メルマガ:片山通夫のnewsletter「609studio」
タイトル:609studio No.791 ◇現代時評《プーチン訪日狂騒曲》:片山通夫   2016/12/20


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【609 Studio】メール・マガジン 2016年12月30日 No.791
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   フォト・ジャーナリスト片山通夫のメールマガジン。Lapiz編集長・井上脩身
氏の現代時評、ロシアやサハリンの話題、編集長のコラムなど多彩な話題満載! 
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◇現代時評《プーチン訪日狂騒曲》:片山通夫          
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 2日間の「狂騒」が終わった。プーチン大統領に振り回された2日間だった。
したたかという言葉を具象したような大統領だった。赤子の手をひねるがごとく
安倍首相を翻弄した。

 日本のマスコミも全く反省がない。夏の終わりころから「北方領土返還」に対
する疑問と言えば「2島なのか4島なのか。いや平和条約が先だろう。経済水域
の拡充が・・・」NHKも含めて大狂騒曲が大音響で国中に流れた。そして経済
協力だけがクローズアップされて、プーチン大統領は予定時間通りに帰国した。

 ロシアのマスコミは北方領土に対する考えは強硬だし、一貫していた。例えば
次のような論評が12月17日のスプートニクのサイトに掲載された。
 《プーチン大統領訪日の意義は非常に大きい。近い将来に領土問題が解決され
るとは期待しないほうがいいにしろ、共同経済プロジェクトの発展を通じて両国
は信頼関係を築くことができるようになる。モスクワ国立大学アジアフリカ諸国
大学東洋諸国政治学部准教授でロシア国際問題評議会の専門家イリーナ・ロマー
ノワ氏はそう見ている。》
https://jp.sputniknews.com/politics/201612173145108/

 それに引き換え、我が国のマスコミの情けなさは通り一遍の言葉では言い表せ
ない。NHKは《焦点となっていた北方領土での共同経済活動について、「平和
条約締結に向けた重要な一歩」と位置づけ、四島を対象に行うための特別な制度
を設ける交渉を開始することで合意しました。これに関連して、安倍総理大臣は
「この会談をもって、平和条約の問題、北方四島の問題が解決したわけではない
が、本格的な議論をスタートさせることができた。今後、ロシア法でもなく日本
法でもない特別な制度を、これから専門家が協議を行っていくことになる」と述
べ、ロシアや日本の法律とは異なる、新たなルールを検討していくことになると
いう認識を示しました。》と伝えた。

 まったく、立場が違うので一概には言えないとは思うが、どうしてNHKは「
ロシアのメディアを引用して伝えないのだろうか」という疑問が残る。おそらく
プーチン大統領は、G7が行っているロシアへの制裁網に「風穴を開けられた」
と高笑いしているに違いない。おまけにクリミアやウクライナの状況に遺憾の意
を表しているオバマ大統領の鼻を明かしたわけである。プーチン大統領の圧勝と
言っても言い過ぎではないだろう。

 ロシアの太平洋艦隊の太平洋への出口は北方領土の海峡である。もし歯舞・色
丹を日本に返還(ロシアでは《贈呈》という)すれば、アメリカが、沖縄のよう
に「米軍基地を作る危険がある」とロシアが考えるのは当然の帰結だ。我が国の
マスコミはそんなこともわからないのかと思う。首相官邸が安倍首相の意を汲ん
でそのような考えを表に出すとは思えないが、日本のマスコミの《安倍政権に取
り込まれている》状況がより一層明らかになった《プーチン訪日狂騒曲》だった。

 この2日で何が変わったか?
 話は簡単である。領土は戻らない。しかしバラマキ好きの安倍首相のことだ。
経済協力は惜しむまい。しかしこれは従前からわかっていたことである。

 そして「片手でイラクやウクライナで戦争をしながら、ボンボン首相の手をひ
ねった」だけである。
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◆「スプートニク」 >>> 引用元    http://jp.sputniknews.com/
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◆情報通信・ラジオ「スプートニク」(HOME)
 http://jp.sputniknews.com/

