メルマガ:片山通夫のnewsletter「609studio」
タイトル:609studio No.218 ◆現代時評:[談合と競争入札]  2005/06/14


      ◇◆◇609 Studio メール・マガジン◇◆◇ 
                             2005/6/14 No.218

【609 Studio 】メールマガジンは「現代社会を斬る!」をコンセプ
 トに論説委員Ken氏の論説「現代時評」をはじめ、サハリン情報と
 して、ロシア唯一の韓国語新聞サハリンの「セコリョ」ダイジェスト
 版、その他、寄稿記事など話題満載! 
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           期間:6月20日〜26日
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◆現代時評:[談合と競争入札]                           ken

◆セコリョ新聞ダイジェスト版:サハリンから届いていません。

◆現代語感:[戦後60年その21 岸信介]       MK
  
◆編集長から:[この1週間]

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◆現代時評:[談合と競争入札]              ken         
   Ken氏もしくは現代時評へのご意見、ご要望などは 
                 w_m@609studio.com  へ!
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◆◆アサヒコム 2005.6.08   水漏れ補修など水道管の緊急修繕工事
の発注先について、県庁所在市15市が業者団体に一任していたこと
が、朝日新聞社の調べで7日分かった。業者団体の非加入業者が受注
機会を奪われるほか、1社が独占受注している市もあった。公平性な
どの点で疑問視する声が上がっている。(中略)全国市民オンブズマ
ン連絡会議事務局長の新海聡弁護士は「組合に一括発注し、受注業者
の割り振りまで業界の裁量で決めるとなると、偏りが出る恐れが高ま
る。公共工事発注は競争を原則とする地方自治法の趣旨に反しており
、公平性や透明性が保たれる形に改めるべきだ」と話す。 

◆◆読売オンライン 2005.6.08 日本道路公団発注の鋼鉄製橋梁工事
を巡る談合疑惑で、東京高検など検察当局が、工事の配分先をまとめ
た一覧表を押収していたことが7日わかった。 配分の中心役だった
横河ブリッジ顧問の元公団理事は事情聴取に対し、三菱重工業顧問を
務めた元公団副総裁から「受注調整役を引き継いだ」などと供述して
いることも判明。検察当局は独占禁止法違反容疑で、元公団理事らを
追及する方向で捜査を進めている。 

■■ボクが「談合」という言葉を初めて聞いたのは、たしか昭和10
年前後だった。もう60年の昔の話だ。 当時、中国徐州市で土建屋を
していた叔父が一時帰国し、その折の話のことである。 徐州の公会
堂建設を請負ったという叔父に、「どのようにしてその注文をとるの
?」と聞いたとき、「それは業者が集まって団子にするのだ」と彼が
答えた。 まだ小学生のボクは「団子にするって、どういうこと?」
と聞き返した。 すると「つまりこうやって、お互いがまるめ込むの
だ」と、彼は両方の掌で団子を作る恰好を示した。
 ふーむ、面白い言葉をつかうものだな、と意味は判らぬながら、少
年のボクはそれを半ば納得したような気になった。

■■そのときの「団子」が、じつは「談合」という土建屋仲間の隠語
と知ったのは、ボクがもう大人になった戦後のことである。その「談
合」という言葉がじつは隠語でもなく、堂々と経済社会に罷り通る通
常の言葉であると認識したのは、昭和も30年代になってからのこと
であるから、あるいはボクは早熟の反対の「遅熟(おそじゅく)?」
だったかも知れない。

■■つぎに「談合」という言葉などに象徴される土建屋連中の熾烈な
業界抗争を現実のものとして認識したのは、例の有名な間組(はざま
ぐみ)の皇居造営に関する1万円入札事件の新聞報道であった。19
58年12月に間組が新東宮御所の工事を「皇室に対する崇敬の念か
ら工事はタダでも良いが一応1万円とした。是非ともうちでやりたい
」といって1万円で落札する。が、あまりにも非常識と世間の非難が
同社に集中し、結果、落札は撤回され、最終的にゼネコン七社の共同
受注となった事件である。 土建屋創業社長の皇室崇拝の念に疑いは
ないが、余りにもPR気味で、過当競争の惧れありとして世の非難を浴
びたが、共同受注することで収拾がつけられたのだ。 ゼネコン同士
が相談の上の共同受注も一種の「談合」であり、怪しからんという論
も出たが、とにかく一件は落着した。

