メルマガ:ちょっとだけHなお話し
タイトル:ちょっとだけHなお話し11  2003/12/30


鬼のニノミヤ(番外2)

ガタガタ…ガタッ
建てつけの悪い唐紙障子がわずかに開き、暗い部屋に一条の光が射す。一寸
弱ほどの隙間ができると、そこから小さな指が入り込み、さらに障子を抉じ
開けた。
ヒョコリ、と小さな手の主が真っ暗な部屋を覗く。年の頃は九か十…やけに
体が細く、それでいて手足の長い少女だった。恐らく肩ほどまでしかないで
あろう髪を、不器用に結い上げて、赤い紐で止めてある。継目の入った安手
の着物を見れば、裕福な家の娘でないことは分かる。
目が暗闇に慣れてから、少女はそろりと部屋へ足を踏み入れる。大きな瞳を
左右に動かし気配を窺い、この部屋に自分以外の者がいないということを確
信すると、静かに
障子を閉じた。
「ふう…ぅ…」
短く、小さな溜息の後、少女は小さく嗚咽を始めた。細い肩は小刻みに揺れ、
全身が小さく震える。ヒック、ヒック、と浅く息を吸う音が部屋に響いた。
「う、う、う…お母ちゃん…」
少女はこの家に奉公に来ていた。何事か失敗でもやらかして叱られたのか、
それともこれからの自身の行く末を案じて悲観しているのか、とにかく少女
は堪えきれずに泣いていた。
「お母ちゃん…お母ちゃん…お母ちゃん…」
「…っせーなー…」
不意に背後で声がする。驚きのあまり、ヒッ!と喉を鳴らしてそのまま息を
吐き出すことができなくなった。息を止めたまま、恐る恐る少女は振り返り、
誰何する。
「…誰?」
確かに先程まで誰もいなかった筈だ。締め切った障子が開いた様子もない。
だが、確かに部屋の奥には何者かが存在していた。
「誰?ねえ、誰?」
「誰でもいいじゃねーか。お前ぇには関係ねーよ。俺ぁガキの泣く声が大っ
嫌ぇーなんだっ」
壁際に着物を着た男がいる。少女は不思議と聞き覚えのあるような声の響き
に泣くのを忘れ、吸い込まれるようにその人物の方へ歩み寄って行った。
「あんた誰?ねえ、どうしてここにいんの?」
「どーだっていいだろ?俺ぁどこにも行かねーし、どこにも行けねーんだよ」
暗闇のため、間近まで行かなければ相手の容姿を確認することはできない。
声のする方向へそろりそろりと歩を進め、鼻の先まで来たところで、やっと
声の人物の貌を知ることができた。
「ひぅっ…!」
少女は驚きのあまり声をつまらせる。
男は人間というものとは少々違っていた。髪は白く長く八方に伸びており、
頭部からは二本の角が生えている。見れば、着物は白装束で、死人を連想さ
せた。襟の合わせ目から覗く胸筋や袖から伸びる下膊は常人のそれよりはる
かに太く隆起している。大きな目の中の小さな黒目がギョロリと少女を見据
えていた。
それは少女の知るところの、鬼というものに形容するにぴたりと似た容貌で
あった。
「ああ…あ…きゃあああああっ!」
金切り声を上げて少女は部屋を飛び出して行った。すぐさま手近な大人を呼
び止め、再び部屋を訪れる。
果たして男はその場から逃げも隠れもしていないのだが、乗り込んだ家人の
誰も、鬼を『見つける』ことはできなかった。
人騒がせな少女を口々に罵る家人の向こうで、口の片端を吊り上げ手を振る
鬼を少女は人事の様にボンヤリと見ていた。
常人にはこの鬼の姿が見えないのだと、彼女は悟った。

「本当に食わないのかい?」
差し出された握り飯を前に、鬼は首を振る。
始めこそ恐怖に逃げ出した少女だったが、この鬼に害がないと知るや、次の
日から暇があればいそいそとこの部屋へ通うようになった。
「ここは女が客を取る場所だぞ。なんでお前ぇみてぇな子供がいるんだ?」
男の言う『客』が気紛れに施した飯を適当に握って、少女はこの暗闇の部屋
にやって来ていた。
常に座り込んでいる鬼の横にちょこん、と並んで同じように胡座する。
「そりゃあ女だって客を取れるようになるまでは子供サ」
多少聞きかじった覚えたてのありんす言葉があまりにも不似合いで、鬼はク
クッ、と笑った。
「あたしは口減らしのために二束三文でここへ売られて来てねェ。今は下働
きに、姐さんたちの手伝いをする程度だけどさァ、二、三年もすりゃア客も
取るようになるサ」
掌にこびりついた米粒を歯で殺ぎ落とし、丹念に舌で掬い取りながら、まる
で教え込まれた遊女の不幸話を語るように、ポツポツと少女が話し出した。
隣の鬼が無言で頷く。
「客を取れるようになるまでここの女は芸を仕込まれるだろう?小汚い女に
客はつかねえから、着物、簪、髪結い、着付け…ひとりの女が一人前になる
までにどんだけの金がかかると思う、あんた?」
男の返事を待たずに少女は言葉を続ける。
「一人前になったらまず遊女は、それまでにかかった金を店に返さなきゃァ
なんねいのサ。客を取り出したら下働きなんてやってらんないだろう?その
ためにあたしらみたいなモンが買われてくるんよ。買われて来た子供はいづ
れまた遊女に育つってなァ寸法よ。遊里はそうやって成り立っているんだ」
「子供のクセに悟りきってんなあ」
ふぅ、と溜息が漏れる。
「悟ったふりでもしなけりゃア、やってらんないよォ」
少女はうつ伏せに倒れこみ、男の太腿を枕にして目を閉じた。肩が小刻みに
震え出す。
後れ毛だらけの頭を男が撫でる。
「おい、泣くなよ」
その声は酷くぶっきら棒だったが、少女には母の子守唄の様に聞こえていた。
「泣いてなんかいるもんかい」

