メルマガ:週刊フランスのWEB
タイトル:hebdofrance 17-10-2005  2005/10/17


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                                    Davide Yoshi TANABE
                                         vous presente

              ≪週刊フランスのWEB≫
                    第233号

Tokio, le 17 octobre 2005

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Index (目次)
        1.ラプラスの魔
        2.パリのメトロ ノマンクラチュール(5)ナシオン駅
        3.シャンソン ピアフ 「パリのメトロ」
        4.忘れられたフランス人  ヴィクトール・ノワール
        5.あとがき

フランス語のサイトの文字化けは
表示>エンコード>西ヨーロッパ言語の順で選択すれば修正することができま
す。

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1.Demon de Laplace
  http://www.math.unicaen.fr/~reyssat/laplace/

 DemonであってDiableではない。Demonは本来「超自然的な存在」であって、善悪は
関係ない。この語を「悪魔」diableと同義にしたのはキリスト教である。魔神が超能
力者をいみするようになったのはマンガの影響だろう。本来、魔神にはそのような意
味はなかった。「魔」は魔羅のことだが、「人の心を乱し、仏道修行の妨げをする悪
鬼」(漢字源)が原義。とすれば魔というよりデーモンとギリシャ語を残した訳の方
がよかったかもしれない。

 「ラプラスの魔」はPCゲームの名前でもあるようだが、「未来をあらかじめ予見で
きる存在」の意味で通常使われている言葉のようだ。

 先ず、ラプラスとはPierre Simon de Laplace(1749-1827)のことで、数学者、物
理学者、天文学者にして政治家でもあった。フランスのニュートンと言われた学者で
ある。農家の出であるが、勿論貧農ではなく林檎酒の製造販売で家はリッチであっ
た。早くから天分を発揮する。Diderotとともに百科辞典のもう一人の生みの親であ
るd'Alembertに才能を認められて王立士官学校Ecole militaireの数学教師になった
のは20歳の時である。1775年には科学アカデミーの会員に選ばれている(25歳)。

 天才とはいえ、世渡りが格別上手かったように僕が思うのは、革命時代にはグラン
・ゼコール(Ecole Normale やEcole Polutechnique)の設立に関与し、ナポレオン
時代には内務大臣を歴任するなど激動の時代を巧みに泳ぎきり、王制復古下でも侯爵
となり貴族院議員、アカデミー会員になってしまうのであり、唯の科学者とは思えな
いからである。

 ラプラスは太陽系の物理的解明や統計学に功績を残しているが、決定論でも有名
で、それが世に言う「ラプラスの魔」である。数学、天文学、物理学がラプラスに導
いた哲学である。とりわけニュートンの万有引力の法則loi de la gravitation
universelleが全てを語ると考えた。これはラプラスの著書『確率概論 Theorie
analytique des probabilites 』(1812年)にある。日本で翻訳されている『確率の
哲学的試論 Essai Philosophique sur les Probabilites』(1814年)にも略同様の
記述がある。多少長いが引用すると、
「Nous devons envisager l'etat present de l'univers comme l'effet de son
etat anterieur et comme la cause de celui qui va suivre. Une intelligence
qui, pour un instant donne, connaitrait toutes les forces dont la nature est
animee et la situation respective des etres qui la composent(demon de
Laplaceといわれるのがこれだ), si d'ailleurs elle etait assez vaste pour
soumettre ces donnees a l'analyse, embrasserait dans la meme formule les
mouvements des plus grands corps de l'univers et ceux du plus leger atome;
rien ne serait incertain pour elle, et l'avenir, comme le passe, serait
present a ses yeux.(現在の状態はその前の状態の結果である。またそれは来るべ
き状態の原因である。所与の瞬間にあって自然が現在生むあらゆる力を知るであろう
霊的存在及び自然を構成する諸存在の其々の状況を知るであろう霊的存在-ラプラス
の魔-は、更にこの霊的存在がこれらの諸要素を分析するにあたって充分に壮大であ
るとすれば、同じ公式で宇宙の最も大きな物体及び最も小さい原子の運動全てを理解
するであろう。この霊的存在にとって世の中に不確実なものはなく、未来は過去と同
じで、現在そのものであるにちがいない)」。
http://visualiseur.bnf.fr/Visualiseur?Destination=Gallica&O=NUMM-88764
 この決定論はハイゼンベルグWerner Heisenberg(1901-1976)の不確定性原理
principe d'incertitude(1925年に発見)により今日葬り去られたようだが、僕には
なお有効な理論にも見える。古典科学の最初のパラダイムとして了解できる。尤も、
前提が前提であるから、即ちあらゆる物理的力を知ることが出きればの話で、実際は
知ることが出来ないので不確実なわけである。

