メルマガ:ちょっとだけHなお話し
タイトル:ちょっとだけHなお話し4  2003/06/01


鬼のニノミヤ4     

鈴緒に憑いてる黒鬼は、ヒマになるとすぐあたしの部屋に来る。そんでニノミヤを挑
発して、すぐケンカをはじめる。
きっかけはいつもくだらないことだ。小学生みたいな低レベルな言い合いで始まって、
そのうちにどっちかから手とか足とかが出て(たまに髪の毛が蛇みたいに絡みついた
りすることもアリ)、大ゲンカに発展する。
最初のうちはびっくりしてたあたしだけど、鈴緒たちが来てもう一ヶ月たった今は、
すっかり慣れっこだ。
ケンカの後は二人(二匹?)ともボロッボロになる。長い爪でひっかいたアトは粘土
をほじったアトに似てる。どっちも死人だから血は出ない。
一度なんかは激しくやりすぎて黒鬼の目玉が飛び出ちゃったことがあった。そんでま
たニノミヤがそれを踏んづけて潰しちゃって、その時はさすがに死ぬかと思うぐらい
びっくりしたけど、次の日、なんもなかったよーに治ってたんで、どーもあたしら人
間とはかなり体質が違うらしー。
ニノミヤも、どんなにヒドイ傷を負っても次の日にはすっかり治ってるしなあ。
こないだなんかはツノの大きさだの数だので言い争ってた。鬼たちのツノは数より大
きさが重要らしーことがニノミヤと黒鬼の話の内容でなんとなく分かった。
その日はニノミヤが言い負けて、黒鬼に手刀を一発食らわせたところで鈴緒が部屋に
呼びに来たんでお開きになった。
「あいつほんとはおねぇちゃんに会いに来てんだよ」
って含み笑いしながら鈴緒が言ってた。
どーかなー、別にそんな感じじゃないけどなー。
そんでその鈴緒なんだけど、あれから特にベタベタしてくるとか、そーゆうことはな
い。
学校で出会った加奈先輩に矛先が変わったらしくって、今はそっちにアタック中だ。
ホッとしたけど正直ちょっとムッともきた。鈴緒ってけっこう気が多い。

