2012年11月15日 特別増刊(第54号)

段文凝(ダン・ブンギョウ)という中国人女性の人気が、最近日本でますます高まっている。我々「週刊・東京流行通訊」でも、彼女に関する記事を何回か掲載している。NHKの番組「テレビで中国語」の司会を務める段文凝さんは、きれいな発音と爽やかな性格で、登場するとたちまち中国語を学ぶ多くの人々から注目され、ネット上でも大きな話題となった。先ごろPHP研究所と旺文社が共同で行ったアンケート調査では、「中国語を有名人に習うとしたら誰にいちばん習いたいですか?」という質問に対して、段文凝さんはジャッキー・チェン、林志玲(リン・チーリン)、金城武などの大スターを上回る最高得票を獲得した。

段文凝さんはNHKの中国語学習番組だけでなく、中国語を話す司会者として、あるいは中国語教師としてさまざまなところで活躍している。だが実は、彼女にとっての本業は中国語教師ではなく、早稲田大学の修士課程で学ぶ大学院生というのが本業なのだ。壁のない早稲田大学のキャンパスに足を踏み入れれば、大隈講堂の前や教室棟や食堂などで、彼女の姿を見ることができるかもしれない。今日は、東京流行通訊の記者がそこを訪れて、段文凝さんに直接会い、教師と学生の身分を同時にこなすことについて、そして最近の忙しい生活について語ってもらった。(取材・執筆:松鼠、写真:ZZなど=段文凝提供)

東京流行通訊(以下「」):新学期が始まって忙しくなりましたか?

段文凝(以下「」):ええ、夏休みのインターンシップについて発表しなければなりません。新学期の授業を選択したら、準備を始めなければ。テーマを決めて、原稿を書いて。それから、中国語を教える方のいくつかの仕事も新しい段階に入りました。最近は寝る時間も、何とかして作らないといけない状態で、微博(ウエイボー)に書き込んでいる間に眠ってしまうこともあります。

:微博の更新がない時がありますが、それが原因ですか?

:そうです!すぐにリツイートしたい人たちに本当に申し訳ありません。

:微博とツイッターと両方やっていらっしゃいますね。でもこの二つに書く内容はまったく違いますね。どうしてですか?

:それはフォロワーが違うからです。中国語を勉強した人は両方見ているかもしれません。でも微博を見ている人は、日本にあまり行ったことがなく日本語を話せないという人が多く、ツイッターを見ている人は中国に行ったことがなく中国語を話せない日本人がほとんどです。言語環境も違いますし、多くの場合関心のある話題も違います。例えば、ツイッターで日本の方たちと熟語や成語の由来について話せば、日本人は新鮮で面白いと感じるかもしれませんが、こうした成語の由来は中国ではたぶんみんな知っていると思います。微博とツイッターのそれぞれについて、気を配りながら書き込みをしているので、書いてある内容が違っているのです。

:先日あるアンケート調査で、「中国語を有名人に習うとしたら誰に一番習いたいか」という質問で、段さんが一位になり、ジャッキー・チェンに勝っていましたね。

:いえいえ、そんなふうに比べることはできません。ランキングに入っていたジャッキー・チェンもチャン・ツィイーもタモリも、私とはまったく違う世界の人たちですから、一緒に論じることはできませんよ。

:そのアンケートの分析によれば、段さんに中国語を習いたい理由の一つは、段さん自身が現在日本語を学んでいるということだそうです。外国語を勉強している人にしかわからないたくさんの悩みや楽しさを、段さんなら共有できるとみんなが考えているんですね。この評価をどう思われますか?

:私も同感です。外国語を学ぶ時、ある文をどのように言うかを知るだけでは不充分です。その文の中ではその言葉を使うのに、意味の似ている別の文ではなぜ別の言葉を使うのか、あるいはなぜ違う文法を使うのか。そういう疑問を持つことが理解につながります。こうしたことを考えるのはとても楽しいことです。例を挙げると、漢字語の中には、中国語と日本語で、見た目は同じものがありますが、使ってみると意味には微妙な違いがあるのに気がつきます。例えば「表現」という単語は、中国語でも日本語でも「表現する」という意味があります。「表現力」という単語での意味ですね。でも中国語の「表現」は、場合によっては「意図的に自分の態度を示す」という意味を持ちます。この態度は、いい意味の場合もありますし、何かをひけらかすという意味の場合もあります。でも日本語の「表現」にはこの意味はありません。

東:段さんが相原茂先生と一緒に立ち上げた新しい中国語教室について教えてください。「WEN YOU(文友)」という名前ですね。「文凝の友」という意味ですか?