三年も経てば、少女は大人に変化する。着物の襟から伸びる項は艶やかな色
香を放ち、体全体が丸みを帯びる。花嫁衣裳のような着物を着込み、桜色の
唇に紅をさせば年端もいかない娘であっても立派な遊女に仕上がる。
特に下女の頃から取り分け端麗な容貌を持ち、独特な色気を持っていた少女
は、遊里も、初物食いの常連客たちもこぞって水揚げを期待していた。
「どうだい、綺麗なもんだろう?」
少女はまず定例の、鬼の部屋へ披露に行く。他の部屋に比べておまけのよう
に狭く、電灯もない、誰も入ろうとしない部屋へ入るのは彼女だけだった。
そもそも昔から薄気味悪いだの方位が悪いだの、時折人の声がするだのと言
われる部屋で、他の女達は近づこうとさえしない場所である。彼女が毎日の
ように通い詰めるこの部屋を、からかい半分に女達は彼女専用の稽古部屋と
名づけ、囃した。
「ああ、馬子にも衣装ってんだろ?」
カカカカ、と声を上げて笑う鬼を、足袋に包まれた足が軽く蹴飛ばした。
「今日は水揚げだよ。あたしの最初の客ももう決まってる。常連客のハゲオ
ヤジだ。姐さんたちのつなぎで相手してた時もいつもいやらしい目で見てた
からねえ。薄々感づいてたよ。ああもう、余分に金持ってるヤツってのはい
け好かないったら」
フフンと鼻を鳴らし、気丈に振舞って見せるが、唇が微かに震えている。ふ
いに真顔になり、鬼に向き直る。
「…あんた、あたしを連れてここから逃げられるかい?」
「できねぇ」
鬼も笑うのをやめていた。
「…冗談だよ…」
踵を返して、彼女は部屋を出て行く。まるで足枷にでも繋がれているように、
その足取りは重い。

寅の刻。ガタガタと、暗い部屋を開ける者がある。言わずもがな、もはやこ
の部屋の主とも言われる少女であった。とは言え、客も女達も番頭新造、下
男下女に至るまで寝静まるこの刻に部屋を訪ねるのは初めてのことであった。
「…いるんだろ?」
重苦しい声が響く。
「…よぉ」
憔悴した様子の少女に対して、鬼は苦々し気に笑った。美しく結い上げてあ
った髪は乱れ、本来それを飾り立てるためのものである簪が、突き刺さった
刃物のようであった。客のもとからそのまま抜けてきたのか、赤い襦袢に腰
紐を締めただけの恰好である。
少女は足早に部屋の隅へ移動して、胡座する鬼の側に蹲り、足を枕に突っ伏
した。項に塗りたくった白粉も斑に剥げ落ちた様が痛々しい。
「どうしてこんなことをしなけりゃいけないんだろうねえ…。どうしてこん
な思いをしなけりゃいけないんだろう」
鬼の手が少女の頭を撫で、震える肩を抱く。
「おい、泣くなよ」
「泣いてなんかいるもんかい」
だが少女がうつ伏した男の足の部分に、じんわりと熱い感触がある。
「ねえあんた、あたしに惚れてるかい?」
暫くの間、足の上で伏せっていたのだが、やがてうつ伏した状態のまま、ポ
ツリと少女は呟いた。
「ハゲオヤジがさァ、言うんだよ。あたしは遊里の売れっ娘になるってさア。
遊里に通う男達は皆、あたしに惚れるって。あんたもそう思うかい?」
「ああ…」
さして感情のない声で、返答する。だが肩を抱く腕には次第に力が込められ
ていった。
「ねえあんた…今夜は抱いてておくれよねェ…」
ツッ、と顔を上げ、肩にある手を握り締める。少女の白い手が緩やかに指、
手の甲、手首、下腕、二の腕へと、木に攀じ登るように鬼の体を伝って上っ
ていき、ついには首に絡みついた。骨ばった顔に頬擦りする。
「そうしなけりゃあきっとあたしは気ィが狂っちまうよ」
鬼の両腕が少女を抱きしめた。
赤ん坊を抱くように、少女を膝に抱え、体を揺らしていた。
一条の光も射さない、時さえ存在しないかのような暗闇で、二人はいつまで
も、ただ抱き合っていた。

                             (おわり)

はい。今年も終わりですねえ。みなさん、一年間おつきあいありがとうござ
いました。そして、来年もよろしくお願いしますv
今回からバックナンバーを入れてみることにしました。なにか欲しいものが
ございましたら、遠慮なくお申し付けくださいね、と。

                                ヒロ

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