2012年8月24日 第32号(通巻第326号)

荒木経惟の作品展

戦後の日本で最も有名なカメラマンと言ったら、誰もが荒木経惟の名前を挙げるだろう。1940年東京生まれの荒木経惟は、いつも小さな丸い眼鏡をかけ、まばらになった髪を、ちょっと笑いを誘う猫の耳のような形にしている。これまでの半世紀にわたるカメラマン人生で、彼はたくさんの人々に衝撃を与えるような作品を創り出し、論議を巻き起こしてきた。彼の作品について人々は、ポルノと芸術の境界について論争し、カメラ芸術と倫理観との衝突までもが論じられた。彼と妻の陽子さんとの愛情の物語は、彼らの共同の撮影作品や、共著「東京日和」によって今日まで伝えられ、これからも伝えられていくだろう。

1971年、荒木経惟は自分の新婚旅行をテーマにした作品集「センチメンタルな旅」を出版した。そしてその後のカメラマン生活で、200冊以上の出版物において、自分のレンズを東京の街、花、風景に向け、さらに性欲や変態行為も、そして病気で亡くなった妻をも撮影した。これらの作品は荒木経惟を日本の芸術界のトップに上らせると同時に、彼を世界で最も論争の多い芸術家の一人にすることともなった。もう一人の有名なカメラマン、篠山紀信は、荒木経惟が死者(亡くなった妻)の写真を「センチメンタルな旅」シリーズの三冊目「冬の旅」に載せたことで、彼と絶交した。だが二人はその後、芸術に執着する信念を理解しあって和解した。

今年、荒木経惟は東京の代官山と中目黒で同時に写真展を開催する。今回の写真展の大きな特徴は、すべての作品がポラロイドカメラで撮影された、サイズが20×24インチの写真であることだ。そのため、今回の展覧会の名前は「荒木経惟by 20×24 INSTANT FILM」となっている。アメリカのポラロイド社がフィルムの製造を停止したため、今回の展覧会ではIMPOSSIBLE社のフィルムが使用された。また今回モデルを務めたのは、長年にわたって「荒木のミューズ」と呼ばれているKaoRiである。荒木は今回の写真展について、自分が表現したいのは被写体のその時の状態であって、空間や造型を記録しているのではないと語っている。そして、「時を撮っている。時をフレーミングしている。」と強調している。この写真展は8月14日から9月14日まで開催され、我々は1ヶ月という時間をかけてゆっくり巨匠の作品を鑑賞することができる。(凱特執筆)

(C)2012 Nobuyoshi Araki, eyesencia

荒木経惟公式サイト http://www.arakinobuyoshi.com/

小樽で水平線を眺めながら

小樽は北海道の小さな海辺の町で、静かで素朴な土地に一本の運河が流れている。はるか昔、小樽は小さな港で、運河の両岸にはたくさんの倉庫が並んでいた。その頃の小樽は今ほど有名ではなく、毎日海に向かい、黙々と貨物船の積み下ろしと倉庫の出し入れが行われる、働き者で純朴で、他と競いあうこともない静かな町だった。

現在の小樽も貨物の集散地としての働きは持っているが、それよりも、次第に若いアーティストたちが集まる場所になりつつある。西洋風の街灯が立つ運河の岸辺の長い遊歩道のあちこちに、イーゼルを立て、様々な色の絵の具の入った絵具箱や大きな布製バッグを脇に置いて絵を描く人や、ポケットがいっぱいついた大きなウインドブレーカーを着て、三脚に望遠レンズのカメラを取り付けたカメラマンが、世間のことなど忘れたような表情で、気に入った完璧な光線が現れる瞬間を待っている姿が見られる。あるいは工芸品製作をする人々がワイヤを使って精巧なアクセサリーを作っていたり、マーカーで絵葉書を製作していたり、可愛い図案の消しゴム製のはんこを彫っていたりする。カモメが飛来し、白いおなかを突きだして街灯や岸辺の欄干に止まる。常連の芸術家たちは見なれているので、周囲をカモメが行き来するのに任せているが、旅行で来ている人たちは珍しく感じるのか、カモメを囲んでシャッターをさかんに切っている。活気のある小樽は、擦り切れた服を着て陽光の中をかけまわる少年のように、体裁など気にしないような活力や熱気と、都市の喧騒とは縁のない純真な瞳とを持っている。
 
