メルマガ:作家&出版人育成マガジン「パウパウ」
タイトル:作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第106号  2004/07/13


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      作家&出版人育成マガジン『パウパウ』第106号
   2004年7月12日発行(毎月1回発行)(2000年3月7日創刊)
      発行元 出版人コム http://www.shuppanjin.com/
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[お知らせ]
・新企画「書き手から見た書評」コーナーをHPに開設します。
 原稿を募集しています。詳細はHPで。
・本誌は「投稿人パウパウ」の読者の皆さんにも配信しています。採用作
 品が少ないのでご了承ください。
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■目 次■(本文共敬称略)
●新企画予告●  上山明彦
          「小中学生のための文章教室」をHPに開設
●不定期連載● 有名作家はどうやってプロになったか 上山明彦
      人間の生と信仰の意味を問い続けた作家−−遠藤周作
●連載● 乱読乱話  久和山武輝
        第7話 上司にはめぐまれないもの
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●新企画予告● 
           「小中学生のための文章教室」をHPに開設
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 本誌前号を発行してまもなく、長崎県佐世保市の小学校で大変な事件が
発生しました。小学6年生の女子が同級生の女子をカッターナイフで殺害
するという信じられない事件です。
 大阪の池田小学校での事件でも、幼い児童が犠牲になり悲惨な状況でし
た。今回の事件は殺害状況が異常で、しかも加害者が女子児童ということ
で、誰もが最初は報道そのものを疑ったのではないでしょうか?
 幼い娘を亡くしてしまった父親・御手洗さんの心情は、察して余りある
ものがあります。私にも4歳の娘がおり、娘がいない世界などは想像する
ことさえできません。どうか一刻も早く絶望の淵から立ち直っていただく
ことを祈るばかりです。

 加害者の少女は、小説「バトル・ロワイヤル」を愛読し、インターネッ
トでHPをつくり、チャットを楽しむ能力を持った児童であるそうです。
「バトル・ロワイヤル」を真似た自作の小説も書いていたということです
から、普通であれば才能豊かな子供だったのかもしれません。
 小学生時代の子供というのは、本来は正義感が強く、人や動物に対して
やさしい心を持っているものです。たしかに「子供の残虐性」という面が
あり、小動物を殺して遊ぶこともありますが、それはごく部分的な側面で
しかありません。
 それを前提として考えると、加害者の少女の心はどういうふうに闇に閉
ざされていったのでしょうか?
こういう悲劇を二度と起こさないために、我々大人は深刻に受け止め、熟
考すべきだと思います。
 特に子を持つ親としては、自分の子供が被害者にも加害者にもなってほ
しくありません。知らず知らずのうちに、子供たちを傷つけていないか?
闇の世界へ追い込んでいないか?大人は自分自身に問い返してみるべきだ
と思います。

 被害者や加害者の子供たちがインターネットを駆使していたとすれば、
ひょっとして我々のHPを覗いたことがあるかもしれません。私は小学生
を閲覧対象に考えたことがありませんでした。そんなことを考えていたら、
前号で書いたように、インターネットで子供たちの自己表現を助ける文章
教室が、やはり必要だなと思いました。
 ある週刊誌で「子供からインターネットを取り上げろ」という記事があ
りました。子供が無制限にインターネットにアクセスする状況には、私も
反対です。野放しというのは、教育放棄でもあります。
 口から発する言葉よりも、文字のほうが相手を何倍も傷つけるし、憎悪
は何倍にも増幅されます。大人でさえ文章で正確に自分の気持ちを伝える
ことはむずかしく、軋轢があったときの解決が大変なのに、子供たちだけ
でインターネット・コミュニティをうまく運営できるとは思えないからで
す。