◆日本関連
 http://jp.sputniknews.com/japan/

◆国際───────────────
 http://jp.sputniknews.com/world/

◆ロシア国内───────────────
 http://jp.sputniknews.com/russia/
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不条理ショートストーリー19
      「闇は限りなく愛を奪い、愛は惜しみなく与えられる」
                             白石阿光
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悪魔は私の心の中で呟く。
「現実と理想は両立しない。理想を実現しようとすると、必ず犠牲が出る。それ
をごまかすのを偽善というのだ」
 天使は私の耳元で反論する。
「現実だけでは幸せは手にできない。理想を実現しようとする力こそが現実を変
えるのです。理想が遠い存在だからといって諦めたら終わりです」
 悪魔が言う。
「理想を求めようが求めまいが、結果がよくなろうが悪くなろうが、すべてこの
世にあるものは現実だ。理想を掲げれば掲げるほど現実から遠くなり、生活がで
きなくなる。人間は欲望の力が大きいので理想を求めることなどできないのだよ」
 天使も言う。
「現実の中にすでに理想は存在しています。希望や夢、前を向く力、助け合う力、
すべて理想から出発しているのです」
悪魔も言う。
「それらはすべて単なるご都合さ。人間はきれい事が好きだからね。だが、食え
なきゃ人は人を助けないし、生きられなけりゃ希望も夢もないのさ」
「人の存在はすべて善ですから、あなたが言う現実がたとえ醜いものに見えても
結局は善につながるのです。その証拠に戦場でも助け合いは存在しています」
「戦場では殺し合いをしているぜ」
「戦いで紛争は解決しないので戦いが続いているのです。戦いをやめれば戦いは
なくなります」
「でも紛争や憎しみ合いはなくならないだろう。結局それが現実なのだ」
「でも戦いをやめなければ紛争や憎しみ合いはなくならないのです」
「憎しみも愛も人間の性だから、何をしてもなくならないさ」
「どっちが理想かを確信できれば現実も変わります」
「愛や信頼は裏切りによって簡単に崩れる。理想は現実に簡単にひっくり返され
る。理想はもろく、現実は強固だ」
「理想はもろく見えても消えません」
悪魔が言った。
「いくら言っても、できもしない理想を掲げると必要以上の犠牲が出るんだ」
 天使も言った。
「それは偽善だからです」
「偽物でない善を見たいもんだぜ」
「私も見たい...」――天使はしゃがみ込んだ。

☆☆☆◇☆☆☆☆☆☆□☆☆☆☆☆◇☆☆☆☆☆◇☆☆☆☆☆◇☆☆☆☆☆
 中学校で校内暴力が吹き荒れた時代でした。
 県庁所在地にあるその中学校では毎朝のように何かが起きていました。先生が
登校すると、窓ガラスが割られていたり、廊下に水が撒かれていたりしていまし
た。

 そのすぐ近くに塾がありました。私が友人と共同経営する学習塾です。
 塾を始めようとしたときには理想に燃えていました。ただ勉強を詰め込むだけ
の学習塾にはしない、勉強が好きになる子を育てるんだ、登校拒否の子も受け入
れよう、学習障害の子にも対応しよう、人間的なつながりの中で教育をやるので
あれば自分たちも人間的でなければならぬ、雇用被雇用の関係ではなく、理想を
共有しよう、働く時間に比例した報酬を得るのではなく、必要な人には必要なだ
け、すなわち子供の教育にお金が必要だったり、家族が病気している人は多く、
そうでない人は少なくもらう、人間共同体としての理想をめざそう――。

