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タイトル:[M4 Action! 13]「動画共有は日本人に必要か」  2006/08/09


通巻85号 2006.8.9発行


                  M4 Action!
                「動画共有は日本人に必要か」

 YouTubeを知っているだろうか。たぶん、知らなくても当分生きていけると思うのだが、実は私が取引先の社長に教えられて知ったのは、この夏前ぐらいのことだ。最近では、例の吉本の芸人の件で、とある日本のテレビ番組の映像がYouTubeにアップされてしまい、史上最大のアクセス数を記録したことで、ニュースでも著作権侵害として取り上げられたりしていた。そして、成功と言えるのか、このYouTubeのビジネスモデルを模倣したモデルが日本でもいくつも出てきている。現在までのところ、YouTubeには表立って映像に広告などはついていないし、日本からのアクセスが多いと聞くが、その日本人向けの広告なども掲載されていないのにだ。

 私は、1997年に当時のベッコアメ・インターネットが衛星回線を使ったインターネット接続サービスをするのに合わせて、BTVというインターネット放送局を立ち上げたことがある。確かISDNが全盛の時代で、みんな23時になるとテレホーダイに接続し、ナローバンドでVDO Liveを使って番組を見てもらった。途中、どんなに配信側が高速であっても、末端がナローバンドでは満足に映像を見てもらうことができず、映像配信事業としては今考えればひどい有様だった。それでも、先進的なユーザーが集まり、映像を見ながら、チャットをしたりするのがひとつのスタイルになっていた。

 あれから10年。当時から継続して残っているインターネット放送局は皆無といってもよい。残っているとすれば、あの時代にネット映像配信のパイオニアとしてインフラを担っていたJストリームぐらいであろう。Jストリームはめでたくマザーズに上場し、今も事業を継続している。

 私が生き残るために選択したのは、スカパーとの融合だった。スカパーのチャンネルに番組を販売したり、提供番組をスカパーで放送し、それをネット配信するというスタイルだった。これはこれでなんとかなったが、スカパーは当時100万人。うまくすれば、儲かったのかも知れないが、自分でチャンネルを持っていたわけではなく、枠を借りて番組を維持していくのはなかなか辛いことだった。有名なメールマガジンに連載を持たせて頂くなど、当時はそれなりに先進的であったのにも関わらず、環境はその継続を許さなかった。

 私のように、コンテンツを作りたい人はたくさんいる。何も万人向けのコンテンツを作りたいというわけではないが、この多様化している世相の中で、一部の人でもいいから共有したい思いや趣味、こだわりなどがあるものだ。それは私のようにプロフェッショナルになりきれていない者だけでなく、北野武や大島渚など多くの日本の映画監督は、映画を作るために他の仕事をして、そのお金を映画に注ぎ込むというビジネスモデルを取ってきた。今や大監督といえども、そのような形でしか思いを伝えられない日本って一体何であろうか。あの爆笑問題の太田光も映画を撮りたいと聞く。人が人に伝えたいコミュニケーションの延長線上に映画は存在しているのではないか。しかし、ヒットする邦画はすべてテレビ局が介在し、リスクを分散して、配給される。映画はビジネスとして捉えれば常に冒険であって、アートではなくなってきたのではないか。

 そんな、YouTubeを私に教えてくれた取引先の社長は、昨年、PodTVというpodcastを使った世界初のiPod向けテレビ局を開局した。podcastの世界というのは、10年前からすると、すごくクリエイター寄りのしくみに思えてならない。誰でも簡単に世界へ向けて映像を配信できる。もともとはアップルのiPodに大容量ハードディスクが搭載され、携帯より少し大きな画面がついたところから動画のpodcastは始まったのだが、日本は世界有数のブロードバンド大国。Winnyなどの違法コンテンツ交換が流行るほどに、動画を扱うためのインフラは整っている。だから、動画共有なのかも知れないが、私は単純にそうは考えられない。

 今、日本を席巻している動画のブームは、他人の作った映像をみんながフリーライドでブローカーしているに過ぎない。多くのクリエイターはまだ表に出てこないし、そんな違法動画と一緒に配信されたり、交換されたりすることを嫌がっているはずだ。日本人にはクリエイティビティがないとはとてもじゃないが思えないし、思いたくない。もちろん、私にとって、今の地上波テレビ番組は心の友だし、ドラマも映画も楽しく見させてもらっている。

 しかし、プロの世界は厳しい。参入障壁が高く、結果を求められる。実験や遊びは許されない。予算が決まっている。会社組織の人間になれば、独立していないクリエイターは会社に従わなければならず、仕事として制作を行う。仕事で作った映像は、友達の結婚式のために同じ人がタダで作った映像に劣るとさえ思える。プロの現場だけに本当のクリエイティブがあると私は信じたくない。真のクリエイターはまだたくさん控えていて、これからゾクゾクと出てくるのだと。

 そのために、私ができることは何か。クリエイターが自分の信じたもの、広めたいものを世に問うことができるプラットフォームだ。携帯でただ友達と撮った短い動画をプログのようにアップするのもいいだろう。しかし、電車男や鬼嫁日記はたまたま出てきたコンテンツであって、再現性はない。そこに大金を払う人がいるのは奇妙だが。CGMの延長線上に宝の山があると思うのは少し間違っていないか。動画はそう簡単に誰もがみんなが見られるものを作れる世界ではない。文章を書く事の数倍いや数十倍難しいのではないだろうか。日本の映像クリエイターのために地上波を凌駕するようなプラットフォームをpodcastという仕組みを通じて構築したいと思ってやまない。
                               (こくぶ ひろゆき http://lvsh.jp/)

■世界初のiPod向け専門テレビ局 PodTV
 http://podtv.jp


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