メルマガ:片山通夫のnewsletter「609studio」
タイトル:609studio No.285◆現代時評:[ピエール神父の国葬とホームレスへのエマウス運動]  2007/02/06


─────────────────────────────────
【609 Studio 】メール・マガジン 2007/2/6  No.285
─────────────────────────────────
【609 Studio】 メールマガジンは「現代社会を斬る!」をコンセプト
に論説委員Ken氏の論説「現代時評」をはじめ、サハリン情報として、
ロシア唯一の韓国語新聞サハリンの「セコリョ」ダイジェスト版、その
他、寄稿記事など話題満載! 

               http://www.609studio.com

───────────◆◆◆INDEX◆◆◆───────────

◆現代時評:[ピエール神父の国葬とホームレスへのエマウス運動] ken

◆セコリョ新聞ダイジェスト版:2007年2月2日号

◆編集長から

─────────────────────────────────
◆現代時評:[ピエール神父の国葬とホームレスへのエマウス運動] ken
   Ken氏もしくは現代時評へのご意見、ご要望などは 
                 office@609studio.com  へ!
─────────────────────────────────
◆◆共同通信 2007.1.22 フランスで路上生活者らの救援活
動に長年尽力し、市民の尊敬を集めたピエール神父が22日、パリの病
院で死去した。肺の感染症のため入院していた。94歳。(中略)第2
次大戦後、慈善団体エマユスを創設し、路上生活者らに食事や宿泊先、
仕事を提供する活動を続けてきた。 (中略)週刊紙ジュルナル・デュ
・ディマンシュが定期的に掲載する著名人の人気ランキングで80年代
末から常に首位を争う存在だった。2004年には「トップの地位はも
っと若い人が占めるべきだ」として、人気ランキング入りを辞退した。
フランス公共ラジオによると、シラク大統領は22日、「(ピエール神
父は)貧困や苦しみ、不正義と戦う精神を代表する存在であり続けるだ
ろう」と弔意を示した。

◆◆BCロンドン 2007.1.22 フランスは、金曜日にホームレス
への運動家ピエール神父のため、国葬に参加するようジャック・シラク
大統領が言った。
 France is to pay tribute on Friday to the priest and 
homeless campaigner, Abbe Pierre, who has died at the age
of 94, President Jacques Chirac has said. As part of a day
of "national homage", the funeral will be held at 
Notre-Dame cathedral in Paris and will be attended by the
president and his government. 

http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6301623.stm

◆◆毎日新聞 2007.1.23 大阪市北区の公園でテント生活を
しているホームレスの男性が区長を相手取り、公園を住所とする転居届
の不受理処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が23日、大阪高裁
であった。田中壮太裁判長は「男性は公園で継続的に日常生活を営んで
いるが、健全な社会通念に基礎付けられた住所としての定型性を備えて
いない」として、公園での住民登録を認めた1審・大阪地裁判決を取り
消し、原告側逆転敗訴の判決を言い渡した。男性は上告する方針。

◆◆サンケイWEB 2007.1.15 大阪市の長居公園で1月中旬
から、今夏開催の世界陸上を前にした公園整備工事が始まるのを控え、
市は15日、公園内のホームレスの人たちに対し、都市公園法に基づく
除却(撤去)命令書を手渡すなどした。テントの設置は不法占有だとし
て21日までに撤去を命じる内容で、現場では批判の声もあがった。
(中略)整備工事は1月中旬から行われ、公園の南西部に新設園路や照
明灯が整備される予定。

■■世界30カ国にまたがる「エマウス」運動というのがある。貧困者
・ホームレスの救済と、廃品回収運動を兼ねたカトリック左派たちによ
る社会運動の一種である。 第二次大戦直後のフランスでピエール神父
が創め、すぐイタリアへ飛び火した。そのあと、中南米諸国、とくにブ
ラジルなどで、いわゆる「戦う神父たち」の社会運動として日本でもい
っときニュース種になった。

■■作家の故須賀敦子さんが東京で始めたのもこの系統の実践運動であ
った。 イタリア人の亡夫ぺピーノ氏がミラノでこれに参加し、彼女と
もそこで知り合ったらしい。 夫の死後、彼女は帰国し、東京練馬で「
エマウスの家」の責任者となり、廃品回収の仕事をしたという。そのい
きさつは須賀さんの著書「トリエステの坂道」のあとがきで湯川さんと
いう人が記している。 キリスト教の信仰がどのように現実世界の貧困
を救済できるか。 あるいは「かたくなに精神主義にこもろうとしたカ
トリック教会を、もういちど現代社会、あるいは現世に組入れようとす
る運動」が、須賀さんのエマウス運動であったようだ。

