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タイトル:石川ファミリーアンサンブル通信577  2010/02/17


今日もまた天気が悪いですね。でも雨は降ってません。それに朝畑はびっちりと霜柱が、寒いんですね。
今週はシューベルトのグレートの与えた影響についての話題です。そのこともあって、最近またじっくりとグレートを聞いています。
祥大はこの曲が大好きですが、彼は第3楽章が好きと言ってます。第2楽章の歌や対位旋律も素晴らしいですね。
時間が経つのも忘れて聞き入ってしまいます。第4楽章は聴いていると元気がわいてくるような気がします。
それはベートーベンのように強烈な意思によって作り上げられる力強さではなく、音の構築、勢い、そして留まることを知らない歌にあると思います。
ショスタコーヴィッチの革命の最後じゃないですけど、人為的に喜べ!というのと明らかに違います。
さて、昨日、グレートにおいてソナタ形式における第1主題と第2主題の関係を展開部において崩したということに触れました。
通常、第2主題は5度転調し、第1主題とは異なる穏やかな性格の主題となります。
ですから、対位法的に第1主題と第2主題を組合せて展開を行うのは非常に難しく、多くは第1主題のみの展開となります。
もともとソナタ形式はフーガから派生したのではないかと言われています。つまり第2主題はフーガにおける5度上の応答というわけです。
フーガでは主題と応答は基本的に調性が違うだけで同じです。ですから、主題と応答の間にソナタ形式の第1主題と第2主題というような性格の違いはありません。
そのため、フーガにおいて主題と応答との間の対位法的展開と言うのはもちろんありますが、それは単に主題の対位法的展開というべきですよね(同じテーマなので)。
ところが、ソナタ形式では第1、第2主題が完全に異なる性格のものです。ハイドンがソナタ形式というものを生涯を通じて開発しました。
いかにして第1主題と第2主題を選択するか(調性的に5度違えばよいのですが)、その間をどのようにつなぐか、そして展開部はどの主題を使うか。
ずいぶんと試行錯誤したと思います。
その結果、アレグロの第1楽章のソナタ形式では、第1主題が快活なテーマ、第2主題が落ち着いた柔らかなテーマがしっくりいくということになったみたいです。
アレグロの楽章ですから、展開部もアレグロの雰囲気である第1主題を用いて展開するということになります。
モーツァルトもほとんどそうですよね。第2主題というのは提示部と再現部にしか出てこないのが通例です。
ベートーベンはエロイカ交響曲で展開部に第2主題も持ち出すことをやりました。
ですが、もともと性格の異なるテーマですから、両者を同時に対位法的に展開するには無理があるんですね。
では、グレートはどうなのか、なんと第2主題も軽快な主題ですが、短調となっています。そしてきわめて簡単な素材からできています。
これを展開部では第1主題(しかも伴奏系の6連符も)と対位法的に展開するのです。しかもそこには序奏部のテーマのモチーフもあります。
こんなに充実した展開部はベートーベンでも書けなかったんですね(もちろん試みはしていますが)。
グレートの第4楽章も同じ手法です。この曲は何気なく書いてあるようで実は十分に対位法的に推敲されて(本人はしてないのかも知れませんが)書かれているのです。
聞いていると主題同士が実にうまく溶け合っていて、いかにも対位法的に書いてあるという白々しさはありません。あくまでもシューベルトの歌の世界が支配しています。
これは、同じように試みたブラームスの第2交響曲の第1楽章とは全く違います。ブラームスはいかにも対位法使っているぞと言わんばかりです。
シューマンが一目見て、感嘆したのは当然のことでしょう。そして、自身の曲も展開部を充実させる。
メンデルスゾーンも同じです。展開部に積極的に対位法を使い、しかも音楽の流れや勢いを失わない。
ブルックナーは交響曲第8番で見事にこの手法を実現しました。ショスタコーヴィッチは第1交響曲でこの手法をマスターしている。
対位法の大家にとってお手本のような曲なのでしょう。

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IFE通信No.577 10/2/17発行(平日発行)
発行者:石川 聡
石川音楽工房(PC版)
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