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タイトル:作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第118号  2010/01/07


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      作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第118号
   2010年1月8日発行(不定期発行)(2000年3月7日創刊)
      発行元 出版人コム http://www.shuppanjin.com/
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●巻頭言 ● 上ノ山明彦
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 新年あけましておめでとうございます。あいかわらず厳しい経済情勢が
続いていますが、今年は少し明るい兆しが見えてくるものと期待していま
す。しかし出版業界については、あいかわらず不況が続くでしょう。
 ただ、そんな中にも新しい出版の形態は年ごとに伸びています。電子ブッ
ク、オーディオブック、音楽ダウンロードなど、旧来のメディアから主流
にとってかわる勢いです。
 そうした新しい流れに注目しながら、私もその一翼を担うことができる
ように力をつけていきたいと考えております。まだまだ力不足の私ですが、
長い目でお付き合いくださいますようお願い申し上げます。
 2010年1月8日
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●有名作家はいかにしてプロになったか     上ノ山明彦
 池波正太郎の素顔 第2回 池波流小説作法
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 池波正太郎はエッセイや対談でよくこんなことを言っている。私は小説
を書くとき、あらかじめ展開を考えない。主人公と、あるシーンがひらめ
いたら書き始める。だから、先がどうなるかは、私にもわからない。
 この話を表面的に受け取ってしまうと、誤解してしまう。これは単に
「あらすじは考えない。書きながらストーリーを考える」ということでは
ないのだ。私はこの話の真意はどこにあるのか興味があり、いくつかの本
で調べてみた。
 そして、私なりの結論が出た。一言で表現するならば、究極のリアリティ
を追求するための池波特有の手法を駆使していたのである。
 小説はフィクション(虚構)だから、ある意味どんなストーリーでもでき
る。作者の都合のいいように展開することもできる。作者が勝手に「こう
いう展開にしたら読者が喜ぶにちがいない」と、あらかじめ考えた筋に沿っ
て書くこともできる。
 しかし、そういう書き方は作者の都合だけで話が進む「ご都合主義」に
なってしまうのではないか、と池波正太郎は危惧した。いくら江戸時代の
話とはいえ、それではリアリティのない絵空事になってしまう。
 そこで池波正太郎が取った手法というのは、徹底的に登場人物になりきっ
てしまうというものだ。鬼平なら鬼平に、梅安なら梅安になりきり、彼が
見、聞き、感じる物事をとらえ、どういう行動を取りたいかを知り、話を
進めていくのである。
 これは究極の感情移入型である。その没入の仕方は半端ではない。池波
は言う。
「だから、たとえば短編小説に五日かかるとして、そのうちの二日は、ほ
とんど何もできない。他の仕事もやらない。書こうとする人間たちが生ま
生ましく語りかけ、うごきはじめるのを凝っと待っている。この間が、実
は苦しいのだ。
 このように移入型の私であるから、いよいよ仕事にかかると、そのとき
どきに書いている小説によって、『人が変わったようになる』と、家人や
老母がいう。」(『食卓の情景』、70ページ、新潮文庫)
 あらかじめ考えた展開ではなく、登場人物になりきって考え、感じたと
き初めて見えてくるものがある。そういうふうに行動するのが当然なこと
が出てくる。どうしてもそうならざるを得ない出来事も出てくる。
 こういう状態になったとき、「あとは原稿用紙にペンを下し、その人物
がうごいていくままに主題を追っていく」(同書、同ページ)。
 時代小説は昔の時代を舞台にするが、現代小説と同じく「虚構(フィク
ション)の中で真実を語ろうとするもの」である。ストーリー、人物、情景
などにリアリティがなければ、読者は感情移入してくれない。当然、いい
作品にはならない。
 作家たちは自分の流儀でそのリアリティに迫っていく。舞台となる現地
を取材したり、関係者から話を聞いたりするのもそのためだ。小説家は事
実や物事を資料として捉えるだけでなく、感覚的に捉えなければ、文章と
して表現することができない。
 池波正太郎は今まで述べてきたような独自の手法を取ることによって、
それを実現していたのである。
 ただし、誰でも真似できるかというと、そうではない。大切なのは自分
にあった手法を見つけ確立することなのである。
 次回は、池波正太郎が「時代小説家は気配りが大切」と言っているが、
そのことについて考えてみたい。
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●この名著を読め! 
 司馬遼太郎著 『坂の上の雲』、『竜馬がゆく』  
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 NHKテレビで二つのドラマが話題沸騰中である。一つは「坂の上の雲」。
これは司馬遼太郎原作の『坂の上の雲』を映像化したものである。
 これをきっかけに、ぜひ原作を読んでいただきたい。時代に翻弄され
ながら、悩み苦しむ男たちの苦悩と友情が見事に描かれている。
 もう一つは「龍馬伝」。こちらは原作なしに新しい坂本龍馬像を描くと
いうことだが、やはり司馬遼太郎著、『竜馬がゆく』は読んでいただきた
い。司馬遼太郎がわざわざ「竜馬」という字を使ったのは、司馬の思い描
く人物として「新しい龍馬」を書きたかったからだ。
 幕末、身分は低く、何の後ろ盾もない一介の浪人に過ぎなかった青年・
坂本竜馬が、いかにして歴史を動かす男になったのか。彼の心情、性格、
行動、世界観を生き生きと描いている。(どちらも文春文庫より刊行)
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 編集後記
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 年末は鎌倉浄智寺で0時前に除夜の鐘を突き、0時過ぎ新年に入ってから
東慶寺で鐘を突いた。家族3人で出かけた。空には満月と星々。煩悩を振
り払ってくれそうな美しい夜空だ。参拝者は昨年より半減していた。不況
のせいなのだろうか。なぜか若いカップルが多かった。恋に不景気は関係
ないようだ。彼らは東慶寺がかつて縁切り寺(女性の駆け込み寺)だったこ
とを知っているのだろうか。
 さて、私の抱負だが、まず自分がやるべきことをやる。次に他人と協力
してやらなければならないことについては、焦らずあわてず着実に前進す
る。あれ、毎年同じかな?でもちょっと違うのですよ。(かみのやま)
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 編集発行人:上ノ山明彦
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