メルマガ:ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア(ハーレム)
タイトル:NYBCT#171/NYCマラソンinハーレム  2003/11/05


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          New York Black Culture Trivia #171
     ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア

     ニューヨークシティ・マラソンの日 in ハーレム

             2003/11/02
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 11月1日の日曜日は、毎年恒例の名物行事ニューヨークシティ・マラ
ソンの日だった。ハーレムも全長42.195kmのマラソン・ルートに入っ
ていて、何万人ものランナーたちがハーレムの中の5番街を南下してい
く。ハーレムにこんなに大量の白人がやってくるのは、おそらく1年で
この日だけだろう。


 今年は特に天気が良くて気温も高く、沿道ではハーレムの人々が三々
五々集まりマラソンを見物していた。その様子はいかにもハーレムらし
く、ゆったりのんびりしたものだ。人出はほどほどで、歩道に座っても
充分に見物できるし、気が向けば見知らぬランナーに向かっても「イ
エッ〜!!」の声を上げる。おまけに歩道には、オレンジ色のガウンを
まとった15人編成のゴスペル・クワイアや、平均年齢55歳以上と思われ
るゴスペル・バンドもいて、それぞれが楽しそうに歌ったり演奏したり
している。応援のためというよりは、自分たちの楽しみのためという感
じもするが。

           ・・・・・

 今回のマラソンでは、ヒップホップ界の大物プロデューサーであり、
ストリートファッション・ブランド「ショーン・ジョン」の経営者でも
あるP・ディディの参加がひとつの話題だった。本人がハーフ・マラソ
ンを走ることによって、一般市民に教育機関への寄付を呼びかけるとい
うものだ。(100万ドルを目標としていたが、最終的には200万ドル集
まったそうだ。)


 P・ディディ本人によると、今回のチャリティー・マラソンを行った
理由は、「自分が属するショービジネス界にはフェイク(まやかし)が
多いけれど、子どもたちはリアル(本物、現実)だから」ということら
しい。ところで先週だったか、南米にある「ショーン・ジョン」の縫製
工場の女性工員がはるばるニューヨークまでやってきて来て、「私たち
はスウェット・ショップ(極端に劣悪な環境と低賃金の工場)で働かさ
れている」と訴えていた。抗議運動を起こされることを知って、なにか
しらのイメージアップを図ろうとしてマラソンに参加したのではない
か、というのは穿ちすぎ?


 P・ディディが以前から子どもの支援団体を持っていることは事実だ
けれど、以前、意見の相違があったレコード会社の重役をイスで殴り倒
したことや、タイムズスクエアのクラブで発砲事件を起こしたことも事
実だ。この、ハーレム出身のヒップホップ・アイコンについては、その
うちに改めて書きたいと思う。

            ・・・・・

 そこら中に貼られた「ディディがシティを走る!」というポスターを
眺めながらマラソン・ルートの5番街を歩いていると、見物人の一人か
ら声を掛けられた。見ると、知人のGだ。歩道と車道の境に座ってマラ
ソン見物をしている。Gは30代の男性で、一時、ハーレムの恋人の家に
移り住み、恋人の息子も含めた3人で暮らしていた。けれどその後、恋
人と別れてサウスブロンクスの母親の家に戻ったと聞いていた。


 なのに今日、Gの隣に座っていたのはハーレムの恋人だった。美人で
朗らかで、なにより頭が良く、ダウンタウンで堅実な仕事に就いている
女性。久し振りに見た彼女の息子はもう13歳になっていた。以前は小太
りだったのに、スポーツでも始めたのか良い具合にやせて、以前の冴え
ないアフロヘアもコーンロウになっていた。この少年も母親譲りのおだ
やかな性格で、この日も私を見ると「久しぶりだね」と、以前と変わら
ない笑顔でハグをしてくれた。私より背が高くなっていた。


 Gは昔、ラッパーとして一時的に成功したことがいまだに忘れられ
ず、過去の業績をなんとか“ビジネス”につなげようと四苦八苦してい
る。けれど、肝心のラップはもう止めてしまったようだ

