メルマガ:ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア(ハーレム)
タイトル:NYBCT#169/デンゼル最新作  2003/10/06


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          New York Black Culture Trivia #169
     ニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア

            ハーレム 先週の徒然3

             2003/10/06
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            タイガー in ハーレム


 NYPD(ニューヨーク市警)の長官は「こんなことはニューヨークでし
か起こらない」と言ったけれど、「ハーレムでしか起こらない」の間違
いでしょ。


 土曜日の午後、141丁目のプロジェクト(低所得者用公共アパート)
の一室で、トラが発見されたのだ。トラ。本物の、生きている虎。タイ
ガー。


 ここに住んでいた男は、おそらく100世帯は入っているであろう高層
アパートの5階で、何食わぬ顔をしてトラを飼っていたのだ、ペットと
して。ところが3日前に自分が脚と腕を噛まれてしまい、病院へ。そん
な事情でトラの世話を怠ったのだろう、階下の部屋の天井から大量のト
ラのおしっこが染みだし、ワケのわからない匂いも漂いだした。


 通報により駆けつけた警官は屋上から宙づりになって、5階の窓へ。
だってドアを開けたりしたら、トラが飛び出して逃げ出してしまう可能
性もある。もしそうなっていたら、私のアパートはトラの脚(?)な
ら、おそらく5分もかからない距離。ハーレムを走り抜けるトラと道で
すれ違っていたかも、だ。


 警官は宙づりのまま、窓に向かって吠えるトラに催眠弾を打ち込み、
捕り物は無事終了。(プロジェクトは高層建築だけど安普請だからベラ
ンダがない。警官って大変な仕事だ。) アパートの住人も含めて、見
物人はみんな楽しそうだった。ちなみに別室では、かなり大きなワニも
発見された。飼い主は一体、何を考えていたのか?


 この男、低所得者住宅には住んでいたけれど、かなりのお金を持って
いるに違いない。そもそもトラなんて正規ルートでは買えないから、闇
で相当の金額を払ったはず。しかも、大きくなったトラは毎日ものすご
い量の肉を食べる。男の職業はなんなのだろう? 噛まれたあと、当然
の逮捕を恐れてフィラデルフィアまで逃げた男は結局捕まったけれど、
詳細はまだ報じられていない。続報を待つ。
 

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            ママ in ハーレム


 あのゴスペル・ミュージカルのヒット作「ママ、アイ・ウォント・
トゥ・シング」の20周年記念公演をハーレムの教会で観た。


 ストーリーの舞台となるのは1940〜50年代のハーレム。牧師の娘と
して生まれたドリスは、父の愛を一身に受け、音楽に囲まれて育つ。と
ころがドリスがまだ幼いうちに父は急逝、一時はゴスペルを歌うことす
ら出来なくなったドリス。しかしティーンエイジャーとなったドリスは
ジャズやソウルに夢中になる。アポロ劇場のアマチュアナイトで優勝し
たドリスはプロのシンガーを夢見るが、それを許さない母親とケンカを
して家を出てしまう。やがてドリスはシンガーとして成功するが、神に
仕え、地域の人々に奉仕した父の教えは身体の中に染みこんでいた。ド
リスも貧しい人々や若者のための活動を行うようになり、そして最後は
牧師となり、生まれ育ったハーレムの教会へと戻ってくるのだった。


 シンプルなストーリーなので、歌詞やセリフが分からなくても十分に
楽しめる。私の隣に座っていた(というより父親のヒザの上で遊んでい
た)3歳くらいの女の子も、ハイライトシーンではクワイアの振り付け
を真似して踊っていた。このテーマ曲ではドリス役がマライア・キャ
リーばりのハイトーンを張り上げるのだけれど、女の子は、なんと、そ
れも真似して「haaaaa....」と歌っていたのだ。曲のエンディングでは
バンドは演奏を止め、主役のハイトーン・ボイスだけが劇場に響き渡る
…はずだったのだけれど、そこでも女の子は歌ってしまい、慌てた両親
が「これっ!」「しっー!」「止めなさい!」と押し殺した声で叱る場
面もあった。


 正直なところ、主役ドリスを努めたノール・ヒギンセンは、やや力量
不足。けれどママ役(リジューン・トンプソン)と、シスター・キャ
リー役(キャスリーン・マーフィー・ジャクソン)のふたりが良かっ
た。シスター・キャリーは上品だけれど物わかりのいいレディという
キャラクターで、マーフィー・ジャクソンの歌い方ものびやか。華やか
なチャーチ・ドレスも楽しかった。ママ役のトンプソンは、ブルースっ
ぽい味わいのある、ダウンアンダーな歌い方が魅力的。私は彼女がもっ
とも気に入った。


 劇中、往年の大歌手4人、ダイナ・ワシントン、リナ・ホーン、ビ
リー・ホリデイ、サラ・ヴォーンが出てくる。言うまでもないけれど本
物じゃないです、全員他界済み。クワイアのメンバーがそれっぽい衣装
を着て、なりすまして歌うのだけれど、これって失敗か。ビリー・ホリ
デイになれる歌手なんて、いるはずもないので。それでも敢えてチャレ
ンジするならクワイアのお姉さん、せめてメガネは外して出てくるべき
だった。

Mama, I want to sing in Harlem 
http://www.nybct.com/2-133-mama.html


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           デンゼル in ハーレム


 デンゼル・ワシントンの新作「アウト・オブ・タイム」を、ハーレム
のマジック・ジョンソン・シアターで観た。タイトルを訳せば「時間切
れ」で、主人公がギリギリと追い詰められていくスリラーだ。


