メルマガ:作家&出版人育成マガジン「パウパウ」
タイトル:『パウパウ』第125号  2010/04/09


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  『パウパウ』第125号(作家&出版人育成マガジン)
   2010年4月9日発行(不定期発行)(2000年3月7日創刊)
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●巻頭言 ●   上ノ山明彦 
     何が不幸で、何が幸運なのか?
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 新卒の高校生、大学生の就職先探しは、去年よりもひどい状況だという。
入社試験結果に一喜一憂している学生の皆さんのことを考えると、何か激
励の言葉を送ることができないかと思っているのだが、一つ言えることは
何が幸福なのかはわからないということ。例えば大企業=いい会社という
図式を持ち、大企業に採用された=幸福になれる、と考える時代ではなく
なっている。
 最近の事件を見ただけでも、「一流企業」と言われている会社のお粗末
な実態がわかる。日本IBMとそのOBが設立した「ニイウスコー」の粉飾決
算事件、富士通の前社長と現経営陣との暗闘は今も続いている。
 過去を調べると、「一流企業」と呼ばれる企業がどれほどひどいことを
やってきたことか。何も過去を暴きたいのではなく、おそらくこういうこ
とが形を変え、会社を変えて、何度も繰り返されるだろうということを、
私は言いたいのだ。
 私の経験から言わせてもらうと、人を大切にし育ててくれる会社という
のは極めて少ない。もしそういう会社があるならば、会社の規模に関係な
く、優先して就職したほうがよいと思っている。人を奉公人か道具程度に
しか考えていない会社は、たとえ大企業であろうと願い下げにしたほうが
よい。名前こそ知られていても、ろくでもない会社というのはけっこうあ
るものだ。面接を受けたとき、人事の担当者や面接官、役員等がろくでも
ない質問をするような会社は、会社の体質も当然悪い。入社しないのが賢
明である。
 しかしながら、社員を大切にし、育ててくれる会社も少数ながらある、
ということを知っておいていただきたい。
 いまどき生活の安定というのは大企業にもないわけだが、個人の力を伸
ばすことを優先したい人ならば、潜在力を秘めた中堅・中小企業やベンチャ
ー企業がお勧めである。こうした企業に入ると、社員一人ひとりの役割と
責任は大きい。それだけに仕事もハードになる。それを苦痛と捕らえる人
には向かないが、やりがいと捕らえる人には、大きなチャンスが与えられ
る。リスクが大きい反面、チャンスも大きい。見方を変えると、どんな苦
労も自分の成長の栄養になるわけだから、それはリスクではないのだ。
 一方、大企業では大きな組織の歯車の一つとなることが要求されるから、
役割も責任も分散し、安心してやっていける。反面、流されてしまうと実
力が身につかないという側面がある。会社全体は世界的スケールの仕事を
しているのだが、社員一人ひとりは小さな仕事しか与えられない、という
ことが実際にありうる。
 見方を変えると、自分の力が伸びない環境というのは、それこそがリス
クなのである。ホンダだってソニーだって松下だってアップルだってマイ
クロソフトだってグーグルだって、元々はベンチャー企業だった。そこか
らグングン伸びていった。そういうところに飛び込んだ人は、会社と一緒
に成長していったのである。
 日本ではベンチャー企業に対して悪いイメージが広がってしまったが、
本当は産業を活性化させ、職を増やし、社会に利益をもたらす存在だ。
 新卒の皆さんには、自分が何をしたいのかをまず中心軸に置いて、そこ
からどういう仕事を選び、どういう会社を選ぶべきかを考えてほしいなと
思う。「不景気だから、どんな会社でもいいから仕事にありつきさえすれ
ばいい」というのは、きっと将来後悔することになるだろう。私が卒業し
た時代も大不況の就職難の時代だった。私自身、就職では苦労も後悔も経
験した。だから確信をもって、こう言うことができる。”自分が何をした
いのか”を軸にして職探しをしなさい。もしそこに到達する道に大きな障
害物があるならば、乗り越える方法をあれこれと考えなさい。どんなに条
件は厳しくとも、どこかに解決策があるものだ。
 そういうシンプルなことがわかるのに、私はけっこう年月がかかった。
未熟だったからだ。皆さんは時間を無駄にせずに、自分の道をまっしぐら
に進んでいただきたいと思う。(長くなって恐縮です)。
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●夢幻流もの書き道場●   上ノ山明彦 
   アメリカの電子書籍の増大と日本での標準仕様策定の動き
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 これは4月8日付け日経新聞の報道によるものだが、アメリカの出版社
協会(AAP)が発表したところによると、2009年の電子書籍の売上高は、
前年比2.8倍、約290億円(3億1300万ドル)になった。書籍全体の売上高
が−2%で、2年連続の減少となっているのと対照的である。
 書籍を音読し、それをCDやダウンロード形式で販売するオーディオ・ブッ
クも、売上が前年比13%減(1億9100万ドル)となっている。
 書籍全体に占める電子書籍の割合は、1%強でまだまだ少ない。それで
も、その増加率には目をみはるものがある。
 この伸びはここ3年くらいは間違いなく続くものと私は考えている。た
しかに電子書籍では読みづらいものもあるが、多くの出版物は情報を早く
入手でき、速く更新することが求められている。長期保存は求められない。
そうした書籍(新聞・雑誌を含む)ならば、電子データが適しているので
ある。
 日本では電子書籍に関する取組みはこれまで統一性がなく行われてきた
が、昨年から標準化の取組みが横断的組織を中心に行われている。
 日本電子出版協会(略称:JEPA)は、Adobe、Google、Apple、SONY、