■■有名なこの「間組1万円落札事件」は後日、議会で更に何度も陽
の目をあびることになる。昭和57年第96国会で、そしてまた20
01年の「入札制度改革に関する提言と入札実態調査報告書」として
日本弁護士連合会が対政府提案中の悪しき実例としても取上げた。

■■「談合」というのは、業界内馴合い、あるいは業界・担当官庁馴
合いの上でなるべく値を吊り上げて落札することばかり思っていたが
、上記のように都合で安く受注するばあいもあるようだ。たとえば、
北朝鮮拉致被害者の曽我さん一家がインドネシアから帰国する際の政
府チャーター便をめぐり、日航と全日空が無償の運航を申し出て競り
合った末に抽選が行われ、日航が五万円で受注したこともある。つい
先日、6月9日の新聞ニュースでも、熊本国税局の05年分「財産評
価基準書」の印刷製本業務を、熊本県印刷センター協業組合が一般競
争入札で1円で落札したという話が報じられている。
 馴合いによる「談合」入札でも、官庁側に有利に安くなる場合はそ
れでもいいようなものだが、日本弁護士会は、後日の弊害を考えると
そうしたことすらあってはならないと提案している。

■■ところがここ旬日、ニュースを賑わせている鋼鉄製橋梁工事を巡
る談合事件では、三菱重工や新日本製鉄をはじめ、産業界著名の60
数社を巻き込んでの大騒動にまで発展(?)した。発注元も官庁に加
えて道路公団と、さながら日本株式会社ともいうべき規模にまで膨ら
み、考えようによっては前代未聞の大事件かも知れない。 

■■しかも今回の事件に関する日経連会長の発言には、明らかに一種
の躊躇いが感じ取れる。彼は、「非常に遺憾」としながらも、「同時
に日本の経済や政治は大きな激動期にある。こうした激動の中では、
こうしたものをすぐに絶滅させるのは難しいのではないか」、「時代
の変化の中で起こってきたので、我慢比べ」であり、「正直絶滅でき
るとは思っていない」と発言した。 そして普段威勢のいいマスコミ
もこの発言に、これ以上は突っ込もうとしない。やむを得ぬ話、とい
う一般的なコンセンサスが内在している、と考えてもいいだろう。

■■建設業界にいくらか知合いがあるボクとしては、「来るべきもの
が来た」との思いがする。彼ら建設関係の連中は日常会話のなかで、
「談合を完全に廃止してしまえば日本の産業は壊滅する。アメリカの
ような完全競争入札は、わが国では不可能である」と、常々言ってい
るからだ。 彼らは、「談合を無くすると、懐具合の悪い業者や、受
注量が減っている業者がコスト無視で落札する場合がひじょうに多い
から、商売が成り立たなくなる」というのである。 

■■誰が考えてもこの「談合不滅論」には、さもありナンの蓋然性と、
人々を納得させる説得力がある。ところが政府と純心な世論、とくに
検察と公取は「絶対にあってはならないこと」で一貫している。
 法があるかぎり、そして法の番人としての態度ではとうぜんであろ
うが、そのような社会正義の論だけで「談合」を峻烈に無くすること
が、国家社会として果していいことであろうか。もうこの辺りで公取
法による「談合禁止」条項を考えなおして見る必要はないだろうか、
とボクなどは思う。青臭い青年の社会正義論のようなものは、成熟社
会の大人の叡智で考え直してみる必要が、往々にしてあるからだ。

■■今回問題になっている市場規模年間3500億円の橋梁工事のみ
だけでなく、建設業界というところは昔から汚職と談合が渦巻いてい
る。 その中でも役所が施主となる工事に付いては、施工業者以外の
もの、多くの場合それは「設計事務所」とよばれるものが先ず積算見
積書を作成し、それに役所側担当者の政治的判断による値段の色添え
してから落札予定価格を設定する。そのあと施工業者、つまり土建屋
が競争入札に参加し、落札して工事に着手するしきたりになっている
。 つまり、「設計」と「施行」が表面上別業者というのがいちおう
の定めになっている。ところがその入札予定価格はしょっちゅう事前
漏洩する。 というより、予定落札価格制は多くの場合、馴合い極秘
の状態にあると考えていいかも知れない。

