メルマガ:週刊フランスのWEB
タイトル:hebdofrance 22-12-2003  2003/12/22


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                              Davide Yoshi TANABE
                                 vous presente

              ≪週刊フランスのWEB≫
                    第198号
                                          Tokio, le 22 decembre 2003

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Index (目次)
        1.戦場のピアニスト
        2.マドレーヌ (お菓子)
        3.ダナイデス
        4.シャンソン ピアフ
        5.忘れられたフランス人 「余所者(よそもの)」
        6.あとがき

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1.「Le pianiste」de Roman Planski
  http://www.cannes-fest.com/2002/f_lepianiste.htm

 邦題は「戦場のピアニスト」であるが、原題は「The pianist / Le
 pianiste」。2002年のカンヌ映画祭の大賞を受けたロマン・ポランスキーRoman
Planski監督の映画。これを僕は今日DVDでみた。

 ポランスキーはフランス生まれだが両親はポーランド出身。主人公はポーラン
ドのピアニストにして作曲家であるシュピルマンWladyslaw Szpilman、実在の人
物である。
http://musicologie.free.fr/Biographies/s/szpilman_wladyslaw.html

 ドイツ占領下のポーランドを想像を絶する苦難を超えて生き延びる。映画は、
まさにその時代の物語だが、ハリウッド映画ほど単純ではない。シュピルマン自
身のの回想録「死せる町 Une ville morte」が原作だけに、ユダヤ人虐殺
l'holocausteの告発に終わっていない。感動の映画である。

 この映画にはピアノ曲が幾つかでてくるが、勿論ショパンChopinが中心にな
る。夜想曲嬰ハ短調nocturne en do # mineur等である。しかし、ベートーベン
やバッハの作品も出てくる。

 ついでに述べると、ドレミはフランス語では、イタリア語起源にちがいない
が、do / re / mi / fa /sol / la / si / doと書く。ドdoは「ut」ともいい、
「t」を発音する。ソはsolと書き「l」を読んでソル。たとえばラベルRavelの
協奏曲ト長調はconcerto en sol majeurとなる。長調・短調はmajeur /
 mineur。半音はsemi-ton。シャープ記号(#)はディエーズdiese、フラット
(この記号がキーボードのどこにあるかわからないので、bで代用するが)はベ
モルbemol。

 そういえば、ハ長調とかト短調という日本語の言い方はそろそろやめた方がい
いのではないか。いまさら「イロハ」を使わなくてもいいと思う。小学校や中学
校の音楽の授業で、生徒を混乱させるに役立つだけである。

 ナチのドイツ、音楽芸術のドイツ、いずれもドイツでである。シュピルマンも
ベルリンに留学している。

 あの素晴らしい音楽の歴史のあるドイツが、バッハ、ベートーベン、ワグナー
のドイツが世界史でも最も恐ろしい計画的虐殺を展開したのである。それも「正
義」の名において。

 今、イラクで、アフガニスタンで戦争をしているアメリカも、素晴らしい音楽
を持っている。音楽を絵画を演劇を芸術を理解できる国民がたくさんアメリカに
いる。クリスマスが近い。シャンペンもいいが、どうしてぼくたちは、かくも残
虐でいられるのかを考えてもいいではないか。

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2.madeleine
  http://bschwoerer.free.fr/Recettes/Madeleines.html

 個人教授をしている生徒さんからお歳暮をいただいた。このお歳暮という習慣
はいかがとおもうが、これが今回の主題ではない。そのお歳暮はパリのアンジェ
リーナAngelinaなるお店のお菓子であった。アンジェリーナは東京のプランタン
百貨店にも店がある。
http://www.angelina.fr/ 
(国旗をクリックするとサイトの中に入れる)

 ワインも好きだが、お菓子も大好きである。そのお菓子の中に、マドレーヌを
発見した。嬉しかった。丁度、プルーストMarcel Proustの「失われし時を求め
て a la recherche du temps perdu」の読書MLで読みかけている場所だったから
である。

 マドレーヌというのは、マドレーヌ・ポルミエMadeleine Paulmier(フランス
の19世紀の菓子職人、女性)から来た名前だという説がある。僕は、マドレーヌ
を朝食のときによく食べた。カルメンの実家でも作っているので、もらってくる
と数週間毎朝食べていた。それにどこでも売っている普通の菓子であるし、作り
方も、サイトにあるように簡単至極。なにもプルーストのように紅茶につけなく
ても、ミルクでもコーヒーにでもつけて食すればいい。大抵は日がたってかたく
なったからミルクにつけるのだろうと思われる。