 上記の文章をラプラスはconnaitrait、embrasserait、seraitと条件法を多用して
いる。現在の文法学者は条件法を「法mode」というよりも「時制temps」に分類して
いるそうであるが(Grevisse『le bon usage』page 1259、僕の文法署におけるバイ
ブル)、いずれにせよ日本語にはなかなかならない。そこで僕の翻訳にも誤魔化しが
あるわけだが、ラプラスは、デモンを登場させる前に、明確にnous devons
envisager(we must consider)と現在形で言いきっているのだから決定論者そのも
のである。

 ちなみに「ラプラスの魔」という言葉は松岡正剛によると1928年のデュ・ボア・
レーモンの『自然認識の限界について』(岩波文庫)のなかでネーミングされたとい
う。デュ・ボア・レーモンとはEmil Du Bois-Reymond (1818-1896) のことでドイツ
の物理学者・生理学者である。非常にフランス的名前だが、スイス(Neuchatel)系の
ドイツ人でベルリン生まれだが、自らケルト的血が流れているといっていたそうであ
る。『自然認識の限界について 宇宙の七つの謎』が日本語への翻訳版(1928年坂田
徳男訳、絶版)の題名。原題は『Uber die Grenzen des Naturerkennens』(1872年)
と思われる。なお弟のPaul Du Bois-Reymond(1831-1889)は著名な数学者である。
調べてみたが、Emil Du Bois-Reymondが確かに「ラプラスの魔」と言い出したか否か
ははっきりしなかった。

 なおハイゼンベルグはナチに協力し、最終的に成功しなかったが原爆製造プロジェ
クトの責任者であった。戦後ノーベル物理学賞を得て、戦中のことを正当化している
(少なくとも充分な反省があるとは僕には思えない)。科学者の悪魔性diableをそこ
にみるのである。

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2.Metro parisien - ligne 1. Nation
  http://www.insecula.com/salle/MS01600.html

 ナシオン広場place de la Nationの駅である。直径250メートルの大きな広場であ
る。革命前はplace du Trone(玉座広場)と呼ばれた。

 玉座広場とは、1660年ルイ14世とマリ・テレーズのパリ入城を記念して名付けられ
た広場であるが、ルイ16世が整備したこの広場は、1789年の革命の火種ともなってい
る。革命の時はplace du Trone renverse'(倒された玉座広場)と命名されたという
から、いかにも直截(ちょくせつ)的であった。革命の息吹が伝わってくる。例のギ
ロチンもこの広場に設置され、多くの首が文字通り落された。コンコルド広場で1000
名、このナシオン広場で1300名の命が散った。フランス革命の血なまぐさい一面であ
る。現在の名前ナシオンが採用されたのは1880年7月2日で、その年の革命記念日(7
月14日)のためである。前年がフランス革命100周年。1899年にはモニュメントとし
てダルAime-Jules Dalou作になるブロンズ像「フランス共和国の勝利Le Triomphe de
la Republique」が立てられている。

 ダルは第二帝政時代にも活躍するが、パリ・コミューンに同情的であったところか
ら「好ましからざる人物persona non grata」となりロンドンに亡命した(1871
年)。亡命先で「新彫刻運動The New Sculpture」の先頭に立ち、建築と彫刻の融合
を目指した。ロンドンのRoyal Exhage(エリザベス1世によって1571年に「王立市
場」命名された由緒ある商品取引市場、オリジナルな建物は2度の火災にあったが、
1842年に再建)の裏手にダル作成の噴水がある。現状がどうなっているか僕は知らな
い。Royal Exhangeは1939年に取引市場としての役割を終え、現在は高級品のショッ
ピング・センターとなってしまった。1880年に帰国して多くの作品を残した。ブルデ
ルAntoine Bourdelleの師である。
http://en.wikipedia.org/wiki/Royal_Exchange_(London)

