし」
 彼女は私が緊張しまくっていることに気づいていた。
「でも、私、あまり強くないから」
「大丈夫、酔いつぶれたらベッドで介抱してあげる」
 そう言って、悪戯っぽい瞳を私に向けた。私は彼女の視線にどきまきしてし
まい、沙耶の目を見ることが出来なかった。ウェイターが注文を聞きに来た。
彼女はジンフィズ、私はカシスソーダを注文した。
「何しているの? OL?」
 彼女はテーブルの上に置いた私の左手を撫でながら聞いてきた。
「大学生。今年卒業なの」
「へえ、じゃあ、就職活動とかしてるんだ」
「まだ。これから。でも、世の中不景気だから、雇ってくれる会社があるかど
うか」
 どうでもいい世間話のように感じていたが、私は緊張が急速に消え去ってい
くのを感じた。彼女は私の緊張をほぐすためにこんな会話をしてくれているの
だ。そう思うと、彼女に感謝したい気持ちになった。
 やがて、注文したカクテルが運ばれてきた。
「ふたりの出会いに」そう言って、沙耶はグラスを持ち、私のグラスに重ねた。
カチンと乾いた心地よい音がした。
 それでも最初は緊張していたが、私の学校のことや将来のこと、趣味のこと
を話して行くうちに彼女と打ち解けることができた。彼女も、生臭くない範囲
で、今の店で働くきっかけや、仕事の話をした。
「私、恋愛は女一筋なの」
 そういって笑う彼女には、この種の業界で働く女の暗さなど、微塵も感じな
かった。

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  ご意見ご感想ご質問等々お待ちしております。

  発行者      : 春野 水晶 

  * タイトル:『クリスタルノベル〜百合族〜』
  * 発行周期:不定期(週3回発行予定)

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