メルマガ:片山通夫のnewsletter「609studio」
タイトル:609studio No.289◆現代時評:[クラスター爆弾とオスロー宣言]  2007/03/06


─────────────────────────────────
【609 Studio 】メール・マガジン 2007/3/6  No.289

─────────────────────────────────
【609 Studio】 メールマガジンは「現代社会を斬る!」をコンセプト
に論説委員Ken氏の論説「現代時評」をはじめ、サハリン情報として、
ロシア唯一の韓国語新聞サハリンの「セコリョ」ダイジェスト版、その
他、寄稿記事など話題満載! 

               http://www.609studio.com

───────────◆◆◆INDEX◆◆◆───────────

◆現代時評:[クラスター爆弾とオスロー宣言]    ken

◆セコリョ新聞ダイジェスト版:休載します。

◆ウェブサイトTOPIX

◆編集長から

─────────────────────────────────
◆現代時評:[クラスター爆弾とオスロー宣言]    ken 

   Ken氏もしくは現代時評へのご意見、ご要望などは 
                 office@609studio.com  へ!
─────────────────────────────────
◆◆ アサヒコム 2007.2.22 市民を無差別に死傷させ、
人道面からの批判が強いクラスター爆弾の廃絶を目指して、ノルウェ
ーが提唱した国際会議が22日、オスローで始まった。48か国と国
連機関、NGO(非政府組織)が参加した。同国のほかアイルランド
、ニュージーランドなどこの動きに積極的な国々は、08年までと期
限を設けてクラスター爆弾の使用、製造、移動、備蓄を禁止する条約
を締結するなどの宣言案を23日に採択したい考え。(中略)米国、
ロシア、中国は不参加。日本政府は会議の直前に参加を決めたが、「
国際的にどう論議されているか理解を深めるため。CCWの枠組みで
話し合うべきだという基本姿勢に変わりはない」と一定の距離を置い
ている。 
◆◆ 毎日新聞 2007.3.01 クラスター爆弾を製造する世
界の大手6企業に対し、日本を含む13カ国の金融機関が過去3年間
で約140億ドル(1兆6800億円)を投・融資していると28日、
ベルギーの非政府組織(NGO)「ネットワーク・フラレデ」が発表
した。 同NGOは「禁止には、金融機関の協力が必要」と訴えてい
る。
■■ 第2次大戦の終わりごろ、ボクは陸軍の爆弾充填工場で働いて
いたが、そこでは通称「タ弾(たーだん)」と称する爆弾を製造して
いた。薄く大きな爆弾のなかに、小型爆弾が数十個詰めてあり、爆撃
機が空からこれを落とすと、空中で開き、中の小型爆弾が周辺にばら
撒かれるという仕掛けだった。なぜ「タ弾」と呼んでいたか判らない
が、これが、最近有名になったクラスター爆弾というもの祖型らしい。
 (「タ弾」についてはWikipediaに記載がある。) 

■■ さてそのクラスター爆弾がなぜ最近急に脚光を浴びたかといえ
ば、イラク戦争で米軍が大量に使用し、その殺傷効力が抜群であるだ
けでなく、飛散した子弾のうちの10−20%が不発弾として地中に
残留し、ちょうど残留地雷と同様に、戦争が終わった後にも時々爆発
し、無関係な庶民や子供たちを殺傷し、いまなおイラクやヨルダンを
困らせているからである。 
 さらに、そのクラスター爆弾の中身に、どうやら劣化ウランの微粒
粉末が大量に使用されていて、よけいに始末が悪いらしい。なるほど
、劣化ウランの物性からいえば、クラスター爆弾の子弾として使用す
るのが「拡散」にもっとも効果的であるし、この噂はあながち流言と
ばかりは言いきれ無い。

■■ クラスター爆弾は、今ではもっとも有効な殺傷爆弾として世界
各国で製造され、わが国でも自衛隊の北海道基地にはたくさん保管さ
れているそうだ。 そこで、先の「対人地雷禁止条約(オタワ条約)
」と同様に、クラスター爆弾も禁止しようではないかとの発議があり
、ノルウエーが世話役になって、この2月末までに取りあえずオスロ
ー宣言に漕ぎ付ける予定だったが、米、ロ、中など主要国は不参加、
わが国は最初、参加するとのそぶりを見せていたが、結局、態度を保
留したままで不参加に終わった。

■■ わが政府内部では、防衛省が最後まで参加反対を強硬に唱えた
らしい。「代わるべき有効な武器がまだ開発されてないうちに、クラ
スター爆弾のみを禁止すると、わが国の防能力に重大な影響がある」
というのがその理由である。また別の早耳筋の話では、「同盟国米国
から反対してくれといってきたので、その指図に従ったまで」とも言
う。いずれが真偽か知らぬが、とにかく、わが国の不参加で世界の多
くの国々が落胆し、それで予定した「オスロー宣言」、つまり「クラ
スター爆弾の製造および使用禁止条約」の成立にまでは至らなかった
という。

