メルマガ:風のひとり言――マスコミの裏を読む
タイトル:「風のひとり言――マスコミの裏を読む」第39号  2004/03/05


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         「風のひとり言――マスコミの裏を読む」vol.39
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 ついこの間年が明けたと思ったら、もう3月――。月日の早さに愕然とさせ
られ、かつ「そろそろ」と思いながら、書くことが先延ばしになってしまった
ことをお詫びしておきます。

□■□ 「風のひとり言」その39□■□-----------------------------------
「官邸の情報操作を憂える」
大本営発表の大元は
福田官房長官か

 先週末から今週にかけて、オウム真理教麻原彰晃(本名・松本智津夫)の裁
判がありましたし、高病原性鳥インフルエンザの話題も、非常に身近な問題で
しょう。しかし、“深く静かに”潜行していると考えられ、かつ私たちにも重
大な意味を持っているのが、自衛隊のイラク派遣と、それに伴う報道のあり方
です。

 これは、私が非常に事態の成り行きを心配し、それに国民やマスコミがどう
対応しているかを眺めている問題でもあります。

 また繰り返しになってしまうような言い方ですが、話が長くならないように
要点だけをまとめて理解の一助にしようと思います。この問題の直接のきっか
けは、昨年の12月初めのこと。自衛隊の派遣計画のスケジュールを一部マス
コミが報道したことに、福田官房長官が激怒し、石破防衛庁長官を呼びつけて
一喝しただけでなく、派兵命令そのものの日程を変更してしまったというもの
です。この辺は新聞報道でも、ご存じの方が多いのではないかと思います。

 しかし、事態はその後も悪化の一途をたどっているように思えます。イラク
での直接的な報道規制のほか、各幕僚長の記者会見拒否など、これまでの常識
では到底考えられないような“報道統制”を次々と官邸サイドから打ち出して
来、自衛隊の内部でもそれを疑問視する声が多いどころか、制服組の一部には
公然と政府批判をする人までいると聞きます。

 これらの事態の主役が、そう、あの誰あろう福田康夫官房長官というわけで
す。ご存じのように故福田赳夫元首相の息子さんですが、親父さんと違って、
人をそらさない話し方をするし、実直な側面もあるような感じがするので、人
気はあるのかなと思っていました。

 しかし、最近の動きはいけませんね。外務省の役人との通謀ぶり(影の外務
大臣と呼ばれている)や、一部の大臣を自分の手足のように使う専横ぶりは、
目に余るような感じさえしています。

イラク最大の報道陣は
現地で何をやっているの?

 何よりもいけないのは、一応の抵抗姿勢は見せているようですが、メディア
が大勢としてこうした圧力をはねのけていないことです。今、こうして毎日を
過ごしていて、あれだけの報道要員がイラクのサマワ入りしていて、余りにも
現地のルポルタージュが少ないと思いませんか? これは異常な事態なのです。

 先週の『週刊新潮』(3月4日号)によれば、テレビ・新聞・通信社のマス
コミ取材要員は何と総勢245人。このうちNHKは一社で71人を送りこん
でいるというのですからアキレます。それで、その人数に見合う報道ができて
いるというのでしょうか。現地では「日本マスコミは自衛隊の3倍いる」「取
材はオランダ軍を通して行っているようだ」と外国メディアからもアキレられ
ているとか。

 そんなマンガのような状況もいいのですが、それはあくまで自衛隊員やメデ
ィアのスタッフに犠牲者が出なければ、の前提においてです。報道をコントロ
ールすればテロが起こらないというものではないし、逆に不確実な情報が事故
を起こす可能性だって、十二分に考えられることなのです。

 つい2週間ほど前の東京新聞「こちら特報部」では、中東情勢を真剣に勉強
しようとしない官邸・外務省の姿勢と、ただ政府の意に沿った発言をするとい
うだけで重用されている中東専門家(佐々木良昭・元拓大教授。この人は酔っ
て学生を日本刀で切りつけ、大学を懲戒免職になっている)のことを記事化し
て批判していました。こんなことでは、日本の外交なぞは「無きに等しい」と
言われても仕方がないでしょうね。

 外国を知ろうとしない外務省。歴史に学ばない政治家・官僚。そして、人の
言うことを聞かない首相・官房長官。まるで落語のような展開ながら、そんな
お話では済まないのではないでしょうか。

