メルマガ:作家&出版人育成マガジン「パウパウ」
タイトル:『パウパウ』第128号  2010/05/29


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      作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第128号
   2010年5月29日発行(不定期発行)(2000年3月7日創刊)
      編集・発行人 上ノ山明彦
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<お知らせ>
 メキシコ湾での原油流出事故はまだ拡大中で、史上最悪の環境破壊を
もたらしています。まだ国際支援の情報がありませんが、引き続き注意
を払っていただきますようお願いいたしします。
<CNNの報道>
http://www.cnn.com/2010/US/05/10/gulf.oil/?hpt=T2
<事故の映像−YouTube>
http://www.youtube.com/watch?v=xwklMZaoKuE&feature=related
<口蹄疫対策の義援金>
 宮崎県庁が口蹄疫対策の義援金を募集しています。
 ご協力をよろしくお願いいたします。
http://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/fukushi/fukushi/shakai_fukushi/html00165.html
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●巻頭言 ●   上ノ山明彦 
             日本でも電子ブック普及に向けた動きが急
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 iPadの衝撃は大きく、日本でも大きな影響力を持つ団体が、電子書籍の
普及のために注目の事業を開始すると発表した。
 電子書籍が日本で普及するためには、閲覧のための端末(つまりハード・
ソフト)、配信サービス、電子書籍の提供という3点がキーとなる。それ
ぞれについて、動きが急進展しているのである。端末については、今回は
省略する。
 まずは、配信サービス面から。出版社や企業から電子書籍を集め、それ
を配信・販売するシステムがなければ、いくらいい端末があっても意味が
ない。
 ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社の4社が、電子書籍の配信事
業を行う新会社を共同出資で設立すると発表した。年内にも配信サービス
を始めるという。報道資料によると、これはかなりオープンな考え方を持
っており期待が持てる。
 まず端末はどこのメーカーの機種でも配信できるようにするという。ソ
ニーでもアマゾンでもアップルでも、メーカーは問わない。これは非常に
すばらしいことだ。
 参加する企業の条件もオープンである。ソニーや朝日新聞などと競合し
ている企業であっても参加することができる。これもすばらしい考えだ。
企業や端末で電子ブックの配信が制限されることがあってはならない。競
争するのは、あくまでも書籍や新聞・雑誌などの中身であるべきだ。そう
いう考え方に立っている。
 配信システムが出来上がっても、電子書籍を提供する出版社や企業がな
いと、読者は何も買うことができない。そこに有力な団体が名乗りを上げ
た。
 日本電子書籍出版社協会(電書協、代表理事・野間省伸講談社副社長)
は、加盟社31社の電子書籍約1万点を、今秋からアップル社のiPadで販売
すると発表した。同協会は直営の電子書店「電子文庫パブリ」を持ってお
り、すでパソコンや携帯電話向けに電子書籍を売っている。それをiPadで
も買えるようにするというものだ。当然、これから登場する機種にも対応
していくだろうから、読者にとっては非常に便利になる。
 さらに同協会は、アップルの携帯電話「iPhone」などで電子書籍を閲覧
できるアプリケーションを、6月から無料提供すると発表した。これも機
種に制限されずに電子書籍を読むことができる環境作りの一貫である。
 閲覧する機械や配信を行う企業に左右されず、読者が自由に書籍、コミッ
ク、雑誌、新聞を購読できる環境が理想である。作り手はコンテンツの中
身だけで勝負することができる。
 アメリカではアマゾンが配信システムを独占しているため、電子書籍の
値付けまで同社に制約されているという。それは業界の発展のためによく
ないことである。日本ではそうなる前に業界団体が標準化とオープン化を
進めている。すばらしいことである。
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●連載エッセイ ●   上ノ山明彦 
          江戸の恋 第5回 遊女の恋(3)
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 前回のロマンチックな恋の後で恐縮だが、現実的な話もしておかなけれ
ばならない。いわば裏事情の話で、小説としては書きにくい話である。
 物事には必ず裏表がある。どちらも事実は事実として捉え、センセーシ
ョナルにも興味本位にもなってはいけない。そういう立場で私はこの問題
を取り上げたつもりである。誤解のないようにお願いしたい。
 江戸時代の男と女が肉体関係を持つ場合、気になるのが性病と避妊、中
絶の問題である。特に遊女はその問題が深刻だったはずだ。
 性病の中で梅毒は1512年に日本に伝染したという記録が歌人・三条西実
隆の『再昌草』にある。当時の中国・明との貿易か海賊(倭寇)によって
感染したのではないかと言われている。
