メルマガ:片山通夫のnewsletter「609studio」
タイトル:609studio No.750 ◆ 現代時評《5年目に思うこと》:片山通夫  2016/03/15


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【609 Studio】メール・マガジン 2016・3・15 No.750
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   フリージャーナリスト片山通夫のメールマガジン。Lapiz編集長・井上脩身氏
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◆ 現代時評《5年目に思うこと》:片山通夫
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  「日本はチェルノブイリの教訓を十分に学んでいない」ロシアのウエブサイト
でこのような論評がリュドミラ・サーキャンの署名で掲載された。
 記事では地震当時首相だった菅直人氏が《2015年10月のキエフでの会議「チェ
ルノブイリと福島での原発事故後、どのように世界は変わったか」で、次のよう
に述べた。《「私はこの福島原発事故が起きるまでは日本も技術の高い国ですの
で原発事故は起こらないだろうと信じていた。チェルノブイリの事故については
私も多くの日本人もニュースや報告書等で知っていた。しかし日本で福島原発事
故が起きたときに、こういう事故は起きないと東電も私も政府機関も思ってたの
で、残念ながら事故の時にチェルノブイリの教訓を十分にいかすことができなか
った。大変残念だ。》

 そしてリュドミラ・サーキャンはこう続けた。
 「今年で福島の原子力発電所の事故から5年、チェルノブイリ原発事故から30
年が経過した。福島第一原発事故は無論チェルノブイリの再発ではないが、ある
種の続きではある。教訓は達成からだけでなく、悲劇からも導出される。しかし、
チェルノブイリのすべての教訓が福島第一原発の事故処理の際に考慮されてはい
ない」

 まさにそうなのだ。チェルノブイリの教訓は今に至っても我が国では生かされ
ていない。

 この稿を書いているのは2016年3月11日金曜日だ。そしてまさに14時
46分を迎えようとしている。2016年2月10日現在、死者15,894人(宮城
県9,541人、岩手県4,673人、福島県1,613人、茨城県24人、千葉県21人、東京都7
人、栃木県4人、神奈川県4人、青森県3人、山形県2人、群馬県1人、北海道1人)、
行方不明者2,562人となっている。
                      ただただ合掌あるのみ。

 話を元に戻す。

 福島第一原発事故の3年前に東京電力が「津波対策は不可避」などとする社内
資料を作成していたことが分かった。日本テレビが入手した資料は「福島第一原
子力発電所津波評価の概要」と題されたもので、2008年9月に福島第一原発
で行われた会議で配布された。
(日本テレビ http://www.news24.jp/articles/2016/03/10/07324468.html)

 その資料には「現状より大きな津波の高さを評価せざるを得ない。津波対策は
不可避」との記載があるという。チェルノブイリの教訓もさることながら、自身
の手によって津波対策を評価したうえで「不可避の対策」と断じた東京電力は、
国民にいやそれ以上に先に述べた被害者にどう説明するつもりだろう?

 筆者は常々思っていたことがある。原発という危険な設備が当事者(通常電力
会社)の手によって「安全対策や調査報告」がなされていることに違和感を覚え
る。身近な例で例えると、自動車の運転免許の試験を「本人に申告させる」よう
なものではないのか。むろん試験場の検査はしかるべき役所が行う。この場合、
公安委員会だろう。そして自己申告で済ませるというのとどこが違うのだろうか。
 はっきり言って「そりゃごまかすよ」というものだ。

 大津地裁が稼働中の関西電力の原発の運転差し止めを認めた。関西電力は「
これで5月の電力料金の値下げは難しい」と記者会見で話した。一体何を根拠に
難しいのかわからない。もしこの事態(運転差し止め)で値下げをできないなら、
ここ何か月かの原油価格やガス価格の下落に関しての言及もしてしかるべきだが、
彼らはそうはしない。政府もその点については目を閉じたままである。