************************************

 その塾では恐れたとおり、荒れた学校の空気がそのまま持ち込まれた。学習塾
に勉強しに来ているはずの子供たちは、親の期待に反して勉強しようとはしなか
った。7、8人まではよかったが、1クラス10人を超え15人くらいになると“問
題児”が2、3人混じり、統制が効かない。プリントをやらないのは序の口、無
駄話を続けて講師の声が聞こえなくなる、「先生、数学をやって将来なんの役に
立つんですか」とわざと質問する、あげくの果ては席を離れてぶらぶらする者ま
で現れた。最初の頃はやさしく答えていたものの、真面目な子の冷たい視線を感
じてキレた。うるさい子供たちに向かって怒鳴り付けた。「静かにしろ!」。最
初は効いた。だが、すぐに騒がしくなる。席を決め、ときに席を変えたりもした。
塾が終わってから授業を妨害する子と個人的に話し込んだりもした。大人しく話
を聞き、わかったと言って帰るものの、次の授業ではまた騒ぐ、ということを繰
り返した。
 一緒に働く友人は、授業のはじめに「黙想!」と号令、1分間ほど目を閉じさ
せ、静かにさせていた。私は、それが管理教育に見え、校内暴力の背景と重なっ
て導入できなかった。

 ある日、中学1年生のクラスで背の高い男の子がブラブラと教室内を歩き始め
た。注意をしても効かず、私はカーッとなって子供の胸ぐらをつかんだ。
「座れ!」。子供はぎょっとしたようだったが、私の手を振り払おうとした。私
は力を入れ直しぎゅっと握り返すと、二人の体がくるくる回って、外に飛び出し
た。私は我に返って手を離した。
「こんな塾なんかやめてやる」
「ああ、やめろ!」
 子供は帰り、授業が再開された。

************************************

 少しでも塾を明るくしよう、自分たちは何があってもあなたたちを見捨てない
という姿勢をわかってもらいたいと、生徒を迎え入れ、見送るときに努めて明る
く挨拶を続けました。“愛の一声運動”と自分に言い聞かせたのです。  
 あるとき中一の女子生徒が、「さよなら」と声を振り絞って見送る私の前を通
りすぎる一瞬、「死ね!」と言って帰って行きました。氷のような冷たい目が私
の脳裏に焼きつきました。
 その日、どうしても家路につけない私は家庭訪問をすることにしました。すで
に夜も更けて時刻は午後11時に差し掛かっていました。
 「どうして気にすんの。みんな普通に言ってるよ」――女子生徒は不思議そう
な顔をして私に答えました。

************************************

「康弘くん、田中くんと一緒に帰るんじゃなかったの」
「うん」
「親友じゃなかったっけ」
「ううん」
「なんかあったの?」
「別に」

 つい最近まで田中くんと肩を組んで歩いていた康弘くんは、いじめられないた
めに群れの中に入っていただけだった。力関係が変わったのだろう。今では挨拶
さえしない。心まではつながっていなかったのだ。いや、心がつながるような関
係ではなかったのだ。肩は組んでも心は別々。みんな寂しい“仲間たち”。

☆☆☆☆☆☆☆◇☆☆☆☆☆☆□☆☆☆☆☆◇☆☆☆☆☆◇☆☆☆☆☆◇☆☆☆

 この国では、1970年代の終わりごろから校内暴力が社会問題化した。
 校内暴力とは、学校内で発生した対教師・生徒間・対人への暴力や器物損壊を
合わせた暴力行為である。1983年には全国の中学校10,314校の13.3%にあたる1,
373校で3,547件の事件が教育委員会によって報告された。
校内暴力は、80年代後半には終息に向かい、1986年以降は比較的安定的に推移し
たとされる。代わって学級崩壊やいじめが急増し、子ども同士の殺人事件や家族
を手にかける凶暴事件も社会問題化してきた。しかし、校内暴力の問題が解決し
たわけではない。実際にバブル崩壊後の平成5年辺りから急激な増加傾向を示す
ようになり、2000年度には約3万5000件という数値になった。問題は積み重ねら
れ、多様化し、複雑化しているのだ。校内暴力が沈静化したのは、管理教育が徹
底したからと言われている。体育の教師が前面に押し出され、生徒への暴力が増
えたという話もある。いじめがクローズアップされたのは矛盾が生徒の内面に押
し込められたという側面を忘れてはならない。

