メルマガ:作家&出版人育成マガジン「パウパウ」
タイトル:作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第108号  2004/12/12


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      作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第108号
   2004年12月12日発行(毎月1回発行)(2000年3月7日創刊)
      発行元 出版人コム http://www.shuppanjin.com/
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[お知らせ]
・本号は推理小説志望者のための特集号です。
・2005年1月中旬より、読売文化センター横浜主催で、上山明彦の講座
「はじめての短編入門」が開催されます。詳細はHPで。
 http://www.shuppanjin.com/
・NPO設立に向けた準備会の報告をHPにアップしました。URLは上記と同じ。
・本誌は「投稿人パウパウ」の読者にもお送りしております。
 採用原稿が少なく発行が少ないためです。ご理解ください。
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■目 次■(本文共敬称略)
●不定期連載 夢幻流もの書き道場 上山明彦
      推理小説への挑戦−掟破りはできるか?
●推薦公募情報● 
      2005年の推理小説の公募は、これがねらい目
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●不定期連載● 夢幻流もの書き道場 上山明彦
             推理小説への挑戦−掟破りはできるか?
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 推理小説の原則や名作の歴史と発展についてまとめてみたい、と常々考
えていた。先日、ある本を探しに書店に立ち寄ったら、思いがけず非常に
いい本を見つけた。
『ミステリー・名著のあらすじ』(矢島誠、芦川淳一、山川栄次郎共著、
コスモ文庫、永岡書店発行)という本がそれ。
 この本は、単純に世界各国と日本の名作のあらすじを紹介しているので
はない。ある作品がミステリーの発展に及ぼした影響、作家のバックボー
ン、トリックと謎解きの読みどころなどを、的確にまとめている。
 推理小説(ここではミステリーと同じ意味で使っている)作家を志望し
ている人には、名作の持つ意味を多方面から知ることができるので、ぜひ
読んでほしい本だ。

 この本の中でも紹介しているが、推理小説では事件の謎解きにあたって、
読者をペテンにかけてはならないという厳しい掟がある。
 まずその掟をしっかり理解しておくことが大前提となる。その上で「お
れはその掟を破ってみせる。それでいて読者を納得させてみせる」と挑戦
するのはいっこうにかまわない。
 ロナルド・A・ノックスが、ミステリーのフェアプレイを定義している
ので、これから紹介しておこう。
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<ノックスの十戒>
1. 犯人は物語の初めから登場していなくてはならない。
2. 犯罪は論理的に解かれねばならず、超自然的なものに依ってはならない。
3. 秘密の部屋や通路は、一つ以上使ってはならない。
4. 新しい、未発見の毒物はダメ。
5. 不吉な外国人、殊に中国人を登場させてはならない。
6. 犯罪はまったくの偶然によって解かれてはならない。
7. 探偵が犯人であってはならない。
8. 探偵はわざと手掛かりや自らの推論を読者から隠してはならない。
9. ワトスン役がいる場合、その人物は自らの意見を隠してはならない。
10. 瓜二つの双子や″そっくりさん″を使ってはならない。
(『ミステリー・名著のあらすじ』、87-88ページより引用。ただし、
行頭の数字は原文では和数字)。
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 ここで「探偵」と呼んでいるのは探偵の役割を果たす人物のことで、職
業は専門職の探偵に限定しなくてもよい。弁護士でも刑事でも記者でも何
でもよい。「ワトスン役」というのは、シャーロック・ホームズの相棒で
あるワトスンのように、相棒として自分の考えを素直に言う役割の人物の
ことだ。
 ノックスの掟から考えると、宮部みゆきの『火車』では犯人が最後の
最後の最後にしか登場しないので、1番目の掟を破っている。それでい
て、非常におもしろいストーリーに仕上げている。そういうこともでき
るのである。
 5番目にある「中国人」という文字は、当時の時代背景を考慮してほ
しい。もちろん現代では削除してかまわない。
 全体的にノックスの十戒は、現代でも十分に通用する掟である。

