メルマガ:片山通夫のnewsletter「609studio」
タイトル:609studio No.732 ◆現代時評《日韓首脳会談の背景》:井上脩身  2015/11/10


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【609 Studio】メール・マガジン 2015・11・10 No.732
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   フリージャーナリスト片山通夫のメールマガジン。Lapiz編集長・井上脩身氏
の現代時評、ロシアやサハリンの話題、編集長のコラムなど多彩な話題満載!
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         重要なお知らせ《セコリョ新聞掲載終了》

セコリョ新聞読者の皆様。

サハリンで発行されてるロシア唯一の韓国語新聞・セコリョ新聞を2001年よ
り毎週掲載してまいりましたが、私ども以外のサイトでもセコリョ新聞の掲載が
始められておりますので、私どもが掲載を続ける必要性が低下してまいりました。

 今後は以下のサイトに集約するということで、当サイトでの掲載は、2015
年10月30日号をもちまして終了することとなりました。

 長い間のご愛読、有難うございました。皆様の今後の発展をお祈りいたします。
http://cafe.naver.com/sekoreasinmun (word file)
http://arirang.ru (pdf  file)
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◆現代時評《日韓首脳会談の背景》:井上脩身
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 安倍晋三首相と朴槿恵大統領との初の日韓首脳会談が2日、ソウルの青瓦台(
大統領府)で行われ、慰安婦問題について「早期の妥結」に向けて動き出すこと
になった。安倍首相が戦後70年首相談話で女性の尊厳について言及したことに
朴大統領が応えたもので、互いに一致点を探ることになった。だが、この裏に中
国問題があることを見落としてはならない。安倍首相の狙いが「中国封じ込め」
であるのに対し、「韓日・韓中等距離外交」に軸足を置く朴大統領は、歴史認識
問題については中国と共同歩調をとっている。歴史修正主義者に近い安倍首相が
歴史認識問題にどう向き合うのか。東アジア外交の正念場である。

 安倍首相の外交・防衛政策はアーミテージ元米国務長官の「アーミテージレポ
ート」を下敷きにしていることは、本欄でも再三取り上げた。同レポートは、ア
メリカの同盟国である日本と韓国が歴史認識問題で対立していることはアジア戦
略上マイナスとの立場から、「慰安婦像を建てないよう働きかける日本政府の政
治的動きは(韓国側の)感情を刺激する」と指摘、慰安婦問題に向き合うよう求
めた。

 安倍首相は戦後70年の首相談話で「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけ
られた女性たちがいたことを忘れてはならない」「20世紀において、戦時下、
多くの女性たちの尊厳や名誉を深く傷つけられた過去をこの胸に刻む」と、2度
にわたって傷つけられた女性の尊厳に言及した。「傷つけられた女性」が従軍慰
安婦を指すことはいうまでもない。

 慰安婦問題を突出させた談話は、アーミテージ提言を受けたうえでの朴大統領
への「日韓関係強化」へのメッセージであることは明らかだった。
 朴大統領はしたたかだった。中国側に働きかけ、日中韓3か国首脳会談の実現
にこぎつけた。安倍首相の「中国封じ込め」には乗らなかったのである。安倍首
相としては目論み外れだろうが、「東アジアの安定」という大義に逆らえるはず
はなかった。

 安倍首相、朴大統領に中国の李克強首相が加わった首脳会談では、「歴史を直
視する」との文言を盛り込んだ共同宣言を採択した。朴大統領のペースでことが
進んだ、といえた。

 こうした経過を踏まえて日韓首脳会談が行われたのである。朴大統領は慰安婦
問題について「両国の関係改善の最も大きな障害になっている。被害者に受け入
れられ、わが国民が納得しうる水準で早く解決しなければならない」と強調。
「早期の妥結を目指す」ことで両首脳は一致。両国外務省の局長級協議を加速さ
せることとした。
 「早期」について朴大統領は「年内」と毎日新聞の書面質問に答えている。

 従軍慰安婦問題については1993年、河野洋平官房長官(当時)が「慰安所
の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれ
に関与した」との談話を発表している。朴大統領は河野談話に基づいて、「公式
謝罪」を求めると思われる。

 一方、安倍首相は政権復帰前の2012年、「河野談話の見直し」を主張した。
安倍首相の本心は「河野談話否定」である。「アーミテージがいうから仕方なく、
慰安婦問題で折り合う」という姿勢では、韓国側の反発を招くだけでなく、中国
側からも「歴史を直視していない」として強く非難されることとなろう。

 アーミテージレポートはアメリカの国益を守る立場からの日本への提言である。
安倍首相が同レポートの優等生である限り、日韓、日中関係を軸にした東アジア
各国の自立的な平和の構築を期待することはできない。
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◆「ふろむ京都山麓」抜粋抄 《隠れキリシタンと天皇制 第5回》
                         :みなみうら・くにひと                                                
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<椋鳩十と島尾敏雄>