段:そうではなく、「中文(中国語)の友」というところから来ているんですよ。

東:それはどんな中国語教室ですか?いつから始まったんですか?

段:じつはまだ始まったばかりです。11月3日開講で、今も申し込みを受け付けています。初めて教室で直接中国語を教えるのは、やっぱりちょっと緊張しますね。最近、私は相原茂先生や主催者側の方々と頻繁に会議をしています。そこで一致した認識は、「中国語学習は、敷居が高く、奥が深く、堅苦しいものになっているようだ」ということです。これは当然、外国語を学ぶ時の楽しさを妨げます。実はこれは誤解であって、中国語学習は敷居がそんなに高くありません。私たちはみなさんが中国語を勉強する時に、友達と会っている時のように気楽な気持ちでおしゃべりをする中から何かを得ることができるように、工夫をしようと思っています。

東:段さんのツイッターで読んだのですが、授業の時に中国の点心を紹介したり、みんなをカラオケに連れて行って中国語の歌を歌ったりするそうですね。

:はい、日常生活に密接な、楽しめる方法で、本来はなかなか理解するのが難しい内容を覚えてもらおうと思っています。相原茂先生は中国語を数十年教えてこられて、経験がたいへん豊富な方です。ですから、「WEN YOU」について、私はとても自信を持っています。

東:さっきの微博の話で思い出したことがあります。ネット用語や、日常生活での新語で、段さんが中国語を教えている中で出会ったものはありますか?

段:あります。数日前に日本人の友達に「リア充」は中国語で何と言うかと聞かれたんです。私は「リア充って何?」と聞いてしまいました。「リア充」の意味をご存知ですか?

東:知りません。聞いたことがありません。

段:ネットで調べてみたのですが、漫画やアニメが好きな人たちが、それらに興味がない人たちを皮肉って言う言葉で、「現実の中だけで充実を感じる」という意味だそうです。何と中国語では「現充」と訳されているんですよ。

東:オタクの言葉でしょうか?

段:ええ、この言葉はサブカルチャーのカテゴリーに入りますね。また、例えば「ラーメン食べ歩き」という言葉は、日本人なら一目見て意味がわかりますが、中国語に直訳すると「辺走辺吃拉面(歩きながらラーメンを食べる)」となってしまい、意味がわかる中国人はほとんどいないでしょう。「ラーメン食べ歩き」の本当の意味は、「宝探しのようにおいしいラーメンの店を探し回る」行動ですよね。

東:そう言えば、私も最近「辺走辺吃拉面」をやっていますよ。

段:ふふふ、私もラーメンが好きですよ。おいしい店を見つけたら、教えてくださいね。中国語のネット上の新語の多くは、発音の「しゃれ」が多いですね。例えば、「杯具(発音が『悲劇』と同じ。『悲惨だ』という意味。)」や「童鞋(『同学』と発音が似ている。『学友』という意味。)」などです。これらの言葉は、ピンインを知っていれば日本人でも簡単にわかります。でも、典拠をきちんと説明しないとよくわからないものもあります。例えば、最近流行っている「元芳、どう思う?」などです(「元芳」は、探偵もの時代劇の主人公「狄仁傑」の護衛で、この台詞は狄仁傑が元芳に対して頻繁に発する言葉)。一方日本語は、いくつかの単語を一緒にしたり、省略して短くしたりして、新語を作ることが多いです。「リア充」や「ラーメン食べ歩き」はそういう言葉ですね。

東:最近、中国のネットでは「語死早」という言葉が流行っていますが、これはいくつかの単語を一緒にしたものでしょうか?(「語死早」とは「語文(国語)」の先生が「早く」「死んだ」という意味の省略語で、相手の国語力が低いのを馬鹿にする時の言葉。教えてくれる先生がいなかったようだという意味。自嘲にも使う。)

段:ふふふ、そんな感じでしょうね。もちろん「WEN YOU」では、こういうことだけを学ぶのではありません。雰囲気はリラックスして楽しいですが、しっかり勉強もしますよ。

東:ちょっとまじめな話題にしましょう。数日前に段さんのツイッターで読んだのですが、シリアで殉職した女性記者、山本美香さんの追悼会に出席されたそうですね。

段:はい。私はジャーナリズムを研究する大学院生で、山本美香さんは私たちの客員講師でした。山本さんが健在でいらしたら、今学期は彼女の講義を聞くことができたはずでした。本当に残念です。

東:では段さんは、将来は記者を目指すつもりですか?それとも中国語を教える仕事を続けますか?