 ところで、ナシオンnationとは国民または国家と訳されるが、これは国民peupleま
たは国家Etatと概念が違う。さらに樋口陽一風にいえば、Etat-nation(国民国家)
というときのnationとはdemosであり、ethosではない。即ちdemos=自然の帰属集合
体からいったん解放された諸個人がとりむすぶ社会契約という人為のフィクション、
ethos=民族という自然の所与をまるごと前提とするもの、と両者を対比させ前者
demosをnationと定義する(『国法学 人権原論』、有斐閣、2004年、page104)。こ
れはフランスの法律用語で、たとえば人権宣言Declaration des Droit de l'Homme
et du Citoyenに登場するnationの概念、Le principe de toute souverainete
reside essentiellement dans la Nationという時のnation、即ちPersonne
juridique constituee par l'ensemble des individus composant l'Etat, mais
distincte de ceux-ci et titulaire du droit subjectif de souveraineteという辞
書Robertの用語の定義とも一致する。しかし、一般的に使われる場合、たとえば国連
ONU-Organisation des Naitons Uniesというときのnationはetatやpaysの、また
Voltaireの著『Essai sur les moeurs et l'esprit des nations』のnationはpeuple
の、はたルソーが「des nations d'hommes d'une taille gigantesque」というとき
のnationはraceの意味であるからして、nationの定義は簡単ではない。またごく一般
的にはdemosはフランス語でle peupleと訳されるし、ethosはl'ethique乃至moeurs
(道徳)と訳されるから、樋口が先に示したギリシャ語ethos-demosは混乱を招く虞
がありそうだ。nation論を展開するだけで優に長大な博士論文が書けるであろう。こ
こではナシオン駅にちなんで、nationの概念が実は極めて難しい概念であることを
知ってもらえば足りる。しかし、同時に、現今の日本で「国家」、「国民国家」、
「国益」、「日本」、「日本人」云々と誰かが言い出したとき、果たしてそこに
nationの近代における本来的な意味が含まれるのか。含まれないのか思い出してもら
えればよいのである。

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3.Le Metro de Paris
  Paroles : Michel Rivgauche Musique : Claude Leveillee
  Du ballet La Voix 1960

Des escaliers mecaniques,
Portillons automatiques,
Couloirs de correspondance,
Heures de pointe et d'affluence,
Portieres en mosaique,
Labyrinthe fantastique
Et toujours, en courant,
Des gens qui vont et viennent,
Et encore, en courant,
Les memes gens qui reviennent
Et le metro qui flanait sous Paris,
Doucement s'elance et puis s'envole,
S'envole sur les toits de Paris.

エスカレーター、自動ドア、乗り継ぎ駅、ラッシュ・アワー、モザイクのドア、複雑
怪奇な迷路、いつも小走りで、行き来する人々、しかも急ぎ足で、同(おんな)じ人
がまた戻って来る、パリの下をメトロがあちこち走る、突進して来て飛び立つ、パリ
の空の上を跳んで行く。

Des midinettes qui trottinent,
Des ouvriers qui cheminent,
Des dactylos qui se pressent,
Des militaires qui s'empressent,
Des employes qui pietinent,
Des amoureux qui butinent
Et toujours, en courant,
Des gens qui vont et qui viennent,
Et encore, en courant,
Le memes gens qui reviennent
Et le metro qui flanait sous Paris,
Doucement s'elance et puis s'envole,
S'envole sur les toits de Paris.

そそくさと歩く娘たち、のそのそと歩く工員たち、急いで行くタイピストたち、急行
する兵士たち、足踏みする従業員たち、蜜を集める恋人たち、、いつも小走りで、行
き来する人々、しかも急ぎ足で、同(おんな)じ人がまた戻って来る、パリの下をメ
トロがあちこち走る、突進して来て飛び立つ、パリの空の上を跳んで行く。

Des escaliers mecaniques,
Portillons automatiques,
Des bruits de pas qui resonnent
Dans les couloirs monotones,
Basilique fantastique
Dans le faubourg electrique,
Le metro de Paris,
Gigantesque ver luisant
Sur les toits de Paris,
A tisse des fils d'argent
Et, doucement,
Il s'etire sur les toits de Paris
Et glisse, glisse, glisse, glisse, glisse...