小樽が小さな貨物港から次第に観光地へと発展していく過程で、その表情も次第に変わっていった。普通の民家が当地の特産品を売る店になった場合もあるし、からっぽのまま放置されている倉庫もある。運河沿いには、使われなくなった非常に大きくて古い倉庫があって、ある彫刻家がその室外の通路や屋上に数十個の銅製の彫像を並べた。それらには男も女もあって、表情は厳かである。その作品の意味を尋ねると、この倉庫の以前の労働者たちが高いところから小樽を見つめて、小樽が将来どこへ向かうのかを人々が考えるようにうながしているのだという。
 
おそらく多くの人の小樽に対する最初のイメージは、岩井俊二の純愛映画「ラブレター」であろう。北国の深い雪と、藤井樹が叫ぶ「お元気ですか?私は元気です!」という言葉は、古典的なシーンとして人々の心に深く入り込んでいる。小樽の港ではるか遠くに続く水平線を眺めていると、すでに忘れたと思っていた姿もおぼろげな遠い人への思いが突然湧き起こってきて、その人に対して、そしてその頃の自分に対して言ってみたくなる。お元気ですか?私は元気です、と。(李薊執筆、撮影)

小樽ネット http://www.otaru-net.com/

ねんドルとねんどの日

さくさくと歯ざわりのよさそうなクッキーの囲いの中に、ブルーベリーやイチゴやキウイなどのフレッシュなフルーツが添えられ、さらにたっぷりシロップがかけられて……こんなすてきなシャルロットケーキを、是非自分の手で作ってみたくなる。でも、これは本物のケーキではなく、本体はペットボトルの蓋で、クッキーとフルーツはねんどで作られている。9月1日の「ねんどの日」に、ていぱーく逓信総合博物館で行われるねんど教室で、このメルマガでも何度もご紹介した「ねんドル」岡田ひとみさんが、可愛いねんどのミニフルーツケーキ・シャルロットの作り方を教えてくれるのだ。

9月1日はねんどの日。日本にまた一つ新しい記念日が生まれた。これは「ねんドル」の岡田ひとみさんが制定したもので、去年日本記念日協会に認定された、できたてほやほやの記念日である。「901」の日本語の発音が「クレイ」なので、英語の「clay(ねんど)」と同じ発音になり、ごろ合わせで9月1日がねんどの日と定められた。ねんどの日誕生を記念して行われる今回のイベントの主旨は、子どもにも大人にも一年に一度、創造性と想像力を育むねんどに思い切り触れて楽しんでもらおうということにある。また、幅広い年齢層に向けたミニチュアフードのねんど教室がこれから毎年行われることになり、今回のイベントは記念すべき第一回となる。

ねんど教室は9月1日土曜日の午前10時半から12時までで、東京千代田区大手町のていぱーく逓信総合博物館の1階で行われる。参加費は、材料費を含めてスペシャル価格の901円で、おみやげも付いてくる。参加受付は、ていぱーく会場と岡田ひとみのホームページで行っており、定員は100名である。夏休みの最後の土曜日に、家族や友達を誘って、あるいは一人ででも、ねんどをこねてリラックスし、手作りの楽しみや精緻なねんどのケーキが自分の手の中で誕生する達成感を味わってみてはいかがだろうか?(秋桜執筆)

写真提供:株式会社チーズ

岡田ひとみ公式サイト http://www.radical-planet.com/hitomi/

リラックマ料理を毎日アップ

毎日1枚の写真をアップして自分の日常生活を記録し、その写真を全世界のユーザーと共有できる。自分が興味を持った写真の撮影者をフォローできて、面白い写真をアップすればするほどフォロワーが増えていく……そんな機能を持つアプリは、今やそれほど珍しくはなくなったが、使ってみるとやはりとても面白い。写真共有アプリの「My365」は、登場してわずか5ヶ月でユーザーが100万人に達した。中でもhiyoko555さんは、現在25000人以上のフォロワーを持つ人気ユーザーである。今年の2月末から、彼女は基本的に毎日1枚ずつ写真をアップしているが、それらはリラックマをテーマとしたオリジナル料理の写真なのだ。