■■ では前回の「対人地雷製造使用禁止条約」成立のときはどうで
あったか。 軍備への制約ということであれば、クラスター爆弾であ
ろうが地雷であろうが理屈は同じである。 が、前回の地雷のときは
日本は禁止条約に賛成、そして今回のクラスター爆弾では不賛成とい
った極めて対照的な態度を採り、いささか不可解にさえ思える。 調
べて見ると、前回、地雷のときも自衛隊はその禁止条約に反対しよう
と頑強に抵抗したが、ときの外相であった小渕元首相が、人道的な見
地から「禁止条約」にすごく賛成し、わが政府周辺を積極的に説得し
た。 そして日本が世界の国々に「禁止条約成立」を働きかけたから
、世界各国の間にドミノ現象がおこり、条約が成立したといういきさ
つがあった。 

■■ が、今回のクラスター爆弾禁止には、前回の小渕首相のような
人がわが国にいなかったから、防衛省の、「戦力保持派」に押しまく
られてしまった、ということらしい。 小渕元首相は穏健ながら、筋
を通すところは通し、人道的見地からの対人地雷廃絶についての、い
わば世界的功労者であった。

■■ だいたいどこの国でも「軍」関係者は、つねに軍備拡張主義者
が殆どで、なるべく多くの軍備を持ち、なるべく強い軍隊を保持しよ
うと務める。 それは彼らの職業的義務でもあり、あえて咎めるわけ
にはいかない。 しかし一国の首相ともなれば、さらにその上部にあ
って、巨視的な人道的見地というものを持ち、地球の未来や人類の将
来を見据えて意思決定する必要がある。 今回のオスローにおけるク
ラスター爆弾禁止会議などでは、世界の多くの国々が、たぶん日本は
賛成するだろうと予測していたのである。 それが反対に回ったとい
うことは、国際世論から見て、「やっぱり日本は米国の手先でしかな
い」と思わせるにじゅうぶんであったと謂えるだろう。

■■ だがしかし、わが防衛省が主張するように、はたしてクラスタ
ー爆弾などという、いわば「鬼子」を持つことが、将来の日本にとっ
てどれだけ必要かを考えて見ると、ボクなどはたぶんに疑問を抱かざ
るを得ない。

■■ 日本の自衛隊がいま持っているクラスター爆弾というのは、そ
の子弾がすべてタングステン系のもので、危惧される劣化ウラン系の
ものでないという。 自衛隊は「専守防衛」で、海外へ攻めて行くた
めのものではないから、万一それを落とす場合にもその場所はわが国
内に限定されていて、劣化ウランなどという将来に災いを残す子弾を
クラスター爆弾に装填するわけにはいかない、と政府および自衛隊も
じゅうぶん認識しているそうだ。 ならばたといタングステン鋼系と
いう、劣化ウランよりも少々問題が少ないクラスター爆弾といえども
、やはりそれを万が一にもわが国内で撒き散らす可能性というのは、
避けるべきではなかろうか。 

■■ それとも、劣化ウランのクラスター爆弾を日本国内に落として
はいけないが、タングステン子弾のクラスター爆弾ならば落とし、そ
の不発弾が「美しい日本の国土」に残っても辛抱すべき、というわが
政府の見解なのか。 そうではあるまい。   

■■ ならば、たといタングステン系であろうと劣化ウラン系であろ
うと、クラスター爆弾などは、日本国内に絶対に落とさないと、いっ
そ最初から腹を決めておけばいいのだ。 そして、オスローでの「ク
ラスター爆弾禁止」案に賛成の一票を投じておけば、その方がきれい
さっぱりと諦めがついた筈である。 対人地雷禁止条約に先頭を切っ
て票を投じた日本が、なぜクラスター爆弾の禁止に賛成しなかったの
だろう。ユルフンも甚だしい。

■■ そうした姑息なクラスター爆弾保有の主張がなぜわが国で罷り
通ったか。 ボクはその主原因を防衛省関係者の「アタマの中だけの
戦争」観にあると解する。 もし実戦というものをリアルに想像して
いれば、そうした錯誤行為は無かったとボクは思っている。 

■■ 順序立ててクラスター爆弾を、将来使用する場合や可能性を考
えてみよう。 先ず仮想敵はどこか。 おそらく隣の半島国だけであ
ろう。 中国という仮想敵も考えられぬこともないが、この場合の相
手は13億人を擁する巨人国家であり、国家目的のためには兵の命な
どタダ同然の社会でもあり、もしわが国に押し寄せてきたときは、わ
が国内でクラスター爆弾を数万発落としても敵戦力の減殺には役立た
ず、却ってその後のわが国土の荒廃だけが残る。 一歩譲って「先攻
防衛」のため、中国本土にクラスター爆弾を落としに行っても、それ
こそ太平洋に水を撒くのと替わりは無い。