 久保田彦穂、ペンネーム椋鳩十は明治38年(1905)、信州下伊那郡喬木村阿島
に生まれた。阿島中学校そして法政大学を卒業した後、鹿児島県立病院の眼科医
だった実姉の清志を頼って昭和5年(1930)に新妻とともに来鹿。種子島の中種子
高等小学校の代用教員をつとめる。椋は25歳であった。

 しかし赴任してすぐの夏、あまりの暑さに越中ふんどし一丁姿で授業に臨んだ。
これが有名な「ふんどし授業事件」で、大騒ぎになった挙句、椋はわずか3か月で
解雇された。困り抜いた椋を助けたのはまた姉の清志であった。彼女は弟のため
に、加治木高等女学校の国語教師の職を斡旋した。
 そして敗戦の2年後に重成格知事の要請で、42歳から定年で退職するまで鹿児島
県立図書館長をつとめる。「鹿児島方式」と全国の図書館人から絶賛された農村
読書活動と、母と子の読書運動は、椋が主導した図書活動である。

 子息の久保田喬彦(椋鳩十記念館館長)の講演記録から椋のエピソードを抜粋
する。

 県立図書館の本はそれまで東京、大阪などの県外から割引で購入していた。そ
れを定価で地元から買いなさいとした。本を定価で買うことにより、地元の本屋
さんが大きくなり、書店が大きくなれば鹿児島県の文化が大きくなる。という考
えからだった。

 そして読書運動にも取り組んだ。農業文庫の予算を議会で減額された時、「減
らされるために予算を出していない、線香の火では風呂は沸きません」、「一銭
もいらないので来年ください」と言ったという。
 当時は農業人口が70パーセントの時代であった。読書は「活字の林をさまよい、
思考の泉のほとりにたたずむ」ような文学や教養を高める読書でなく、経済的に
も儲ける、自分に役に立つ読書もあってよいではないか。と、農業文庫を始めた。
県、農協などの団体や大学と一緒になり実益をねらった読書運動として話題にな
った。

 この読書選定委員会の最初に、子どもの本を持ち帰ってもらい、次の会で感想
を述べさせたという。すると子どもの本も面白いという感想が多かった。農業庫
の読書委員の方々は後になって、親子読書運動のヒントはあれだったのではと言
っている。炊事をしながら子どもの本を読む声に20分間耳を貸してくださいとい
う運動だった。

 また、地域図書館づくりは市町村単位で本をまとめて移動すれば効率がよい、
という椋の移動図書館の発案から始まった。何ごとにも付和雷同せず、前後左右
を忘れ一本道をいく鹿児島の人と共通点があった。

 昭和39年から椋は「母と子の20分間読書」を開始した。椋は、経済優先の時流
のなかで、子どもたちが家庭でも取り残され、愛情に飢えつつあることに気づく。
そして親子だんらんの場として、毎日短時間でも時間を割き、子どもと1冊の本
に向き合うことは、その絆を取り戻し、ひいては明るい家庭、社会へのバネにな
る、という思いに至った。椋は「教科書以外の本を子どもが20分くらい読むのを
母が、かたわらにすわって、静かに聞く。たったこれだけのことである。よく人
は、なんだ、ばかにしたような簡単なことではないか。と言う。ほんとに、ばか
にしたような、この読書のやり方に、私どもは『母と子の20分間読書運動』と名
づけて、大まじめに、しかも相当大がかりにやっているのである」
 鹿児島県下で図書館の椋が中心になって展開した運動は「県内10万人を超す人
々が参加する、大きな読書推進活動の広がりと充実を促すこととなった」と、児
童文学者たかし・よいちは語っている。

 椋は、昭和33年に奄美大島図書分館長に文学者の島尾敏雄を招いている。島尾
も椋と連携し、活発な図書館運動を展開している。原井一郎は当誌「Lapiz」201
3年冬号に、奇しくも椋と島尾のことを載せている。
 奄美大島龍郷町の円小学校は児童数わずか十人ほどの小さな町立校である。在
校生は40年以上、読書の伝統を守っている。毎週水曜日午後6時から30分間、行
政無線のスピーカーから元気な声があふれ出る。「夕読み放送」だが、数人の子
どもたちが代わる代わる、いつもとは違う、かしこまった調子で30分間、本を読
み上げる。「時には孫が出ますからね。テレビ消して、耳を傾けていますよ。い
いですねえ。子どもたちの元気な本を読む声は。気分も明るくなります」と村の
おばあちゃんたちは、放送を楽しみにしている。「親子読書会」の名で夕読み放
送がはじまったのは昭和46年であった。すでに半世紀近い年輪を重ねている。島
尾敏雄たちの運動からはじまった。