 チェルノブイリどころか、5年前の福島の、東北の教訓もわが日本では生かさ
れていないようだ。
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◆ショートストーリー07《無ストレス社会への絶望的渇望による情況展望》
                              :白石阿光
※通勤電車で書いたの通勤電車で読んでください(白石阿光)。 
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 B子:世の中、健康ブームですね。
A介:そやね。いろんな健康法があるらしいわ。
B:健康かどうかのバロメーターを教えましょ。あなたは寝付きがいいですか。
A:いいんですわ。布団に入るとコロン。バタンキュー。
B:はい、さいなら。
A:なんのこっちゃ。私はね、ふかふかの布団に入ると、幸せ一杯。神様、このま
ま目が覚めなくてもいいです。
B:なみあぶだぶつ。
A:そんなにしてまで、私を殺す気?
B:大丈夫です。目を覚まさせましょう、私の熱いキスで。
A:あべこべやがな、白雪姫!
B:そんでええねん。そうして王子様と白雪姫は結ばれました。めでたし、めでた
し。
A:よかったな。それでこのお話は終わりや。ハッピーエンド。
B:やがて二人の間に亀裂が入り、別れました。
A:続くんかいな。何でや。
B:小姑がいたでしょ。七人の小人。これがうるさい。
A:そっちか。
B:不倫はダメです。不倫は許さん。お姫様を裏切ったら、SNSで発散するぞーーっ
て毎日代わり番子に王子様の耳元で囁き続けるもんやから、王子様もいやんなっ
ちゃった。それでお城も家来も全部白雪姫にやって、旅に出ました。
A:あっさりしてるんやね。
B:さあ、このあと、この物語は、王子様のお話になるでしょうか。白雪姫のお話
になるでしょうか?
A:王子様の冒険譚かな、いや白雪姫の苦労話か。やっぱり、王子様や!
B:いいえ、この話はこれでおしまいです。

――王子様は自由気ままに放浪し、白雪姫は小人に囲まれて幸せにくらしたとさ。
  (ジャンジャン)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 その時代は後世になって“ストレス時代”と呼ばれた。それほどストレスがひ
どかったのだ。社会が消滅しかかったほどのストレスとはどういうものだったの
だろうか。

整形外科医A:ああ、これはひどい肩凝りですね。
患者P:原因は何ですか。
A:思い当たることはありますか。
P:ないです。
A:原因はストレスです。

内科医B:胃がしくしく痛むんですか。
患者P:そうなんです。何が悪かったんでしょうか。
B:ストレスです。
P:ときどき、胸が締め付けられるように苦しいんですが。
B:ストレスでしょう。

患者P:物忘れがひどく、ふと自分がどこにいるかわからなくなります。朝ごはん
を二度食べたり、風呂に二、三度入ったり、トイレでお尻を吹かないで出てきた
りするんです。
認知症専門医師C:典型的な認知症ですね。ストレスが進行を早めたのでしょう。
P:先生、治るでしょうか。
C:薬や作業療法で軽くなりますよ。でもストレスの分は残るでしょうねえ。

ストレス科医師D:全身性ストレス複合症候群ですね。なかなかやっかいな病気で
す。
患者P:先生、何とかなるでしょうか。
D:なりません。
P:どうしてですか。
D:あなたの場合、社会真因性ですから、この社会がよくならなければ治りません。

 1年が経過しました。

ストレス科医師D:おや、久しぶりですね。あのあと、どうでした?
患者P:病院に通わなくなったら、ストレスが消えてよくなりました。
D:治ったのに、なぜ当院に?
P:実は、まわりがストレス人間ばかりの職場で、一人だけストレスがないという
のはおかしい、仕事に対する責任感がないのではないか、ノルマが軽すぎるのでは
ないか、などと思われ、たくさんの仕事を与えられたのですが、どうせできもしな
いほどの仕事だから適当にやってればいいさ、と思うので、ストレス度はゼロのま
ま上がらないのです。
 ノルマをこなさないので給料は減るし、政府からのストレス手当ても打ち切られ
てしまいました。生活がたち行かなくなったので、入院してストレスを溜めたいと
思います。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 世界は極端な人口収縮期が続いていた。人口爆発が地球を破滅に導くと心配し
た時代はいつのころだっただろうか、今となっては懐かしく思い出される。近年
は、年に1億人減というペースで人口が減り、街で子どもの姿を見ることはなくな
った。

