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2003/07/14 -水月- since2003〜 戦争と平和 風からの便り。 No.8 ユダの林檎 ユダは目を覚ました。 ユダは過去を思い出そうとしても、何も思い出すことが出来なかった。 記憶はユダを振り切るかのように、思い出させてはくれない。 ユダが目を覚ました場所は家も布団もない。 乾いて生気を失ったからからの土の上に寝ていた。 遠くには、枯れ果てて、色彩を失った林檎の森が残っていた。 森とも呼べない代物だ。 生き物と呼べるものもなかったし、大地そのものが死んでいた。 今がいつなのか。。。どこなのか。。。そんなことはわからない。 今より前はなく、今より後もなく、地図もなく、何もない。 ただ、今があるだけだ。 見渡す限り、荒涼とした大地がどこまでも続いていた。 生き物の存在しない世界がどこまでも続いていた。 どんよりと曇ったグレーな雲はユダの世界を包み込み、 優しく、生気を帯びた温かい太陽の一筋の光さえも遮断していた。 埃も風も消え去った世界。静かで色彩を失った世界。 時間も音もない世界があたりを包み込む。 時間と空間の座標軸の先端にある風景が360度広がっている。 最後の風景。 ユダの足元には、たくさんの頭蓋骨が転がっていた。 ユダ以外に生き物は存在しない世界。 争うこと、戦争、憎みあうこと、そのなれの果て。。。争うことも戦争も憎みあうこともなくなった。本当の平和な世界が訪れた。ユダの存在を確かめてくれる人もいない。ユダの名前を呼んでくれる人もいない。ユダの存在は無に帰していく。 平穏で平和な世界。 ご意見・ご要望はこちら mail:fugetsuletter@yahoo.co.jp 登録・解除はこちらから「水月ホームページ『I am Here...』」 http://freespace.kakiko.com/fugetsu |