 その気になれば、どんな男性とでも付き合える美人で頭の良い恋人
は、なぜかGと寄りを戻したようだ。(*)大人のしていることが理解で
きる年齢となった彼女の息子は、自分の母親とGの関係や、自分の家に
男がやってきて住み付き、一度出ていき、そして戻ってきたことを、一
体どう思っているのだろう。3人は、まるで本物の親子のように楽しそ
うにマラソン見物をしていたけれど。

*アメリカ、特に黒人社会にはシングルマザーが多いので、男性は付き合
う相手が子持ちであることをさほど気にしない

            ・・・・・

 3人と別れてから友人のアパートに向かって歩いていると、タヤーナ
にばったりと出会った。タヤーナは昨年、25歳で初めての子どもを生ん
だ。ハーレムでは当たり前のことだけれど、シングル・マザーだ。子ど
もの父親とは妊娠初期に別れており、出産時には自分の母親と暮らして
いた。けれど母親のアパートは狭く、出産後しばらくしてニューヨーク
州北部で広い家に住む親戚の家に赤ん坊と一緒に移っていった。それま
でアルバイト程度の仕事しかしたことのなかったタヤーナにとっては住
居スペースこそが最も重要な問題で、仕事は引越してから探せばいい
や、ということだったようだ。けれど、タヤーナはいつの間にかハーレ
ムに戻ってきていたのだ。最初はまた母親と同居し、今はどこか別のア
パートに住んでいるらしい。


 道での立ち話にもかかわらず、タヤーナはバッグから赤ん坊の写真を
数枚取り出し、私に見せ始めた。妊娠する前はショートカットの髪を真
紅やグリーンに染めていたタヤーナだけれど、今ではすっかり良い母親
だ。「ほら、大きくなったでしょ」「その写真、あげるわ」と、1歳を
越えた息子が自慢で仕方ない様子だった。

            ・・・・・

 日が暮れてから自宅に戻ったら、同じアパートの向かいのジャクソン
家から、母親が子どもを叱っている声が聞こえてきた。「お母さんの言
うこと、分かった!?」
 このジャクソン家は、警察勤務の父親、専業主婦の母親、小学生の息
子がふたりという、絵に描いたような「標準的な家庭」だ。けれどアメ
リカの黒人の子どものうち、結婚している両親と暮らしているのは、全
体の39%に過ぎない。そういえば、P・ディディもシングル・マザーに
育てられていたっけ。


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            お知らせ

●NY地下鉄ブルーズ・ライヴ王こと、テッド・ウィリアムズのサイ
ト・アドレスが変わりました。ライヴ・スケジュールもあるよ。
http://home.earthlink.net/bluested/


●ハーレム・黒人史・黒人文化を撮り続けているドキュメンタリー・
フィルム作家ビル・マイルズ氏のウエブサイトがオープンしました。
フィルム、写真をメディアへ貸し出ししています。
http://home.earthlink.net/milesef/

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●連載エッセイ「NYエスニック事情」
  11/5号は「ジャマイカ系コミュニティ」の巻
 (ジャマイカンはみんなラスタ? そんなワケないでしょ!)

  在米邦人向け雑誌 U.S. FrontLine 毎月5日号掲載  
  ※東京の有隣堂書店・各支店でも販売開始
   http://www.nybct.com/8-profile_yurindo.html

※入手希望の方は有隣堂もしくは以下に問い合せてみてください
  U.S. FrontLine News Inc.
  http://www.usfl.com
  toiawase@usfl.com(日本語)


●連載エッセイ「125th Street, Harlem」
    ファッション雑誌 LUIRE(ルイール)
    リットーミュージック刊 毎月26日発売
    12月号(10/26発売)
    「スパニッシュハーレム〜サウスブロンクス」
    (ラティーノと黒人とヒップホップの関係とは!?)

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●ホームページに新しいコーナーを作りました
    こちらには
    ハーレムの日常、ニューヨーク事情、
    ブラックカルチャー以外のエスニック事情、
    英語や日本語にまつわる考察
    などを軽く書いています。時々のぞいてみてください。
    http://www.nybct.com → 「日々の考察」コーナー


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    面白いサイトが見つかるかも。
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