 一方では統計の取り方の問題もある。社会問題は意識されたとたんに数値化さ
れるが、それ以前から厳然として存在しており、さらに基準の設定によって数字
はいくらでも変わる。したがって、数字の動きだけで社旗問題を論じてはならな
い。実際、校内暴力事件の件数の数え方は、1996年度以前と1997年度以降、2007
年度以前と2008年度以降で変わっており、単純に数値を比較することはできない。
1997年に決められた認定基準では、文部省が暴力行為を類型化し、認定基準を細
かく設定した。対教師暴力では、「教師の胸ぐらをつかんだ」「教師めがけて椅
子を投げつけた」「教師に故意に怪我を負わせた」などの具体例を示し、子ども
たちの行動の背景が抜けたままで校内暴力のイメージを方向付けた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 あの時代は身も心もズタズタでした。若さだけで走り回っていたようなもので
す。でも理想は捨てるまい、目の前に自分たちを必要とする子や親がいる、学校
や地域で孤立している人もいる、一人でも感謝してくれる人がいる限りがんばろ
う、という思いでした。
 塾で気になる子がいたら深夜でも家庭訪問をしました。親と一緒のせいか、ほ
とんどの子は家で話をすると普通のいい子なんです。「塾ではどうしてもああな
っちゃう」――しみじみ話をしてくれます。心がつながったと思って帰るのです
が、しかし、次の授業ではやはり同じように授業で騒ぎます。学校での人間関係
から格好をつけてしまうと言うのです。
 学校ではらせない鬱憤を塾で発散していた子もいただろうと思います。どの子
も自分をコントロールできないでいました。「この子たちは愛情に飢えている。
抱きしめてくれる大人がいない」ということに気がつきましたが、私自身はどう
すればいいのか、わからないままで毎日が過ぎていきました。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 1980年ころ、あるヨットスクールで、子供たちの死亡や海での行方不明が相次
ぐという事件が発生した。指導者が教育を理由に加えた体罰で子どもたちが死ん
だり、ヨットから海に突き飛ばして行方不明にさせたりしたというのだ。暴力性
のある子や精神障害のある子に、自然の厳しさ、スポーツの喜びを体験させるこ
とで自らの行動を律することを身に付けさせるというものだったが、校長やコー
チらが傷害致死の疑いで逮捕され、行き過ぎた指導だと非難された。悲惨な事件
ではあったが、同調する人もいた。その人たちは必ずしもスパルタ教育論者だけ
ではなかった。手に負えない子どもを持った親や指導する教員は疲れはてていた。
どこにも光が見えない状況に追い込まれた人の中には、スポーツの教育力に頼り
たい人もおり、心のどこかで強い力に頼りたいという“本音”に近い感情を抱い
ても不思議ではなかった。実際、23年後に刑務所から出てきた校長は、これから
もヨットスクールをやり続けると宣言した。それだけの社会需要があったのかも
しれない。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 「考え方は一つじゃあないんだよ」「模範解答と違うやり方でも本当に間違い
とわかるまでやってごらん。それで解けることもあるよ」――数学の授業では、
子供たちが陥る考えのすべてについて解説し、別解があることを教えようとしま
した。回り道でも自分の考えでいいときもある、ということをわかってほしかっ
たのです。でも、子供たちは嫌がりました。「先生、学校で教えるやり方だけで
いいです」「試験で書く答えを教えてください」「いろいろ言われてもわかりま
せん」――子供たちは模範解答だけを欲しがりました。問題の数だけ答えを覚え
ようとするのです。それは完成することのない、無限の努力を要する道です。
 予備校で、大学受験生に物理の別解を教えるときにも同じようなことがありま
した。学校で詰め込み教育を受けている子どもたちにとっては当たり前と言えば
当たり前のことなのかもしれません。

************************************

 できない子供には塾の授業のあとも残して教えました。できない子たちは、
どこかの時点で勉強につまずき、学校の授業に行いていけなくなったのです。そ
こまでさかのぼって教えようとしました。模範解答を覚えられず、自分は頭が悪
いと思っている子に、数学は覚えるのではなく、やり方が分かれば全部できるよ
うになるんだよ、とさとし、ないか、納得しないと次に進めない子に、諦めない
でもう少し考えよう、こう考えたらどうなる? と励まし、あの手この手を使い
ました。多くの子は面倒くさがりました。でも、やってみるか、と考え始めた子
がある日突然「わかった!」と声を弾ませたときには、ああ、これが教育の醍醐
味だと思ったものでした。それが続かないのも現実で、辛抱、辛抱と己に言い聞
かせながらでしたが、こちらが必死で教えようとしている気持ちはわかってもら
えたと思います。もしかしたら、こんなに一生懸命やってくれるのだから付き合
ってあげようと思っていたかもしれません。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 できない子や乱暴な子もよく面倒を見てくれるというので、そういう子は残り、
親からも感謝されることもあったが、問題児がいる塾には行きたくないというの
で、成績のいい子やおとなしい子は塾をやめていき、塾の経営はどんどん悪くな
った。逆に負担は増えていった。

