メルマガ:風のひとり言――マスコミの裏を読む
タイトル:「風のひとり言――マスコミの裏を読む」第40号  2004/04/09


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         「風のひとり言――マスコミの裏を読む」vol.40
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 春の陽気に誘われながら、しばらくフラフラと考え事などをと思っていたら、
イラクで日本人民間人3人誘拐という、とんでもないニュースが飛び込んでき
ました。昨日から、日本中がこの事件に釘付けになっています。

 コトここに至れば、小泉内閣は命運をかけて一つの“決断”をするしかない、
ということではないでしょうか。軽々には言えませんが、私は優れた人道支援
家である高遠、今井、郡山の3氏の立場をきちんと相手側に伝えること、グル
ープの要求を探ること、そして最終的には首相の判断が必要になるのだと、考
えています。3氏の無事を、とにかく祈ります。 

□■□ 「風のひとり言」その40□■□-----------------------------------
「日本の年金は破綻している!」
政府年金法案は単なる
ゴマカシですよ!

 4月初めに本格審議入りした年金法案は、小泉首相が図らずも一元化論を口
にしてしまったために混乱しましたが、今週からは民主党も対案を出すなど、
一応は議論が始まったようです。

 しかし、私たちにとっても非常に重要でかつ生活に直結するこの問題が、こ
れまである意味放っておかれたのは、とても不幸なことと言わざるを得ない。
なぜなら、「いまさらいじくったところで、殆どこの制度を軌道に乗せること
は不可能だろう」というのが実感だからです。年金の仕組みはとても複雑なの
で、一般の人は「もうもらえないんじゃないの」といったアキラメや「私たち
ぐらいまでは持つかなぁ」といった現実論が支配している。実は、そこが一番
の問題なのです。

 簡単に政府案を振り返っておきましょう。この法案では、保険料負担を20
17年の時点で18・30%(労使折半)で固定するため、現行の13・58
%を今年10月から0・354%ずつ引き上げていくとしています。もう一つ
の眼目は、議論の焦点だった現役給与の半分の維持するという目的のため、最
終的に50・3%の給付を受けられるとするものです。

 しかし、賢明な人なら誰でも分かることですが、これは議論が逆転している。
初めに結論アリキなのです。国民負担率を50%以内に抑える。また、給付率
も50%を割らないようにするための、数字合わせに過ぎない。18・30%
と5割の給付率は変えないといっているのですけど、原資が足りなくなったら
どうするとは言っていないわけです。

 今後も国庫負担は増大し続ける(団塊世代がこれから年金受給者になってい
きます)し、しかも少子高齢化の勢いだってさらに予想以上に進んでいく可能
性だってあるのです。

 一つだけマヤカシを示しておくと、政府は今回の推計にあたって将来人口予
想について、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計(2002年1月
推計)を使っています。それによると、出生率は2027年で1・31で下げ
止まり(現在は1・32)、2050年に1・39と反転、2100年には1
・73まで上がるとしている。一体、こんな数字を誰が信用するというんでし
ょうかね。下手をすると、さらに出生率が落ち込んでいくというのが、現実的
な感覚ではないでしょうか。つまりは、この法案は官僚の作文なのです。

今回の議論は15年前に
すべきだったのだ

 年金問題の不幸は、一に制度設計を誤ったことにあります。つまり、年金が
生まれた昭和20年代には、ここまでの経済成長や人口構成の歪みは見通せな
かったということ。それにも増して、政府や政治家が人気取りのために、その
時々での制度改正を正しい形でやってこなかったことがあるのです。これは自
明。ホントにそうですよ。優秀な厚生官僚は皆知っていることです。それでも
「問題発覚を先延ばしにしてきた」(ある旧厚生官僚の話)ということが、真
の姿であることをお忘れなく。

 悲惨なのは若者でしょう。世代ごとの保険料負担と年金給付額を調べてみる
と、2000年時点の計算では、70歳の人がこれまで払った保険料が約68
0万円に対して給付は5600万円、40歳の人は払った額2800万円に対
して7600万円ほどの給付。実に8・3倍と2・7倍の格差です。この数字
をどう見るでしょうか。別のある大学教授の推計によれば、1955年生まれ
(現在48歳)ぐらいまではかろうじて払った額に少し上回る数字の給付を受
けられるが、1965年(現在38歳)になると、あろうことか払った分も戻
ってこない(給付率0・95倍)という計算も成り立つとしています。