■■その「エマウス」の、いわば全世界の発起人がピエール神父であり
、彼がつい先日94歳で亡くなったのを悼んで、シラク大統領がフランス
国民に呼びかけて「国葬」にしようと言ったのである。 ボクはこの件
に興味があり、その葬式の模様を知りたかったのだが、「シラクが国葬
にすると言った」という報道以後、日本では何の追加ニュースも無い。

■■ただ一人、あるブロガーが「政教分離にもっとも神経質なシラクが
、なぜピエール神父のノートルダム寺院における葬式を『国葬』にする
と言ったのか」と、疑問を呈していた。 靖国問題以来、わが国では政
教分離に神経質になっている。 だが「ピエール神父の国葬」について
は、アタマさえ整理すればそう難しい議論の対象にならない。
 
■■ シラクが言った「国葬」とは、フィガロ紙によればこうなってい
る、「Les obseques de l'abbe Pierre auront lieu vendredi 
a Notre-Dame de Paris dans le cadre d'une journee 
d'hommage national.」。
 つまり「国民みんなで追悼しよう」といっただけのことで、それを重
々しく「国葬」と表現するのは翻訳上の便宜に過ぎない。 考えてみる
と、ピエール神父は生前だいぶローマ教皇から批判もされていたが、仮
にもカトリックの司祭であり、まさか無宗教で葬送するわけにもいかな
い。 フランス国民もその程度のことは理解しているはずである。シラ
ク氏がノートルダム寺院へ葬式に行っても、ピエール神父の喪主や祭主
になったわけではない。

■■ ところでピエール神父の創めた「エマウス」は、日本では故須賀
敦子さん以外には誰がやっているのだろうか。 HP検索によれば、細
々ながらいくらかの人々が衣鉢を継いでやっているらしい。 が、あま
り注目を集めるほどの運動にはなっていない。 だからこそ仮にもフラ
ンスの「国葬」であるのに、その後の実況などはニュースとして伝わら
ない。 しかしネットが沈黙を続けただけでないことは、前述の「フラ
ンスの国葬と政教分離」でブロガーが疑問を投げたのにも片鱗を示して
いる。 むしろ、ボクが知る神戸・大阪における「暁光会」の事業など
は、日本の「エマウス」の立派な典型である。

■■大阪津守のカトリック神父たちによる「暁光会」の、廃品回収事業
はもうだいぶ長らく続けられていて、そこではホームレスの人々が共に
住み込み、毎日、ダンボールやその他多くの廃品を回収整理し、換金し
て生活費に当てている。 ボクが知っていたころは、村田神父が住込み
、30人くらいの、上は80歳から下は0歳までのホームレスの人々が
共同生活していた。 0歳とは、転がり込んできた女性がそこで出産し
たための偶然であった。

■■大阪曉光会の事業所の近くに巨大なパチンコ屋がある。 村田神父
が毎月、日を決めて住込みの人々に小額の小遣いを渡す。すると彼らは
すぐさまそのパチンコ屋へ行き、いま貰った小遣いをすってしまうのが
悩みの種、と村田神父はぼやいていた。  こうした生活の弱者たちに
、むずかしい理屈など言う必要もなければ、彼らがすんなりと助言を受
入れてくれるわけでもない。 ただ辛抱強く、共同生活の場所と仕事を
与えるだけで責任者としては精一杯である。 

■■ 周知のように、わが国にも多くの路上生活者がいて、ホームレス
という言葉も定着している。 だがその平成15年度調査の、日本の総
数25,296人は西欧諸国に比べると少ない。ドイツには「ホームレ
ス支援協議会」という団体があり、その統計によれば全ドイツのホーム
レスは345,000人(2004年調査)で、男性55%、女性23
%、少年少女23%であるという。 
 フランスではホームレス(SDFと略称)が約10万人。たとえば、
les Enfants de Don Quichotte (ドンキホーテの子供達)というN
POがサンマルタン運河岸に200以上の仮テントを設置、SDFのた
めに提供し、自分たちも彼等といっしょに過ごし、路上生活者の困難を
世間に訴えているという。その運動は今年になってパリだけでなく、リ
ヨンやツールーズにも広がっているそうだ。

■■ わが国は、幸いホームレスの数は少ないものの、一般社会からの
ホームレスに対する目は諸外国に比してとくにきびしい。 年中、どこ
かの市や街でホームレスとのテント撤去のいざこざが報じられている。
  自治体管理者たちは、ホームレスを追い出すのにある種の快感をお
ぼえているのではないか、と思える場合すらある。 河川敷きなどを工
事したとき、その跡のコンクリート面に石などを適当にはめ込み、次ぎ
再びホームレスが寝られぬようにしたり、公園のベンチの真ん中辺りに
肘掛金具を付けて寝込めぬよう、一見、悪ふざけ智恵にも似た細工をし
ている場合が、最近とくに多い。

