メルマガ:ちょっとだけHなお話し
タイトル:ちょっとだけHなお話し2  2003/03/31


鬼のニノミヤ2

「ねえ、あんたんちさあ、鬼…とかいない?」
と、あたしはある日いきなり一コ上の加奈先輩から話しかけられた。
いちおートボけてみたけど、顔にでちゃってんのかやっぱムダだった。
「いるんでしょ?こーんな長ーい髪のヤツ。で、こんな長いツノ生えてんの」
それはまさしく!あたしに取り憑いてるニノミヤのことだった。先輩が顔真似までし
て見せたんで間違いなかった。知ってるんなら隠さなくてもいいか、って思ってあた
しは頷いた。
加奈先輩はガッコの有名人だ。美人でスタイルがいい。そんで大人っぽい。あと霊感
が強いって噂だ。ニノミヤのことをなんで知ってんのか知らないけど、多分その霊感
が関係あるんじゃないかって思った。
加奈先輩は今日、強引にあたしん家に来ることに決めた。こんな美人がニノミヤの知
り合いってゆーのはかなりフクザツな気分だった。もしか、恋人?
あたしが加奈先輩を後ろに連れて、部屋に戻るとニノミヤはベッドの上で寝転がって
携帯テレビを見ていた。
「よぉっ」
って、あたしの顔も見ないでいつものよーに言う。
「…あんたぁっ!やっぱり!」
後ろの加奈先輩はニノミヤを見るなりコワーイ声でそう叫んだ。とたんに、ニノミヤ
は感電したみたいに毛を逆立ててコーチョクした。
こんなに動揺したニノミヤは初めてだ。なんか面白い。
「お、お前…うわ…!」
加奈先輩がベッドに近づくと、ニノミヤはなんとかコーチョクを振り払って立ち上が
り、素早く消えてしまった。なんか都合が悪い時のニノミヤのテだ。
「待ちなさいっ!今ここであんたの名前を呼んでもいいんだよ!いいの?二人に従属
することになるよ!」
低くて凄みのある加奈先輩の声が部屋中(つっても六畳間だ)に響くと、肩をすくめ
たニノミヤがまたそーっと現れた。
名前?従属?ニノミヤがいつも言ってる、人間にホントの名前を知られちゃいけない
っていうのと関係あんのかな?
「よ、よぉ…ヒサシブリ…」
ニノミヤが牙のはえた歯を見せてニッ、て笑った。でもちょっと情けない笑顔だ。
「久しぶりじゃないよっ!あたしが気づかなかったのをいいことに、よその女といる
なんてサ」
なんとなーく加奈先輩の口調が変わってきた。まるでカレシに甘えてるみたいな感じ
で、キゼンとしたいつもの加奈先輩とは別人みたい。
「分かってんだろ?俺はお前ぇと暮らしたこの土地から一歩も離れてないぜ」
「…んもぉ…なんであたしの呼びかけに応えてくれなかったんだよぉ。気づいてたん
だろ?」
じわじわとベッドに近づいて、ついに加奈先輩はニノミヤに抱きついてしまった。う
ううわあああぁ…。
「あんたの言いつけ通り、きれいな体で待ってたんだからねェ」
「ほんとかぁ?」
ニノミヤは下くちびるをぷっ、と突き出した。こいつがやらしいこと考えてる時の顔
だ。
「あー、わりぃ。ちょっと出かけてくっから」
って言って、ニノミヤは加奈先輩ごとどっかへ消えちゃった。
なんだよもう、突然!勝手に!
自分があたしにつきまとってたクセに!なーにが『わりぃ』だっ!あんたがいなくな
ってせーせーするんだからねーだっ!二人でどこいってなにする気だっ!やーらしい
っ!やーらしいっ!
あたしは取り残された部屋で、ニノミヤがいつもいるベッドに向かって物を投げて一
人で暴れた。

ニノミヤがいなくなって一週間が過ぎていた。あれから加奈先輩も学校に来ない。最
初はちょっと寂しい気もしたけど、ま、ホントはこれがフツーだ。人間じゃなくても、
中学生が男と住んでるなんてのがそもそもイジョーなんだよね。
久々に一人になった部屋で、あたしはかなりのびのびしてたけど、でもやっぱり寂し
い方が強かった。
ニノミヤ、もう帰ってこないのかなあ?
ニノミヤ、このまま加奈先輩と暮らすのかなあ?
なーんて思いながらベッドん中でウトウトしてたら、
バサッ
って音がして、顔に硬いものがかぶさってきた。いっしょーけんめい顔にかかってる
ものをどけてみると、思ったとおりニノミヤだったけど、一週間前とぜんぜん違う顔
してた。なんつーか頬が細くなって、顔色もすんごい悪くて、目の下が真っ黒になっ
ていた。
「…お、俺、し、死ぬ…」
と、やっとそれだけ言って、あたしの体の上にまた倒れた。お、重い…。
ん?ニノミヤってもー死んでんじゃなかったっけ?って思ってたらあたしの心を読ん
だニノミヤが顔をつっぷしたまま言った。
「バッカヤロー…死なねーってことはなぁ…死ぬほどの苦しみも耐えなきゃなんねー
ってこったぞー…」
いいけど、ニノミヤの顔があたしの胸ん中入ってんだよね…。息もかかるし…。
「それは大げさだけどな、俺を助けてくれ…」
さっきよりちょっと落ち着いた声で、ニノミヤは言った。
助ける?助けるってなにすんの?
「悪ぃんだけどな、こんな形で…」
ニノミヤの手があたしのパジャマの胸元をつかんだ。
え、ウソ?まさか?
バリバリ、って音がして、次の瞬間パジャマが溶けてなくなってた。自分のカッコを
見ると、下着もはいてない。
ウソ!なにこれ?なにこれ?なにこれ?
ってゆうか体動かないし!声も出ないし!ニノミヤなんかした?
ヤダー!こんなのヒドイよー!
ってゆうかってゆうか、あたしどこにいんの?ここあたしの部屋じゃないよ!豆電気
つけてたのに真っ暗だし!ベッドに寝てたのに下なんもないし!
ギャー!イヤー!
「ダイジョーブだって、お前ぇの膜には傷つけねぇから…」
なにが大丈夫なんだよー!マクってなんだよー!声が出ないよー!体が動かないよー
!恐いよ恐いよ恐いよー!
ニノミヤ、ヒドイよー!