 さて、何故か有名になっているプルーストの大河小説に出てくる個所は次のよ
うなものである。極めてプルーストらしいデリケートな感覚が表出している場面
だ。引用してみる。

  "Elle envoya chercher un de ces gateaux courts et dodus appeles
Petites Madeleines qui semblent avoir ete moules dans la valve rainuree
d’une coquille de St Jacques. Et bientot, machinalement, accable par la
morne journee et la perspective d’un triste lendemain, je portai a mes
levres une cuilleree du the ou j’avais laisse s’amollir un morceau de
madeleine. Mais a l’instant meme ou la gorgee melee de miettes de
gateau toucha mon palais, je tressaillis, attentif a ce qui se passait d
’extraordinaire en moi. Un plaisir delicieux m’avait envahi..."
Marcel Proust, Du cote de chez Swann

 「彼女(母のこと)は「プチット・マドレーヌ」という名の小ぶりでふっくら
とした菓子を探しにやらせた。この菓子は帆立貝のあの筋目のついた貝殻で型を
とったもののようだ。今日という陰鬱な一日を思い、そうしてまた明日も侘しい
にちがいないと思いやられて鬱々としていたが、やがて無意識に、僕は紅茶の匙
を口に運んでいた。その匙の中には、ちぎりとって紅茶にひたしたマドレーヌが
あった。だが、菓子の一片を含んだ紅茶が口蓋に触れたその途端、僕の中に生じ
た不思議なことに気付いて身震いしてしまった。えもいわれぬ歓びにとらわれ
て、、、」
(「失われし時を求めて」の第1部「スワン家の方へ」から)
 
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3.Danaides
  http://grenier2clio.free.fr/grec/danaide.htm

 ギリシャ神話に出てくるシジフォス(シシュフォス Sisyphe)の神話はカミュ
のお蔭で日本でも有名になった。シジフォスと同じように永劫の刑を言渡された
娘たち、それがダナイデスである。

 ダナイデスはダナオスDnaosの50人の娘で、そのうち一人を除いて、49名が49
名とも結婚式の夜に父親の命令に従ってそれぞれの夫を針で殺す。例外が一人い
るというのが面白い。あるいは一人しかいなかったというべきだろうか。夫殺し
をしなかった娘ヒュペルムネストラHypermnestreは、親を裏切ったのである。

 夫殺しの娘たちが受けた刑は、底のない瓶(かめ)に水を運んできては注ぐと
いうものである。水が貯まることがないのだから、永遠に終わらない作業を繰返
さなければならない。

 サイトにダナイデスの神話を描いた絵がある。作者は英国の画家ウォーターハ
ウスJohn William Waterhouse(1849-1917)である。
http://preraphaelites.populus.ch/rub/3
 いわゆるラファエル前派Preraphaeliteと称される18世紀中葉に英国で生まれ
た絵画運動の一翼をになった画家である。このプレラファイエットというのは、
実在の模写としての絵画を拒否し、想像世界に遊び、イタリア・ルネッサンス前
派の再発見を目指したことが特徴らしい。Waterhouseは、好んでギリシャ古典に
題材をとっている。ローマ生まれとはいえ、いかにも英国らしいギリシャやロー
マへのコンプレックスに溢れている。バイロンLord Byron、ワイルドOscar
Wildeしかり。しかし、この手の絵は、技術が相当高くないと面白くない。「二
番煎じのルネッサンス」と僕には見える。Waterhouseの描く女性は、ギリシャ・
ラテンというよりも英国女性、それもアイルランド系の趣きがあっていただけな
い。

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4.Edith Piaf
  L'etranger

Paroles: R.Malleron. Musique: Juel, Marguerite Monnot   1934

Il avait un air tres doux,
Des yeux reveurs un peu fous
Aux lueurs etranges.
Comme bien des gars du Nord,
Dans ses cheveux un peu d'or,
Un sourire d'ange.
J'allais passer sans le voir
Mais quand il m'a dit bonsoir
D'une voix chantante,
J'ai compris que, ce soir-la,
Malgre la pluie et le froid,
Je serais contente.
Il avait un regard tres doux.
Il venait de je ne sais ou.

