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タイトル:Daily Drama Express 2008/01/06 のだめカンタービレ in ヨーロッパ 第二夜  2008/01/08


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                        ★★ 日刊ドラマ速報 ★★
            ☆☆ 2006/mm/dd (Mon) ☆☆
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== 目次 ==============================================================
  1.月曜日の連続ドラマ
  2.編集後記
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1. 月曜日の連続ドラマ
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タイトル のだめカンタービレ in ヨーロッパ
局  名 フジ系
放映日時 月曜21時
キャスト 野田恵 (上野樹里)
 千秋真一(玉木宏)
 谷岡肇 (西村雅彦)
 峰龍太郎(瑛  太)
 三木清良(水川あさみ)
 奥山真澄(小出恵介)
 多賀谷彩子(上原美佐)
 大河内守(遠藤雄弥)
 佐久 桜(サ エ コ)
 峰 龍見(伊武雅刀)
 河野けえ子(畑野ひろ子)
 江藤耕造(豊原功補)
 フランツ・シュトレーゼマン(竹中直人)
 石川怜奈(岩佐真悠子)
 田中真紀子(高瀬友規奈)
 玉木圭司(近藤公園)
 橋本洋平(坂本 真)
 鈴木 萌(松岡璃奈子)
 鈴木 薫(松岡恵望子)
 岩井一志(山中崇)
 金城静香(小林きな子)
 井上由貴(深田あき)
 金 井 (小嶌天天)
 フランク(ウエンツ瑛士)
 ターニャ(ベッキー)
 並木ゆうこ(山口紗弥加)
 片平 元(石井正則(アリtoキリギリス))
 黒木泰則(福士誠治)
 エリーゼ(吉瀬美智子)
原  作 二ノ宮知子
脚  本 後藤凜
主題歌  『』

あらすじ 第二夜

 千秋(玉木宏)は襲い掛かってきた暴漢を振り払った。男はドイツ
語をしゃべっている。よく見るとオリバーというシュトレーゼマン
(竹中直人)のSPだった。どういうことだ?千秋は真意を問いただそ
うとしたが、オリバーは有無を言わさず千秋を担いで走り出した。

 のだめ(上野樹里)はフランク(ウェンツ瑛士)とともにアナリーゼ
(楽曲の構造や背景を分析すること)の授業に出た。何をするのかよ
くわかっていないのだめの様子にフランクは驚いた。のだめはコンセ
ルヴァトワールの説明会に出てなかったのだ。ふと見ると10歳くらい
のこどもがいる。
「迷子?」
「コンセルヴァトワールは試験さえ通れば何歳からでも入学できるん
だよ。上限は22歳までだけど」
「じゃああたしが一番年上?」
 フランクの説明にのだめはますます驚いた。
 講師がブラームス交響曲第3番ヘ長調第3楽章を流した。それを聴い
て、学生たちは次々と主題や動機、作曲家の構想、作曲の年代、背景
を論じていく。
「君も意見を言いなさい」
「へっ?え、えーと……今度にしておきます」
 のだめの答えに講師は呆れたような顔をした。なんで、なんでみん
なそんなに知ってるの?こどもまで……。まだ初日なのにのだめはす
っかりしょげてしまった。

 千秋が連れられてきたのは、エリーゼ(吉瀬美智子)のところだっ
た。
「うちの事務所と契約しなさい」
 そうすればシュトレーゼマンの演奏ツアーにすぐ合流でき、修業に
もなると言う。
「こんな非人道的なやり方をするとこと契約できるか!」
 千秋はきっぱりと断った。
「そう、それなら」
 エリーゼは不気味な笑みを浮かべたかと思うと、いきなりくすぐり
地獄にかけた。
「ジャンの仇よ!」
 ジャンのファンだった私怨も手伝ってエリーゼの攻撃は熾烈を極め
た。さすがの千秋も耐え切れず仕方なく契約書にサインした。

 ぐったりしてアパルトマンに戻ってくると、フランクがメモを持っ
て駆け降りてきた。のだめがシュトレーゼマンに似た変な男にさらわ
れたのだと言う。メモに行き先があるからと。