 次に、「ヴァン・ダインの20則」を見てみよう。
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1. 謎を解くにあたり、読者は探偵と平等の機会を持たねばならない。
2. 犯人や探偵に対して用いるペテンやごまかしを読者に施してはならな
い。
3. 物語に恋愛的な興味を添えてはならない。
4. 探偵自身、あるいは捜査当局の一員が犯人に豹変してはならない。
5. 犯人は論理的な推理によって決定されねばならない。
6. 推理小説には探偵が登場しなくてはならない。
7. 推理小説には死体が絶対に必要である。
8. 犯罪の謎は厳密に、自然な方法で解決されねばならない。
9. 探偵は一人だけ、つまり推理の主人公はひとりだけでなくてはならない。
10. 犯人は物語中、大なり小なり重要な役割を演じた人物でなくてはなら
ない。
11. 作者は使用人を犯人として選んではならない。
12. いかに多くの殺人が起ころうと、犯人はただ一人だけでなくてはなら
ない。
13. 秘密結社・カモラ党・マフィア党などを推理小説に持ち込んではなら
ない。
14. 殺人の方法とそれを探偵する手段は合理的・科学的でなくてはならな
い。
15. 問題の真相は終始一貫して明白でなくてはならない。
16. 推理小説には文学的饒舌など、雰囲気の過重視があってはならない。
17. 職業的犯罪者に推理小説中の犯罪の責任を負わせてはならない。
18. 推理小説の犯罪は事故死や自殺という結末があってはならない。
19. 推理小説におけるすべての犯罪の動機は個人的なものでなくてはなら
ない。
20. 自尊心のある作家は使い古されたトリックを使うことを潔しとしない。
(『ミステリー・名著のあらすじ』、95-96ページより引用。ただし、
行頭の数字は原文では和数字)。
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 現代においては、この掟もいくつかの項目が破られている。
 今年のベストセラーの一つ『ダ・ヴィンチ・コード』では、3番目の恋
愛の要素が盛り込まれている。13番目にある秘密結社はどんどん登場して
くる。それでも十分に論理的な謎解きやハラハラ・ドキドキのサスペンス
を楽しめるいい作品である。
 宮部みゆきの『誰か』という推理小説は、事件の結末が18番目の掟を破っ
ている。事件よりも、それをめぐる関係者の人間模様や深い心理を描き出
そうとした作品で成功しているが、これも16番の掟破りと言える。
 とはいえ、全体的にダインの20則も、十分現代に通用する要素をもって
いる。
 推理小説の手法もどんどん変化し、発展していく。新しい掟破りが登場
してくることは歓迎すべきことである。
 その場合、「あの小説はインチキだ。掟に従っていない」という厳しい
批判が浴びせられることは覚悟しなければならない。それを乗り越えては
じめて、歴史に名を残す作品となるのである。ぜひ挑戦していただきたい。
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●推薦公募情報● 
     2005年の推理小説の公募は、これがねらい目
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 今回は推理小説・ミステリーに焦点を当ててみました。
 小説を書き上げるには時間がかかります。どれがいいかなと、来年の公
募に狙いを定めて執筆してください。
 なお、応募判断材料として、これまでの受賞作品を見ておくことは必要
です。
 スポーツ選手が、子供のうちから体と技術を鍛え、成長するに従って実
力をつけていくのと同じで、現在ヘタだろうと上手だろうと、作家も常に
書く力を鍛えていかなければ成長しません。挑戦しながら自分を磨いてい
きましょう。
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 まだ日程が確認できていないものは(2005年度は未確認)と明記して
あります。他は確認済みですが、変更の可能性もありますので、HPか
雑誌で確認してください。

第51回 江戸川乱歩賞
http://www.kodansha.co.jp/award/toukou.html
http://www.kodansha.co.jp/award/index.html
・広い意味での推理小説。自作未発表の作品。
・応募資格 新人、新人に準じる人
・締切 2005年1月末(当日消印有効)
・原稿 350枚以上550枚以内(厳守)
雑誌「小説現代」参照のこと。

第2回ミステリーズ! 短編賞
http://www.tsogen.co.jp/tanpensho/index.html
・斯界に新風を吹き込む意気込みに溢れた推理短編の書き手の出現を熱望。 
・未発表の短編推理小説
・応募資格 不問
・締切 2005年3月31日(必着)
・原稿 30〜100枚程度

第9回日本ミステリー大賞新人賞
http://www.kobunsha.com/top.html
・広義のミステリーで日本語で書かれた自作未発表の小説。 
・応募資格 不問
・締切  2005年4月末日(当日消印有効)。 
・原稿 350枚から600枚以内

第6回ホラーサスペンス大賞
http://www.gentosha.co.jp/special/horror_suspense_5th.html
・応募資格 不問
・ホラー性およびサスペンス性に富んだ長編小説。
・自作未発表の、日本語で書かれた作品に限る。
・締切 2005年5月31日(当日消印有効)
・原稿 350枚以上

第44回オール讀物推理小説新人賞」(2005年度は未確認)
・応募資格 不問
・未発表の推理小説
・締切 2005年6月末日頃
・原稿 50枚以上100枚以内
※雑誌「オール読物」参照のこと。

第26回横溝正史ミステリ大賞
http://www.kadokawa.co.jp/contest/yokomizo/index.html
・エンタテインメントの魅力あふれる力強いミステリ小説を募集
・応募資格 不問
・2005年7月31日(消印有効)
・原稿 350枚から800枚。
※雑誌「野性時代」「本の旅人」を参照のこと。

第13回松本清張賞(2005年度は未確認)
http://www.bunshun.co.jp/award/
・ジャンル不問。
・良質のエンターテインメントの自作未発表作品。
・締切 2005年11月30日頃
・原稿 300枚以上600枚以内
※応募要領は雑誌「文藝春秋」等を参照してください。
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 編集後記
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 『司馬遼太郎という人』(文春新書)という本をたまたま見つけた。
文藝春秋社の元編集者で、現在は作家の和田宏という人が書いた本だ。
今年の10月に発行されたばかり。和田宏は司馬遼太郎の書籍の編集担当
で30年の付き合いがあったという。編集者サイドからの司馬遼太郎の話
も深く心を揺り動かされるものがあった。この本の中に書いてあったの
だが、司馬遼太郎は推理小説の執筆依頼を受けて、一度だけ書いたこと
があった。そのとき懲りて、生涯二度と書かないと誓ったそうだ。その
理由は「探偵たちの変質的な詮索癖」が嫌いで、それは「精神病理学の
研究対象ではないかと思っている」からだという。私は司馬遼太郎を尊
敬している人間だが、このやりとりはジョークだと思う。ただ、書き手
として、司馬遼太郎に推理小説は合わなかった、ということだけは本当
のようだ。あれだけの膨大で偉大な作品を残したのだから、それで十分
ですよね。(かみのやま)
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 編集発行人:上山明彦
 発 行 所:出版人コム
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