段:中国語を教える仕事は、がんばって続けていきたいです。前にも言ったように、この仕事はとても面白いのです。それと同時に、私の専門はジャーナリズムですので、事実の真相を客観的に伝えて、互いの間にある誤解を解くことが、私が責任をもってやるべきことだと思います。

東:段さんがそう思うのは、大学で学ぶ中で、特別に意味のある経験に出会ったからですか?

段:どうでしょうね……、勉強を深めていくのに従って、そういう考えが固まってきたのだと思います。意味のある経験は、もちろんあります。例えば、今年の夏休みに「毎日小学生新聞」のインターンシップに参加し、二日目に地震の被災地に行きました。被災地復興の現場を自分の目で見て、現地の人々の話を聞いて、実際の状況と我々の想像していた状況は決して一致していなかったことに気がつきました。

東:想像していたほど復興していなかったということですか?現地の人々があまり楽観的でなかったということですか?

段:そうとも言い切れません。うまくいっているところもあったし、まだまだ不足しているところもあって、一概には言えません。楽観的ということについては、誰でも常に気持ちが揺れ動くものですが、現地の人々も同じで、いつも楽観的でいることはできません。でも被災地で、涙を流しながらも前進しようとする人々の姿を見て、私は本当に感動しました。

東:「毎日小学生新聞」で、段さんに関する記事をよく拝見します。 段:最近は確かに多いですね。中国と関係があるテーマになると、彼らは私の意見を聞きに来ますし、子どもたちと話し合う機会もあります。また、編集部は読者の子供たちからの手紙を私に見せてくれ、私たちはそれらの手紙の中から新鮮な視点を選んで新聞に掲載します。私が選ぶものは、必ずしも私が賛同しているものではなく、中には私が気持ち的に受け入れられない意見もあります。でも私は、子どもたちが小さい頃から自分で考える力を養うことが非常に大切だと思うんです。「中国の子供たちと友達になりたかったら、どうしたらいいだろう?」子供たちがそんな質問を心に持ちながら成長してくれることを願っています。 。

【名 前】段文凝(Duan Wenning ダン・ブンギョウ)
【出身地】天津
【居住地】東京
【学 歴】早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース在学中
【家 庭】一人っ子。父は医者、母は元教員。天津の実家には亀が一匹とオウムが一羽いる。
【趣 味】旅行、読書、映画鑑賞。推理ものは好きだが、ホラーものは苦手。今夢中になっている作品は「相棒」「Nana」「狼と香辛料」など。コンピュータゲームが好きだが、目の健康のためにあまりやっていない。

主な経歴

2009年5月:天津から東京へ
2011年3月:NHK教育テレビ「テレビで中国語」レギュラー
2011年4月:早稲田大学科目等履修生となる
2011年10月:東京国際映画祭「東京・中国映画週間」の司会を担当
2012年1月:中国語コミュニケーション能力検定(TECC)イメージキャラクター
2012年4月:早稲田大学大学院(修士)入学
2012年7月:エッセイ「日本が好き!」(PHP研究所)を出版
2012年8月:「毎日小学生新聞」でインターンシップを行い、東日本大震災の被災地である岩手県山田町と大槌町を訪問した
2012年9月:「段ちゃんのカンタン中国語2013カレンダー」(トライエックス)発売
2012年10月:早稲田大学の教師・学生たちと共に再び東北の被災地に行き、宮城県石巻市を訪問した
2012年11月:相原茂先生と共に中国語教室「WEN YOU」を開校

最近の計画

1.中国語教室「WEN YOU」の仕事をがんばる
2.DVD写真集に出演
3.来年の修士論文の準備
4.可能であれば、楽しい中国語教材を執筆したい
5.時間があれば、九州と四国を旅行したい

【段文凝のtwitter】https://twitter.com/duan54
【段文凝の微博】http://weibo.com/duan54(中国語)
Wikipedia:段文凝】 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AE%B5%E6%96%87%E5%87%9D
【Photos | Lockerz】http://pics.lockerz.com/gallery/9977242
【NAVER まとめ:段文凝】http://matome.naver.jp/topic/1M1Xe



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