 千秋はメモの示すパリの高級クラブへやって来た。シュトレーゼマ
ンは上機嫌で千秋を出迎えると、今日は祝賀会だと言い出した。のだ
めもすっかりそのつもりでいる。
「お断りします」
 千秋は丁重に断った。演奏旅行のため今夜中に夜行列車でスペイン
に向かいたいという。
「アスヒコウキデイケバイイジャナイ」
「いや、できる限り乗りたくない……」
「ソウデスカ、デハワタシモイキマショウ」
 シュトレーゼマンは席をたった。
「どこに?どれくらい?」
 のだめが心配そうに聞いてきた。
「世界中、3ヶ月くらい」
 千秋はそう答えると、部屋の鍵を渡し、あとをよろしくと頼んで足
早に出て行ってしまった。

 演奏旅行はマドリード−リスボン−ローマ−ストックフォルム−ア
テネ−イスタンブール−ロンドン−東京と続いた。かなりの強行軍で
シュトレーゼマンは体調を崩しがちだった。

 東京でシュトレーゼマンは千秋とともにRSオケを訪問した。RSオケ
との共演を見ながら千秋は改めてシュトレーゼマンの名指揮ぶりに感
嘆した。まったく音楽がなかったらこの人は……。苦笑しつつも実り
の多いツアー旅行だった。

 パリのコンセルヴァトワールには黒木(福士誠治)も留学していた。
理想に燃える黒木だが、神経質で細やかな性分のせいで異国の地にな
じめずにいた。今日も一緒にアンサンブルを組もうとした学生にちょ
っとしたことで反感を買ってしまい思い悩んでいた。セグローク(若
者言葉で「暗い」)、それが黒木についたニックネームだった。

 そんなときだった。学内でのだめの姿を見た黒木はたまらなくなっ
て声をかけた。のだめはびっくりしたが、喜び自分の部屋に招いた。
が、のだめの部屋に足を踏み入れたとたん、黒木は表情が凍り付いて
しまった。なんて汚い……。それでも久しぶりに会話できる相手が見
つかって黒木は心底嬉しかった。

 のだめはターニャ(ベッキー)やフランクも招いて黒木に紹介した。
が、ターニャは失恋、フランクも実技指導で教官とそりが合わずカリ
カリしていた。のだめも千秋は連絡をよこさないばかりか、シュトレ
ーゼマンの手紙に同封された写真は高級クラブでの遊興三昧ばかり、
千秋は浮気をしていると落ち込んでいた。 

 そんなところへ千秋から電話がかかってきた。
「ちゃんと勉強しているのか?」
 自分を心配するどころか、口うるさいお説教にのだめはカチンとな
り、黒木がいるからと電話を切った。
「黒木くんが?」
 千秋は不意に不安に駆られた。
 そこへ日本公演で共演する中国人女流ピアニスト孫ルイ(山田優)
が挨拶に来ていると連絡が入った。しかしシュトレーゼマンは風邪で
寝込んでしまい出られない。代わりに千秋が出向いた。

「こんな坊やを出すなんて!」
 千秋を見たルイの母親(片桐はいり)は激怒した。ルイは千秋と同
年代だが、すでに世界的な評価を得ているのだ。
「マエストロは体調が思わしくなくて」
 千秋は事情を説明したが、母親は機嫌を直さずルイを連れて引き上
げてしまった。千秋もただただ恐縮するばかりだったが、シュトレー
ゼマンは自分の代役として指揮するように伝えてきた。

 「シュトレーゼマンの代役で若手日本人指揮者が鮮烈デビュー」と
いうニュースはすぐさま世界に広まった。シュトレーゼマンの弟子と
知ってゆうこ(山口紗弥加)は驚いてのだめに電話をしてきた。ミル
ヒー・ホルスタインだなんて嘘ついて、ジャンを油断させる気?と。
だがのだめの耳にゆうこの話は入ってこなかった 。詳しいことを知
ろうとHPを検索してみると、千秋が孫ルイと共演してラフマニノフ
(ロシア1872-1942)のピアノ協奏曲第3番をふったと書かれていた。
ラフマニノフ……のだめの記憶にシュトレーゼマンと千秋のラフマニ
ノフの共演が浮かび上がった。

 のだめはフランクのところへ行き孫ルイについて教えて欲しいと頼
んだ。フランクは1年前に演奏したリスト(ハンガリー1811-1886)の
『超絶技巧練習曲』のビデオを見せた。その卓越したテクニックに見
る見るうちにのだめの表情が険しくなっていった。
「のだめだってできるもん……」
 のだめは食い入るようにビデオを目に焼き付けると、すぐさま自分
の部屋で練習にかかった。

 千秋はルイのオフに付き合わされてジュエリーショップへ行った。
そういえば――。コンクールで優勝したとき、のだめは賞金で指輪を
ねだっていたっけ。千秋はふとそんなことを思い出した。すると店員
がやってきていろいろと商品を勧めてきた。千秋は買うつもりはない
と断ろうとしたが、断りきれずルビーのネックレスを買った。

