メルマガ:作家&出版人育成マガジン「パウパウ」
タイトル:作家&出版人育成マガジン「パウパウ」  2009/12/06


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   作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第116号
   2009年12月6日発行(不定期発行)(2000年3月7日創刊)
      発行元 出版人コム http://www.shuppanjin.com/
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●巻頭言 ● 上ノ山明彦
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 本誌で紹介したラサール石井の著書の中でビートたけし(北野武)が、
どうして一番おもしろく、誰も言い負かすことができない王者の風格を持っ
ているのかについて、その理由をこう分析している。
「それはたけしさんが、誰よりも「腹をくくって」生きているからではな
いだろうか。
 彼はいつも捨て身で、切り込み隊長として最前線で戦い、必ず勝利して
生還してきた歴戦の勇士だ。どんな戦場に行っても必ず一番前に立ち、弾
が飛んでくるのを避けようともせずに敵地に向かって前進していく」。
 なるほどと思わせる分析と表現だ。北野武という人の大きさを思わせる
ある「伝説」がある。彼は街中で入ったトイレの便器が汚いと、その場で
掃除するというのだ。その真偽はいま一つはっきりしていないが、実際に
見たという人や本人がインタビューでちらりと語っていることもあり、ど
うやら本当のことらしい。これは無名時代の話ではなく、大成後の話なの
である。北野武という人物は懐が広い。学ぶべきところが多い。ラサール
石井に、ぜひ「たけし伝」を書いてもらいたい。
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●夢幻流もの書き道場
   読者を意識して書け     上ノ山明彦
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 プロの書く文章は、必ず読者を想定している。
 新聞雑誌の記者は読者に有益な情報を提供しようとする。小説やエッセ
イの作家は一定の読者層に共感や楽しみを与えようとする。読者のいない
商業出版は、経営的に成り立たないからありえないのである。
  一方、インターネットの世界にはブログというものがある。ブログで本
格的なエッセイや小説を発表しているケースは例外として、普通は個人が
日記的なことを自由に書いているのがブログである。それは必ずしも読者
を想定しなくてもよい。そこに仕事で書く場合との本質的な違いがある。
 世の中には、自分の自慢話や瑣末な話などをダラダラと書き連ねた、他
人にとっては何の意味もない文章を「エッセイです」と称している人もいる。
「私の文章ってうまいでしょ」ということを示したいがために書いている
人もいる。そういうものはあきらかに読者無視、軽視である。この手の文
章は、ブログならば許されるだろう。本来的に個人の瑣末な出来事や気分
を書いてよいのだから。だが、商業出版では許されない。 
 プロの書き手を目指すならば、常に読者を意識して書くべきである。
 司馬遼太郎は「自分の作品を理解してくれる人は三千人くらいはいるだろ
う」という想定で原稿を書いていた。あの国民的作家でさえそうなのだ。
 ここからはエッセイやコラムについての話である。
 現代の読者の好みは細分化している。単純に年齢や性別、職業などの広
い層で区分するのが難しくなっている。30人でも300人でもいいから、自分
が想定する読者のイメージを持って原稿を書くと文章に活力が出てくる。
「いや私は何百万人の人に読んでもらいたい」と思って書くと、焦点がぼ
やけた文章になってしまうだろう。そうなるのはあくまでも結果であって、
最初から狙って書くものではない。
 自分の想定する読者に共感を求めるのが定石の書き方だ。想定する読者
に何か強く伝えたいもの、例えば発見、感動、悲しみなどを訴える。
 ただし、読者に媚びてはいけない。「ウケ狙い」になってはならない。文
章はあくまでも自分の感性や考えや発見などを表現するものである。読者
のご機嫌を取るためのものではないはずだ。読者も書き手の意図は見抜く
ものである。ウケ狙いは一時的に反響があってもすぐに飽きられてしまう。
 逆に、わざと読者の反発をもくろんで書く原稿もある。反論を想定して、
議論をふっかけるわけだ。ただやみくもにケンカをふっかけるのが本意で
はない。それをきっかけに読者にある問題について考えてもらおう、とい
うのが目的だ。結果的に読者の反響を呼ぶのであるから、これも高度な文
章力が必要である。下手すると泥仕合になってしまう恐れがある。
 取材相手を持ち上げる場合もある。メディアの影響力は大きい。もし相
手の欠点を書いたとしたら、そのイメージが読者の間に深く根付いてしまう
ことだって大いにありうる。その結果、取材相手は傷ついてしまう。欠点
を書くにはよほどの覚悟と注意が必要だ。中途半端に書くことは絶対避け
なければならない。
 取材相手の長所を書く場合は相手も喜ぶし、読者も学ぶべき点を知るだ
ろう。そういうところに重点を置くと、どうしても相手を持ち上げた文章
になりがちだ。けっして提灯記事を書くつもりがなくてもである。私もそ
う原稿をたくさん書いてきた。それが間違っているとは思わない。要は読
者にとって何が有益かが問題なのだから。
 以上、商業出版において、読者を意識して書くことの重要性を述べてき
た。共感であれ、反発であれ、読者から反響がある文章はよいものである。
最も悪いのは、読者に何の反響もないもの、つまり無視される文章だ。
 時々ブログ炎上が話題になるが、それはよかれあしかれ問題提起になっ
ているわけだから、世の中にとって意味がある。読者にまったく相手にさ
れない文章は、それ以下なのである。
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●ノンフィクションの壁  上ノ山明彦
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 ホームページに掲載しました。興味のある方は読んでください。
http://www.shuppanjin.com/mugen/mugenryu107.html
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●この名著を読め! 
    ラサール石井著  『笑いの現場 ひょうきん族前夜からM-1まで』  
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 本書は1994年12月に刊行された本を加筆・訂正し、角川新書で発行され
たものである。著者はコント赤信号のラサール石井である。
 とにかくラサール石井の分析力が卓越している。「お笑い」の分析とい
うのは世相の分析である。時代背景、文化の分析でもある。時代の気分が
一つの形として「お笑い」になる。そのことをしっかり著者はとらえ、読
者に示してくれる。
 背景がわかったとして、次に演者(お笑い芸人)が具体的にどういうお
笑いでそれを結実させているのか?それについても、著者は冷静に分析し
ている。それに加えて、芸人そのものの個性の部分についても分析を怠ら
ない。時代背景とネタと芸人の三者がうまく溶け合ったはじめて、
世間にブームを巻き起こすお笑いが生まれるのである。「お笑い芸人列伝」
の章の「ビートたけし」の話は目が覚める思いがすることだろう。
 本書を読みながら、小説の批評と相通ずるところがたくさんあって、い
ろいろと勉強になった。そして面白かった。ラサールさん、やっぱりあな
たは頭がいい! (角川書店発行)
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 編集後記
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 YouTubeでたまたま羽生義治のインタビューを見たら、「今は情報が氾
濫している時代だから、そういうものに影響されずに生活するということ
が難しくなっている。本当はそういうものから離れて自分の感性を磨くこ
とが大切なのです」というようなことを語っていた。知らず知らずの内に
マスコミの価値観、世間の価値観に左右され、自分を見失うのは怖いこと
だ。現代人は情報から隔絶されてしまうと、孤独感や疎外感に押しつぶさ
れてしまうだろう。誰だったかある作家が言った。「孤独を楽しめ」と。
「電話がないところで生活するのが、現代の最高の贅沢」という人もいる。
今だったら「インターネットも携帯電話もテレビもない生活」が最高の贅
沢である。いつしかそういう生活がしてみたい。(かみのやま)
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 編集発行人:上ノ山明彦
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