hiyoko555さんのサイトを見ると、まるで色鮮やかな宝石箱か、リラックマの楽園のようだ。ごく普通のおかずでも、日本人がよく食べる納豆でも、hiyoko555さんはすべてリラックマの姿に変えてしまう。盛り付けもたいへん美しく、見ただけでおいしそうだ。リラックマカレーが、hiyoko555さんが最初にアップした作品である。リラックマの形のご飯がカレーの中に入っていて、まるでリラックマがお風呂に入っているみたいだ。もともとはどうということもない煮物でも、hiyoko555さんの手にかかるとリラックマの大集合になっていて、思わず笑ってしまう。リラックマのホットケーキやどら焼き、リラックマアイスクリームの載ったメロンソーダなどのスイーツ類もたくさんある。写真を見たユーザーたちは、「お腹も心も満たされる」「リラックマレストランを開いてほしい」などとコメントしている。hiyoko555さんもコメントに積極的に返信しているので、コメント欄はいつもにぎわっている。
 
hiyoko555さんはもともと料理を作るのが好きだったが、「My365」を使い始めてから、リラックマ料理を作るようになった。彼女のモットーは、「なるべくかわいく、なるべくおいしく、なるべく安く」である。撮影にはiPhoneだけを用い、文字を入れて加工することもあるが、料理が引き立つようにできるだけシンプルにしている。hiyoko555さんは、まだ100%満足できる作品は作れていないそうで、今後も毎日作り続けると宣言して、リラックマへの愛と情熱を毎日の料理作りに注ぎ込んでいる。(ff執筆)

写真提供:hiyoko555

「My365」hiyoko555 http://my365.in/hiyoko555 (日、英、中、韓など)

食べても食べても飽きない日本の洋食

私は日本に行くと、日本の洋食を味わうという絶好の機会を決して逃しません。洋食とは西洋料理のことです。この日本の洋食は、日本人が独自に研究して発展させてきたメニューの数々で、西洋料理本来の要素を残してはいますが、食感は西洋料理よりやや繊細で柔らかい味わいで、それが日本の洋食の魅力となっています。

日本の洋食の起源は、明治時代に西洋人が始めたレストランにあります。レストランで仕事をした日本のコックたちが後に自分で開業し、この斬新なメニューを日本国内に伝えていったのでした。当時は物資が不足していたので、西洋料理のすべての材料を整えることができず、替わりのもので代用し、さらに日本人の口に合う味に変え、こうして改良した味から独特の日本の洋食の風味が生まれました。日本の洋食の最も代表的なメニューは、オムレツ、オムライス、コロッケ、カレーライス、ハンバーグ、トンカツなどです。

そのうち最も人気があるのは、オムライスだと思います。炒めたご飯を柔らかい薄焼き卵で包んだもので、視覚的にも味覚的にもたいへん魅力的です。ご飯と卵を大きく取ってケチャップと一緒に口に入れれば、あ〜、この絶妙な味には大人も子供も抵抗することができません。洋食の第二位は、カレーライスだと思います。激辛のタイカレーや香辛料の味が重いインドカレーに比べて、柔らかい味にちょっと甘味の加わった濃厚な日本のカレーは、誰にでも好まれる味です。カレーライスは日本の国民食になっており、小学生の給食のメニューにも登場します。そのまま食べてもおいしいし、カレーの上にトンカツやエビフライを載せたり、あるいはクレープ、温泉卵、チーズなどを組み合わせたりして食べても、また別の幸せな味が生まれます。あるカレーライス専門店では、この夏に期間限定の「冷やしカレー」を発売しました。これは、実に斬新な発想だと思います。

最後に、私がすごくはまっているハンバーグについてお話ししましょう。正式な西洋料理で、牛や豚や鶏のステーキを注文すると、目の前に大きな肉の塊が出されて、食べる前からおなかがいっぱいになってしまいます。でももしひき肉と玉ねぎを一緒にして、調味料を加えてパン粉も入れて練り合わせ、楕円形にしてフライパンで焼いたものなら、食べた時の食感は柔らかくてジューシーで、肉の臭みも少なくなります。そして、これにご飯を組み合わせて食べます。そう、パンではなくてご飯です。この日本風のハンバーグは、絶対にご飯を組み合わせるのがふさわしいのです。面白いでしょう?