 日本公演も無事終わり、今度はヨーロッパでとルイは言った。千秋
を快く思っていなかった母親も「まあ良かったわよ。次会うまでに出
世していなさい!」と辛口の激励を残して去った。千秋はたじたじだ
ったが、ふとのだめにもあの母親のような才能をしっかりと受け止め
られる人が周囲にいたら今頃ルイのようになっていたのだろうか、と
思った。
 俺と会うまでは、放置されていて、ただ楽しく弾いていただけだっ
たが……。

 のだめはオクレール教授(マヌエル・ドンセル)の実技指導を受け
ることになった。
「のだめには見込みがありますか?」
 ルイのことが頭を離れないのだめは開口一番そう尋ねた。
「もちろんですよ、みんなそうです」
 オクレール教授はにこやかに答えた。
「今からでも大丈夫ですか?」
 のだめは続けた。するとオクレール教授は考え込んだ。
「それはどうだろう?とりあえず好きな曲を弾いてみてよ」
 のだめはリストの『超絶技巧練習曲』を弾いてみせた。
 オクレール教授は難しい表情でのだめの演奏を見ていた。
「どうですか?」
「あーっ全然ダメ。僕は好きな曲を弾くように言ったんだよ。特技を
見せてくれと言ったんじゃない。君は、ここに何しに来たの?」
 言い終わるとオクレール教授はがっくりきたのだめを置いて部屋を
出て行ってしまった。

 11月。千秋はエリーゼに頼んでパリに一時帰国した。東京公演の話
やヨーロッパデビューの話をのだめにしてやろう、千秋の表情も自然
と和らいでいく。が、部屋に戻ってみるとのだめはいなかった。なぜ
いないんだ?千秋は不安になった。いや待て、なんで心配する。ここ
で踏みとどまらなければ俺は確実にのだめワールド(変態の森)へ引
きずり込まれるぞ……。

 そんなところへ外で物音がした。部屋を出てみると学校から帰って
きたのだめが階段をよろよろと上ってきた。げっそりとやつれ、髪は
山姥のようにボサボサ……。
 ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を取り付かれるように演奏して
いたときと同じじゃないか……。
「学校で何かあったのか?」
 千秋は驚いて尋ねた。
「別に何も……。何もできなかったんです。何一つついていけなかっ
たんです。みんなのだめよりも若いのに、すごく立派なインテリジェ
ンスで、音楽にも詳しくて。こどもにも笑われて。のだめは井の中の
蛙で世界は広かったんです」
 のだめの声に生気はない。
「インテリジェンスがなくたって、お前は試験に受かったんだぞ」
「なんかの間違いだったんですよ。実技レッスンもボロボロだったで
すし。何しに来たのって。精一杯弾いたのにだめだったんです。もう
22歳なのにベーべ(赤)ちゃんだって」
「お前、何を弾いたんだ。聞かせてみろ」
 千秋はのだめをピアノの前に座らせた。のだめはリストの『超絶技
巧練習曲』を弾いた。
 なんだ、この弾き方……。そばにルイのCDが置いてある。千秋は理
解した。のだめはルイの弾き方を真似ている。バカなことを。あせる
必要なんてないのに。
「もういい、やめろ」
「先輩はのだめのピアノは聞けないってんですか!」
 なだめようとして、のだめは却って激昂してしまった。
「俺はお前のピアノが好きだから、とにかくあせる必要なんてないん
だ」
 懸命に落ち着かせようとするが、のだめは耳を貸さない。
「出てってください。のだめのことなんてどうでもいいですから!」
 千秋は激しく動揺するのだめに追い出されてしまった。

 千秋はため息をついた。俺だって楽譜を前にしたらいつだって高い
壁を感じる。だけどひとつひとつ自分で乗り越えるしかないんだ……。
のだめも……。のだめを放っておくのはつらかったが、千秋にはどう
することもできない。無力感を覚えながらまたツアーへと戻るしかな
かった。

「うーん、すっかりわけがわかんなくなっちゃったねえ」
のだめの演奏にオクレール教授は困った顔をした。
「そうだ、年末にロワールで開かれるリサイタルで毎年教え子を紹介
しているんだけど、君行ってみる?」
 のだめはびっくりした。
「のだめが?無理です。うまい人もっといるじゃないですか?」
「人に聞いてもらいたくないの?何のために弾いてるの?」
「なんのため……」
 オクレール教授に言われて、のだめは考え込んだが受けてみること
にした。