 その塾の生徒数が減り、赤字経営が常態化するなかで、僕は自分で教えるかた
わら他の仕事にも精を出した。予備校の講師、編集者、フリーライター。受験雑
誌への原稿料やラジオパーソナリティ出演料などは仲間の講師料として消えた。

 そんなとき、若い講師が言った。「あんたは経営者だろ!」。塾の経営状況も
ざっくばらんに伝え、意見を聞こうとしたときだった。
 
そのとき、私の中で何かが弾け、何かが崩れ落ちた。

*********************************

 悪魔が破片を拾った。「ほうら言わんこっちゃない。お前の偽善のせいでどれ
だけ犠牲者が出たかわかりゃしない」
 天使が破片を受け取った。「あとで繕っておきます」

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 友人は経営の建て直しについて真剣に考えていた。
 当時の高校入試に対する中学校の指導は、民間が主催し、県内のほとんどの中
学校が採用する全県共通模試の成績と内申点(調査書の成績)で受験高校を決め
るというものだった。学習塾はその全県共通模試でいい成績をとらせることが大
きな目標になっていた。
 そのシーズンに入って間もない頃、友人がすでに模試を実施した学校から問題
を入手したという話を聞いた。確かめると、これから模試を実施する学校の生徒
に問題を教えると言う。当然のことながら議論が始まった。「生徒にいい成績を
取らせていい高校を受けさせたい」「他の塾もやってる」に対して「実力以上に
いい成績を取って、受けたい高校を受験しても落ちたら何にもならない」「不正
をやってると言われたら塾の評判は落ちる」と主張した。しかし、友人は譲らな
い。「中学校は成績をたてに必要以上に安全な高校を行けさせようとする。仮に
実力以上にいい成績を取っても本来受けられるレベルの高校を受けられるように
なるだけだ」と反論した。

 結果として、友人がどうしたかはわからない。そのままの問題を解説したのか、
類似問題を作ってやらせたのか、問題と同じ分野の知識を解説したのか、あるい
は何にもしなかったか。

 いずれにしても、私と仲間の間の認識はどんどんずれていくように私には思わ
れた。

************************************

 英語の授業をお願いしていた在日コリアン2世の女性は、いうことを聞かない
ばかりか反抗的な姿勢を見せる子供たちの前に立つ気を失っていた。私は「いろ
んな立場の講師が目の前にいるだけで意味があるんだから、がんばってくれ」と
説得した。が、「考える」と言ってくれた彼女の答えは「やはり無理」だった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

順番を間違えると大変です。
トイレでパンツを脱いでからおしっこをしても
問題はありませんが、
おしっこをしてからパンツを脱ぐと
ボケの始まりと言われます。

子どもの教育でも同じです。
叱ってから抱き締めると情のあるいい子に育ちますが
抱き締めたあとで怒るとグレます。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 変な塾ではあった。お母さんたちがグループを作り、日曜日に私を呼んで勉強
会を始めた。襟をつかみ合って塾をやめた子が、塾が終わる時間帯を見計らって
ふらっと顔を見せたりもした。塾が終わって深夜営業の八百屋に寄ると家庭内暴
力の相談を持ちかけられたし、塾の対象年齢ではない小学生の登校拒否の話も持
ち込まれた。

 小学生のときに心を開く場があれば、と思い、「表現力講座」と称して、好き
な文章を書いたり、発表したりする授業も開設した。私も一緒になって作品を発
表した。生徒はいつまでも二人しかいない教室だったが、一人は私立中学に入学
し、講座が役に立ったと親から感謝されたのはせめてもの救いだった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

