メルマガ:ちょっとだけHなお話し
タイトル:ちょっとだけHなお話し6  2003/08/01


鬼のニノミヤ6

最近、ニノミヤはもんのすごくイライラしてる。キーキー叫んだり部屋中飛び回って
暴れてることもある。あたしがナニ言っても怒りだすだけなんで、相手にしないコト
にしてる。時々来る黒鬼とのケンカも、怒りパワーでここんとこ圧勝だ。
原因はわかってんだけどね。加奈先輩がカレシ作ったんだ。ニノミヤ、加奈先輩に呼
ばれなくなったなあ〜って思ってたら、学校で男子と歩いてんの見ちゃった。
相手は柔道部の、ゴッツくて汗臭そーな先輩だった。に、似合わねぇー、って学校中
でウワサしてるし。
別にいーじゃんニノミヤ、加奈先輩に呼ばれるのヤだったんでしょ?主従カンケー解
消になるんだから。
「いやだーーー!あいつは俺んだ〜〜〜!」
デパートとかのオモチャコーナーでダダこねてる子供みたいに、全身使って暴れるニ
ノミヤだった。ちぇっ、やっぱ加奈先輩のこと好きなんじゃん。
ウザイから無視して宿題とかやってるフリしてたら、なーんか背後でワザと音立てて
そのへん飛びまわってるし。ちらっと見てみたら意味なくでんぐり返りしてんのが目
に入ったんで、ちょっと恐くて見なかったフリしたあたしだった。

「だってサ、しょうがないじゃないか」
と、加奈先輩は変なしゃべり方で言った。いちおーホントのとこどうなのか聞いてみ
ようと思ってあたしは先輩を呼び出して聞いてみた。だって今のまんまだとニノミヤ
がウルサくって夜も眠れないんだもん。
「こちとら寿命のある人間だよ?いっくら今が楽しくたってサァ、一生一緒にはいら
れないんだからサ。だいたいアイツはあんたン家に住み着いているじゃないか?」
そりゃそーだけど、でもニノミヤは加奈先輩にむっちゃくちゃ未練あるみたいだし。
「なんだィ、あんただってアイツに惚れてるくせしてサ。」
あたしのコトを茶化しながら、なんでか加奈先輩は悲しそーな顔してた。
「そりゃあ、今はまだ若いから会いたいから会う…ですむけどサ…あんたは平気なの
?あたしたちは、絶対アイツより先に死ぬんだよ。アイツの目の前で老いさばらえて
いくんだよ?」
…?
「アイツはずっとあのまんまだ。でもあたしたちはいずれ年取って死ぬんだ。ババア
になるって分からないだろう?体が弱って、心も弱って、何をどう足掻いたって老い
ぼれていくんだよ。年を取らないアイツの前でねぇ。好いた相手にそんな姿をみせた
いかい?…あんな思いは一度で十分だィ」
あたしに背中を向けて、すんっ、と加奈先輩は鼻をすすった。泣いてんのかなあ、気
ぃ強い加奈先輩が…。
「…なんてね。じゃね」
でも振り向いた加奈先輩はいつもの先輩だった。そんで笑いながらあたしの肩叩いて
走り去っていった。

そっか、知らなかった。あたしの方が早く年取って死ぬんか。そんなコト考えたこと
もなかったし、言われても実感わかないなぁ。
…なんてボーッと考えてるコトなんかも、ニノミヤはあたしの心を読むから全部バレ
る。今日、加奈先輩と話したことも。
「なぁ〜んでそんなこと気にしてんのかねぇ〜」
と、ニノミヤの方はエラいのんきなもんだった。
そーいやそうだ。ニノミヤはあたしが生まれるず〜っと前からここにいるハズだけど、
何年生きてきたんだか知らないけど、あたしが想像つかないくらい年取ってるハズだ。
でもジッサイそーゆーふうには見えない。っつーことは、年とらないってことだ。う
ん。
ニノミヤはずっと前からココにいて、これから先もずっとココにいて、加奈先輩以外
にも、何人も見てきたに違いない。たくさんの人に出会ったっていうことは、年を取
らないニノミヤはそれだけたくさんの人が年取って死んでくのを見てきたってことだ。
たくさんの人と別れて来たってことだ。
昨日まで一緒にいたのに、今日いなくなる。普通より何倍も何倍も生きるってことは
(死んでるけど)、何回も何回もそれを繰り返すってことだ。そんなふーに考えると、
なんだかスッゲ悲しかった。
「…ってかさぁ、なんでお前ぇが泣いてんだよ」
ホントは加奈先輩にふられてニノミヤの方が悲しいんだろーけど、涙出てんのはあた
しだった。別に泣きたかったワケじゃないんだけど。
『あ〜ぁ』みたいな顔してニノミヤはあたしの頭をずっとなでてた。そんで、なんか
久しぶりにニノミヤの笑った顔見れた。
「しょーがねぇよな。アイツがそう言うんなら…」
髪がぐしゃぐしゃになるまであたしの頭をずっとなでて、そのあとニノミヤはポツッ
と言った。
寂しそうな顔が、加奈先輩とダブった。
ホントにこれでいーんだろっか?あたし的にはいいかもしんない。でもニノミヤは?
加奈先輩は?ホントにいいワケ?
「お前ぇ、しつっこい」
ニノミヤはベッドの向かい側にいたあたしをひっぱった。そんであたしはベッドにあ
ぐらかいてたニノミヤの前に後ろ向きに座って、抱っこされてるよーな形になった。
うわっ…。
後ろから、ニノミヤの手が伸びてきて、あたしを抱きしめた。
すごい力、苦しい。
でも、気持ちイイかも…。
ひぇーん、ドキドキするよー。
どうすんの?このアトなにすんの?
やだもーわかんなーい!こわーい!恥ずかしい〜〜〜!キャー!

