メルマガ:作家&出版人育成マガジン「パウパウ」
タイトル:作家&出版人育成マガジン「パウパウ」  2010/10/23


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      作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第134号
   2010年10月23日発行(不定期発行)(2000年3月7日創刊)
      編集・発行人 上ノ山明彦
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<お知らせ>
●日本ペンクラブ主催、国際ペン大会参加報告を掲載しています。
http://www.shuppanjin.com/salon/salon.html
●書評コーナー「あなたに伝えたい本」を更新しています。
http://www.shuppanjin.com/support.html
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●巻頭言 ●   上ノ山明彦 
         国際ペン大会で感銘を受けたこと
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 9月下旬から10初めにかけて開催された国際ペン大会に事務局のヘルプ
で参加してきました。編集の大先輩であるY氏が日本ペンクラブの理事を
されており、私を推薦していただいてクラブに入会したという関係から事
務局の手伝いをすることになったのです。大会では海外から参加した作家
の話は勉強になりましたし、イベントもいろいろと楽しめました。
 もっとも感銘を受けたのは、浅田次郎氏でした。浅田氏は、非常に気配
りされる謙虚でシャイな方でした。ベストセラー作家で超多忙であるにも
かかわらず、ほぼ毎朝事務局に来ていただきました。それだけではなく、
松たか子さんの朗読があった日のこと。会場の手配がちょっとまずくて、
事務局総出で入場整理をしていたときです。ふと横を見ると、浅田氏が一
般入場者の案内をやっているではありませんか!これにはびっくりしまし
た。けっしてスタンドプレーではなく、ふつうにそうしているのです。
他のメンバーに聞くと、彼はイベントでは必ず最後までいて、全体を見て
いてくれるそうです。気配りが行き届いている方なのです。
 エッセイにも書かれていますが、浅田氏は論語の精神をモットーに生き
ている方で、礼儀や仁といったことを大切にしている人です。日本人が失っ
てしまいつつある美徳をしっかり持った人です。大人はかくあるべきだと
思いました。所属する会社名、大学名、職業といったものでしか自慢でき
ない大人が多すぎる世の中で、浅田氏のような姿勢を保ち続けることだけ
でも偉大なことだと思います。元々浅田ファンであった私は、いっそう尊
敬の念を強くしました。次回、このメルマガで、浅田次郎氏が有名作家に
なるまでの経歴をご紹介したい考えていますので、お楽しみに。
 ペン大会ではほかにもいろんな人と会えました。たとえば今年直木賞
を受賞した中島京子さんとも会えましたし、いろいろなジャンルの編集
者とも会えました。非常に意義のある4日間でした。これから私も、文
芸活動にもっともっと力を入れていきたいと思っています。
 4日間の報告をHPに掲載しました。ご一読ください。
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●あなたに伝えたい本●
 『マンガ脳の鍛えかた
  −ジャンプ 人気マンガ家37名、総計15万字激白インタビュー』、
                 ジャンプ編集部 集英社発行
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 手に取った瞬間、「こういう本がほしかった」と思えたすばらしい本で
す。現在少年ジャンプで活躍中のマンガ家37人にインタビューしています。
その内容を元に、その人の発想法、仕事の姿勢から人生観に至るまで、
徹底的に追究した本です。
 マンガ界は、競争が非常に厳しい世界です。少年ジャンプのような有力
漫画雑誌でデビューすること自体が難関である上に、人気を持続していこ
とは至難の技といえます。大きな時代の流れを先取りし、読者の要求に応
えることができる想像力が求められます。人気がない、売れない作品は、
誌上と市場から淘汰されていきます。
 過酷ともいえるその世界で、先頭を走ってきた作家たちであるだけに、
彼らの言葉一つ一つに深い意味が込められています。 それは漫画関係者は
もちろん、文芸関係者にも示唆に富む言葉ばかりです。私の心に深く突き
刺さってきた言葉をほんの一部だけここでご紹介してみましょう。
 本宮ひろ志は、45年という長きにわたってトップを走り続けているマン
ガ家です。 「読者を想像外のところへ連れていかなきゃいけない(略)、
描き手が読者と同じレベルの想像力を使って描いたものは、読者はむしろ
下に感じるはずなんだよ。(略)。だから最初からマンガ家はその分上乗
せして、読者に想像力のレベルで差をつけてないといけないんだよ」(同
書14頁)
 深い意味のある言葉です。これは文学界にも映像の世界などで作品を作っ
ているすべての人に当てはまる言葉です。今のマンガ界では、「思い切っ
て好きなものが描ける」、「新人と自分は同列にいる」と本宮は言ってい
ます。
「新人には何もないわけだけど、40何年やってきたって、別に俺にも何も
ないわけなんだから」(同書20頁)。
 それで何をしたらよいかと問われれば、「もうむちゃくちゃやるしかな