 デンゼルは、フロリダの小さな海沿いの町の警察署長を演じている。
大した事件も起こらない田舎で、警官の制服は白いポロシャツにバ
ミューダパンツ(?)だったりするけれど、人柄の良さから町では信望
がある。殺人課の刑事である妻(エヴァ・メンデス)とは離婚寸前だけ
れど、魅力的な人妻(サナ・ラーサン)とちゃっかり不倫もしてるし、
まあ、満足のいく日々を送っている。しかし、その不倫相手を本気で愛
してしまったことから、超えてはいけない一線を越えてしまう。そし
て、ある事件が起こり、そこからデンゼルは、大阪弁でいうところの
「どつぼ」に、どんどんハマっていってしまうのだった。


 その「事件」の内容は伏せるけれど、要はデンゼルがその犯人に仕立
て上げられてしまうのだ。(よくある話。) 警察署長として捜査の指
揮を取りながら、やり手刑事の妻が自分を犯人として特定しそうになる
たびに、きわどく捜査を混乱させる。と同時に自身で真犯人を追ってい
く。「おぉ!デンゼル危機一髪!」なシーンの連続なので、結構どきど
きする。


 とはいえプロットの甘いところもあり、スリラーとしては、まあ、普
通の出来かもしれないけれど、見所はなんといってもデンゼルの演技。
マズい瞬間の取り繕った表情や、目の泳がせ方が抜群にうまい。だから
スリラーなのに観客から「Denzel, you’re in deep shit!!」(デンゼル、
おまえはどうしようもないどつぼにハマってるぜ)といった感じの失笑
がもれる箇所が多々ある。(というか、ハーレムの映画館なので、どん
な作品でも観客は黙って観ているわけではなく、相当うるさい。)


 デンゼルの妻を演じているのはエヴァ・メンデス。デンゼルがアカデ
ミー賞を取った「トレーニング・デイ」でもデンゼルの愛人を演じてい
た、ラティーノ版シンディ・クロフォードな顔立ちの女優さん。今こち
らではロバート・ロドリゲス監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イ
ン・メキシコ」にも出ていて絶好調。(それにしても、警察署長の妻が
殺人課の刑事という設定はいかがなものか?)


 「ラヴ&バスケットボール」「ブラウンシュガー」など、これまで優
等生役が多かったサナ・ラーサンも浮気人妻で新境地にチャレンジ。彼
女の夫を演じていたのは、TV版「スーパーマン」のディーン・ケイン。


 ということで、この作品、主人公は黒人の警察署長で、その妻はラ
ティーノ刑事。主人公の浮気相手は黒人女性だけれど、その夫は白人。
ついでにデンゼルと一番親しい部下(というか親友)は白人刑事。


 けれど、この作品に人種/エスニックにまつわるエピソードはまった
く出てこない。「人種/エスニックの融和は当たり前」を前提として話
が成り立っているのだ。でも、それは映画ならではの世界で、例えば、
自分の妻を黒人男性に寝取られた白人男性の胸中など、特別なものがあ
るに違いない。


 実は一ヶ所だけ、犯人を見た白人のおばあさんが、黒人は全員同じに
見えて犯人を特定できない、というシーンがある。人は他人種の顔を見
分けにくいというのは事実で、現実にはこのエピソードとは逆に、無実
の黒人が非黒人の証人によって名指しされる悲劇的なケースもあるよう
だ。

 とりあえず、観てソンする作品ではないです。

映画公式サイト:http://www.outoftimemovie.com/


*You are in deep shit. = 「とてもマズい状況にある」=「どつぼにハ
マっている」 女性や外国人が使うことはお勧めできないけれど、この
言い回しが妙にぴったりする、または他に言い表しようのない状況とい
うものが、確かにある。うん。

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※ホームページの「リンク」のコーナーに、たくさんのサイトを追加し
ました。面白いサイトが見つかるかもしれません。チェックしてみてく
ださい。
http://www.nybct.com/10-link.html

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             お知らせ

●ハーレム・黒人史・黒人文化を撮り続けているドキュメンタリー・
フィルム作家ビル・マイルズ氏のウエブサイトがオープンしました。
フィルム、写真をメディアへ貸し出ししています。
http://members.aol.com/milesef/


●連載エッセイ「NYエスニック事情」
  10/5号は「ギリシャ系コミュニティ」の巻
 (映画「マイ・ビッグ・ファット・ウェディング」の世界は真実?)

  在米邦人向け雑誌 U.S. FrontLine 毎月5日号掲載  
  ※東京の有隣堂書店・各支店でも販売開始
   http://www.nybct.com/8-profile_yurindo.html

※入手希望の方は有隣堂もしくは以下に問い合せてみてください
  U.S. FrontLine News Inc.
  http://www.usfl.com
  toiawase@usfl.com(日本語)


●連載エッセイ「125th Street, Harlem」
    ファッション雑誌 LUIRE(ルイール)
    リットーミュージック刊 毎月26日発売
    11月号(9/26発売)「ビッグママにダイエットを!」
    (黒人は太りすぎという伝説は本当なのか?)

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●ホームページに新しいコーナーを作りました
    こちらには
    ハーレムの日常、ニューヨーク事情、
    ブラックカルチャー以外のエスニック事情、
    英語や日本語にまつわる考察
    などを軽く書いています。時々のぞいてみてください。
    http://www.nybct.com → <日々の考察>コーナー

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発行人:堂本かおる Keideee@aol.com
バックナンバーはホームページで http://www.nybct.com
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