■■ それがもし、隣の半島の国ならば「先取防衛」でクラスター爆
弾を落としにゆけば、狭い国土だから殺傷力は有効だろう。がしかし
、狭い国だからこそ、無辜の住民をじゅうたん殺戮することになり、
それで戦意を削いでも恨みは千年に残り、その後の友好回復の難しさ
を考えると、とうていクラスター爆弾など落とす気にはなれない。

■■ かってわが国は原子爆弾で1日に10万人が殺された。が、そ
の後で来た進駐軍とやらに、チューインガムを貰い、さっそく友好を
回復してしまった。 これはわが国民性の特徴で、「恨み」の執念が
希薄だったからだ。 

■■ その点、隣の半島は違う。「恨(はん)の文化論」が流行し、
「遺恨千年」の国民性の国なのだ。 万が一にもクラスター爆弾など
を使用し、その不発弾が後日に残るなどを思えば、とうてい爆弾投下
の気にはなれない。 攻め込まれ、わが国内で落としても、その厄災
はわれわれ自身が蒙らねばならない。 どっちへ転んでも、わが国が
クラスター爆弾など使用するチャンスはゼロなのだ。 

■■ なのになぜ、オスローで廃止条約に賛成しなかったのか。結局
は、わが同盟国に頼まれてその髭の塵を払っただけ、と断定せざるを
得ない。 軍事同盟の、負の部分である。 わが同盟国は全世界に向
かって戦争をし、軍事国家として世界に覇を唱えている。 クラスタ
ー爆弾を使用するチャンスは今後とも無限にあるだろう。

◆◆毎日新聞 2007.3.02 ベルギー議会は2日、国内の金
融機関にクラスター爆弾製造企業への投融資を禁止する世界で初めて
の法案を可決した。2年以内に製造企業名のリストを作成し、これら
の企業に対する金融機関の投融資の停止を求める。
─────────────────────────────────
◆ウェブサイトTOPIX           609studio
─────────────────────────────────
◇界のどこかでNo.90「出雲にて」
http://journalist-net.com/home/07/03/02/050750.php

◇インタビュー 波間三平さんに聞く−1 樺太脱出
http://journalist-net.com/home/06/12/28/105227.php

◇インタビュー 波間三平さんに聞く−2 樺太密航
http://journalist-net.com/home/06/12/29/153544.php

◇インタビュー 波間三平さんに聞く−3 樺太密航・再び
http://journalist-net.com/home/06/12/31/061939.php
─────────────────────────────────
         ◎片山通夫写真集「サハリン」好評発売中!!◎

   写真集「サハリン」が未知谷から発行されました。是非書店
   もしくは609studioでお求めください。
 
          四六判160頁 1,600円(税別)
           ISBN4-89642-138-8 C0072

     未知谷 HP http://www.michitani.com/index.html
    または    office@609studio.com
─────────────────────────────────   
◆[セ・コリョ新聞ダイジェスト版] :
              発行 ユジノサハリンスク市 翻訳 Kil Sang
◇詳細/写真、記事は関連Webへ → http://www.609studio.com
───────────────────────────────── 
 訳者の都合で休載します。
 訳文が届き次第お届けいたします。
─────────────────────────────────
◆[編集長から]              Michio Katayama
─────────────────────────────────
 安部首相が素顔を見せだした。影が薄いといわれて見せるのかは
わからない。ただ「美しい国」を意識しだした。
 首相の言う「美しい国」と国民の間にはかなりのギャップがある
ようだ。

 手始めは従軍慰安婦問題。「河野洋平官房長官談話」(93年)
を見直すという。見直しの必要性に関しては「(強制性の)定義が
大きく変わったことを前提に考えなければいけない」とか。

 歴史における認識の前提が大きく変わるのはうなずけないが、首
相はしゃにむに突き進んで行くような印象だ。

 「狭義の強制」か「広義の強制」かはともかく、日本人がかかわ
った事実に変わりがない。国民の意思としてあの「河野官房長官談
話」を受け取るべきである。

 一般に外交問題で見直すことは決して得策でない。信頼できない
国に陥る危険が大である。

「河野洋平官房長官談話」

 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html 
─────────────────────────────────
発行     2007年3月6日   No.289
編集・発行  609studio   Michio Katayama
発行     毎週火曜日  購読料無料
配信          まぐまぐ配信システム       ID:0000052236
              MailuX配信システム        ID:MM3E1B97842E020
e-mail        office@609studio.com
website    http://www.609studio.com
投稿      http://www3.ezbbs.net/06/609studio/
購読 購読解除は websiteへ

           ◇禁・無断転載◇
─────────────────────────────────

ブラウザの閉じるボタンで閉じてください。