で、次の日だ。
結局、あの後なにしたかっつーと、な〜んもしてない。
「お前ぇはよう、いっつもいっつもギャーだのヒーだの色気がねぇってんだよ」
ってニノミヤのワケわからん説教食らったけど。
ガッカリしたよーなホッとしたよーな、フクザツな気分だ。でも、今までみたいに加
奈先輩のことでモヤモヤしなくなった分いいかもー。イマイチすっきりした気分って
は言えないんだけど、でもっ、ニノミヤが加奈先輩のとこにいっちゃうコトはもうな
いんだよね?
それに…昨日は大進歩だよっ!今までのこと考えたらっ!もー、次に進むのなんかす
ぐじゃん?キャー!キャー!キャー!
あ〜、でもやっぱり加奈先輩のことは気にかかるよ〜。加奈先輩が言ってたあの言葉
だって…その時の加奈先輩のあの顔だって…。
でもなぁ〜、今日はちょっとーシンコクな話できるよーな気分じゃないしぃ〜、加奈
先輩とは顔合わせづらいかも〜。

っとかなんとか悩んでたのに、加奈先輩はあっさり教室に来て、あたしを呼んで、そ
んで言った。
「あのさあ、アレ持ってない?急に来ちゃってさあ」
アレって…あー、アレか。ちょーど持ってたんで加奈先輩に一コ渡した。
「あっ、こっちじゃなくて棒の方ない?…次体育だからサ」
ええっ?って、そんなの使ってるワケないじゃん!まだ恐くてできないよー。
「…エ?」
加奈先輩は、ただでさえおっきい目をもっと大きく開いてあたしをジロジロ見た。

「まっ、終わったことをグダグダ考えても始まらねーのよ」
昨日と同じよーにニノミヤはあたしの頭をなでて髪をぐしゃぐしゃにした。でもあた
しはニノミヤの顔見ると反射的に加奈先輩を思い出しちゃう。
「バッカ、お前ぇは…俺やアイツがもういいって言ってんのに一人で悩んでやがる。
しょーがねぇなぁ…だったら余計なこと考えなくてすむ方法を教えてやるよ」
って言ってニノミヤはあたしの体を引っ張って、そんでギューッと抱きしめた。
わーっ。昨日もこんなことがあって、そんでこれは二回目だけど、前にもっとすごい
ことがあったけど、でもまだ恥ずかしいよぉ。それに今はすんごい近くにニノミヤの
顔があるし!
コンコン!
ノックの音がして、あたしは急いでニノミヤから離れた。
「おじゃましま〜す」
エッ?
やって来たのはなんと加奈先輩だった。な、なんで…?
そんで加奈先輩はケロッと言ったもんだ。
「実はさあ、カレと別れて来たんだよね、今」
ニノミヤの方見たら、スッゲェ複雑って感じの顔してた。加奈先輩はあたしの方見て、
にこっと笑って言葉を続けた。
「だってサ、あたしはこれでも遠慮してたんだよ。いくらあたしとこいつに昔からの
縁があるって言ったって、あんたたちは切っても切れない仲だろ?しかも一緒に住ん
でるってェのに、あたしのわがままで邪魔しちゃいけないってサ」
「お前ぇ…今さら何言ってん…だよ」
ニノミヤは怒った顔してた。でもあたしは知ってる。これはホントに怒ってる顔じゃ
ない。どっちかっつーとスネてる顔だ。あきらかに!加奈先輩が来たのを喜んでる。
「二人が好き合ってんなら身ィ引こうかと思ったんだけどサ、フフフ…」
意味ありげ〜な含み笑い。
「寝てもいないんじゃあ…まだまだ介入の余地アリだねェ」
あ〜っ!やっぱりそれかっ!今日バレたんかっ!
「しかも一緒に暮らしてんのに。あんたもあたしも抱きもしない相手を好きだの惚れ
たの言えるような年じゃあないんだからねェ」
ハーイ!ハーイ!意義ありっ!ニノミヤはともかくっ!加奈先輩はそーゆう年だと思
いますけどっ!
「まさか…大事に思ってるから手ェ出さないなんて言わないよねえ?」
今度はあたしから目をそらして、ニノミヤの方につかつか〜っと歩き出す。
「ね、あんた?」
ベッドの上であぐらかいてるニノミヤの隣にちょこんっ、と座って首に手、回した。
抵抗しろよニノミヤ〜〜〜っ!
ああっ!色仕掛け?色仕掛けか?これかっ?いつもニノミヤが言ってるあたしにない
『色気』ってのはっ?
「お前ぇはよう、昔っからわがままな女だったよなあ。人間の男の方が良くなったん
だろ?えぇ?」
って言いながらもはやニノミヤの顔はゆるんでるしっ!まっすぐにしてた口の端っこ
がプルプルしてるしっ!
「ダメだョ、てんでへなちょこでサ。あんたにかなう男はいないよ」
ハイ、ニノミヤ撃沈。
あっとゆー間に話しがまとまってふたりは消えていったんだった。なんかホッとした
よーな気がしないでもないけど…。でも…。
ふ、ふ、ふ、ふざけんな〜〜〜っ!あたしのことはなんだったんだっ!あたしはどー
なるんだああああっ!
加奈先輩のばかーーーーー!
ニノミヤの大バカヤローーーーー!
これでいいのかあたしーーーーーーーーーーーっ!

                                                 END

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