エスカレーター、自動ドア、単調な廊下にこだまする足音、電気の下町にある偉大な
伽藍、パリのメトロ、パリの空を飛ぶ巨大な蛍が、銀の糸を紡いで、そして、ゆっく
りと、パリの空に延びて滑る、滑る、滑る、滑る、滑る、、、。


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4.Victor Noir
  http://www.insecula.com/oeuvre/O0012439.html

 ノワールVoctor Noir、本名サルモンYvan Salmonは、ラ・マルセイエーズ紙の記者
であった。1870年1月20日、ナポレオン1世の甥であり3世の従兄弟であるピエール・
ボナパルト公によりピストルで殺された。22歳の若さであった。この暗殺がひとつの
引金となって第二帝政が倒されることになる。

 遺体はペール・ラシェーズ墓地Cimetiere du Pere-Lachaise に第三共和制になっ
てから埋葬された。ここに横たわるVictot Noirのブロンズ像があるが、これを制作
したのが上記「フランス共和国の勝利」のダルDalouである。ブロンズ像はズボンを
はいているが、丁度男性の象徴の部分が盛り上がっていて大変virilであるというの
で、死後硬直でこうした現象があるとも思えないが、たくさんの女性たちが手で触れ
たためにその部分が光っている。上記サイトの画像でもそれと分かる。当局は淫らで
あるとして高い柵を墓の回りに作ったという。

 ちなみに、このペール・ラシェーズ墓地には、ネルヴァルGerard de Nerval、ショ
パンFrederic Chopin、バルザックHonore' de Balzac、サラ・ベルナールSarah
Bernhardt、プルストMarcel Proust、アポリネールGuillaume Apollinaireそしてイ
ヴ・モンタンとシモーヌ・シニョレたちが眠っている。

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5.あとがき

★ 六月には読者諸姉諸兄のそれまでのカンパのおかげでパリに行けました。大変感
謝申し上げます。今後ともよろしくカンパのほどお願いいたします。

★ 郵政民営化
 SNCM(Societe Nationale Maritime Corse Mediterranee、地中海コルシカ海運公
社)の労働組合が民営化に反対して、先月9月26日フェリーをハイジャックした。セ
ンセイショナルな事件であった。10月に入ってからその他多くのストライキが続いて
いる。
http://www.sncm.fr/action/home
 郵政民営化法案に賛否を問うという形で日本では衆議院選挙が行われた。小選挙区
制の特性を有利に導いた小泉の大勝であった。かくして郵政民営化法案は10月14日法
律となった。国民投票ではなく、総選挙に訴えた小泉の手法はとても賛成できない
が、郵政民営化は果たして民意であったのだろうか。僕は、先の欧州憲法に対するフ
ランスの国民投票がシラク大統領への人気投票的性格をもったと同じように、しか
し、シラクとは反対に小泉が勝ちを得たのだと考えている。小泉への人気投票であっ
たということである。従って、民営化という具体的政策に国民が圧倒的賛意を表明し
たとは考えられない。自民党の得票率がとりわけ過半数を大きく上回ったわけでもな
い。略半数である。とすれば、実は民意がどこにあったかは尚明瞭ではないのであ
る。

 民営化の対象となっている日本郵政公社の労働者たちはこの民営化をどうおもって
いるのだろう。この公社には少なくとも三つの労働組合がある。組合員数の多い順で
いうと日本郵政公社労働組合(JPU)、全日本郵政労働組合(全郵政)、郵政産業労
働組合(郵産労)である。公共企業体等労働関係法(たとてば特定独立行政法人等の
労働関係に関する法律第17条)、国家公務員法第98条、地方公務員法第37条等は同盟
罷業(ストライキ)が禁止されている。日本郵政公社法第50条で「公社の役員及び職
員は、国家公務員とする」とあるから、郵政公社の職員(労働者)は国家公務員であ
る。だからストができない。公務員であるから「すべて公務員は、全体の奉仕者であ
つて、一部の奉仕者ではない」(憲法第15条)となる。しかし、憲法を普通に読めば
「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障す
る」(同第28条)なのだから、公務員がストをしてはいけないことはない。確かに最
高裁で判例が出て、公務員はスト権を持たないという法律が憲法違反ではないという
ことになっている。一方日本は1965年にILO第87号「結社の自由及び団結権の保護に
関する条約」及び1953年にILO第98号「団結権及び団体交渉権についての原則の適用
に関する条約」を批准している。条約の位置であるが、憲法第10章「最高法規」第98
条に「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守すること
を必要とする」と明記してある。