■■官庁入札工事は、関係両者にとっては、厳密な入札制はあまり望
ましくない。 法がそう決めているから、やむを得ない形式的な入札
であり、はやくいえば90%以上は、じつは馴合い入札、といった状
態が日本の現状だ。 そしてその半分馴合い入札の、良識と便宜の行
き付くところに業者団体の入札幹事制という、今回橋梁入札で問題に
なった組織的な「業界統制応札」が存在すると考えていい。もちろん
これには役所側による暗黙の了解がある。いままでのところわが国情
にもっとも適した、ある種の公正な擬似入札方法がこれであると考え
られてきた。

■■ここでいう「わが国情にもっとも適した」とはどういうことか。
 じつは昔からわが国産業界の特色として、激しい過当競争が挙げら
れている。 ボクの経験でいえばこの傾向は隣りの韓国にも当て嵌ま
る。 概していえば欧米諸国では、いかに受注不足でも原価を割るよ
うな受注は先ずやらない。ところが日本では原価を割る受注などは日
常茶飯事である。 原価を割ってもなお受注する、そうした激しい受
注活動こそ、戦後急速に世界の経済大国にまで成長した日本という国
の最大原因ではないか、とすら言われている。

■■欧米のように、「採算の合わぬ受注はしない」という商慣習が定
着した国にあっては、独占禁止法にまつわる「談合禁止」条項などは
比較的受入れやすい。 ところがそうでないわが国などで、公正な公
開入札など実施しようものなら、たちまち混戦になり、不当な安値落
札が横行する。 その典型が間組の皇居1万円落札であり、曽我さん
の外務省インドネシア帰国チャーター便の5万円落札事件である。

■■偉そうなことはボクも言えない。ボクがまだ事業を経営していた
ころ、下請会社の中から懐具合の悪そうなところを探し出してきては
、値を値切るのを通例にしてきた。だいたい下請が数社あれば、その
うちの1社か2社はたいてい業様が左前で、そうした会社は当方の言
いなりの値で仕事を引き受けてくれたものである。欧米バイヤーから
「あなたのところはなぜこんなに安く品物を提供できるのか」と、何
度も訊ねられた経験がある。 そうしたばあいのほとんどは、懐具合
の悪そうな下請を値切って下請生産させたものであった。 ダイエー
の社長さんが、かって誇った「価格破壊」とは、つまりはこのことを
体裁良く言ったまでである。 いまごろ中小ゼネコンの多くが倒産寸
前になっているのも、不動産の過剰取得もさることながら、じつは工
事の出血受注競争こそ、業績悪化の真因であるのは周知の事実である
。 コスト割れ受注こそ、日本の産業の際立った特色ではないかと、
ボクはかねがね思っている。

■■ボクの50年に及ぶ国際取引の経験から言えば、ユダヤ人と中国
人は不思議なくらい安売り競争に参加しない。彼らは自分たちの商品
が採算に合わなくなるとすばやく他の商品に転業する。いままでの仕
事に見切りを付け、つぎの新商売に替わる才能は驚くばかりである。
 ところが我ら日本人実業家は、「一業専心」とか称して、転業する
をいざぎ良しとしない傾向があり、ひいてはそれが無理な安値受注に
繋がり、過当競争に走り、それを避けるためには、違法と知りつつも
「談合」を企てたりすることになる。

■■もっとも米国の実業家は商品の安売りをしないか、あるいは入札
に際して「談合」をしないかというと、答えはどちらもノーである。
 ただ、日本の実業家ほど頻繁でないということは確かだ。
もう20年もまえのことだが、ボクらの業界だけが集まる、あるニュ
ーヨーク州の田舎町へ行ったとき、偶然、地元の小新聞に、わが業界
の理事長である大旦那が捕まり、「懲役何ヶ月」という記事を見つけ
たことがあった。 さっそく組合事務所へ出かけ事情を聞いてみた。
 専務理事いわく、「商品の軍納入テンダーについて、我々の間で<
談合>したのが露見した。そして裁判の判決が出て、理事長が実刑を
宣告された。初犯ならば猶予刑だが、じつは昨年の入札の時もバレて
、そのときは副理事長が検挙され、今年は理事長が重犯ということで
実刑に服することになった」。
 ナゼ「談合」したかと言えば、この商品は全米でここだけしか造っ
ていないので、組合幹部が相談して、「今年は誰が応札するか、毎年
決めるしきたりにしていて久しい」とのことだった。 米国でも「談
合」で検挙されることがあると、そのときボクは初めて身近かに知っ
たのであった。

