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別世界(4)
「あの娘の本名は{右の前に立つ、火と草のミリア}って言うの、
あまり武術は得意じゃないけど
まだ若いし器量良しの娘だからなんとかやっていけると思うわ
だから大事にしてやってね」
店を出る時、マスターが神妙な面持ちでカシスに耳打ちした
「は?」
ここに来たばかりの彼にとって、この社会のルールはまだ
知らない、ましてや本名を知る事の意味など、
その事を案内役のトマスに言うと、少しおどけてみせて
「そりゃあ、大変な事に成りましたねえ、本名を知ると言う事は
婚姻と同じ事、否それ以上なんですよ」
「はあ?」
急に眩暈と血の気が引いて
脱力状態になった様にその場に座りこんでしまった
「お、俺はこんな中途半端な所で一生を終わらせたくない
もっと何かできるはずだ、もっと何か手に入れれるはずだ
もっと何か違う生き方が出来るはずだ、もっと何か・・・」
そこで言葉につまり、少しどうどう巡りをした後諦めてしまった
「ふう」と大きくため息を付いて頭をさげる
少ししてから、ふと気づくと不思議そうな顔をしながら、
後ろから覆い被さる様にミリアが抱きついていた
「ん?」
彼女のそのあっけらかんとした態度に拍子抜けして
「いや、何でも無い」と答えるのが精一杯の自分
{俺は何を怒っているんだ?恥ずかしい、
この娘は可愛い否きっと美形になる、
最初からいきなり幸運じゃあないか、何を焦っていたんだ?俺は}
さっきの言動が急に恥ずかしくなり少し照れ笑いをした
彼女の肌の温もりと柔らかさが心地良かった
風が心地良く顔を撫でて行く、
ミリアが耳元で囁いた
「私の本名は何?」
誰にも聞こえない様に、押し殺した様に低く
そして彼女はおもむろに耳を軽く噛んだ


2003/07/17/アダルタスファクトリーズ