「このままでは私たちの社会がなくなってしまう」
「なぜ、子どもたちがいなくなったんだ」
 専門家が答える。
「ストレスです。」
「出産世代のストレスが強すぎて、くたくたです。精子も元気がなくなっていま
す」
「元気な奴はいないのか」
「元気があるのは政治家だけです。それと超ストレス社会を生き延びた80代で
しょうか」
「じゃあ、政治家と年寄りの精子を使うか」
「何を馬鹿なことを。それじゃあ性事家になっちゃうじゃないですか。実は、一
つだけ方法があります。社会からストレスをなくすのは無理です。そこで、私た
ちは、直接精子のストレスをなくす画期的な方法を考えました」
「それを早く言え。本当にできるのか」
「予算をつけていただければ」
「そんなまだるっこしいことをやってられるか。じゃぶじゃぶ使える国家危機対
策機密費を回そう」

 やがて、国家プロジェクトによって精子活力剤が完成した。コードネームは“
タサン”。最初にできた薬は、各地の精子凍結保存センターに運び込まれた。や
がて、塗り薬タサンパスや飲み薬ノムタサンが開発された。トナカイ印の注射液
タサンタサンも出た。増産に増産を重ねた結果、ほとんどの若者に精子活力剤が
行き渡った。

 ヒトの発生は、卵子の受精に始まる。一度に約1億匹の精子が卵子を目指して
鞭毛をくゆらして泳ぎ、たった1匹の精子が卵子と合体するのだ。精子活力剤で、
ストレスバテのためレース途中で脱落していた精子が活気を取り戻した。卵子を
目指して1億匹の精子が競う光景は圧巻で、群れをなして川をのぼるシラスウナ
ギをはるかに凌駕していた。

「どうだ。タサン効果は?」
「まだ有意な結果が出てきません」
「どうしてだ! どうしてなんだ」
「精子は元気になったんですが、卵子のストレスが残ったままです」
「それを片手落ちと言うんだよ。なぜ最初から両方やらないんだ」
「では、さっそく取りかかります」

 精子は、男性がどんどん新しく作ることができるが、卵子はそうはいかない。
女性は、生まれる時に卵子の元となる原始卵胞を卵巣に約200万個蓄えており、原
始卵胞は減ることはあっても新しく作ることはできないのだ。出産できるように
なるころには 2、30万個とになり、この細胞が卵子になって受精すれば妊娠−出
産へと進むことになる。

「精子活力剤から卵子活力剤を作るのにどのくらいの費用と時間がかかるのかね」
「わかりません」
「なぜだ」
「原始卵胞は、ヒトと同じ年齢ですから、ご主人様である女性と同じストレスを
蓄積しているのです。しかも、ご主人様は酒やショッピングでストレスを発散で
きても、原始卵胞は逆にそれがさらなるストレスになったりしますから、精子と
は比較にならないほどストレス疲れしているのです。精子活力剤程度では治りま
せん」
「それは深刻だ。陣容を拡大して、国家戦略として全力で取り組もう」

 政府は、軍事費を大幅に削って研究開発費を調達した。幸か不幸か、子どもが
減ったために使えなかった児童手当や出産補助費の分を回すこともできた。
 今度のコードネームは“ダサン”と決まった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