で、今日はなにかっつーと、いつものよーにニノミヤに悪口たれに来た黒鬼とあたし
が、部屋で二人っきりになってしまったんだった。
「…アレは?」
意気込んできたのにニノミヤがどこにもいないんで、気が殺がれた黒鬼はちょっとバ
カ面になってた。
あたしはニノミヤが加奈先輩んとこにいっちゃってたもんだから気分が悪くて、黒鬼
の相手をする気にもなれんかった。
「ふぅ〜〜〜ん、オンナんとこか」
あーもうウルサイなあ!わざわざ声に出してゆうことないじゃんか。ムカツク!
…って、こいつもあたしの心の中読めんのか…やだなあ。ニノミヤのことは最近にな
ってやっとあきらめついたけど、出会ったばっかりのコイツに心を読まれんのはヤな
感じだ。
うーっ、無心、無心…。
「ほぉ〜〜〜、あんたやっぱり『まだ』なんだな」
むかー。あんたには関係ないじゃんよ!あたしはニノミヤとか加奈先輩とか鈴緒とか
みたいに軽く考えらんないだけだし!だいたいニノミヤは加奈先輩のことばっかしで、
あたしとはこの部屋にいるってだけで他に関係ないし!
「スズオがもう済んでるんで焦ってるんだろ?」
黒鬼がニヤニヤしながら言った。
うっわー、ヤなヤツ!別に鈴緒がどうだとか気にしてるワケじゃないっつの!…確か
に焦ってないって言えばウソだけどっ!でもそれだけじゃないもん…。
「オレとスズオのことだって興味大アリなんだろ?本当のところどこまで行ってんの
か、知りたいんだよなっ?」
ギャー!い、い、言わないでー!
あたしは自分の顔が真っ赤になってんのが自分でわかった。だってすっげー熱いもん。
黒鬼が言ってることが(まー、心が読めるからトーゼンなんだけど)全部当たってる
って答えてるよーなもんだ。
「やってるよ」
黒鬼はさらっと言ってのけた。
あー、やっぱりそうなんだー。分かってたことだけど改めて言われるとなんか落ち込
む。あたしだけカヤの外って感じかー。
「今日はあのカナってやつと会うって言ってたなあ。じゃ、アレも一緒か」
ゲ…!
さ、3人?3人で?
3人でなにやってるわけ?
あたしがいろいろ考えながら口をパクパクさせてるのを、黒鬼はずっとニヤニヤしな
がら見てた。
「…じゃあ教えてやろっか?スズオがどんな風にやってんのか?」
別にいんないよ!っては言ったけど、黒鬼にはあたしの気持ちはバレてる。あたしの
言葉を無視して、スッ、と近づいてきた。ニノミヤもそうだけど、移動する時に音が
しないから気味悪いっつの!
いったん黒鬼は自分の顔を手で覆いながらうつむいて、すぐに顔を上げた。
でっ!
その時、あたしの目の前にあったのは鈴緒の姿だった。いや、黒鬼なんだけど、どう
みても鈴緒の顔だ。髪も短くなってるし、背もあたしより小さくなっちゃってる!た
だ肌の色は相変わらず黒い。
「スズオが好きなんだよ、こうしてやるのが」
じゃっ、じゃあ…鈴緒って…自分の姿とするワケ?
ヒー!
いや、鈴緒らしいってばらしいけど…。
でもやっぱり怖!
「一箇所違うところがあるぜ」
と言って黒い鈴緒は着物の前をまくって見せた。ギャー!ついてる!ついてるよ!
あたしが言葉も出ないほどビックリしてるところを見て、黒鈴緒、っつーか黒鬼はゲ
ラゲラ笑い転げる。
しょーがないじゃん、そんなに免疫ないんだから!
「じゃっ、こんなのどーだあ?」
黒鬼がまた顔を隠して、次にあたしに見せたのはニノミヤの顔だった。でもやっぱり
黒いけど。
でもあたしはその姿に十分ドキッとした。
「あんた、正直だなあ」
声までニノミヤになってる。
黒鬼があたしの手をつかんだ。とっさに手をひっこめようとしたけど動かない。すっ
ごい力だ。ニノミヤの顔で、ニヤニヤ笑ってる。
危ない。コイツは危険なヤツかもしんない。っつーかいまさら遅いだろ!なんつって
心の中で自分につっこむあたし。
いや、そんな場合じゃないか。
心臓の音がすごい。首のとこでドクドク言ってるのが分かるくらいだ。
ここはイヤ、って言うところだ。
イヤって言わなきゃなんない。
まずい。
まずいまずいまずい、これはまずいぞー!
コイツはニノミヤじゃないぞー!
イヤって言ってやめる相手だろーか?
ん?あたしニノミヤとそんなにしたかったんだっけか?
確かに好きだとは思ってるけど…。
でもニノミヤはあたしには興味がないわけで、ニノミヤはこんな風にあたしを見ない
し、えーっと…なんだっけ?
とにかく混乱してたあたしだった。
黒鬼はあたしの手を自分の方に引き寄せて、唇であたしの指に触れた。
ガーン!
なんかに感電したみたいにあたしは全身がしびれて、体の力が抜けてしまった。思わ
ず床にヘタる。
「ククッ…」
イジワルそうな顔で、ニノミヤの顔した黒鬼は笑った。
「お前バカーーー!」
バターン!っていうドアが開く音とほとんど同時に鈴緒の声が聞こえて、ハッとした。
すっかり『あたしったら何を?』状態。
部屋の入り口を見ると、本物のニノミヤを後ろに従えた鈴緒がいた。
目の前のコイツは一瞬で元の姿に戻った。鈴緒の顔見て『ひゃーーー』みたいな悲鳴
を上げてる。
「おねぇちゃんになにすんだよっ!」
鈴緒はひゅん、っとジャンプして黒鬼に飛びかかり、着地と同時に頭の角をつかんだ。
そしてなんだかわかんない呪文みたいな言葉を唱え始めた。
「ギャーーーッ!いだだだだだ!痛ぇ!痛ぇって!だーーー!」
孫悟空か?
「…ちょっとアンタ、こいつ蹴って」
そう鈴緒に言われて、ニノミヤは実行した。黒鬼は窓からボールみたいにぽーん、と
飛んで、地面に落ちた。
「おねぇちゃあんっ!」
次に鈴緒はあたしの胸に抱きついてきた。
「ごめんねおねぇちゃん!もうアイツに二度とあんなことさせないからねっ!」
で、あんたらは加奈先輩んとこで今まで何してたわけ?と聞いてみたら鈴緒は
「勉強教えてもらってただけだよぉ。なんにも変なことしてないよぉ。エ?なにぃ?
もしかしてお姉ちゃん、やきもち焼いた?」
そう言って、てへっ、と可愛く笑ってみせた。
横にいたニノミヤはう〜ん、と唸ってあたしの頭を一回ぽん、と叩いただけだった。
何のリアクションだ、これ?
ニノミヤ、あたしを助けに来たのかなあ?お礼言っといた方がいいのかな?
「ボクが好きなのはおねぇちゃんだけだからっ!安心して」
それはそれで安心するようなことじゃないんだけど…。
で、鈴緒はまたあたしに抱きついたのだった。なんかうまくごまかされた気分だ。

まだ当分、あたしのモヤモヤした気分は続きそうだ。

                                   END

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