 リサイタルの課題曲はモーツァルト(オーストリア1756-1791)の
ピアノソナタ第18番二長調、ラヴェル(フランス1875-1937)の『鏡』
だった。指導は忙しいオクレール教授に代わってマジノという女性が
務めることになった。
 さっそく初見でモーツァルトを演奏してみるが、てんでなっていな
い様子にマジノは激怒した。
「あなたちゃんとアナリーゼしたの?」
 18番はモーツァルトの最晩年1789年の作。バッハの技法を取り込ん
だ円熟期の作品だけに時代背景や精神性を分析することは欠かせない
はず。マジノは厳しい調子で言った。のだめはおろおろしつつも必死
になって練習に取り組んだ。だがやればやるほどおかしくなっていく。
「なんでそんな悲しいモーツァルトなの?あなたモーツァルトが嫌い
なの?」
 マジノはヒステリックな調子でしかりつけた。
「嫌いじゃないですけど……自信が、ない、んです」
 消え入りそうな声でのだめは答えた。
「はあ?」
「アナリーゼもできない、初見もできない。今までやってこなかった
し、わからないです」
「じゃあやんなさいよ、わかろうとしなさいよ!」
「……何のために弾いてるんでしょうね」
「だったらやめなさい。日本に帰って好きな曲を弾いていればいいじ
ゃない!」
 最後は付き合ってられないといった感じでマジノは部屋を出て行っ
てしまった。

 何のために……。自室に帰ったのだめは、大学時代の幼稚園での指
導案、家族の写真、千秋のことを見たり思い返したりしてみた。涙が
とめどなくあふれ出てくる。どうすれば答えが出るのだろうか。それ
でも必死にもがいて、もがいて……。のだめは部屋を飛び出した。

 千秋はベルリンでシュトレーゼマンに合流した。シュトレーゼマン
は千秋のヨーロッパデビューでブラームスの交響曲第1番ハ短調を指
揮してはどうかと提案した。千秋がどれくらい成長したかを見るのに
ふさわしいだろうと。千秋はそれを受け入れ、のだめにも伝えようと
電話したが、のだめは出ない。

 朝早くオクレール教授が構内を歩いているとのだめのピアノが聞こ
えてきた。
「こんなに朝早くから?」
 目を丸くするオクレール教授にのだめは昨日の夜からいて、気がつ
いたら朝になっていてと説明した。
「もう少しでモーツァルトわかりそうなので……」
「わかりそう、ね」
 オクレール教授は穏やかな笑みを浮かべている。ピアノのそばにの
だめの「モジャモジャ組曲」の楽譜が置いてあった。
「君が作ったの?どれ弾いてみよう」
 オクレール教授は弾き始めた。
「とても楽しい曲だね」
 しかしところどころで間違ってしまう。のだめの楽想は先の展開が
読みづらいらしい。
「そこはフォルテで、感じ取ってください!」
 のだめは思い入れが強くなって次々と指示を出していく。
「君がそうやって言いたいこといっぱいあるみたいに、他の作曲家も
言いたいこといっぱいあるんだ。君はそれを本能的に、感覚的にしか
とらえない。モーツァルトが何を見て、何を感じてこの曲を作ったの
か。どんな世界でどんな音色で弾いていたのか、もっと耳を澄ませて
聴いてごらん?コンクールのときのシューベルトのソナタのようにね」
「……はい」
 のだめはシューベルトのピアノソナタ第16番イ短調を弾き始めた。
「自分の話だけでなく、相手のこともちゃんと聞け。楽譜と正面から
向き合え!」。千秋のアドバイスがよみがえってくる!

 なんだか少しだけ気分が楽になったのだめは、リラックスした気分
でパリの街を歩いた。すると教会から美しいアリアが聞こえてくる。
ちょっと立ち寄って耳を澄ませていると、アナリーゼのクラスで一緒
だった男の子が声をかけてきて、中で一緒に聞こうと誘ってきた。

 演奏されていたのは『アヴェ・ヴェルム・コルプス』という曲だっ
た。晩年のモーツァルトが完成させたたったひとつのミサ曲、男の子
はそう説明した。澄んだ美しい響きが教会内にこだまする。のだめは
その音に吸い込まれていくような感じがした。