 以上は法律からみた公務員のスト権である。しかし、憲法や法律がどうあろうとも
その法律を決めるのも最終的には国民である。その国民に労働者の意思を示さねばな
らない。そこで郵政公社の労働組合のスト権である。民営化が嫌だ、反対だというな
らストライキをしてでも主張するのが順当である。ところが、それは現実的ではな
い。というのは、上記3組合をみると、ニュアンスの相違はあるものの郵政民営化法
案に反対であるが、いずれもスト権を確立していない。JPU及び全郵政はともに日本
労働組合総連合(連合)のメンバーである。郵産労は全国労働組合総連合(全労連)
のメンバーになっている。
 郵産労は、「資本からの独立」、「政党からの独立」、「要求に基づく共同行
動」、「組合民主主義」の4つを活動の柱に1982年に練馬郵便局で産声を上げた組合
で、郵政公社の組合ではマイナーである。フランスでいうと近年とみに勢力を伸ばし
ている組合運動であるSUD(Solidaires, Unitaires, Democratiques)に似ている。
NPO Attac運動の理念と同根であるが、日本でAttacが全く延びないように郵産労も組
織拡大に苦戦しているようだ。その原因は、組織の民主主義に疑問があるからだろう
と推測する。それはそれとして、スト権が確立されていない。
http://www.sudptt.fr/ (郵政SUDをサイト例としてあげる)

 ストライキは国民にとって迷惑には違いない。しかし、労働者の権利が犯されると
いう場面で、ストをしなければ誰も深刻な事態だとは思うまい。既得権droit acquis
の擁護にだけ走っていると思われれば、連帯も生じない。そこをどう国民を納得させ
て権利の主張をするかが問われている。2004年、プロ野球の労働組合がスト権を確立
した。ストをして文句をいう国民は殆ど皆無だった。古田会長の手腕は見事であっ
た。郵政サーヴィスのストライキがあれば、僕だって不自由だ、迷惑だ、けれど我慢
する。

 しかし、断っておくが僕は郵政民営化に必ずしも不賛成ではない。唯、こんど成立
した法律に反対なのである。東京電力は民間会社である。しかし、電気事業法に縛ら
れている。採算があわないからといって過疎地への電気供給をむやみと断ることはで
きない。公益性があるからといって国営でなければならない理由はない。クロネコ
メール便を利用した人はそのシステムの便利さに驚くであろう。法案が成立しても遅
くないのである。反対なら意思を示すべきではないか。