■■ 「弱者に寛大を・・・」は、フランスやオランダの国是でもある
。 それが根本の考え方に存在し、シラク大統領の、今回のピエール神
父のノートルダム寺院における「国葬」になったと考えていい。 もし
日本において、弱者救済にピエール神父同様の生涯を送った人が仮に居
たとしても、おそらく「国葬」にはならなかっただろう。わが国では、
「怠惰だからホームレスになった」という社会意識が強い。 そのどち
らが正しいかは一概に言えない。 がとにかく、いまの日本という国で
は「弱者に対する寛容」の精神が、フランスよりも薄い、ということは
ほぼ断定できるのではなかろうか。 

■■ だからこそ、世界30カ国に盛んな「エマウス運動」が、わが国
で今ひとつ盛り上がらないのも頷けるところである。 理屈はともかく
、われわれ日本人が、弱者に対してもっと寛容であるべきことは論をま
たない。

■■ その昔、ヒッピーという若者集団が世界中で異常にはびこったこ
ろ、ある日、ボクはオランダ・アムステルダムの中央公園に見学のため
、深夜に出かけたことがある。 そこでは無慮数万人のヒッピーが棲み
つき、アメリカ人をはじめとする観光バスが夜中に数百台も運行されて
いた。 そこでは昼夜を分かたず電灯が輝き、異様な風体のヒッピーた
ちのための露天シャワーなども設備されていた。 何びとか、どこから
来たかも分からぬ無統制な集団、というより無慮膨大な烏合の衆であっ
た。 そこにアムステルダム市政府は保護を加え、水飲み場やトイレま
で仮設していた。

■■ 「この人たちに対して、オランダ、およびアムステルダム市政府
はどう考えているのか」と、ぼくは案内してくれた友人に聞いてみた。
 すると彼は答えて曰く、「はっきりは知らぬが、日々の新聞論調では
、『ひょっとしたら、かれらヒッピーの生活のほうが、われわれの生活
より正しいのではないか、考えてみようではないか』とのことである。
しかし唯一困るのは彼らヒッピーがあまりにも汚いことだ」と。 ヒッ
ピーに対してさえ、この寛容の精神、これこそオランダの心ではなかろ
うか、とそのときボクは思った。

■■ 先日、ピエール神父の国葬を布告したシラクのフランス。そのと
き、ボクはふと数十年前に見たアムステルダム中央公園の、あのヒッピ
ーの光景をはしなくも思い出した。そして「寛容こそ何物にも増して、
世界平和への道ではなかろうか」と考えた。 いま米国が、世界の民主
化のためあちこちで「聖戦」を戦っている。その心は正しいとしても、
「寛容」の精神が無い限り、成功はおぼつかないだろう。われわれも、
いま身近に見受けるホームレスの人々に対して、理屈はともかく、こう
したオランダやフランスの「寛容の精神」を見習うべきではなかろうか。
─────────────────────────────────
         ◎片山通夫写真集「サハリン」好評発売中!!◎

   写真集「サハリン」が未知谷から発行されました。是非書店
   もしくは609studioでお求めください。
 
          四六判160頁 1,600円(税別)
           ISBN4-89642-138-8 C0072

     未知谷 HP http://www.michitani.com/index.html
    または    office@609studio.com
─────────────────────────────────   
◆[セ・コリョ新聞ダイジェスト版] :2007年2月2日号
              発行 ユジノサハリンスク市 翻訳 Kil Sang
◇詳細/写真、記事は関連Webへ → http://www.609studio.com
───────────────────────────────── 
大統領の指示

 ロシアのプーチン大統領は「国家委員会の極東、ブリヤト共和国、
イルクツクとチタ州などの社会経済発展のための提案」を受け入れ承
認したことがわかった。国家委員会は内閣首相が委員長を、経済・貿
易相と極東地域大統領代表が副委員長を勤める組織で、シベリア地域
の社会経済発展計画の立案・実行そしてそのための関連機関との連携
を仕事にするものである。

児童山岳スキー場再建

 先日、ユジノサハリンスク市の小山「ゴロドスカヤ」で児童山岳ス
キー場の開幕式が行われた。当スキー場の再建には1600万ルーブ
ルの州予算が費やされたが、この一年間スキー場のリフトや照明設備
などの再建に州政府が積極的に取り組み、今は設備は万全といえる。

今年の暖房季節に備え

 1月29日、イ・マラホフ州知事の呼びかけで各地方自治体指導者
らが集まって、今年の暖房季節を備えての準備会議が開かれた。参加
者たちは7月1日まで30%、8月1日まで60%、9月1日まで9
0%など準備作業の目安を決めるほか、9月15日までは暖房季節の
準備を終えることを決めた。