 3ヶ月の演奏旅行を終えて、千秋はパリに帰ってきた。シュトレー
ゼマンの祝賀会が日本で予定されていたがそれも断った。
 あいつ、どうしてる――。慣れない土地で1人で大丈夫だろうか。
千秋はのだめのことが気になって仕方なかった。早く帰らなくては!
千秋は一目散にのだめの部屋に向かった。だが、のだめはいない。ま
さか身投げ?ところが、自分の部屋からのだめの奇声が聞こえてきた。

 見るとのだめは黒木と2人でロワールへの旅行の話で盛り上がって
いた。
「あっ、先輩も行きませんか?」
 あっけらかんとしているのだめに千秋は怒りがこみ上げてきた。
「もういい、勝手にしてくれ!」
 千秋は外へ飛び出していった。

 のだめは後を追いかけて声をかけた。しかし千秋は無視した。
「先輩帰りましょうよ。2人のラブを彩るツリーの飾り付けが待って
ますよ」
 のだめは千秋の手をとった。千秋はそれを振り払った。
「もう嫌だ。人がせっかく素直になろうとしているのに……」
 千秋はルビーのネックレスに手をかけて、止めた。
 やっぱやめよう。今ならまだ間に合う。
「何がラブだ。好きだ好きだという割には表面的にしか向き合わない。
ふざけた妄想ばっか。お前の音楽に対する態度と一緒だな。俺はやっ
ぱりついていけない」
 千秋は冷たく突き放した。これでいいんだ。これくらいしなきゃこ
いつは危機感を持たない!
 だが、のだめはそんな千秋に後ろ蹴りを食らわせた。
「ツリーくらいで!そんな男こっちの方から願いさげタイ!」
「信じられない……」
 千秋ものだめもつかみ合いの大喧嘩を始めた。
「のだめはいつも本気とけん。なんで逃げるとですか。近づいたと思
ったら離れてく。先輩も、音楽も」
「別に、離れてなんか」
 のだめの激情に千秋はうろたえた。
「たった今はなれようとしたじゃなかですか!」
 のだめは千秋ののどを締め上げた。
「わかった、お前の気持ちはわかったから……」
 なんで俺が態度を改めてんだ?なんだかんだでのだめのペースには
められる自分がいた。

 結局千秋はのだめのリサイタルへ同行した。ロワールの城主は熱狂
的なモーツァルトマニアで城内のいたるところにモーツァルトのコレ
クションが飾られていた。

 のだめは18世紀の貴族の衣装でステージに現れた。さながらモーツ
ァルトを思わせる格好に城主は満足げな表情だが、客席はざわついた。
「楽しんで弾きますので、がんばって聴いてください」
「最悪だ、いったいどうなるんだ」
 がんばって弾くので楽しんで聴いてくださいだろ、と千秋は頭を抱
えた。

 のだめはにこやかにイスにつくと、響きを確かめるようにC音を押
した。そして一呼吸置いて演奏を開始した。第一曲目は『きらきら星
変奏曲』だ。
「こ、この音色、いつのまに……」
 千秋は驚いた。あいつは、教会の響きをわかっている。そしてモー
ツァルトも。

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 モーツァルト『きらきら星変奏曲』。35年の人生のうち、10年もの
月日を旅に費やし、旅をしない音楽家は不幸だとたくさんの人や言語
に、音楽に触れてきたモーツァルトがシャンソン曲に触発され生み出
した変奏曲
*------------------------------------------------------------*

「まんまるの美しい形の音の粒……」
 ターニャは放心の体でつぶやいた。

*------------------------------------------------------------*
 ピアノソナタ第18番。モーツァルトの最後のピアノソナタ。バッハ
を思わせるバロック的な対位法。難解な曲。普通違う旋律が出てくる
だろうというところで、第一主題と同じものが。やっと違う旋律が出
てきたと思えばすぐに消え、どうすんだと惑わせておいて、あっさり
まとめる。そのバランス感覚、モーツァルトって理論で どうこう言
える相手じゃないんだよな。あいつはそこまでわかって弾いている!
*------------------------------------------------------------*

「すごい、あっというまに違う世界に引き込んでくる。これがはじめ
てのリサイタルだなんて……」
 黒木は信じられないといった表情を浮かべた。
「どうしてこんな音が出せるの?」
 この1年パリで必死にピアノをやってきたつもりなのに、1人がつら
くて恐くて耐え切れなくなってしまった自分、それを乗り越えたのだ
め。ターニャもまた信じられないという表情になった。