★楽天
 楽天の三木谷の提案?インターネットとTVの融合だって!笑わせるではないか。ラ
イブドアの時も同じだ。株価つりあげ以外のなにものでもないと考えられる。
 金融庁から委任を受け、委員長や委員が内閣総理大臣の任命になる証券取引等監視
委員会(SESC)というのがある。委員会の職員数は現在500名程いる。その全てが疑
わしい取引を監視する業務についているわけではないが、摘発数が少なすぎる。ここ
の職員は証券取引法第211条に基づいて強制調査権限をもっている。証取監視委が告
発すれば検察庁も捜査を行う。検察は独自に捜査も可能だ。僕は三木谷も堀江も怪し
いと睨んでいる。ファンドの村上某も似たようなものだ。メディアを巻き込んだ株価
操作もいいところだ。風説の流布・偽計、インサイダー取引、相場操縦などで証取監
視委が告発した件数はそれぞれ毎年5件もない。日本の株式市場はモラルが高いの
か。でたらめである。
 日本の証取監視委のモデルはアメリカのSEC(US証券取引委員会)である。両者の
ホームページを比べてみて欲しい。巨大な組織であるにもかかわらず圧倒的にSECが
分かり易く、詳しい情報公開をしている。権限も強い。
http://www.fsa.go.jp/sesc/index.htm (日本の証券取引等監視委員会)
http://www.sec.gov/index.htm (US SEC)
証取監視委は内部告発等情報を求めているもののemailも公開せず、ホームページで
雛型に書きこみを要請する。SECはあらゆる部門のemailを公開、勿論委員長や委員に
もメイルを出せる。投資家ほごという観点から出来た組織だが、彼我の差は歴然とし
ており、アメリカの特に個人投資家は充分な行政サーヴィスを受けているといわなけ
ればならない。片や日本の個人投資家の憐れなる状態に置かれていることよ。ハイリ
スク・ハイリターン、自己責任で片付けられそうだ。
 フランスはというと2003年8月、これまでのCOB(Commission des Operations de
Bourse)他を統合してAMF(Autorite des Marches Financiers)を創設した。COBは
知っていたが、僕はAMFができたことを知らなかった。独立した機関であり、職員も
320名と少ない。しかし、フランスの金融市場は米国、英国、スイスに比して極めて
小規模である。
http://www.amf-france.org/default.asp
 株取引なんてお金持ちのすることと、のほほんとしていてはいけない。郵政公社
だって投信(ファンド)を売り出し始めた。投信がなにに投資するか。株、債券、デ
リヴァティヴ、商品(オイル、コットン、金等)等々いろいろある。郵政公社の販売
するファンドの運用は他人任せらしい。

 郵政公社は投信を販売すれば手数料が入る。投信の成績(利回りがプラスであろう
がマイナスであろうが)に責任は一切ない。責任をとって損失補填でもすれば余計問
題だ。

★ 宮田光雄著『ナチ・ドイツと言語』
 小泉の手法に関して参考になる本をあげる。宮田光雄著『ナチ・ドイツと言語』
(岩波新書792、2002年11月)である。宮田は僕の先生の一人である。内村鑑三の流
れをくむ無教会派のクリスチャン。ほとんど聖人といっていいほど、僕などとても真
似の出来ない(真似もしたくないが)清貧をよしとする先生である。学問に厳しすぎ
るくらい厳しい。本誌169号(2002年9月9日)の「あとがき」にも登場している。聖
書の「放蕩息子」について書いた節である。今という時期に、宮田の著書は貴重であ
る。僕はヴァイマール体制のまだ根付くことの出来なかった弱い民主主義が、ヴェル
サイユ条約以来の暗い経済社会の中でヒトラーを生んでしまったと理解していたが、
どうも甘かったようだ。宮田によれば、まさにヴァイマール下で既にヒトラー(彼で
なければ誰でも良いビスマルクのような英雄)を迎える素地が着々とナショナリズム
の衣を着て進んでいたのだ。僕たちの現在は、民主憲法下で知らず知らずに自己を否
定する方向へと歩み始めているのかもしれない。自衛隊がアフガニスタンへ、イラク
へ、地震被害のパキスタンへ派遣されたとき、盛大な壮行式が執り行われているのを
TVでみた。あれは、動員された兵隊たちを送った歴史上の場面とどう違うというのだ
ろうか。

★ 根津美術館
 青山に東武電鉄の創始者根津嘉一郎のコレクションを集めた美術館と日本庭園があ
る。そこで特別展「燕子花(かきつばた)図-光琳 元禄の偉才-」(11月6日まで)
を見た。「かきつはた」が何故「につらう」の枕詞なんだろうなぁ、色が全然違う
じゃないかと思うが、光琳のカキツバタもアヤメ(菖蒲)とどう違うのか良く分から
なかった。尾形光琳は偉才には違いない。しかし、こうした装飾画は好きではない。
来ている客層もいやらしい。僕の目的は本誌第153号や第162号で少し触れた、この美
術館が所蔵しているという墨絵「那智の滝」をみたかったのだが、生憎常設展示され
てはいなかった。失敗である。事前に電話でもして調べてから行くべきだった。庭園
はそれなりに広いものであったが、木々が立てこみすぎて鬱陶しい。

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発行者:田邊 好美(ヨシハル)
    〒 157-0073 東京都世田谷区
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