優しそうなひとだった
ちょっと普通じゃない夢みる人の目をして
余所者(よそもの)みたいな
北国の男たちのように
ややブロンドの髪をして
天使の笑みを浮かべて
そのひとに気付かず通りすぎるところだった
でもこんばんわと私に云ったとき
歌をうたうような声で
分かったの、その晩こそ
雨が降っていて寒かったけど
嬉しかったのよ
やさしく見つめてくれて
私の知らない国からやって来たのね

D'ou viens-tu ? Quel est ton nom ?
Le navire est ma maison.
La mer mon village.
Mon nom, nul ne le saura.
Je suis simplement un gars
Ardent a l'ouvrage
Et si j'ai le coeur trop lourd,
Donne-moi donc un peu d'amour,
Espoir de caresses.
Et moi, fille au coeuur blase,
J'ai senti, sous ses baisers,
Une ardente ivresse.
Il avait un regard tres doux
Il venait de je ne sais ou.

お国はどちら? お名前は?
船が僕の住処(すみか)
僕の名前を誰もしらない
僕はただの男
仕事熱心な
心が重いから
少しの恋をくれ給え
希望をくれる愛撫を
私はすれっからしの女
感じとったの 接吻されて
激しい酔いを
やさしく見つめてくれて
私の知らない国からやって来たのね


Simplement, sans boniments,
J'aimais mon nouvel amant,
Mon epoux d'une heure.
Comme bien des malheureux,
Il croyait lire en mes yeux
La femme qu'on pleure
Et, follement, j'esperais
Qu'au matin, il me dirait
Suis-moi je t'emmene.
J'aurais dit oui, je le sens,
Mais il a fui, me laissant
Rivee a ma chaine.
Il avait un regard tres doux.
Il venait de je ne sais ou.

ただ 嘘もなく
新しい恋人を愛した
一時(いっとき)の旦那様を
なんて不幸せなんでしょう
私の目の中に読みとったとおもったのね
哀れな女
だから おかしいわ 待ち望んでしまったの
朝になったら 云ってくれると
僕について来いって
そしたら ええって答えたでしょう きっとね
でも去って行った 私をおいて
鎖に繋がれたままの
やさしく見つめてくれて
私の知らない国からやって来たのね

J'ai reve de l'etranger
Et, le coeur tout derange
Par les cigarettes,
Par l'alcool et le cafard,
Son souvenir chaque soir
M'a tourne la tete
Mais on dit que, pres du port,
On a repeche le corps
D'un gars de marine
Qui, par l'amour delaisse,
Ne trouva pour le bercer
Que la mer caline.
Il avait un regard tres doux.
Il s'en allait je ne sais ou.

あの余所者のことを考える
心は乱され
紫煙に
お酒に 憂鬱に
男への思いが夜毎に浮かび
頭がふらふら
でもね 波止場のそばで
身体がひきあげられたんですって
水兵の
見捨てられた恋のため
心慰められるには
海だけが優しく愛撫する
やさしく見つめてくれて
私の知らない国からやって来たのね

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5.あとがき

 上記に様々なことを記したので、「あとがき」は今回短い。

 書こうと思っていたテーマdeluge(大洪水)を変更して「戦場のピアニスト」
をとりあげてしまった。

 邦題「まぼろし」を見た。原題は「sous le sable 砂の下に」。とてもフラン
ス的な映画であった。僕がいう「フランス的」というのは、なんだか結末がなく
て、難解なという意味ではない。夫が海岸で行方不明になってしまった妻の心の
揺れの描き方が、如何にも「愛 amour」を、それも若者達の間ではなく、長く
連れ添った夫婦の愛情を知っているヨーロッパの監督のものだと思わせるからで
ある。老いた愛ではなく、持続した愛の姿なのである。
 シャルロット・ランプリングCharlotte Rampling、とても魅力のある女優であ
る。もうちっとも若くないが、歳をとって、といっても50代だろうが、素晴らし
い味のある女性になった。モーニングなんとかが持て囃される日本では、とても
期待できない女優である。美しくまた枯れてしまうことなく歳をとった女優が活
躍できる舞台がフランスにはある。女性が女性らしくなるのは、30を過ぎてから
であるとは、既に書いた。ヨーロッパに帰りたくならせる映画であった。
http://www.allocine.fr/film/fichefilm_gen_cfilm=26706.html

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発行者:田邊 好美(ヨシハル)
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