 しかし、子供からインターネットのすべてを取り上げることは不可能で
しょう。それならば上手に活用できる方法はないか、模索してみたいと思
います。
 幸いなことに私は教師ではありませんから、学校教育体制から離れたと
ころで子供たちを見ることができます。教師の立場からの評価に制約され
ません。
 我々のHPに「小中学生のための文章教室」というコーナーを設け、そ
こで初歩から表現力をつけていく方法を教えたいと思います。創設は今月
末あたりを考えています。
 そこでは長所を伸ばすことに重点を置きます。短所を直してこじんまり
とまとまるよりも、先に長所をどんどん伸ばしていくことが大切です。
 もし自分の書いた作文や小説を読んでほしいという小中学生がいたら、
HP上で添削したいと思います(すべて無料です)。乞うご期待。
(メルマガでは今回のみの紹介です)。
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●不定期連載● 有名作家はどうやってプロになったか 上山明彦
      人間の生と信仰の意味を問い続けた作家−−遠藤周作(1)
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 今回からしばらく遠藤周作について書いてみることにした。純文学作家、
「ぐうたらシリーズ」の狐狸庵先生、素人劇団「樹座」(きざ)座長とい
う様々な顔を持つこの大作家のことをまとめるというのは、ちょっと無謀
かもしれない。
 1996年に亡くなったが、氏を慕うファンの声は消えることがない。私が
未熟なコラムを書いてしまうと、ファンの怒りを買うかもしれない。
 そういう危惧があっても、やはり遠藤周作について書かずにはいられな
い。もの書きをめざす人間にとっては、絶対学んでおくべき作家だからだ。
私は遠藤文学のほんの入り口しか紹介できないことを自覚しているが、そ
れでも読者の皆さんが、遠藤文学をさらに深く追求していこうという気に
なってもらえれば、それだけでも価値があると思う。
 あらかじめことわっておくが、遠藤周作はカソリック教徒である。氏の
文学は基本的にキリスト教をテーマに書かれている。そこに拒否反応を示
す人がいるかもしれない。
 私はキリスト教徒ではない。「宗教は何だ?」と聞かれれば、「仏教徒
だ」と答えるしかないが、熱心な信者ではない。実家は浄土真宗西本願寺
派の檀家だが、どちらかというと私は禅宗に惹かれる。
 そういう私が断言する。遠藤文学はキリスト教に関係ない人でも、十分
に感銘を受けるテーマを含んでいる。そのことについて、次回から本稿で
紹介していきたいと思う。
 私は高校時代、「海と毒薬」、「沈黙」、「おバカさん」、ぐうたらシ
リーズを読んだ。今思えば、当時は消化不良のままだったが、先の2冊で
強烈な衝撃を覚え、後の本では笑ったりうなずいたりした。まだ素直な時
代だったから、遠藤周作も狐狸庵先生も違和感なく受け取ることができた。
 年を取ってからようやく「沈黙」の意味がわかるようになった。若い時
は若いなりに、年を重ねれば重ねた分、その小説の味わいが変わってくる。
遠藤文学は、まさに本物の芸術作品だと思う。
 今回は最後にさらりと遠藤周作の年譜をたどっておくだけにとどめたい。
 参考文献はたくさんあるが、氏の作品以外では、次の3冊がおすすめだ。
「夫・遠藤周作を語る」、三浦朱門著、文藝春秋社刊。
「わが友 遠藤周作」、遠藤順子著、PHP研究所刊。
文藝別冊「遠藤周作」、河出書房新社刊。
<下記の年譜は文藝別冊を参考にしました>
1923(大正12)年3月 東京生まれ。二人兄弟の次男。
  父は銀行員、母は音楽家。
1926(昭和元)年 3歳。父の転勤で旧満州大連市に転居。
1933(昭和8)年 10歳。父母離婚。母親と共に帰国。
  西宮氏夙川に転居。
1935(昭和10)年 12歳。カトリック教会で洗礼を受ける。
1943(昭和18)年 20歳。慶応大学文学部入学。父の希望した医学部に入
  らなかったため勘当。カトリック学生寮に入寮。
1947(昭和22)年 24歳。「カトリック作家の問題」を「三田文学」に掲
  載。
1948(昭和23)年 25歳。三田文学の同人となる。
1950(昭和25)年 27歳。現代カトリック文学研究のためフランス留学。
1953(昭和28)年 30歳。フランスから帰国。母死去。前年に見つかった
  肺結核のため体調不良。
1955(昭和30)年 32歳。「白い人」で芥川賞受賞。
1956(昭和31)年 33歳。長男・龍之介誕生。