 梅毒は江戸時代は「瘡毒」(そうどく)と呼ばれていた。参勤交代に伴
って江戸詰になった下級武士が遊郭で遊び、この病気に感染することから、
脚気とともに「江戸患い」とも呼ばれていたようだ。
 ちなみに、脚気のほうは江戸では白米を食べることが多く、ビタミンB1
不足になり、脚気になってしまうところからきている。
 梅毒は江戸時代に急激に拡がり、下級遊女の大半、遊郭で遊ぶ男の大半
が感染していたという話もある。杉田玄白の回想録『形影夜話』には、年
間1000人の患者のうち700〜800人は梅毒だったと書いてあるという(この
本の現代訳版は絶版になっているので、私は未確認)。統計がないので何
とも言えないが、江戸の町人、武士の感染率はかなり高かったに違いない。
 では、感染しないように何か対策をしていたかというと、これが何もし
ていなかったようなのだ。「甲形」(かぶとがた)というべっ甲で作った
現代のコンドームのような道具があったという話もある。でも、それは疑
わしい。感染予防用としてはちょっと無理がある。避妊用としても同様だ。
どう考えても、硬すぎ、重すぎなのだ。おそらく「大人のおもちゃ」とし
てのみ使われていたのではないだろうか。
 当時梅毒に有効な薬はなく、野放しの状態だった。ペニシリンができる
のはずっと後のことだ。梅毒感染後の薬としては、水銀入りの錠剤や軟膏
があった。これは水銀中毒を引き起こす危険性があった。これも恐ろしい
話である。
 しかしながら、昔の人々は、この病気に感染することをあまり怖がって
いなかったふしがある。安土桃山時代に来日した宣教師フロイス、幕末に
近い頃来たオランダ海軍軍医のポンペともに、日本滞在中の話として、日
本人が梅毒の感染に対して深刻に受け止めていないということを記してい
ます。
 女性の避妊法についてはよくわからない。膣内に和紙を詰めて妊娠を防
ぐ方法や、事が済んだ後、膣内を洗浄するという方法が取られていた、と
いう説がある。どちらも不十分な避妊法である。もちろん性病にも感染す
る。
 だが、この方法だと妊娠の率が非常に高いことになり、吉原は妊婦で満
員になってしまわないだろうか。どうも信憑性に欠ける。何かもう少しし
っかりした避妊法があったのかもしれない。まじめな話として、こういう
裏事情もしっかり研究していくべきだと思う。
 では、望まぬ妊娠をした遊女が次に取った方法は、中絶。江戸時代には
中条流(ちゅうじょうりゅう)という堕胎専門の女医がいた。医者といっ
ても現代から見れば医学とはほど遠い。水銀の入った薬を飲ませ、強引に
流産させるというもので、本人が死ぬことも多かった。死ななくても水銀
中毒になることがあったわけで、恐ろしい話である。これは武家の娘でも
町娘でも同じことで、この時代、恋と密通は命がけだったことがわかる。
 さて時代小説では、話中に時々こうした裏事情が登場することがある。
ストーリーの中心には置かないとしても知っておくべきことだと思う。
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●この名著を読め! 
         『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』、新潮文庫
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 偉大な作家であった井上ひさし氏が亡くなってしまった。氏の功績は膨
大で、簡単には語り尽くせいないものがある。
 今回は井上ひさしが作家志望の入門者のために書いた本をご紹介したい。
 本書はものを書く上で、もっとも本質的なこと、根本的に大切なことに
ついて書かれた本である。題名はどう付ける、から始まって、日本語の特
質、文体についてまで、非常にわかりやすく解説してくれている。
 しかも、実際に教室で習う生徒からの質問に答え、実例をあげながら文
章を添削指導しているのでおもしろい。自分の体験談もある。宮城県一ノ
関市にいた頃、井上氏は中学生。ある本屋で国語の辞書を万引きしようと
したところをおばあさんに見つかってしまった。彼女は井上氏を店の裏手
に連れていき、薪割りをさせた。それが終わると、おばあさんはその辞書
を差し出して言った。「働けば、こうして買えるのよ」。薪割りの労賃か
ら辞書代を差し引いた残りまでくれた。井上氏はまっとうに生きることの
意味をおばあさんに教わった。
 このおばあさんもすばらしいが、有名作家になってから、こういう話を
素直に語れた井上ひさし氏もすごいと思う。文章とはハートである、とい
うことを言いたかったのだろう。
 井上ひさし氏にはいろいろと批判があることも知っているが、才能あふ
れる偉大な作家であったことは間違いない。ぜひ読んでいただきたい。
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 編集後記
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 先日、日本ペンクラブの懇親会に誘われて参加してきた。尊敬する阿
刀田高氏や理事の方々とお話しする機会を持てて、非常に感激した。浅
田次郎氏も最後までおられたということを後から聞いて、とても残念な
気がした。浅田氏は今度の「国際ブックフェア」で講演されるので、興
味がある方は参加されるとよい。私も参加する予定。井上ひさし氏がご
存命であればお目にかかることができたと思うと、悔やまれた。実は数
年前、鎌倉でも「作文教室」を開催されるという話があり、それを楽し
みにしていたことがある。体調不良でそれが中止になり、残念な思いだっ
た。氏のご冥福をお祈りしたい。(かみのやま)
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