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タイトル:風からの便り。No.3  2003/07/20


2003/07/19    -水月-  since2003〜

    北朝鮮(光)  -風からの便り。- No.3       

 僕は海の近くに住んでいる。
時々、犬の散歩をかねて、夕方ごろ海に出かける。
波打ち際の砂浜を歩いている。田舎の海にも近代化の波が押し寄せて、港の建設が着々と進んではいるが、まだまだ、散歩できる砂浜はある。何も見えない水平線の向こうを眺めながら、未だに行ったこともない未知の世界を想像する。海の向こうには、世界で最も大きいユーラシア大陸がある。朝鮮半島がある。かつて日本が占領した半島がある。

 朝鮮半島は二つの国に分かれている。
国際社会の荒波に揉まれて南北に引き裂かれた二つの国。銃口を構えた兵士の緊迫した顔を想像する。映画とは違う本物の緊迫と死を隣人にする兵士がいる。緊迫した静寂が辺りを包む。ハングル語を公用語にする民族。同じ歴史を持つ民族。北朝鮮人が韓国人を名乗っても、見分けのつかない目鼻立ちの人々が38度線を境に睨み合っている。日本は朝鮮戦争の恩恵で今日がある。半世紀を経て、二つの国はくっきりと明暗が分かれてしまった。貧困にあえぐ国と近代化で豊かになった国。38度線という分厚い壁を境に別世界が展開する。ちょうど、かつてのベルリンがそうであったように・・・。

 北朝鮮は、国際社会の中で孤立している。イラク同様、危険な国としてのレッテルを貼られている。国際社会は、北朝鮮の軍備を無力化しようとしている。ちょうど、イラクに対して行ったように・・・。大人が子供をあやすかのような手法で・・・。自分たちの正義や大儀、価値観や都合のために・・・。国家を子ども扱いしている・・・。国家の尊厳を踏みにじっている。国家が国家の尊厳を維持できないのは、経済的に不利な状況におかれているというただ一点だ。社会においての優劣は経済に起因する。経済的に豊かな家庭は、貧しい家庭よりも常に優位に立っている。社会的不利はいじめに発展する。学校においても、子供社会でも同じことだ。少しでも不利な状況に立てば、いじめが存在する。そこには、正義も大儀も価値観も人情も存在しない。理不尽と生存競争が存在する。国際社会においても同じことだ。北朝鮮やイラクはのびた君に相当する。

 映画『シュリ』の中で、北朝鮮スパイの女性と韓国警察の男性が恋に落ちる。もちろんスパイ活動のために、韓国警察を誘惑するのだが・・・。しかし、本当の恋に落ちていく。休日は恋人、仕事は敵同士・・・。戦争映画と恋愛映画が溶け合った映画。

 国家のためなら、自爆テロも辞さないスパイ・・・。
 冷徹に任務を遂行するスパイ・・・。
 機械のような心を持つスパイ・・・。
 感情を失ったスパイ・・・。
 非人道的な女がそこにいた・・・。

 映画のラストシーンで二重人格とも言えるような女性のスパイとしての顔と女としての顔が浮き彫りになる。自分の背負っているしがらみから離れれば、どんな人でも人間らしさを持っているのだと思う。どんな人でも・・・。自爆テロを行う人、残忍な殺人犯、感情を失った兵士、どんな人でも・・・。民族、価値観、正義、世代、国、地域、見えない大きな壁を越えて・・・どんな人の心にも共通して存在するもの・・・。

 子供の笑顔が嫌いな人はいない。
 どんな世界でも変わらない・・・。
 何もかもを超えている価値観。
 子供の笑顔を見たときに誰もが人間らしさを取り戻す。

 きっと海の向こうの他国からいじめにあっている北朝鮮に住む人も、イラクに住む人も、テロや戦争に参加している人も僕たちと同じ人間なのだと思う。戦争を起こす感覚、任務を遂行する鉄の意志、死に向かって歩む自爆テロ・・・僕たち日本人には到底理解できないだろう。
 海を見ながらそんなことを考えている。全てに降り注ぐ温かく、優しい太陽は、
いつの間にか海の向こうの半島に沈んでいく。

 僕は海の向こうの貧困にあえぐ国で、無邪気に笑う子供を想像する。


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