 オウムの事件でもそうでしたが、この国のリーダーたち(特に官僚)は、犠
牲者が出てからでないと動こうとしません。そに至るまでにある論理は自己保
身だけ。そんな国から生まれる犠牲(オウム事件や北朝鮮拉致被害者を見よ!)
は十分に防ぎ得た側面があるのです。マスコミの端くれにいる人間としても、
発言せざるを得ないひとり言ですが……。


□■□ 後書きのつぶやき□■□----------------------------------------
「猪瀬直樹氏の変節」
政治と官界の“深み”にはまった男

 他の機会でも書いたことがあるのですが、例の「道路関係四公団民営化推進
委員会」の委員として最も注目を集めていた氏の、ドタンバでの変節ぶり。私
自身も「そこまでやるか?」とも思いがありましたし、読者の方でもいぶかし
く思っている方々は多いのではないかと思います。

 櫻井よしこ氏は『新潮45』の2月号で「猪瀬直樹の仮面を剥ぐ」と挑発的
でかつ興味深い記事を載せていますし、同3月号では両氏の主張も取り上げら
れていました。さらに、『噂の真相』3月号でも、猪瀬氏はケチョンケチョン
にやっつけられていますので、この問題に関心のある人は一通り読んでおいた
方がいいでしょう。

 私はもちろん、この作家・猪瀬直樹氏の力量とこれまでの著作(『ミカドの
肖像』『ペルソナ』『日本国の研究』その他)を高く評価していますし、道路
公団の改革もその動機においては、特に不純なものがあったとは考えていませ
ん。しかし、やはりこれまでも言ってきたように、人間の“性(さが)”とい
うか、権力や政治に近い場所を歩くというのは、そういった志向のある人にと
っては劇薬(麻薬)のようなものです。私もかつて政治部にいたから、分かり
ます。その“魔力”に取りつかれた猪瀬氏は、本人の政治的な志向を、隠さな
くなってきたということではないでしょうか。

 短く結論を導くために、これまでの論点に詳しく触れることはしません。た
だ、道路公団改革が本来の勢いから外れて、一種骨抜きになっていることは事
実だと思うので、その問題点だけは簡単に言及しておきます。

 つまり、公団の資産・債務を引き継ぐ保有債務返済機構と民間の新会社が完
全に分離されたことで、新会社に利潤追求のモチベーションが働くのかが、極
めてあやしいこと。40兆円以上の債務を60年もかけて返済するといったと
ころで、金利の問題一つとっても実現性が危ぶまれるということです。何より
も、新道路建設の余地を十分に残したことで、自民党道路族や国交省の官僚が
描いた構図に乗っていることは、誰が考えても否定できない。また、そうした
方向に流れたことに、猪瀬氏の弁明は十分に答えていないように思えます。

 先に言及した『噂の真相』3月号は、普段のように扇情的にならずに、この
猪瀬氏という人の政治志向・権力志向をきちんと跡付けているように思えまし
た。特に興味を引かれるのは、官邸の代表として猪瀬氏と官邸(官僚)の間を
調整したと思われる丹呉泰健・首相秘書官(前主計局次長)の存在。記者とし
て大蔵省(現財務省)のキャリア官僚と付き合うとよく分かるのですが、彼ら
の頭の良さ、人付き合いの巧みさはハンパではない。特に私学卒業の私のよう
な存在は、すぐにその“人間的な魅力”に骨抜きにされるのです。

 それがこの国の権力の実相であり、実態です。小泉首相が財務官僚の言いな
りであることは、ごく周知のこと。その小泉さん「いのち!」の猪瀬氏のこと
ですから、こうした官僚たちの意に沿った動きをするのは、コトここに至って
は、当然と考えてもいいのかもしれません。

今週のことば……「消費税の総額表示」
 案外知られていないようだが、昨年成立した改正消費税法で、今年4月1日
から商品に付ける価格について「税込みの価格」を表示することが義務付けら
れた。つまり、4月からは内税によって総額表示ということになり、本体価格
については併記してもしなくてもいいということになる。
 これも将来の増税に向けての措置というのがもっぱらの見方のようだ。一方
で税額が見えにくくなるので、便乗の値上げについても心配はされるところ。
そもそも、この消費税という奴には問題も多い。消費税をとっていながら、実
際には当局に払っていないという“益税”業者の何と多いことか。税の仕組み
については、根本的な改革が必要と思う。やはり、納税方式はインボイスの形
にしないと、本当の意味の公平さは生まれないだろう。

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