Barnes and Nobleなどが採用し、電子書籍データ・フォーマットの実質的
な世界標準となりつつあるEPUBの日本語要求仕様案を策定し、4月1日、
一般に公開した。
「JEPAは昨年11月、協会内にEPUB研究会を組織し、仕様を策定した米国の
電子書籍標準化団体IDPF (International Digital Publishing Forum) に
加盟、欧米の策定チームと仕様の調整を行ってきた。要求仕様案には、縦
書き、ルビ、禁則処理などが含まれており、テキスト系の書籍について、
一定の日本語組版を実現させている。
 JEPAは、この案をもとに広く日本国内から意見を聴くと共に、漢字圏で
ある、中国、韓国とも連携して、漢字処理の標準化をIDPFに提言し、仕様
の国際標準化を目指している」(JEPA日本電子出版協会のプレスリリース)
 仕様は、JEPAのホームページで閲覧できる。
http://www.jepa.or.jp

 電子書籍の標準化というのは非常に重要である。その仕様が固まれば、
それに基づいた電子書籍リーダーが開発される。そうなればどのメーカー
の機械を使おうと、標準仕様に従って製作された電子書籍を読むことがで
きるようになる。紙の本と同じように、ハードもツールも関係なく、本の
中身だけが問われることになるのである。
 私はこういう条件が揃うことを10年近くも待っていた。これが日本の出
版文化の興隆につながってくれることを期待している。
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●この名著を読め ●   上ノ山明彦 
     氏家幹人著 『不義密通 禁じられた恋の江戸』、講談社刊 
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 前号で少し紹介した本である。著者は江戸時代をテーマにした本をいく
つも書いている。
 本書は歴史的資料を詳細に調べ、実際にどんな事件が起きたのか、どん
なやりとりがあり、どんな人間模様があったのかまで、できるかぎり真相
に迫ろうとした本である。
 江戸時代は身分差別が厳しく、刑罰も厳しかった。人妻が夫以外の男と
関係を持つと、死かそれに相当する厳しい罰を受けた。それにも関わらず
驚くほど多数の不倫が行われていたと資料が物語っている。れっきとした
武家の妻と奉公人の恋、大きな商店の女将と若い奉公人との恋。現代から
見れば非常に厳格な暮らしをしていたと思われる武家や商家でさえ、不倫
の例は驚くほどたくさんあったのである。
 時代が変わっても、人間の本質は変わらない。制度や慣習やお金で燃え
上がる恋を消し去ることはできない。命をかけて恋を貫くという気持ちは、
現代人よりもはるかに強く純粋だったのかもしれない。
 本書は道徳論を振りかざした書物ではない。不倫の二人とそれを取り巻
く人々が何を考え、どう行動したのか、事の顛末を探ろうとした本である。
決して興味本位でもなく煽情的でもない。恋という人間の持つ特質につい
て考えさせてくれる優れた本である。
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 編集後記
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  日本の勤労者家庭について最近の統計を見ると、背筋が寒くなる。まず
は、貯蓄率。OECDの統計によると、日本人の貯蓄率はこの10年で第14位ま
で落ち込んている。NHKによると35歳勤労者の平均年収は、10年前に約500
万から600万だったものが、約300万円に落ち込んでいる。それ以外の層も、
同様に収入は減っている。正社員は不景気で給料が下がる。あるいはリス
トラで失業する。企業は派遣やパート労働者しか採用しない。その結果、
ますます収入が減る。不足分を貯金で補う。そんな生活状況が統計にはっ
きり表れている。
 一方、企業収益と勤労者の収入の激減は、政府・自治体の税収悪化をも
たらす。そのため公的機関は何かと理由を付けて、よりいっそう庶民の財
布からお金を吸い上げようとする。さまざまの税控除の廃止=隠された増
税、社会保障や福祉予算の削減=国民負担の増加などがそうだ。最近では、
なんと駐車違反などの反則金さえも、2倍以上の増収を予定して自治体予
算に組み込まれている。もはや交通のためではなく、予算不足を補うため
に、徹底的に取り締まり、庶民から絞りあげようというのである。そのた
めに駐車監視員制度なるものが拡充されている。これは現代の「おかっぴ
き制度」である。
 数年前に法律が改正され、1円から株式会社を設立できるようになった
が、これは政府・官僚が企業を育成したいからではなく、個人の商売をど
んどん法人化させて、細かく税金を取り立てるためだと私は考えている。
その証拠に、政府や自治体は企業育成のための施策を形ばかりしかやって
こなかったではないか。新しい企業を支援し、先端技術や新しいサービス
を活性化させていかないと、日本の将来に希望は出てこない。求人も増え
ない。若者が活躍できる場が増えない。そういうことが政治家や官僚たち
はわかっているのだろうか。
 我々庶民の生活は、ますます苦しくなっていく。怖いのは、そうやって、
心もどんどん踏みにじられていくことである。医療費を払えない重病人、
介護の負担に耐え切れず被介護者と心中を図る介護人、借金を苦に自殺す
る人、こういう話が毎日のように報道される。経済問題のしわ寄せの多く
が、若い世代に向けられている。就職難、学業の維持困難などで、将来に
希望を持つことすらできなくなっている。この状態が長く続いたら、意識
として「日本を捨てる」ところに行き着く。「日本なんかどうでもよい。
自分だけがよければ」となる。日本はすでにあらゆる面で殺伐とした社会
になっている。希望はいったいどこにあるのか。そして自分はいったい何
をするべきか。私は毎日考えている。(かみのやま)
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 編集発行人:上ノ山明彦
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