次の日、あたしはベッドの上で目がさめた。あの後のことは全然覚えてない。そんで
溶けたハズのパジャマは元に戻ってる。下着もつけてるし。
でもなーんか、すんごいエッチなことされたよーな気がする!そんでなんでか足が両
方ともすんごい筋肉痛になってた。いったい何したんだよ、もー!
「よぉっ」
って、なーんにもなかったよーに元気になったニノミヤはあいさつして来た。
「ヤツは…ああ、今はカナって言うのな。昔…百年くらい前俺が可愛がってやってた
遊女でさ」
あたしが怒ってしつっこく聞いたんで、しぶしぶニノミヤは説明を始めた。
ん?遊女って?
「ちっと違うけど…ソープ嬢みてぇなもんだな」
そ、そーぷじょおおお?
「今みてーにブランドのバッグが欲しいから男と寝て金取んのとはワケが違うんだぜ。
いや、まあそんなこたどうだっていいんだ。その頃の遊郭がこの場所だったんだ。俺
はその頃からここにいてな。ちょうどこの場所が、カナの部屋だった」
とんとん、と指で床をつっつく。
「なんつうか感覚の鋭い女でさあ、俺のことはすぐ見つけたわ。でも生まれ変わって
少し鈍ったかな。なにしろ今回は俺を見つけるまで十五年もかかったんだからな」
で、話しによると、前世の加奈先輩は鬼のニノミヤをちっとも恐がんないで、んで恋
人同士になったんだけど、人柱にされちゃったそーだ。で、人柱って?
「あーもう!いちいち面倒くせーな!生贄のこったよ!でな、まあヤツがあんまり哀
れなんでよぉ、つい仏心出しちまったのがマズかったよなぁ」
ぷっ。鬼が仏心だって。
「うるせえなあ!俺の話し聞きてーのか聞きたくねーのか?」
ニノミヤはぺしっと指先であたしのおでこを叩いた。なんだよお、別にうるさくして
ないじゃんか!
「俺はその頃、よっぽど執心してたんだろーな…こっそりヤツの体を持ち出して、生
き返らせちまったんだ。今はほんっと後悔してる!あんな執念深い女だったとはよー」
んなこと言って、ヤッタくせにぃ。あたしは一週間前のニノミヤのやらしい顔を思い
出してた。そんでまたおでこを叩かれた。
「死んだ人間を生き返らせるのはすっげー大変なんだ。俺の血と、俺の名前を使って
術をかけなきゃなんねえ。俺たち鬼にはな、名前を知られた人間には従属しなきゃな
んねえって掟がある。ヤツを蘇らせたことで、俺はヤツに名前を知られた。そんでき
っかりヤツの寿命がつきるまで俺はヤツの僕だったワケだ。ヤツが死んで、俺は自由
になったんだが、転生してまで俺のことを覚えてるとは…。チクショー!またこれで
ヤツの奴隷だぜ…!」
フンガイしてるニノミヤをボーっと見ながら、あたしは本当の名前について考えてた。
明日加奈先輩に聞いてみるかな?とか思ってたらニノミヤはまたあたしの心を読んで、
おでこを叩いた。
(前の)加奈先輩の寿命がなくなる直前、ニノミヤは再会の約束をめーれーされたそ
うだ。加奈先輩の奴隷だったニノミヤは言うこと聞くしかなかったって言ってるけど
…ホントは加奈先輩のこと好きなだけなんじゃないの?
「お前ぇ…今まで俺の話し聞いてなかったのかよー!」
と、ニノミヤは涙目で言った。

ニノミヤはあれからよくいなくなるようになった。そんな時は加奈先輩に呼ばれてる
らしい。そんで何日かするとよれよれになって帰って来る。その後あたしは決まって
なんかされる。そんで次の日はものすごく足が筋肉痛で、歩くのもツライ。
加奈先輩とニノミヤがどんなことしてるのか、ニノミヤがあたしになにしてるのか、
あたしは知らないし、ニノミヤは教えてくんない。でもよくニノミヤは、
「鬼の血が混じった人間は鬼よりこえぇーぞ」
と、漏らしている。
                                           END

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