サハリン税関の2006

 去年、サハリン税関ははじめて連邦政府に32億1900万ルーブ
ルの関税収入を納めることができた。前年度に比べ1億4500万も
多い金額だ。コルサコフとユジノサハリンスク税関の寄与が最も大き
く、コルサコフでは16億8400万ルーブル、ユジノサハリンスク
では11億1100万ルーブルの税収入を上げた。去年、サハリン州
に出入りした船舶は3776隻、飛行機は2071機、ヘリコプター
は140機だった。そして17万4052人が税関を通った。そして
貨物申告件数は2万3114件、自動車の輸入は5000台。又、4
09件の違反を発覚、1万4273ルーブルの罰金を課した。

今年の原油ガス採取量

 サハリン州自然資源及び環境保護委員会の資料によりと、今年サハ
リンで採取できると予測される原油は1450万トン、ガスは40億
立方平米である。この中で、サハリンー1からは原油1050万トン、
ガス29億立方平米で、サハリンー2からは200万トンの原油だ。
陸地で採取する炭化水素の量は220万トンの原油と11億立方平米
のガスだ。

公務員のための一戸建て

 ユジノサハリンスク市オクチャブリ村に教育と保健、文化関連機関
で働く公務員たちのための一戸建て住宅(一階と二階)団地の建設が
始まった。総60棟の建設が予定されているが、一次的に20棟の建
設が進められている。関係機関の公務員は1平方メートル750ドル
の価格で購入できるが、全価格の30%を先に支払い、残金は完成後
に払うことができるほか、銀行から低金利30年返済という条件で融
資を受けることができるとのこと。建築は「ダリトルブセルヴィス」
という建築会社が担当するが、「公務員たちに低下でいい住宅を提供
する」という国家政策の一環として行われる事業であるために州と市
政府の統制下で進められている。基礎工事はすでにできている。

ユジノサハリンスク市韓人懇談会にて
ーサハリン韓人同胞支援特別法の展望はまだ不明

 先月の27日韓人文化センターで、ユジノサハリンスク市韓人会主
催で同胞懇談会が開かれた。主な議題は現在韓国国会で議論中の「サ
ハリン同胞支援特別法案」をめぐっての母国での動きと展望について
であった。法案と関連しての朴・ヘリョン韓人会長の韓国出張の報告
を参加者が聞く形で集いは進められたが、法案の制定を訴える書簡を
韓国政府と国会へ送ることに合意することで会議を締め括った。

サハリン韓人文化界のニュース

 サハリン韓人文化センターに伝統文化を教えるために二人の韓国人
芸術家が派遣される(韓国文化芸術委員会派遣)。サムルノリと仮面
踊り専門のモク・チンホさん(1969年生の男性)とカヤグム演奏
家のホァン・ヘジンさん(1979年生の女性)。二人は韓国の大学
などで講師を務めるほか海外公演経験も豊かである。2月中旬頃から
6カ月間指導に当たる。

広告

 2月4日午後3時、サハリン韓人文化センターで日本の高木健一弁
護士他二人の弁護士との懇談会が開かれます。戦時の郵便貯金返還を
めぐっての裁判準備を含め諸々の同胞問題についての説明と話し合い
の機会の場であります。
                   −サハリン州韓人老人会
─────────────────────────────────
◆[編集長から]              Michio Katayama
─────────────────────────────────
 長い間の休刊で申し訳ありませんでした。サハリンも暖冬のようで
した。
 セコリョ新聞は最新号のみを本日お届けいたします。休刊中の紙面
は後日号外でお届けいたします。

 サハリン韓国語放送は休刊中の放送も含めてすべてアップロードい
たしました。

 サハリンの冬のレポートを「2月の写真」とジャーナリスト・ネッ
トのフォトレポートに掲載しましたのでご覧ください。

2月の写真
http://www.609studio.com/html/essay/0702.html

ジャーナリスト・ネットフォトレポート
http://www.journalist-net.com/files/photorupo/
sakhalin_winter/winter%20in%20Sakhalin.html
─────────────────────────────────
発行     2007年2月6日   No.285
編集・発行  609studio   Michio Katayama
発行     毎週火曜日  購読料無料
配信          まぐまぐ配信システム       ID:0000052236
              MailuX配信システム        ID:MM3E1B97842E020
e-mail        office@609studio.com
website    http://www.609studio.com
投稿      http://www3.ezbbs.net/06/609studio/
購読 購読解除は websiteへ

           ◇禁・無断転載◇
─────────────────────────────────

ブラウザの閉じるボタンで閉じてください。