 コンサートは大成功だった。聴衆からは大きな拍手が送られ、千秋
も惜しみない拍手を送った。笑顔で応えるのだめに、ノイローゼのよ
うに苦しんでいた姿はない。

 こいつはすごい、理解の範疇を超えている。俺はたぶん、いろいろ
なことを覚悟しておいた方がいい。千秋は表情を引き締めた。

 演奏後のパーティでのだめはあちこちからリサイタルの依頼が殺到
した。のだめの演奏に勇気をもらった黒木も積極的に声をかけて楽し
く演奏に参加している。

「先輩、のだめの演奏どうでしたか?」
「すごく、心臓に悪かった!」
 モーツァルトの後に弾いたラヴェルの『鏡』の出だしが楽譜の指示
に従わずフォルテで始めたのを千秋はつついた。
「でもま、良かった。泣けた」
 千秋は微笑んだ。あんな弾き方があったなんて知らなかった、千秋
は正直にそう思った。
「次は先輩のヨーロッパでビューですね!」
 のだめも微笑んだ。

 千秋とのだめは外に出た。静寂な雰囲気に包まれた中でのだめが言
った。
「のだめ、これからもっといろいろなこと勉強します。またみんなに
聴いてもらえるように、喜んでもらえるように。もっと練習していつ
か絶対ピアノコンチェルトで先輩と同じ舞台に立ちます」
「お前って……」
 いつも一緒にいるようでそうじゃない。1人で旅して、いつのまに
か帰ってる。
 千秋はのだめを抱きしめそっとキスした。
 それでいい、俺が見失いさえしなければ。

 2008年正月――。
 千秋やのだめのデビューに続くように、清良(水川あさみ)の国際
コンクール3位、RSオケも再始動とめまぐるしい。
 俺もがんばらなければ!
 ヨーロッパデビューの舞台に立つ千秋は奮いたった。
 ずっとあこがれていた場所で、ブラームス交響曲第1番。日本で絶
望の中にいた俺を救い上げてくれた曲。ヨーロッパに来ることも、プ
ロの舞台に立つこともずっと諦めていた。たくさんの人に支えられて
ここまで来れた。精一杯の感謝をこめて、そしてここから始まるんだ。
この曲からまた新たなステージへ!さあ悲劇から希望と 救済へ!喜
びのコラール!

 力強い、揺るぎない精神に満ちた演奏に会場内から大きな拍手が沸
き起こった。

 カーテンコールの合間にのだめが駆けつけてサインをねだった。
「サインもらうのあたしが一番ですよ!」
 のだめは無邪気に笑っている。

 ヨーロッパデビューと同時に変態の森へ?

 千秋は思わず苦笑した。のだめの胸元にはルビーのネックレスがか
けられている。(終わり)


寸  評  第一夜に比べてドラマチックな構成でとても面白かったです。の
だめは正統なクラシックスタイルで自己を高めていくようですね。も
しかしたら何を言われようがあのハチャメチャな演奏スタイルを通す
方が話としては面白いのかもしれませんが。
 のだめの成長ぶりがモーツァルトの音楽を通してうまく描けていた
のが印象的でした。ピアノソナタ18番、『アヴェ・ヴェルム・コルプ
ス』など精神性の高い音楽を十分に活かせていたと思います。ロワー
ルでの演奏もモーツァルトらしい響きを作ろうとしていたのだろうな
と察せられて、細かいところまで配慮があったと思います。ただひと
つ難点を言えば、場所がパリでなくザルツブルグの方が良かったので
はないでしょうか。モーツァルトの精神性に触れたり考えたりするシ
ーンがあるのですから、モーツァルトの生きた土地の方がより共感が
高まるのではないかと推察します。フランスを舞台にするのであれば
オペラを扱ったほうがパリで学ぶ必然性が出たと思います。
 今回も千秋の指揮で締めくくられ、のだめとの共演はありませんで
した。たぶんこの作品の着陸点はそこにあるような気がします。もう
一本続編を期待しても良いのではないかと個人的に思いました。

執 筆 者 けん()

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2. 編集後記
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 ドラマという範疇に入るのかわかりませんが、NHKの『中学生日記』をよく
見ています。大半は中学生のリアルな心情を描いていますが、年に1,2本難解
な作品が出てきます。以前、体育の授業で思い思いに走っていいということに
なって、普通に走る人、みんなと逆に走る人など様々な走り方をさせるという
話があって、つかみどころのない作品に思えました。でも何度も見返したくな
る印象深い作品でした。(けん)

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発行元:ドラマ研究会
e-mail:info@j-drama.tv/
url   :http://www.j-drama.tv/
ID  :MM3E195F16414CD 
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