メルマガ:ちょっとだけHなお話し
タイトル:ちょっとだけHなお話し7  2003/08/30


鬼のニノミヤ7

…?
朝起きたら、隣になんか赤紫っぽい小っさいモンが寝てた。
???
妖精?小悪魔?って感じ?体と手足が細くて長くて、頭がおっきくて、おでこのとこ
にコブみたいのがふたつついてた。
不思議だったんでじ〜〜〜っと観察してたらそのうちに目、開けて、
「あ、どもっスどもっス。使いのモンっス。」
って言った。
後から出てきたニノミヤも最初はびっくりしてたみたいだけど、ふーん、って鼻鳴ら
して
「ああ、そっか。うん…」
とかなんとか言いながらちょっとウレシソーな顔してた。
その使いのモンってヤツは『ヤン』って名乗った。

「いやもうね、かなり久々っスよこっちの食いもんは。うまいスね、さすがにね」
腹減ってるってゆーからトーストにバターのっけただけのヤツを出してやったら喜ん
で食べた。こちょこちょ動いておもしろい。なんかこーゆう種類のドーブツみたいだ。
「なんつうかね、忙しいっしょ、普段?ゆっくりごちそうになる機会もめったにない
んスよ」
よくしゃべるウルサイヤツだなあ。声はだいぶ前に流行ったファービーに似てるし。
ヤンは大きな目の中の小さい黒目をウルウルさせながらあたしを見て言った。
「いやね、いやね、暫くこっちにお世話になっちゃおうかなあ〜?」
ゲッ…なにこいつ?なんで…
「ン〜、いいんじゃねぇの?」
あたしがなにかゆー前に、ニノミヤが勝手に返事した。ヤンは大喜びで部屋中をはね
回った。
なんでよ〜〜〜っ!

ガッコがあるんでウチ出たらヤンがついて来た。背中からハネだして飛んでる姿はコ
ウモリみたいだ。なんかあたし、なつかれてる?でもこんな地球外生物みたいなモン
がいたらみんな驚くじゃん。
「大丈夫っス、大丈夫っスよ。普通は見えないっスから」
なんか二回続けておんなじコト言うヤツだな。でもうちのガッコにはフツーじゃない
人が少なくっても二人はいるんだからねー。
「おっはよ〜、おねぇちゃ…」
後ろから鈴緒が声かけてくる。やっぱりヤンが見えるみたいで、言葉が途中で切れた。
ばっちーん!
ヤンのこと説明するヒマもなく、その飛行生物をはたき落とした鈴緒だった。
「なんだこいつう?」
普段、図々しいぐらいひとなつっこい鈴緒が、初対面で人(?)殴るのみたのは初め
てだった。
「なんかヤダ!」
ぐちゃっ。
「キャーーー!」
落下したところを足で踏み潰されて、ヤンは気味悪い悲鳴あげてた。それにしても鈴
緒、『なんかヤダ』で踏んづけるのはヒドイと思うぞ。

「使いだって?」
ヤンのこと聞いた加奈先輩が片方の眉毛をひょんっと上げて聞き返してきた。あきら
かーにフキゲンな顔だ。
「ふうん、そ。で、あんたはいいの?」
???
「いいも悪いもないか…」
とかなんとかブツブツ言いながら、加奈先輩は行ってしまった。どーゆー意味なんだ
ろ?