1957(昭和32)年 34歳。「海と毒薬」発表。高い評価を受ける。
1960(昭和35)年 37歳。肺結核再発のため入院。
1963(昭和38)年 40歳。「わたしが・棄てた・女」発表。
1965(昭和40)年 42歳。「狐狸庵閑話」を刊行。
1966(昭和41)年 43歳。「沈黙」を刊行。
1973(昭和48)年 50歳。「死海のほとり」刊行。
(これ以降の20年間は、周知の通り膨大な著書あり)
1993(平成5)年 70歳。「深い河」刊行。翌年英訳版も発行される。
1996(平成8)年 73歳。慶応大学病院で死去。
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●新連載● 乱読乱話  久和山武輝
       第7話 上司にはめぐまれないもの
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 サラリーマンをしていても、よい上司にはめぐまれないものである。
逆に上司から言わせると部下にはめぐまれないと、ぼやきが聞こえてく
るようである。毎日顔を会わせていても、めぐまれない上司と部下では
笑顔のない暗い職場となる。まわりのひとにもいい迷惑となる。公務員
であれば、二三年もすれば上司も替わるし、本人も異動があるので解決
の見通しがある。一般の企業では、異動願いなどを提出すれば一騒動と
なり、一生冷や飯食いの部署にまわされることもあるので、なかなか言
い出せないものがある。
 人間関係の問題は、もっとも人間的ではあるが、甘えの構造が原点に
あるように思う。まったく別人格のひとどうしが、そんなにうまくゆく
はずがない。血のつながった親子兄弟姉妹も、ある年齢や年代になると
なにかと問題が生ずるし、最悪の場合は近親憎悪となるケースも多い。
 偶然同じ職場で一緒になり、ひょんなことから盟友となることは楽し
いものである。村松友視「ヤスケンの海」幻冬舎刊は、多分実話に基づ
く小説だろう。実話と創作が織り交ぜてあるので、あれこれ想像できる
ところがおもしろい。著名な作家や出版人がぞくぞくと登場する。
 圧巻は大江健三郎事件である。詳細は省くが、当時すでに著名作家と
なっていた大江健三郎の一側面のエピソードとして興味深いものがある。
読んでいると好きになる作家もいるし、嫌いになる作家もいる。作家は
作品で評価すればいいのであるが、そうでもない感情が起きてしまう。
編集者の実態と本音がヤスケンを通して語られている。編集者経験のあ
る作家、村松友視だから書けたのだろう。作家をこころざすかたは、白
けることが多いだろう。
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 編集後記
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 会社ぐるみで車の欠陥を隠し続け、社長や重役の逮捕にまで進展し、
会社存亡の危機にまでエスカレートした三菱自動車グループ。誰もが、
「大企業の経営トップが、どうしてそんな愚かなことをしたの?」と疑
問を持ったはずだ。その明快な回答がここにある。『会社がなぜ消滅し
たか  山一証券役員たちの背信』(読売新聞社会部編著、新潮文庫)
を読むとよくわかる。役員たちが「犯罪」という自覚もなく、「赤信号
みんなで渡れば怖くない」式で企業犯罪に手を染めていく過程が克明に
描かれている。山一の場合も三菱自動車の場合も、先任者や上司に命令
されたから、あるいは身内の恥をさらしてはいけない、お家のためなら
汚い仕事をするのが使命、どこでも同じことをやっているといったサラ
リーマン根性が増幅していった結果だろう。もちろん企業ぐるみの犯罪
の場合、程度の差こそあれ、逮捕者の数倍の幹部社員が事件に関わって
いなければ実行できなかったはずだ。司馬遼太郎はこういうサラリーマ
ンのことを「上司に魂を売り渡している人」と表現している。会社から
報酬をもらうのだから労働を提供するのは義務だが、犯罪に協力する必
要はない。もの書きの立場からは小説の題材になるが、悪習が一刻も早
くなくなることを願って小説に仕立てたいものだ。(かみのやま)
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 編集発行人:上山明彦
 発 行 所:出版人コム
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