メルマガ:風からの便り。
タイトル:風からの便り。No.8  2003/08/10


2003/07/14    -水月-  since2003〜

  戦争と平和      風からの便り。 No.8

       ユダの林檎

 ユダは目を覚ました。
 ユダは過去を思い出そうとしても、何も思い出すことが出来なかった。
記憶はユダを振り切るかのように、思い出させてはくれない。
ユダが目を覚ました場所は家も布団もない。
乾いて生気を失ったからからの土の上に寝ていた。
遠くには、枯れ果てて、色彩を失った林檎の森が残っていた。
森とも呼べない代物だ。
生き物と呼べるものもなかったし、大地そのものが死んでいた。
今がいつなのか。。。どこなのか。。。そんなことはわからない。
今より前はなく、今より後もなく、地図もなく、何もない。

 ただ、今があるだけだ。

 見渡す限り、荒涼とした大地がどこまでも続いていた。
生き物の存在しない世界がどこまでも続いていた。
どんよりと曇ったグレーな雲はユダの世界を包み込み、
優しく、生気を帯びた温かい太陽の一筋の光さえも遮断していた。
埃も風も消え去った世界。静かで色彩を失った世界。
時間も音もない世界があたりを包み込む。
時間と空間の座標軸の先端にある風景が360度広がっている。

 最後の風景。

 ユダの足元には、たくさんの頭蓋骨が転がっていた。
ユダ以外に生き物は存在しない世界。
争うこと、戦争、憎みあうこと、そのなれの果て。。。争うことも戦争も憎みあうこともなくなった。本当の平和な世界が訪れた。ユダの存在を確かめてくれる人もいない。ユダの名前を呼んでくれる人もいない。ユダの存在は無に帰していく。

 平穏で平和な世界。


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