メルマガ:屋久島発 田舎暮らし通信
タイトル:屋久島発 田舎暮らし通信  2003/03/29


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  2003/03/29
『世界自然遺産の島』   屋久島発・田舎暮らし通信(第73号)

      http://www.yakushimapain.co.jp/  屋久島パイン株式会社
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このメールマガジンは、北海道から屋久島に移住し、現在弊社屋久島支店の社員が
本人の移住経験を踏まえまして、屋久島の日常を発信しています。


●勝又さんの場合

神奈川県に住んでいる勝又さん、57歳。
「3年前にリストラに合い、1年前に妻を亡くし、自分自身も体調が良くないこと
もありますが、子供がいないので1人暮らしをしているのです。年金が出るまで、
あと数年ありますし。」と、こころなしか寂しげだった。

以前から趣味だった写真。
打ち込める趣味で、プロ並みの腕前。
カメラも、マニアの人ならほしくなるようなカメラの数々。
始めて勝又さんにお会いしたときは、カメラマンかと思ったほどだった。

ところは神奈川県。
某田舎暮らし関連の雑誌を買おうと、近所の本屋さんへ。
ところが、お目当ての雑誌が売り切れていて「今日はついていないな。」と、思いな
がら隣の本棚へ目を移すと、「UターンIターンビーイング」という雑誌を見つけた。
ペラペラめくっていくと、屋久島が載っていた。

以前から、定年後は南の地方で田舎暮らし、というのは頭にあったが、具体的では
なかったという。
屋久島に在住している夫婦の記事が、移住者コーナーに載っていた。
それが私たちということ。

1月のお正月気分が抜けきっていない頃、勝又さんから電話がかかってきた。
「屋久島に遊びに行きたいのですが、家にあそびにいってもよろしいでしょうか?」
突然のことだったが、主人が「屋久島を案内しましょう。」と言って電話を置いた。

ほどなくして、勝又さんが屋久島に降り立った。
「冬とはいえ、太陽がとても暖かい。空気に屋久島の香りが付いている。」と勝又さ
んの言葉。
主人が、勝又さんと島内一周めぐりを計画していたが、主人は仕事が忙しくなった
ため、私が案内をすることになった。

勝又さんは屋久島を巡っているうちに、屋久島にすっかり取り付かれてしまったよ
うだった。
田舎暮らしに対する思い、職場を去った後は、めっきりなくなった人との付き合い、
家族のことなど、本音があふれて来た。
毎日お酒を飲んでしまう都会での生活を、屋久島にいると忘れられそうだと、勝又
さんは語る。

勝又さんは、とりあえずという形で、土地を買っておくことにした。
なぜだか、買うことにしたのだった。
そうすることによって、屋久島と繋がりを持っていられるという安心感が生まれる
のだろう。
心のよりどころを、屋久島に印して帰りたかったのだと思う。
それが男心なのかと、同感したものだった。

「今、職を離れているとはいえ、屋久島には何度も来れるというわけではないので、
土地は直感で決めた。何かあったときのために、屋久島に土地を持っておきたい。」
という勝又さんだった。
勝又さんにとっての、何かあったときというのは、どういう意味なのかは分からな
いが、住みにくい世の中になっていくことに対して、危惧の念を抱かずにはいられ
なかった。

「何かあったときのために買っておく。」というと、万が一のときのための保険とい
う感覚なのだろう。
先日、私の家の前を「これからは、山菜をとって食べる時代が来るかもしれないよ。」
とポツリといいながら、ツワブキを両手に抱えきれない位摘んで、ゆっくり歩いて
いる地元のおじさん。
その言葉も、何かを示唆しているようで怖かった。
改めて、平和の尊さを願わずにはいられない心境になった。

うちの主人が、15年前に屋久島に土地を買ったときも、バブルの浮かれた気分で
土地を買ったのではなく、将来、現実に自分自身の棲みかとして購入したのだった。
バブル崩壊以前のいい時代に、今のひどい状況を予期する人は、そう多くはなかっ
たと思う。

「兄弟のうち1人だけ遠くに行くのは反対されたが、自分の第二の人生は自分で決
めたかった。土地は決して安い買い物ではないが、銀行にお金を預けておくよりも
いいだろうし、土地の値段も下がったから、いい機会だと思います。ただ、今自分
が住んでいるところを売りに出しても、安くでしか売れないだろうが、今は買い手
市場なので仕方がないですね。妻の荷物を処分して、屋久島に来るのはつらいこと
だけど、くよくよしていても次に進めないので決心しました。」と勝又さん。

数年後には屋久島の土地に、小さい質素な家を建てて過ごしたいと、夢を膨らませ
ている。
最愛の奥さんを亡くし、不景気な時代にリストラに合いながらも、次にステップア
ップしようという勝又さんの行動力は、同年代の方々に勇気を与えてくれているよ
うだった。

私の家の台所に、勝又さんが写した千尋の滝の写真が飾ってある。
屋久島の枯れる事のない滝の水が、写真の中からほとばしる。
いつの時代においても平和が続いて、みんながきれいな水をたらふく飲めたらいい
のに、と思いながら蛇口をひねった。


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屋久島パイン株式会社   http://www.yakushimapain.co.jp/
発行責任者  角谷和雄   kakutani@yakushimapain.co.jp
本      社       東京都千代田区麹町1丁目8番14号
屋久島支店       鹿児島県熊毛郡屋久町原914番地
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