愛は
心に溢れるほど注がれ
常に新しく
必要十分以上の存在でなければ
人は満足しない
だから、あるやなしや意識しなくてもすむ“空気”でなければならないのだ

ひとたび流れが途切れればまたたく間に闇が広がり
心に満ち溢れるまでに
どれほどの時間がかかることか

だが、愛はつきることがないから
必要なときに
必要な人に
必要なだけ
与えられる

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ときどき塾の帰りに寄って子どもたちの話をしていた八百屋のお母さんに言い
ました。
「塾をやめて外国に行くことにしました」
「えー、なんで?」
「ちょっと考えるところがあって」
「いてよ! この街に」
「でも塾をやめるし、いても忙しくて立ち寄ることもできないと思います」
「いいよ、それでも。同じ街に先生がいると思うだけで安心だから」
 ああ、ありがたい、と思いました。自分の存在を認めてくれる人が一人でもい
てくれる。私は何も言えず、動くことさえできませんでした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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◆《News Digest》:609studio編集部
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◇◇ニュースな一口メモ 【2島返還論】

 日本とロシアの間の領土問題となっている北方領土問題について歯舞群島と色
丹島の二島を日本に返還あるいは譲渡する案。日本の政治家やマスメディア、政
治団体などは主に返還として北方領土問題に言及することが多いが、ロシアの政
治家やマスメディアは首尾一貫して返還(ロシア語: реставрация)
ではなく「譲渡」(ロシア語: передачу)という立場を取っていること
に留意されたい。
 戦後期のサンフランシスコ平和条約締結後の二島返還論(二島譲渡論)と鈴木
宗男らの段階的返還論、ロシアの提示する二島「譲渡」論の3種類がある。

⇒まあ色んな「返還論」があるわけだが、日米安全保障条約がある限り、「返還
若しくは譲渡はない」というのが筆者の考えである。
 
◆◇News Digest◇◆

【プーチン大統領来日】領土交渉の「壁」は日米安保条約 露、オホーツク海の
要衝軍事化を警戒
http://www.sankei.com/politics/news/161217/plt1612170023-n1.html

安倍首相、歯舞・色丹返還「日ロ、まだ齟齬ある」
http://www.asahi.com/articles/ASJDK6K17JDKULFA00K.html

「2島返還+アルファ」望む安倍氏…会談直前に冷水浴びせたプーチン氏
http://s.japanese.joins.com/article/572/223572.html?servcode=A00&sectcode=A00

まるで“北方領土返るぞ詐欺” NHKもタレ流した大本営発表
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/195963

日本完敗、合意は負の遺産」 北海道大名誉教授・木村汎氏に聞く
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201612/CK2016121702000149.html

ロシア議員ら「平和条約不要」=プーチン大統領に公開書簡
ttp://www.jiji.com/jc/article?k=2016121000052&g=pol

北方領土はロシア固有=歴史認識でけん制−プーチン大統領
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016121600933&g=pol

遅刻魔プーチンの本当の「思惑」とは
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/12/post-6555.php

自民幹事長「国民がっかり」=日ロ交渉に異例の不満
http://www.jiji.com/sp/article?k=2016121600877&g=pol

ロシア法でも日本法でもない特別な制度で…首相
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20161216-OYT1T50125.html

プーチン氏の「分断工作」懸念=日ロの経済協力−米
http://www.jiji.com/sp/article?k=2016121600751&g=pol

首相、年明け解散を否定 「頭の片隅にもない」
http://this.kiji.is/182489729874003453?c=39546741839462401


緊密さは取り戻したが、共同経済活動には日本の譲歩が不可避か
https://jp.sputniknews.com/opinion/201612173144808/

ロシアとの結束強調=安倍外交に批判も−中国
http://www.jiji.com/sp/article?k=2016121600727&g=pol

共同経済活動、1面で報道=「領土解決にならず」−ロシア紙
http://www.jiji.com/sp/article?k=2016121600497&g=pol