いの。”冒険”だよね(同書20頁)と答えています。冒険にはそれ相当の
覚悟も必要ですが、過去の実績は関係ない時代にあるから、新人でもチャ
ンスは十分にある、ということを言っているのです。長年の実績がある人
から出た言葉だけに重みがあります。
 「ジョジョの奇妙な冒険」の作者、荒木飛呂彦はデビュー当時、その強
烈なオリジナリティのために周囲からさんざんな批判を受けていたという。
それゆえにその重要性について、こう語っています。
 「それに負けちゃだめなんです。そのままやり続けるんですよ。ここは
誰も踏んでいない場所だと、信じて踏み続けるしかない」(同書78頁)
 とはいっても、斬新なアイデアをひねり出すことは苦しいし、終わりが
ありません。それについてもこう答えています。疲れたからもういいとか、
自分はもう十分やったからと満足してしまってはいけない、と。これはマ
ンガ家を続けるかぎり続く自分との闘いということになるでしょう。
 私は「ロッキーズ」の作者、森田まさのりが、今おとなたちが沈んでし
まっている、おとなが元気を出さないといけない、という言葉も印象に残
りました。
「若者というのはいつも無邪気な夢を持っているものだと思う。若者に夢
をたずねる大人が少なくなってきた」(同書90頁)。
 たしかに今のおとなは若者に夢をたずねるどころか、勉強していい学校、
いい会社に入れ、現実を見て生きろ、というようなことしか言わなくなっ
ています。「今時の若いモンは」という前に「今時のおとなは」と問うべ
きなのかもしれません。
 ここまでほんの一部を紹介しただけですが、本書には感銘を受けるとこ
ろがもっともっとたくさんあります。例えば、この人はこういうふうにプ
ロットを考えていたのか、セリフはこういう感覚で書いていたのか、と非
常に参考になります。受け止め方も、読み手によって多種多様になるはず
です。
 ぜひ本書の全文を読んでいただきたいと思います。インタビュー好きの
私としては、文学界でも、こういう趣旨の本が作れたらいいなと思います。
(上ノ山明彦評)
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●あなたに伝えたい本●
   水木しげる 恐怖 貸本名作選
 「不死鳥を飼う男、猫又」「墓をほる男、手袋の怪」「人魂を飼う男」
 「地獄、地底の足音」「異形の者、吸血鬼」など。
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 いつかどこかの出版社が実現してくれると思っていました。待ちに待っ
ていた漫画本が出た、と喜んだ本がこのシリーズです。
 終戦が1945年。それから1950年代頃まで、漫画は紙芝居、貸本という時
代でした。紙芝居は、自転車を引いたおじさんがやってきて、子供たちに
絵としゃべりで読み聞かせるもの。飴玉程度のお金ですが、有料でした。
貸本は、今のレンタル本のように、有料で本を借りて読む仕組みです。
 水木しげるは復員後、紙芝居と貸本の漫画を描いて生計を立てていまし
た。その頃の貧乏生活は、NHKのドラマ「ゲゲゲの女房」でご存じの方
も多いだろうと思います。             
 1960年代後半から時代は高度成長期に移り、少年漫画雑誌とテレビが急
激に普及していきます。この頃になると水木しげるも、その業界で大活躍
するようになります。「テレビくん」、「悪魔くん」「ゲゲゲの鬼太郎」
と、水木しげるの人気は急上昇していきます。
 さて、紙芝居は手作りで極めて少部数しか作られませんでした。貸本は
印刷でしたが、これも少部数しか発行されませんでした。
 そのため、現代になってからその時代の水木作品は、骨董品のような高
値でしか入手できないようになりました。水木ファンとして私も、非情に
残念な想いを持っていました。
 それがうれしいことに、その幻の作品が続々と復刻されるというではあ
りませんか!発行元は集英社系のホーム社です。よくぞやってくれました。
 貸本時代と少年漫画雑誌時代の水木作品は、大きな違いがあると思いま
す。貸本までの水木作品はホラーです。それが「ゲゲゲの鬼太郎」からは、
アイルランドの妖精伝説にも通じる世界に変化したと私は考えて
います。鬼太郎に登場する妖怪たちは、日本の妖精のような存在です。
 実際、水木しげるは世界中の国々を訪れ、その土地の精霊や妖怪や妖精
の話を集めて画集にも描いています。そういうメルヘンでもありファンタ
ジーでもあるところが、子供たちにも受け入れられた要素なのでしょう・
 この貸本名作選シリーズで、水木作品の歴史を知るもよし、独特の世界
を堪能するもよし。いろいろ楽しめる漫画です。
(上ノ山明彦評)
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 編集後記
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 「江戸の恋」は今回休んでしまいました。このメルマガは月に2回の発
行を目標にしているのですが、根性がないので実行できていません。浅田
次郎氏のエッセイを読むと、自宅では座椅子に座りながら眠り、目覚める
と書くという生活を送っていたそうです。そのため出先で卒倒したことも
何度かあります。脳梗塞にならなくて良かったですね。私は8-9月、寝る
間を惜しんで書くという仕事をやってみました。50歳を過ぎてもけっこう
やれるということがわかったので、これからは浅田方式で書いてみようか
なと思っています。でも外で倒れたくないなあ。(上)
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