日本の洋食を食べたい場合は、上野の「精養軒」、銀座の「煉瓦亭」、日本橋の「たいめいけん」などの百年続く洋食の老舗に行くことをお薦めします。おいしい食事を楽しむと共に、明治時代の気分も味わってくださいね。(哈日杏子執筆、撮影)

食べログ/洋食 http://tabelog.com/yoshoku/  哈日杏子のブログ http://harikyoko.wordpress.com/ (中、日)

第32回 自由が丘

【自由が丘の概要】渋谷から電車で10分ほどのところにあり、西洋建築や、インテリアの凝った生活雑貨やスイーツの店が街のあちこちに潜んでおり、ヨーロッパの雰囲気がいっぱいの住宅地である。風景も優雅で、交通も便利で、東京の雑誌で最も住みたい場所のアンケートを取ると、いつも上位に挙がる。人気ドラマ「花より男子」のロケ地でもあり、近年は女性たちの大好きなスイーツの店で有名である。

【名前の由来】1932年までは「自由が丘」という名前はなかった。1927年に、教育家の手塚岸衛がここに、自由主義を理念とした自由ヶ丘学園を開校した。1932年に東京市域拡張に伴って目黒区が成立した時、地名も自由ヶ丘(現在は自由が丘)となった。元は竹林が多かったが、東横線の開発で大量に伐採が行われ、現在の竹林は熊野神社だけに残っている。

【自由が丘の祭り】1月には800年の歴史を持つ熊野神社で元旦祭りが行われる。4月には桜の木の下でコンサートが行われるさくら祭りがある。8月には駅前広場で大きな櫓を囲んで盆踊りが行われる。10月には数十万人が参加する自由が丘女神祭りがあり、有名歌手のコンサート、米軍のバンド演奏、キャラクターショーなどが行われてたいへんにぎやかである。12月は幼稚園児たちが聖歌を歌うクリスマスツリー点灯式が行われる。(姚遠撮影、執筆)

タイトル:「静かな黄昏」
場所:美観街
撮影のポイント:自由が丘の雰囲気がいっぱいの飲食街。しゃがんだ姿勢で撮影し、視点をできる限り地面に近づけて、焦点を通りのいちばん遠くに合わせて、たくさんの看板が最終的にそこに集まるようにする。
使用フィルタ:Hefe+彩度−フレーム(陰鬱な黄昏の雰囲気をかもし出す。フレームを除去して情報量を増加する。)
タイトル:「通り過ぎる」
場所:自由が丘第一マンション附近
撮影のポイント:巨大で目を引くお茶の広告の前に立って、先にちょうどよい画面を選び、通行人や車両が通るのを待つ。人物の大小の対比と、広告とバイクの静と動の対照が、画面を生き生きとして面白いものにする。
使用フィルタ:Sutro+彩度(中央を明るく、周囲を暗くする。フレームが装飾効果を出す。)

タイトル:「質屋の来客」
場所:自由が丘デパート附近
撮影のポイント:時代の雰囲気に合わない貴金属や宝石の質屋。上部の看板が画面の三分の一を占める。看板の下は左右に分けられる。人物が右側に登場し、物語を感じさせる。
使用フィルタ:Earlybird(「昔の写真」の効果を出し、古い時代の物語を思わせる。)
タイトル:「高架橋下」
場所:自由が丘アキオビル附近
撮影のポイント:巨大な壁画の前に、二台の自転車が画竜点睛(画面を完全なものにすること)の役割を果たしている。必要のない部分をぼかして、全体を静かで穏やかなものにする。
使用フィルタ:Sutro+彩度−フレーム+上下のぼかし(アニメの情景のような効果を出す。)

自由が丘オフィシャルガイドウェブ http://www.jiyugaoka.or.jp/  自由が丘×furari.to http://jiyugaoka.furari.to/

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