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       〜言葉を風にのせて〜   高安ミツ子

 2月号 VOL34
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お待たせ致しました。dd
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Wind Letterは言葉を紡ぐ楽しさを詩や随筆で送ります。
私の言葉の風を受けとめてくださいますか。
あなたの心の窓を開けてくださいますか。風の手紙があなたと
私の夢をつないでくれますように。
それでは、どうぞ今月のWind Lettrをお楽しみください。

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○●作者紹介●○
名前:高安ミツ子(たかやす みつこ)
日本ペンクラブ会員
日本詩人クラブ会員
千葉県詩人クラブ理事
詩誌「玄」[White Letter」同人

 


                    


                    こむぎのワルツ               

                                          
高安ミツ子                 


ぼくは子犬である

生まれはわからないがK研究所の庭園に捨てられていたのだ

ひもじくて さびしくて わけがわからなくて

兄弟三匹で泣いていた記憶がある


三匹のうち一番ちびのぼくは他の兄弟にいじめられて

尻尾をかまれさびしかったので

ママのにおいに似ていたのだろうか

沈丁花の香りがする青年の後を絶えず追いかけていたのである

そのK研究所の青年こそ

ぼくの主(あるじ)となったのである


やがて兄弟は他の人に連れられていったようであるが

ぼくの傷ついたしっぽは腫れたままであった

ある時 主はぼくを医者につれていってくれた

ぼくはそれ以来さびしさが消えていった

そのときから主の匂いがぼくの記憶になって全身を包んだのである


今もって噛み付かれた後遺症でしっぽの毛はふぞろいであるが

小麦色の毛色をしたぼくを主は「こむぎ」と命名したようだ

ぼくは全身小麦色に覆われた「こむぎ」である


主が勤めにいっている間

主の部屋での遊び道具はティシュ箱がである

ティシュを摘んではじゃれあっていると

部屋は雪景色のように白く広がり

ぼくは木漏れ日に戯れるように

ワルツを踊るのである

もちろん踊るぼくの姿を主は見たことがないが

残骸のようになった部屋を見るとため息をついている


ぼくの祖先もこんなに人が好きだったのだろうか

いつも主とぼくは二人ぼっちである


ぼくはときどき主の寂しさを拾って食べてやり

朝寝坊の主の顔をなめまわしては起こすのです

主はうるさそうなポーズをとるがぼくをかわいがってくれるのである

どうも主は人間界の女性たちのわがままに平衡しているらしく

感情を素直に表現できるぼくが好きなようである


先日主の実家に帰ったところ

老夫婦が喜んで迎えてくれたがそこにも

主と同じ寂しさがたくさん落ちていて

ぼくは拾いきれなと感じた

帰り際老婦人がぼくに餌代と言ってお足をくれた

主は「こむぎ  おれいを」といったので

ぼくは「クン」と鳴いた


きっと先祖の犬族は人の寂しさを一杯拾ってやったから

人たちは微笑むのだろうか

そういえば主の実家に仏壇があったが

先代の犬に頭を下げるのを忘れてしまった


ぼくは自分の顔は分からないが

漏れ聞くところによると主に似ているらしい

ぼくは主の落とす寂しさを拾い

二人ぼっちのコミュニュケイションを取るのに手一杯の毎日である


そして今日もまたぼくは「こむぎのワルツ」を踊るのである