■■政府入札への「談合」事件は、わが国では古くて新しい、永遠の
トラブルであるようだ。 事情やむを得ぬ社会的な問題が多すぎる。
 それを「してはいけない」などと無碍に禁止するのは、果していい
ことであろうか。 出血受注入札などを、ただわけもなく継続してい
ては業界全体が総倒れするこもあるやも知れない。 要はもう少し知
恵を出すことである、とボクは思う。

■■駅前の繁華街で、「駐輪禁止」の張り紙のある所に自転車がたく
さん置いてあるのを、ボクらはしょっちゅう見かける。もしそこに置
けないとすれば、それらの自転車をいったいどこへ置けと市役所はい
うのか。市役所は、先ず自転車の置場を作るべきだ。 そのような自
転車置場を作らず、「置いてある自転車は撤去するから、あとでおカ
ネを持って引取りにこい」という警察の張り紙には知性を感じられな
い。 

■■政府入札の「談合」も、どうやらそれに似ている。その証拠に、
今回の談合事件には業界最大手の業者を含めて60数社が軒並み検挙さ
れ、経団連会長は、コメントのしようがないといった発言をし、普段
威勢のいいマスコミ諸君も論評を差し控えている。
 そのような今回の「談合」事件については、振出しに戻って公取法
のどこかに問題があると考え、それを抜本的に修正する必要があるの
ではないか、とボクは思う。 法自体を再検討し、都合によっては「
談合しても構わぬ」といった方向に法改正する必要がありはしないか
。例えば、公正で良識ある第3者を加えた談合方式を法的に容認する
といった方向へ移行してはどうだろうか。

■■世の趨勢と社会のニーズを無視し、法の峻厳ばかりを求めて、い
まのように「談合」そのものを違法化したままでは、とうぜんそれを取
り仕切る闇のボスを跋扈せしめることになる。 そして「違法談合」
という内証ごとが次ぎの高値落札という共同の内緒を呼び寄せ、国家
社会資本を余分に浪費する結果となり兼ねない。 罪人を作るばかり
の「談合」違法化は、社会の進歩に逆行する可能性がじゅうぶんあると
考えるべきだ。
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◆[セ・コリョ新聞ダイジェスト版]  
              発行 ユジノサハリンスク市 翻訳 Kil Sang
◇詳細/写真、記事、は関連Webへ → http://www.609studio.com
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 サハリンから届いていません。届き次第お送りいたします。
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◆ 現代語感:[戦後60年その20 岸信介]     MK
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 「昭和の妖怪」「満州の三スケ」(満州の実力者、鮎川義介、岸信
介、松岡洋右の総称)、「満州三角同盟」(満州の実力者、東條英機
、岸信介、星野直樹の総称)と渾名される。東條英機内閣で、商務大
臣などで2度入閣。1942年のいわゆる"翼賛選挙"で当選し政治家
としての一歩を踏みだした。戦後のいわゆる東京裁判で東條英機らと
ともにA級戦犯として巣鴨に拘留されたが、釈放されてのち、第56
〜57代の内閣総理大臣を務めた。60年の日米安保条約改定批准で
「声なき声を聞け」と。

 要するに、このようなA級戦犯に問われた人物が新憲法のもとで、
アメリカの必要とする安保条約を改定し、冷戦時代にわが国をアメリ
カの防波堤化したわけである。まさに「昭和の妖怪」の名にふさわし
いとしか言いようがない。
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◆[編集長から]              Michio Katayama
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 夏の気配、梅雨の季節です。ご自愛ください。

◆「ロシアで列車脱線、42人けが」テロの可能性が。列車事故と聞
くとドキッと。JR西の後遺症か。こちらは人為的事故。ロシアの場
合はテロ?いずれにしても。

◆イラクでもやまぬ殺傷。これは戦争か、それとも内乱?「テロとの
戦い」は地球上のあちこちで続く。

◆文科相の「従軍慰安婦発言」。官房長官が撤回。変な話。本人には
なんといってるんだろう。むろん「内輪で」。

◆日本遺族会の古賀誠氏「配慮が必要」と。靖国参拝で小泉包囲網、
遺族会にも及んできたか。
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発行     2005年6月14日   No.218
編集・発行  609studio   Michio Katayama
発行     毎週火曜日  購読料無料
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                Macky!                    ID:609studio
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