 この現実をどう見るかでしょうね。多少、頭の働く若者ならば、こんなマヤ
カシ年金に金を払おうとは思わないでしょう。年金制度は、また4、5年すれ
ば見なおしを迫られるのは間違いない。何時ものように、私たちは同じことを
再び繰り返すのです。

 最後に。紙幅がないので簡単に触れるだけにしておきますが、「なら、どう
すればいいんだ!」という問題があります。

 あまり無責任なことも言えないのですが、私の考えは今提出されている“民
主党案”にかなり近いものです。

 つまり、(1)基礎年金国庫負担率を3分の1から2分の1に引き上げる(
2)1階部分(基礎年金)は税金で賄い、最低限の年金を保障する(3)税金
の財源については、一部目的税化した消費税を充てる(4)将来的には国民年
金、厚生年金、共済年金を一体化する――などです。特に(3)、(4)の方
向については、やむをえないのではないでしょうか。

 いろいろと異論があることは承知していますが、抜本改革が遅過ぎたのです。
せめてバブルの時にやっておけば、こんなことにはならなかった。結局、バカ
を見るのは国民なのですから、今回のような議論があと15年早く起きていれ
ばと悔やまれます(その当時から、年金はこのままでは崩壊するとの議論は強
くあった)。つくづく、日本人は忘れやすい国民だと思えてしまう、溜め息と
ともに出る私のひとり言ですが……。

□■□ 後書きのつぶやき□■□----------------------------------------
「無責任国家と教育」
子どもたちに語る言葉を
大人は持っているか

 もう2週間近くも前の記事になるのでいささか恐縮なのですが、3月29日
の東京新聞夕刊に、ジャーナリストの東晋平氏の手になる「少年たちの迷走」
と題する文章が載っていました。

 内容は、このころ話題になっていた例の神戸連続児童殺傷事件の加害者の仮
退院を受けて、土師淳君に先だって撲殺された山下彩花ちゃんの母親・京子さ
んに言及したものです。東さんは京子さんと共同で、京子さんの彩花ちゃんに
対する思いをまとめた著作を著しており、それは大きな話題となりました。

 東さんは、この京子さんが加害者男性に対し、あえて贖罪とともに「生き抜
いて欲しい」と呼びかけたことに、大きな感動とともに賞賛を送っていました。
たしかに、並みの神経でこのような“強さ”を表すことは難しいに違いなく、
私もこの京子さんの生き方には感動を覚えるものです。

 しかし一方で、東さんはこの国の子ども達の生き方にも言及しています。曰
く、「ひたすら近代化をめざしたこの一世紀、“より多く所有することが幸福”
という神話がこの国を支えてきた」。そして、「所有がもたらす“快”を、ど
うやら私たちは多分に幸福と見まがってきたように思う」と。

 たしかに、そうですよね。これは私自身もそうですが、世の多くの人には大
きな痛みを伴って迫ってくる言葉ではないでしょうか。そして結局、私たちは
日本をこんなにも節操がない、そして子どもに夢を与えられない国にしてしま
ったのです。

 東さんはこうも言っています。「苦痛や葛藤のない小さな安逸を求める生き
方に閉塞しているのは、子どもよりも大人自身なのではないか」とも……。

 これもたしかにそうだ、と実感します。こうして無責任で節操のない、それ
こそ個人の生き方を堂々と確立できない社会の中で、いま私たちが何をすべき
か、子ども達にどんな説明ができるのかが求められているのだと思います。

 いみじくも氏が言うように、「苦痛や葛藤がないことが幸福なのではなく、
絶望にも拘らず立ち上がっていくところに人間の価値があるのではないか」。
本当にそうですね。私なぞも弱い人間ですから、すぐにシュンとなってしまう。
でも、それでは子ども達に説明ができません。今こそ、暴力や犯罪のない世界
をめざすことの、その大きな意味合いを伝えていかなければならない。

 そんな意味で、神戸の事件のもたらしたものと共に、被害者である山下京子
さんの生き方は、多くのことを教えてくれるような気がします。大人達の迷妄
が子ども達を惑わせている――そんな現実が浮かんできます。教育の大切さを
思います。

今週のことば……「アルジャジーラ」
 96年にカタールに設立された、24時間放送の衛星テレビ。名前はアラビ
ア語で半島を意味する。カタールの王族らが経営の実権を握っており、記者も
ほとんど中東出身者。同時多発テロのあと初めて、オサマ・ビンラディンの映
像を放映したことで世界中に知られるようになった。衛星放送のためどこでも
視聴でき、視聴者は中東全体で3500万人以上いるといわれる。

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