 このように図書を通じての活発な活動、そして九州の南端から文学者としての
ネットワークも彼らは展開していたと思われるのである。
 さて、気づいてみると、わたしは見事に脱線してしまった。タイトルは「隠れ
キリシタンと天皇制」であった。しかし堀田善衛がクロ宗を知ったのは、鹿児島
図書館の椋鳩十の協力があったからであろう。椋に関心が向くなかで、島尾敏雄
が登場してしまった。
 やはり脱線であるが、紙数も筆力も尽きた。堀田善衛の天皇制については、で
きれば次号で考えてみたいと思ったりしている。それにしても、堀田と椋と島尾、
彼らのかつての熱心な活動と文筆の成果は、いまも色褪せずに燦然と輝いている。

 またここで紹介した何冊かの文献は、いずれも昭和期に書かれた。すべて図書
館で読むことができる。何冊かは流通もしている。しかし形あるものを、弾圧を
避けるためにすべて、こころのみを残して捨ててしまったかつてのキリシタン……。
それに対して書き残したものが残ることの重要性を、筆者は現代日本人としてい
まあらためて考えている。

 参考図書
 『島 水平線に棲む幻たち』 岡谷公二著 1984年 白水社
 『鹿児島県史』卷3 昭和16年 鹿児島県
 『ザビエルを連れてきた男』 梅北道夫著 1993年 新潮選書
 「隠れキリシタンと隠れ念仏」 米村竜治著 『共同研究 日本人はキリスト教
をどのように受容したか』所収 1998年 日文研叢書17 国際日本文化研究センター
 『隠れキリシタン』 古野清人著 1959年 日本歴史新書 至文堂
 『カクレキリシタンオラショー魂の通奏低音』宮崎賢太郎著 2002年 長崎新聞
 「宗教とその土俗化―『海鳴りの底から』『鬼無鬼島』にみる」 鈴木昭一著 
帝塚山短大日本文芸研究室 昭和50年 紀要『青須我波良』第10号所収
 『「児童文学の至高」椋鳩十と「純文学の極北」島尾敏雄 作家2人が開かせた
「心の花園」 斬新な戦後図書活動を展開―鹿児島・奄美 』
原井一郎著 「Lapiz」2013年冬号
 『堀田善衛全集』 全16巻 1974年 筑摩書房
 『堀田善衛全集』第2期 全16巻 1994年 筑摩書房
 <2015年10月23日完>
「ふろむ京都山麓」 http://blog.goo.ne.jp/0000cdw
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◆「スプートニク」 >>> 引用元    http://jp.sputniknews.com/
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◆情報通信・ラジオ「スプートニク」(HOME)
 http://jp.sputniknews.com/

◆日本関連
 http://jp.sputniknews.com/japan/

◆国際───────────────
 http://jp.sputniknews.com/world/

◆ロシア国内───────────────
 http://jp.sputniknews.com/russia/
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◆一口メモ 【民族】            
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 民族とは一定の文化的特徴を基準として他と区別される共同体をいう。土地、
血縁関係、言語の共有(母語)や、宗教、伝承、社会組織などがその基準となる
が、普遍的な客観的基準を設けても概念内容と一致しない場合が多いことから、
むしろある民族概念への帰属意識という主観的基準が客観的基準であるとされる
こともある。また、日本語の民族の語には、近代国民国家の成立と密接な関係を
有する政治的共同体の色の濃いnationの概念と、政治的共同体の形成や、集合的
な主体をなしているという意識の有無とはかかわりなく、同一の文化習俗を有す
る集団として認識されるethnic group(ジュリアン・ハクスリーが考案)の概念
の双方が十分区別されずに共存しているため、その使用においては一定の注意を
要する。
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◆編集長から: 片山通夫
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 過日、Lapizの取材で札幌とその周辺をLapiz編集長とともに訪れた。札幌の気
候はさすが北の大地にふさわしく秋たけなわ。北大植物園で撮った写真がこれ。
 http://609studio.com/archives/1338

 ところで世界は寒いニュースでいっぱいだ。まるで「新冷戦時代」が到来した
かのように。今日11月6日のWebSiteからのニュースをいくつか拾ってみた。

*ロシア外務省 英国がロシア機墜落事故に関する情報を共有しないことに当惑
 http://jp.sputniknews.com/incidents/20151105/1126598.html#ixzz3qg3LmJN9
*欧州へ移民、4ヶ月でさらに60万人、国連難民高等弁務官事務所
http://jp.sputniknews.com/europe/20151106/1126694.html#ixzz3qg3ZGpiR
*中国潜水艦、日本近海で米原子力空母を追跡
http://www.cnn.co.jp/world/35072996.html?tag=top;topStories
*もんじゅは廃炉も視野に体制を見直せ  
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO93639750V01C15A1EA1000/
*辺野古取り消し 県「勧告応じない」 きょう国に回答
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-166836.html

 沖縄は国と、中国はアメリカをメインに周辺国と、そして欧州ではロシアとの
対立…。なんだか急にきな臭くなってきたのは我が国だけではなかった。 
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  発行     2015年11月10日  No.732
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