プーチン大統領と安倍首相が長門で合意した10項目
https://jp.sputniknews.com/opinion/201612163143569/

日露首脳会談:経済活動交渉推進で合意 共同声明
http://mainichi.jp/articles/20161216/k00/00e/010/279000c


北方領土献上も同然 ロシア報道が伝えた安倍首相の裏切り
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/195962

領土問題ゼロ回答へ 安倍首相“プーチン恫喝”に大ショック
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/195877

安倍首相、米国入国禁止のプーチン側近にメッセージ送り“勅使接待"
http://s.japanese.joins.com/article/091/186091.html?servcode=A00&sectcode=A00

米、日ロ会談の東京開催自粛要請 決定前、包囲網への影響懸念
http://this.kiji.is/180363719405453319?c=39546741839462401

硬発言繰り返す=北方領土でロシア歴代指導者−日ロ首脳会談
http://www.jiji.com/sp/article?k=2016121000184&g=pol

北方領土に「共同立法地域」 政府検討 日ロ経済活動で
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/politics/politics/1-0347307.html

4島一括返還「見直し」が半数…元島民ら回答
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20161211-OYT1T50028.html

北方領土の一部、入域許可不要に ロシア「観光客誘致」
http://digital.asahi.com/sp/articles/ASJD65J06JD6UHBI023.html?iref=sp_rellink

北方領土献上も同然 ロシア報道が伝えた安倍首相の裏切り
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/195962

領土解決の力、プーチン氏にない 日ロ首脳会談、識者は
https://goo.gl/KJvJCu

北方領土問題、安倍首相「私の世代で終止符を打つ決意で」
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2936068.html

安倍プーチン会談 経済協力だけ食い逃げの亡国結末
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/195980

シベリア鉄道、まさかの北海道延伸? 日ロ会談前に浮上
http://www.asahi.com/articles/ASJD8627PJD8UTIL057.html?iref=sptop_8_01

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◆編集長から:片山通夫
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 師走ももう20日に。またまた新しい年がやってきます。今年は皆様にとって
どのような年でしたか?そして新しい年は?
 
 プーチン大統領はさすがにしたたか…。3000億円ともいわれる経済支援を
分捕って1ミリもの領土は渡さなかった。無論将来の約束もしなかった。

 ところで日露双方が「固有の領土」などと言っているようだけど、いささか異
議がある。本来、千島列島もサハリン(樺太)も、そして北海道もアイヌ民族を
含む北方少数民族のものだった。ただ彼らが「弱小民族」だったから、ロシア人
や日本人に飲み込まれてしまった。もしくはその土地を収奪荒れただけである。

 三重の人で松浦武四郎という方がいた。幕末から明治にかけて北海道や樺太の
地を探検して活躍した。北海道という名前の名付け親だと言われている。
 松浦武四郎はアイヌの言葉を良くし、その文化を尊敬したと言われている。プ
ーチン大統領がやってきて、安倍首相と会談したが、北方領土に関して、アイヌ
民族の立場は無論、その存在も一顧だにしなかったようである。ロシアは多民族
国家でかなり手厚い保護がなされている。しかし我国の政治家の頭の中には「単
一民族国家」だという頭が抜けないようである。

 松浦武四郎の生涯を今一度読み返してもらいたいものだ。

伝記文献[参考]
横山健堂『松浦武四郎』北海出版社、1944年
吉田武三 『白い大地 北海道の名づけ親・松浦武四郎』 さ・え・ら書房、1972年
新谷行『松浦武四郎とアイヌ』麦秋社、1978年
花崎皋平 『静かな大地 松浦武四郎とアイヌ民族』 岩波書店、1988年/岩波現代
文庫、2008年
佐江衆一 『北海道人 松浦武四郎』 新人物往来社、1999年
中村博男 『松浦武四郎と江戸の百名山』 平凡社新書、2006年
早川禎治 『アイヌモシリ紀行 松浦武四郎の『東西蝦夷日誌』をいく』 中西出版、
2007年
高木崇世芝・安村敏信・坪内祐三 『幕末の探検家松浦武四郎と一畳敷』 
INAX出版〈Inax booklet〉、2010年
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  発行    2016年12月20日 No.791
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