ヤンがウチに住みついて三日目。静かな三日間だった。加奈先輩はニノミヤを一度も
呼ばなかったし、ヤンがいるせいか鈴緒はウチに寄りつかない。ニノミヤは消えるこ
となくずっと部屋にいて、ヒマがあればあたしの頭なでたり首に巻きついたりしてた。
なんだよ、同棲してる恋人みたいじゃん。加奈先輩が好きなくせにぃぃぃ!
ってヒネくれても、
「うるせぇ!」
つってまたあたしの頭をなでてる。
唯一ウルサイのがヤンだった。よくしゃべるし、よく腹へるし、よく遊ぶし、よく壊
す。一日中部屋ん中飛びまわってる。
そのヤンが、今日は朝、ミョーにおとなしくって、静かに朝メシ食ったあとあたしの
目の前で正座してちょんとおじぎした。
「どうもどうも、お世話様っした。さすがにあんまり長居するのもね、良くないと思
いますんで、そろそろ戻りたいと思いますっス。そんなわけなんで」
ヤンがちらっとニノミヤを見た。
「ああ、お前ぇらともこれまでだな」
えっ?どーゆうコト?
「あれ…言ってませんでしたっけ?アタシこの人を迎えに来たんスよ」
迎え?どっかいくのニノミヤ?
「っつーかねつーかね、この人、罪人だったんですよ。今までこの土地に縛られてた
っしょ?きちんと決められてる輪廻生死のサイクルをこの人が壊しちゃったんスよ。
この度、刑期があけましてね。えー、本来納まるべき時間の流れに戻ることが許され
たんで、アタシが使わされて来たんス」
えーっ?なんだって?じゃあニノミヤいなくなっちゃうの?
「ま、そういうことになるな」
他人事のよーにつぶやいて、ニノミヤがうなずいた。な、な、なんでそんな大事なこ
と先に行ってくんなかったんだよーーー!
「ん〜?言ったって事実は変わんねぇし…」
だ、だって!だって今日いなくなるのに今日言うなんて!ヒドイよヒドイよヒドイよ
〜〜〜!
「そうですよ〜、どうせすぐ忘れちゃうんだから」
ハッハッハ〜っとヤンが笑った。エ?忘れるって?
「いやねいやね、この人とアタシが消えたら、今までのこの人とあなたの関係は解消
されますから。全てなかったことになるんスよ。あ、何か貸し借りとかしてました?」
なんでコイツこんなに淡々とそーゆーこと言うかな…けっこーヤなヤツだったんだな。
そーいや最初っからちょっとズーズーしかったし。
「そんなワケなんス、はい。あ、ちょっとそこ空けててね。今から場作りますから。
この中入っちゃったら巻き込まれてあなたもどっかへ飛ばされちゃいますよ。」
って言いながらヤンは部屋の床に爪で丸を書いて、なんかワケわかんない呪文を唱え
はじめた。
ちょっと待ってよー!急すぎるよ〜〜〜!やだよ!やだよ突然こんなの!ニノミヤこ
れからどこいっちゃうの?
「いやー、この人を運んだ後のことはアタシの管轄外なんで、まったくわかりません」
「まっ、もう会うこともねぇだろうけどよ、元気でな」
なんで笑ってんの?なんで笑ってんのニノミヤ!行かないでよ行かないでよ行かない
でよー!
「オイ、泣くんじゃねぇよ」
目から涙がポロポロこぼれてた。
だって…。だってさ…。
「あっ、そこ線踏んでますよ。危ないスよ」
ハッ、として思わず後ろに下がった時、
「ま、待ってェ〜〜〜!」
バタン!っとすごい音がした。後ろのドアが開いて、加奈先輩が走りこんで来たのだ。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ…ああ〜〜〜良かった!間に合ったァ」
「なんだ〜、餞別か?」
大きく深呼吸した後、加奈先輩はニコーッと笑って叫んだ。
「ああ、餞別だよ。さんざん迷ったけどね、受け取んな!」
言われて手を広げたニノミヤに向かって、加奈先輩が飛び込んだ。次の瞬間、丸い線
から透明がちょっとにごったよーな色の薄い壁みたいなモノが出てきて、ニノミヤと
加奈先輩とヤンを一緒に閉じ込めた。
わーーーっ!加奈先輩っ!
「ちょ、ちょっとぉ!なにするんスか!もうキャンセルできないっスよ!ああ〜どう
しよう!」
ヤンが壁の中でアワアワしてる。ニノミヤもビビリまくってるし。
「バカ!お前ぇ…なにやってんだ!これからどうなるか分かんねぇんだぞ!」
「だってしょうがないじゃないか…今以上あんたと離れて暮らすなんて考えらんない
よ。またあたしを一人で死なせる気かい?本当に冷たい男だねぇ」
加奈先輩はニノミヤの首に抱きついて言った。ニノミヤも加奈先輩を抱きしめてた。
「どうなったっていいヨ。あんたと一緒ならね」
「お前ぇのワガママは死んでも治らねぇな…」
最後に、ニノミヤと加奈先輩はあたしの方に手を振って消えてった。慌てて壁ん中を
飛びまわってるヤンと一緒に。
…あとには、何んにも残ってなかった。
加奈先輩にはかなわなかった。あたしは、ヤンに、巻き込まれるって言われてニノミ
ヤのトコに行けなかった。でも加奈先輩は飛び込んでった。
…でも、あたしだって…
あたしだって好きだったんだよ、ニノミヤ。
ホントだよ。好きだった。加奈先輩ほどじゃなかったかもしんないけど。
行ってほしくなかったよ、ニノミヤ。
忘れたくない。忘れたくないよ、ニノミヤ。
ニノミヤ…。
ニノミヤ!ニノミヤ!ニノミヤ!ニノミヤ!ニノミヤ!ニノミヤ!ニノミヤ!ニノミ
ヤ!ニノミヤ!ニノミヤ!ニノミヤ…ニノミヤ…ニノ…ミヤ…に、の、み、や…。
…。
…って…なんだっけ?
…。

あたしはフツーの中学生だ。フツーにメシ食って、フツーにガッコ行って、フツーに
勉強して、フツーに生活してる。
…でも、なんか足んないモンがあるよーな気がする。なんかあたしの部屋に、頭ん中
に、なんかあったよーな気がする。なんかいたよーな気がする。
でもでも、それ以外はフツーだ。フツーじゃないっていえば隣の鈴緒。なんか鬼がど
うとかファンタジーな話をよくしてる。それ聞いてあたしが笑うと、ちょっと悲しそ
ーな顔する。だってしょーがないじゃん、変な話なんだもん。
フツーじゃないコトって言ったら同んなじガッコの加奈先輩。ある時いきなりいなく
なって、拉致事件だ誘拐だって大騒ぎんなったけど、一週間後にポロッと帰って来た。
ってゆーかいつの間にか家に帰ってて、朝フツーに『おはよー』って起きて来たそー
だ。本人はいなくなってた時のことなんも覚えてないっつーか、自分がいなくなって
たコトも知らなかったそーだ。うーん、ナゾだ。

あたしはなんでか、部屋に一人でいると悲しくなるコトがある。ワケもないのに涙が
ぽろぽろ出ることがある。
つらいんじゃない。悔しいんじゃない。寂しいんじゃない。ただ、悲しい。
悲しい…。
それはもしかしたら、あたしが足りないと思ってる『なんか』に関係あるのかもしん
ない。

                                                 (完)

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