B子:健康かどうかのバロメーターを教えましょ。あなたは寝付きがいいそうです
ね。
A介:はい。
B:そういう人は不健康です。
A:なんでや。健康やろ。
B:いえ。ところがそうでないんです。問題はストレスです。あなたは、昼間の苦
しさから逃れようとして眠っていませんか?
A:そういえば、嫌なことを忘れたいと思うてます。
B:それでは何も解決していないのです。あなたの体のなかの60兆個の細胞の一つ
ひとつに貯まったストレスを発散させなくてはいけません。
A:どうすんのや。
B:寝てください。
A:だから寝てますがな。
B:60兆個の細胞が全部寝なければダメです。私がいい薬をあげます。あなたはリ
ンゴを食べるだけです。
A:どこかで聞いたような……。で、いつ起きんねん。
B:私がキスをしたときです。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 かつての人口収縮期を脱して、世界は安定期を迎えていた。出産数の管理は世
界連邦が統括するようになったので、地域格差も解消された。精子と卵子のスト
レスが解消されると人間のストレスも減少し、精活卵活社会推進法や三世代同居
助成法、いたわりあい共同体地域振興法、心痛用語使用禁止法などによって生活
も安定したので、無ストレス社会が実現した。
 すべてがうまくいっているようだった。

 ただ、病院は患者であふれかえっていた。そのなかに通院仲間と世間話をして
いる患者Pの姿もあった。
「この頃、暮らし向きはどうかね」
「どうかねって。知っての通り、世の中からストレスがなくなってからというも
の、人間から意欲というものがなくなり、金持ちも偉人もいなくなっちまった。
世のため人のためっていう人までいなくなって、人の分まで食べるものや着るも
のを作る人もいない」
「店も市場もなくなり、サービス産業も消えたもんね」
「生きていかなくちゃならないから、自分が食べる分だけは自分で作ってるね」
「それでいいんじゃない。あのひどいストレスがなくなったんだから」
「食べたい、生きたいっていうのは何なんだろうね。人は死にたくないと思うみ
たいで病院だけは満杯だ」
「しかも、病院でさえ金銭欲がないから、診察料は食料品に限るだと」
「おかげで俺は、病院に払う分まで野菜を作らなけりゃあならないから、生活は
大変なんだよ」
「じゃあ、ストレスが貯まるね」
「全然」
「なんで?」
「タサンタサン中毒なんだよ」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 王子様は流れついた岬の村で気ままに暮らしていました。白雪姫も自給自足を
しながらいつまでも小人たちと仲良く暮らしたということです。
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◆「ふろむ京都山麓」抜粋抄:みなみうら・くにひと                                                
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 休載です。
「ふろむ京都山麓」 http://blog.goo.ne.jp/0000cdw
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◆「スプートニク」 >>> 引用元    http://jp.sputniknews.com/
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◆情報通信・ラジオ「スプートニク」(HOME)
 http://jp.sputniknews.com/

◆日本関連
 http://jp.sputniknews.com/japan/

◆国際───────────────
 http://jp.sputniknews.com/world/

◆ロシア国内───────────────
 http://jp.sputniknews.com/russia/
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◆一口メモ 【チェルノブイリ原発事故】            
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 1986年4月26日、ソビエト連邦(現:ウクライナ)のチェルノブイリ原
子力発電所4号炉で起きた原子力事故。後に決められた国際原子力事象評価尺度 
(INES) において最悪のレベル7(深刻な事故)に分類され、世界で最大の原子力
発電所事故の一つである。
 事故発生時、4号炉では動作試験が行われていた。試験の内容はいわゆるスト
レステストで、外部電源が遮断された場合の非常用ディーゼル発電機起動完了に
要する約40秒間、原子炉の蒸気タービンの惰性回転のみで各システムへの電力を
充足できるか否かを確認するものであった。しかし、責任者の不適切な判断や、
炉の特性による予期せぬ事態の発生により、不安定状態から暴走に至り、最終的
に爆発した。(ウイキペディア)
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◆編集長から: 片山通夫
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 5年目の午後に書いている。あの大地震やその後の悲劇に思いをはせながら。
今なお行方の分からない方々がいるというのも辛い話だ。私たちは「風化」とい
う時間との戦いを今後もしてゆかなければならない。
 特に原発事故に対しては…。

 このメールマガジン創刊号から数えて750号目である。記念すべき節目の号
が、あの大震災とそれから引き起った数々の悲劇を風化させないための記念号と
なるよう祈るのみである。  合掌                      
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  発行     2016年3月15日  No.750
  発行     毎週火曜日  購読料無料
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